もさ? 猛者?
「面倒だって言うから数日掛かると覚悟していたのに…………」
カーバンクルを捜し歩いていたら木の上から俺の頭目掛けて降って来た。
正に棚牡丹ラッキー、にしてもこのモフモフ生物、捕獲されてるのに全く暴れず大人しいな、こんなに大人しいならすぐに捕まるんじゃないのか?
カーバンクルは猫位の大きさで白い体毛の耳の長いリスっぽい生き物だった。額には紅く輝く宝石、首周りと尻尾の毛は他の部分より長くてもさもさしている。
「ちょっとあんた持ち方! そんな持ち方したら可哀想でしょ!」
「はあ? これが普通だろ、猫だってこうやって持つし、こいつも大人しくしてるだろ、嫌なら暴れるって」
俺の持ち方は首の裏の辺りの皮の伸びる部分を掴んで、そこに負荷が掛かり過ぎないようにお尻に手を添えてる状態だ。これの何が悪いって言うんだ?
「あんた猫もそんな持ち方するの!? ありえない、最低ね」
「私も可哀想だと思うなぁ」
「僕もその持ち方は酷い気がするよ」
なにこの味方の居ない感じ、こいつら毎回俺への当たりがキツくない?
「ならお前らはどうやって持つんだよ? ほら紅月」
掴まれてぶらぶらしているモフモフを紅月に渡す。
「そんなのこうやって脇を抱え――」
『きゅぅー!』
「え、ちょっと、大人しくしてよ、こいつの酷い扱いから解放してあげようとしてるのよ」
紅月が脇に手を近付けた辺りでモフモフが暴れ始めて紅月が引っ掻かれている。
「ダメじゃん、暴れまくってるし…………おい止めろ」
ヨーヨーみたいに上下に揺すったら大人しくなった。
「うわ、虐待じゃんそれ」
「なんでそうなる、引っ掻かれてるから止めてやったんだろ、それに猫とかの脇に手を入れて持つのは肩の関節に負荷が掛かるからやったら良くないぞ、人間と違って開くようになってないから、ずっとやってたりしたら痛める可能性があるし」
『猫というのが何かは知らんがカーバンクルを持つなら小僧のやり方のほうがいいだろう、親が子を運ぶ時にそこを銜えるからな、成体でもそこを掴まれれば相手を上位の存在と認識して大人しくなる』
なんだ、それで大人しかったのか、まぁ宝石を採れば用はないから逃がすけど。
「一つ聞きたいんだけど、宝石を採ったら死ぬとかないよね?」
『ああ、問題ない、失ってもまた再生する』
「んじゃ遠慮な――なに?」
紅月と瑞原に睨まれて採るのを止めた。
「そんな可愛い子の持ち物取り上げるとかサイテー」
「鬼畜で外道ね」
なんでこんなにボロクソ言われにゃならんのだ。採っても再生するんだぞ? 別に傷付けてから採取しようとしてるわけでもないのに。
「だって献上品を採りに来たのに採らずに帰るとか意味分からんだろ」
「ワタル、カーバンクル自体も珍しいから、そのまま持って行けばいいのではないか?」
これを飼うのか…………まぁ見た目は可愛げのある感じではある、全体的にモフモフだし首周りと尻尾はもさもさ…………愛玩動物としての価値は充分か。
「このままでいいか」
「ならさっそく名前を――」
「もさ、だな」
可愛いペットが出来た事に盛り上がってる紅月の話をぶった斬って適当に名前を付けた。
「なっ!? なに勝手に可愛くない名前を付けてるのよ」
「もさもさだからもさ、で分かり易いだろ」
『きゅぅ~』
「ほら返事もしたし」
「そんなの偶々鳴いただけでしょ! そんな事で適当に名前を付けたら可哀想じゃない」
まぁ鳴いたのは偶然だけど、何故そこまで必死になる? 飼うって言っても献上するまでだから名前だって仮の名だぞ。
「ならそっちの希望は?」
「…………きゅーちゃんとか?」
「きゅーちゃん~?」
俺が付けたもさと大して変わりないじゃんか、きゅーきゅー鳴いてるからきゅーちゃん、そのまんまだ…………あの紅月がきゅーちゃん?
「ぶふぅっ」
「なっ、何よ?」
「いや、別に、ぷくっ、ふふくくく、呼んでみたらいいんじゃない?」
紅月の意外なところがツボにはまった。
「……きゅーちゃん」
『…………』
「もさ」
『きゅぅー』
「ぷふぅっ、くくくっあっははははは! こいつはもさの方が良いみたいだな」
『きゅぅー、きゅぅー』
分かっているのか『もさ』に反応してきゅぅーきゅぅー鳴いている。
「な、なんでよ、きゅーちゃんの方が可愛いのに…………もさとか可愛くないじゃない、猛者とも書けるし…………」
もさ? ああ、なるほど、猛者ね。そういう捉え方もあるか、でもこの外見で猛者はないな、そう考えると微妙な気もしてきた。
「もさ」
『きゅぅー」
「もさもさ」
『きゅぅーきゅぅー』
何が気に入ったのかフィオがもさを連呼し始めた。
…………駄目だな、今更名前を変更出来そうにない、もさの方も呼ばれる度に鳴いて返事をしているし…………本当の猛者にもさと呼ばれる小動物…………シュールだな。
「ほれ、お前が持ってろ」
フィオの頭にもさを乗っける。
「なんで?」
「…………似合うから?」
「あ~、確かに可愛いかも…………私もロリコンになるかも、フィオちゃん写メ撮らせて~」
「あ、僕も」
優夜と瑞原はもさ乗せフィオが気に入ったらしくカシャカシャやってて、紅月は猛者ショックでへこんでいる。
『これで一応用は済んだのだろう? ならば早めに立ち去れ、襲わぬ様に指示してはいるが群れの中には他の種への接触を酷く嫌う者も居る』
「ゲルト、その前にもう一つ頼みたい事が出来てしまった、いいだろうか?」
『数年振りに会いに来たかと思えば頼み事ばかりだな、普通に会いに来れんのか、まったく……』
疎遠になってる祖父母とかが言いそう…………頼み事って他に何かあるのか? 献上品は手に入ったし、乗っけてもらえて楽しめたし、特に何もない気が。
「今は審議中だが許可が出れば私たちは王都へ行く事になる、その時に乗せてはもらえないか? 最初は歩きで行くつもりだったのだが先ほどワタルを乗せているのを見て、頼めないかと思ったのだ」
歩き…………他に移動手段はないのか? 姫はワープが使えるんじゃなかったっけ? って無理だ、こっちの用事で会ってもらうのに姫に迎えに来いとか言えるはずない。
『今言ったろう、いや、言わなくてもお前は知っているだろう、接触を拒む者も居るのだ。さっき小僧を乗せたのは少しの間だったが、移動となれば数日ここを離れる事になるだろう? その間にそういう者たちが勝手をしないとも限らない』
「あ~、馬とか居ないの?」
「馬はこの大陸には居ない、それに普段の移動は自分の脚で事足りるから困る事もないんだ」
あ~、エルフも獣人も身体能力高いもんなぁ。
『ならば歩けばいいだろう』
「ワタル達は人間だ、私たちエルフや獣人の様にはいかない」
『…………他の者に話してはみよう、だがあまり期待するなよ、確約は出来んからな』
「ああ、それで構わない、ありがとうゲルト」
『ふん』
あの感じだと無理っぽいなぁ……歩きか、まぁアドラの時みたいにビクビクしながらの旅路じゃないから幾らかマシかな。
村へ戻って食事を済ませて各自それぞれの部屋へ、戻ったんだけど…………。
「なんで居る」
「夫となる者の傍に居るのは当然だろう?」
だからそれ、何度も拒否してるよな? なんで通じない?
「俺は結婚するつもりは――って! なに脱ごうとしてるんだよ、脱ぐな! 居るならせめて服を着てろ」
「? ワタルは着たままするのが好みなのか?」
するってなに!? なにもしねぇよ!
「好みもなにも、俺は何もしないぞ、出て行かないなら大人しく寝ろ」
「つれないな、ワタルは私の事が嫌いか?」
その聴き方卑怯じゃない? 好きか嫌いかを判断する程ナハトの事知らないし、俺には誰かと深い繋がりを持つつもりもないし…………どちらでもないと言えばいいのか?
「俺は――うわっ」
「私はワタルの事が大好きだぞ」
聴いといて返答は聞かないのかよ! 抱き付かれてベッドに押し倒された。
「俺はこういう事を簡単にしてくる相手は苦手だ」
「むぅ~、お前以外にはしないのだぞ? でも今後は気を付けよう。何もしなければ一緒に居てもいいんだったな?」
さっきの言い方だとそう取れるな…………。
「頼んだら出て行ってくれんの?」
「お前が本気で拒むならな」
「…………」
難しい……引っ付かれるのはめんどくさいけど、一応世話になってる相手だ。テントだって用意してくれたの族長だし、一応婿候補って事で俺もみんなも滞在を許可されてる、食料だって分けてもらってるし、帰る方法を探すってのにも協力してくれるって言ってくれた。そんな相手を本気で拒絶出来るか? 嫌う理由があれば違っただろうけど…………。
「難しい顔をしているな、そんなに深く考えなくてもいいんだぞ? 拒んだとしてもワタル達を追い出す様な事はしない、一人になりたいと言うならここから出て行きもする。ワタルの意志は尊重したいからな、だが私はお前を諦める気はないから必ずワタルを振り向かせてみせるがな」
熱烈だな…………なんで俺なのか、普通に勝つ程の実力が無いのは分かるだろうし、中身も微妙な俺より良いやつは沢山居るだろうに。
「…………」
「何も言わないという事は肯定と受け取っていいのか? 私もここで寝るぞ?」
「…………お好きに、ただ俺は何もしたくないからな」
分からん、考えるのが億劫だ。ベッドはそこそこ大きいし端に居れば触れる事もないだろう。
「一緒に居られるならそれでもいいさ、時間などいくらでもある」
いくらでもある、か…………長寿のエルフらしい言葉だな。
端に居れば大丈夫って言ったの誰だ…………思いっ切り抱き枕にされてるんですけど! 背中にふにふにしたものを押し付けてくるし、こんな状態で寝られるか!
「はぁ、抜け出せた」
フィオの時の様な厄介さはなく割とあっさり抜け出せた。このままここで寝るのは無理だし、外で野宿するか…………テントがあるのに野宿するとかどうなんだ?
外に出ていい場所がないかと夜の村を徘徊する。これじゃ不審者だな、どこか適当な木の上とかも考えたけど、樹上にも家があったりするから微妙だな、朝起きて家の外に出るとそこに不審者が寝ている…………最悪だな、いっそ村の外まで行くか。




