変わりゆくもの
湖から出発して十二日、ミンクシィからだと二十四日目に王都手前の大きな村に辿り着いた。この先王都までは集落も無いらしいので今日はここで一泊という事になった。
「本当に小さいのが良いわけではないのだな?」
「しつこいなぁ、違うって言ってるだろ」
湖から出発して行き着いた村で、本当に触れたものの大きさを変えられる能力を持っている人を捜し出して縮もうとしているのを見た時は焦った。それから何度も説明しているが未だに疑われている。
「容姿が問題ではないのならどうすれば私を受け入れてくれるのだ? ワタルの好みを教えてくれ」
「だから俺は――」
「またやってるの? 飽きないわね」
紅月が話しかけてきた。珍しい、というか意外だ、湖での一件以来完全無視されて近付けば睨みつけられるという状態だったのに。
「俺はやりたくてこのやり取りをやってるわけじゃ――」
「そんな事どうでもいいわ、興味無いし、話があるからこの変態借りるわよ。ちょっと来なさい」
紅月に手を引かれる。話ってなんだ? 散々無視してきたくせに。
「なっ、ワタルは私のだぞ! 手を離せ」
いつナハトのになった…………。
「要らないわよこんな変態、話があるだけなんだから話が済んだら返すわよ」
「本当だろうな?」
「こんな変態に興味ないわ」
変態を連呼しないでいただきたい! 完全に紅月の中では俺は変質者に分類されているらしい。
「それで、話って?」
人気の無い所へ連れて来られた、こんな場所で一体何の話があるんだよ。
「あんた最近の綾乃と優夜の様子をどう思う?」
瑞原と優夜? どう思うってどういう意味だ? 湖の一件以来瑞原も優夜も紅月程ではないけど俺を避けてるから様子と言われてもよく分からん。
「どう、って俺を避けてる」
「はぁ~、そうじゃなくて最近二人の様子が変だとは思わない? ぼーっとしてる事が多いし、話しかけても上の空だったり」
なんじゃそりゃ?
「恋仲にでもなったとか?」
「そういうのじゃないわよ馬鹿」
「いふぁい、いふぁい! ほぉはなへ」
加減無しで頬をグイグイ引っ張られた。こいつ俺への当たりきつ過ぎ。
「誰も居ない方を見つめて一人でぶつぶつ言ってたりするし、二人で一緒に居る事も多くなってるのよ」
ならやっぱり恋仲になったんじゃ? こんな状況だし数少ない同じ世界の人間だからそういう事もあるんじゃないのか?
「そんなに心配なら聴いてみればいいんじゃないの? 優夜はともかく瑞原とはアドラに居た時から一緒だったんだし、収容所に助けに行くくらいには仲も良いんだろ?」
「聴いたわよ、でもまともな答えを返さないのよ。もう少しとか、もうすぐ開くとか訳の解からない事を言うばっかりで」
もう少しってのは王都までの距離の事だとして、でも、もうすぐ開くってのはなんだ?
「そんなに異常だと思える状態なのか?」
「以前みたいに普通にしてる時もあるわ、だからよく分からないからあんたに聴いてるんじゃない」
「なんで俺に聴くんだよ、避けられてるの知ってるだろ、リオとかフィオ……は見てなさそうだからナハトに聴いた方が良いんじゃないか?」
「あんたは一応同じ世界の人間でしょ、二人が変になってるからあんたはどうなのか確認する必要もあったのよ」
そんな風に疑う程に様子が変わってるのか? なんで急に? 何かに影響されている? ベタだけど、この場合魔物が封印されてる土地に近付いてる事が原因、ってのが一番考えられる可能性だよな。
「俺自身は変調は感じてないんだけど、紅月から見て異常か?」
「そうね、あんたの変態性は異常ね」
うぉい! そういう話じゃなかったよね!? でもこの調子なら紅月には異常はないって事か。
「俺から見た紅月は相変わらずって感じで異常はないな」
「ええ、私自身も変調なんかは感じてないわ、あんたも相変わらずって感じだし、やっぱりおかしいのは綾乃と優夜の二人ね」
優夜と瑞原の変調…………何かが起ころうとしてるのか? 戻ったらナハトに話して確認してみる必要があるな。
「何かの影響を受けてる可能性もあるし、戻ってナハトに相談してみた方がいいだろ」
「ふ~ん、随分と信用してるのね、流石婚約者ね」
なんでそうなる…………俺が断ってるの知ってるだろうが。
「湖までは普通だったと思うし、この土地に来てからの変化ならその土地に詳しい人に相談するのが一番ってだけだ。俺たちだけで悩んでも解決出来んだろ、だから紅月も俺に話したんだろう?」
「それもそうね、変態に相談なんてどうかしてたわ。最初から長寿のエルフに相談するべきだったわね」
一々俺を貶さないと気が済まないのかお前は…………。
「それで二人の様子がおかしいと?」
「ええ、何か原因とか分からないかしら? 魔物が封印されてる土地に近付いてるせいで何か影響を受ける様な事はないの?」
「そういった変調を来すという話は私は聞いた事も無いが、封印の地の近くに住んで居る王都の者なら何か知っているかもしれないな」
それまでは放置するしかないのか? まぁ何か害が出てるわけじゃないから今はまだ問題ないけど。
「王都に、封印の地に近付いたら悪化する可能性はないのか?」
「ああ、その可能性もあるから父様と同じ能力の者に連絡を取ってもらって来る。少し待っていてくれ」
そう言ってナハトは宿から出て行った。
「話が進んだわね、なんであたしはあんたなんかに相談したのかしら? 最初からナハトに話してれば早かったのに」
なんかとは何だよ…………俺どれだけ嫌われてるんだろう?
しばらくしてナハトが戻って来たけど、結果はそんな事例はないというものだった。王都に暮らしているエルフ、獣人共に精神へ変調を来すという事態は今まで起こった事は無いらしい。また、そういう精神へ影響を与える様な魔物も周囲には存在していないとの事。
精神へ影響を及ぼす能力というものはあるそうだが能力者と離れ過ぎると効果は失われるらしく、湖辺りの集落で人間を良く思わない者に何かされていたとしたらずっと尾行されているという事になる、でもフィオもナハトもそれをさせる様な間抜けじゃないから可能性は低い、仮に能力に依るものなら王都に着けば能力を無効化してくれる人が居るらしいからそれで解決するらしい。
人間を良く思わない者が居る可能性はかなり高いだろうけど、なんで優夜と瑞原だけなんだろう? この一行はナハト以外は人間だ、狙うなら全員ターゲットになりうると思うんだけどなぁ。
昨日紅月に話を聞いてから二人を注意して見てるけど、俺には特に異常がある様には感じられない、紅月が言っていた異常も見えないし、ナハトもそれは同じらしく、不思議そうに二人を観察している。
「さあ、王都まではもうすぐだ。皆疲れているだろうが頑張ってくれ」
村を出た後も観察しているけど、確かに二人はお互いの隣を歩いて一緒に居る。瑞原は今まで紅月と一緒に居る印象だったのに、やっぱり異変は起きているのか?
「ワタル、どうかしたんですか?」
「あぁ、うん…………」
そういえばリオとフィオは大丈夫か? 湖からさっきの村までの間では異変は感じられなかったと思うけど…………旅仲間に何か起こるのも嫌だけど二人に何か異変が起きるのはもっと嫌だと思ってしまう……俺が誰かに固執している? 関わり過ぎたか? 固執すれば何か遭った時が苦しいぞ? 深く関わる事はしない、誰かに固執しない、そう決めたんじゃなかったのか?
「リオは…………」
「なんですか?」
「えっと…………疲れてない?」
「? ええ、まだまだ大丈夫ですよ。ワタルは平気ですか?」
「うん…………」
異常は……ない、よな? 大丈夫、普段のリオのはずだ。
「ワタル? 大丈夫ですか?」
「っ!? ちょ、ちか――」
「二人で顔を寄せ合って何をしている」
様子を窺おうとしていつの間にかリオが顔を寄せていた。それに驚いた俺の声でナハトが気付いて睨まれた。
「な、なにも――」
「何をしてたっていいじゃないですか」
なんかリオはナハトに対して棘がある気がするなぁ。
「良くない! ワタルは私のものだ。誘惑する様な事はやめてもらおうか」
「誘惑? なんで体調を気にしてたのが誘惑なんですか?」
「体調? 口付けしようとしてたのではないのか?」
「え!? ち、違います! そんな事してません」
ナハトが何を勘繰っていたのか理解してリオが真っ赤になった。フィオの扱いをもう少し気にしろみたいな事を言ってたのに、リオ自身もこういう事には無防備というか無頓着というか、真剣に心配してくれてるからそっちに気が向かないだけなんだろうけど、ちょっと危なっかしいな。
最後に立ち寄った村から六日程歩いて、漸く遠くに町らしき物が見えて来た。あれが王都か、今までは村ばっかりだったのもあってかなり大きい都に見える。王都なんだから当然か、優夜たちの異常が治ったら少し観光させてもらえたりしないだろうか? せっかく異世界に来たのにじっくり町を見て回るなんて事をしたことが無い。
「漸く王都が見えましたね…………ワタル、もし帰る方法が見つかったら帰っちゃうんですよね?」
「ん? ああ、そのつもりだけど、リオが平穏に暮らせる場所を見つけた後かな帰るのは、帰ったらもうこっちに来れない可能性が高いだろうし、こっちでやりたい事を済ませてからじゃないと帰らないかな」
「それは……気にしなくていいって言ったじゃないですか」
俺は気にするって言ったけどな、恩人の平穏を奪って気にしないとか絶対に無理だ。元に戻せなくても、出来る事はやりたいしすべきだと思うから。
「まぁ、リオが安全な場所で暮らせるのが分からないと心配で帰れないし」
「…………なんで心配なんですか? 誰かと深く関わるのは嫌だったんじゃないんですか? 心配ってある程度親しい人だからするものだと思いますよ?」
なんでって恩人だから…………だよな? それとも別の理由なのか? 分からない、自分の事なのに…………どうなってんだ俺は。




