果実
「本当にナハトを倒したのねぇ、それにしても大きな爆発だったわね~、大きな怪我をした人が居なくて良かったわ」
あれからぬいぐるみの様に抱きしめられたまま再び記憶を覗かれた。それなりに時間が経ったのに未だに身体の痺れが取れない、ナハト母の能力厄介過ぎだろ……痺れが取れて解放されたら二度と近寄るまい。
「レイアさんそろそろ放してもらえませんか? それと本当にもう能力使ってませんか? まだ身体がまともに動かないんですけど」
「…………えへへ~、ごめんなさい、せっかくの息子候補だから放したくなくて、今解くわね、今度は本当に、これでしばらくしたら動けるようになるはずよ」
やっぱり解いてなかったんかい…………。
「解いたなら放してくれても」
「いやよ、ナハトが起きたら出来なくなるもの、それにワタル君解けたら私から逃げるつもりでしょう?」
もちろんです! 何歳なのか知らないがナハトさんと同じで美人で巨乳、そんな人に抱き付かれるとか落ち着かない、今だってモヤモヤしてしょうがない。というかあんた旦那の前でなにやってんだ。
「族長ー! 荷物届けに来ました~」
「ん? 今のはクロウの声か? 荷物?」
族長が扉を開けた先に居たのは、この村に来る途中で気絶させた猪鹿を運んだ獣人の人、やっぱり男に猫耳ってのはどうなんだろう? ミントアイスみたいなグリーンの髪色をした猫耳の青年…………。
「荷物とは? 何か頼み事でもしていたか?」
「あぁいえ、そこでレイアさんに抱きしめられてる人間が、手土産にと村に来る途中で捕まえたエリカバーを捌いてきました。大物だったんで少し手間取りましたけど」
確かにデカいトレーみたいな物にこれまたデカい肉の塊が乗っている。
「ほう、口では拒絶していながら結納品を準備してきたのか」
はあ!? そんなつもりじゃないない! 肉が結納品って……未開の土地の部族かよ、まさかライルさんこのつもりで俺に猪鹿狩らせたのか? 嵌められたか?
「能力の確認をさせろって言われたから狩っただけです!」
「照れなくていいのよ? かわいいわねぇ、すぐにでも息子になって欲しいわぁ」
「なんだかんだ言って用意がいいのねこの子」
状況が悪化していく…………危険がある事よりは全然マシなんだろうけど、これはこれで厄介だ。
「あんなに大きなお肉を貰ったんだから、息子候補が現れたお祝いも兼ねて御馳走を作らないといけないわね」
やっと俺を解放して、奥へ引っ込んでいくナハト母。
解放されたのはいいけど、へろへろ状態だからさっきまで座ってた椅子に座れるわけもなく、ソファっぽい物に転がされている。とにかくやっと解放された、これで少しは落ち着け――。
「なにしてるんですか?」
「レイアさん料理しに行ったから今がチャンスかなぁって」
今度はミーニィさんに捕まった。ホントぬいぐるみ状態だな。
「男の子なんだし、嫌ってわけじゃないんでしょう?」
「落ち着かないから嫌ですよ」
「むぅ~、女性に対して失礼な事言うのね、そんな子はこうよ」
そう言ってぎゅぅぎゅぅ抱きしめてくる。俺少し前までエルフや獣人たちと殺し合いに近い事してたのに、なんだ? この状況…………。
「ミーニィ、なにをしている、放しなさい、それはナハトのだ」
いや違うし! さっき少し待ってみようって言ってたのどこ行った!?
「あ~……はい」
解放されてソファにごろん、結構柔らかいなこのソファ。
「まだ痺れは取れないかね?」
「はい、全然、全く……」
「ふむ、浮かれて力の加減を間違えたんだろう。レイアも私も浮かれているのだ、非礼を許して欲しい」
頭下げられちゃったよ…………びっくりしたし納得出来ない状況だけど、危害を加えられたわけじゃないしみんなの安全も約束してもらえた。だから怒ってはいない、と思う。
「あの、怒ってはいませんから、頭を上げてください」
「そうか、それならいいのだが…………それにしても人間に頭を下げる日が来るとは思いもしなかったな」
「確かに、エルフが人間に謝るなんて前代未聞だねぇ、それも族長が、なんて……いやぁ~面白いもの見た。明日みんなに話そっと」
「ミー、二ィー…………」
族長がミーニィさんを睨んでいる。う~ん、もしかしてかなり凄い事をされた? ライルさんも人間が謝罪した事を驚いてたしなぁ。
漸く痺れが取れてきた。もう二度とあんな感覚は味わいたくないな、腕も脚も力が入らずだらんとして何も出来ない。能力を封じられるのは経験済みだけど、まさか身体の自由まで奪われるとは…………。
「動けるようになったかね?」
「はい、どうにか、まだ指先とかは感覚が曖昧ですけど」
「そうか、ならとりあえず一緒に酒でも飲もう、祝杯だ。ミーニィも飲んでいくだろう?」
「おぉ~う! タダ酒ぇ~」
酒好きなのか万歳して飛び跳ねて喜んでる…………大きいものが滅茶苦茶ゆっさゆっさ揺れてる…………。
「あ~、俺酒はちょっと…………」
「子供でもあるまいし、男なら少しくらい飲めないと駄目だぞ。弱くても慣れだ、せっかくの祝杯なのだ少しは飲みなさい」
強制…………祝杯って、あんたらは婿候補が出来て嬉しいだろうけど俺は違うんだが。
「苦手なら甘い果実酒にすればいいんじゃない?」
「そうだな、いきなりキツイ物を飲ませて苦手意識を強くしても仕方がない、ナルの実の酒にしよう」
飲むのは決定事項らしい、甘いと言っても酒飲みにとっての甘いだから信憑性は微妙だ。
「それじゃあ飲もぉ~、はい、君のジョッキ」
バンッと目の前に二十センチ位ありそうなジョッキを置かれる。少しじゃなかったのか!?
「かんぱ~い!」
「乾杯!」
「か、乾杯…………」
流れで言ったけど全然乾杯って気分じゃない、これデカ過ぎだろ、絶対こんなに飲めな――。
「っ!? これ、甘くて美味しい!」
酒っぽさが殆どない、言われてなかったら酒と思わなかっただろう、味はオレンジっぽい? 柑橘系は好きだから飲みやすいかも、こんな酒もあるんだなぁ。
「口に合ったみたいでよかったねぇ~、ささ、どんどんいこぉ~」
飲み終わるそばからすぐにジョッキを満タンにされるが、苦手としていたアルコールっぽさを感じないせいで分量も考えずどんどん飲んでしまった。
「これ本当に飲みやすいですね、こんなの初めて飲みました。ナルの実ってどんな物なんですか?」
母さんの葬式が済んだ後にじいちゃんに何度か酒を飲まされたけど飲み辛いというか、美味しくない物ばっかりだった。子供だと笑われたけど、あんなもん飲めない。
「向こうに少しあったはずだ、取って来よう」
「んふふぅ~、ナルの実見たら君きっとびっくりするよぉ~」
そう言って俺の肩に撓垂れ掛かってくる。当たってる当たってる!? 大きいのが当たってる! なんでこうすぐ引っ付こうとするんだよ…………人間と接する事に抵抗無さ過ぎだろ。
びっくりするってなんだろう? とんでもなくグロテスクな見た目とか? 虫っぽい外見をしてるとか? それだとキツイな、知らないままでいたい。
「あったぞ、これがナルの実だ」
「はぇ!? ぶふー、ごほっごほっげほっ!」
なんじゃそりゃー! 飲んでいた物を勢いよく吹き出した。なんで果物があんな形してんだよ!?
「もぉ~、酷いなぁ、全身びしょびしょだよ、君はぶっかけるのが趣味なの?」
「ち、違っ、そんな趣味ないです。てかあんなの持って来られたら初めて見る人は絶対びっくりしますって、というか本当にそれ果実ですか? 何かの冗談ではなくて?」
「そだよぉ~、すんごい似てるよねぇ、男のナニに」
似すぎだろ…………うえぇぇえええ、気持ちわりぃ! 俺あれの汁飲んでたってことだろ? なんの嫌がらせだよ…………。
「この世界はそこら中にこんなもんが木からぶら下がってるんですか?」
「この世界じゃなく、この大陸だね、他の大陸には自生してないよ。そこら中って程じゃないけど、森に入ると結構ぶらぶらしてるね」
嫌な森だなおい、なんつぅもん実らせてんの!?
「でも美味しかったでしょ?」
美味しかった、けど! あんなもんの汁を口にしたくないよ!?
「とりあえず俺はもういいです…………ごちそうさまでした。その実も向こうへ持って行ってください」
「はっはっはっはっは、この程度で大騒ぎとは情けないな、向こうへ行くついでにレイアを手伝ってくるよ」
「そんな事言わずにぃ~、慣れだよ、慣れ! どんどんいこ~」
あんな果実に慣れたくない…………またジョッキになみなみ注ぎやがった。飲みたくない、さっきは美味しいと思った、でも正体を知ってしまったからにはもう飲みたくない。
「むぅ~、飲まないなら口移しにしちゃおっと」
「はあ!? ちょ、寄るな――」
なっ!? あっさり押し倒された。痺れは取れてるはずなのにあんまり力が入らない。
「んふふぅ~、酔ったのかな? 力が全然入ってないよぉ~」
酔った? そういえばなんも考えずに結構な量を飲んだ気がする。
「酔ってんのはそっちでしょ!? 放してくださいよ」
会った時からこんな感じの人だった気もするから、酔ってんのか素面なのか判断付かないけど、酔ってるんだと思いたい、エルフがこんなのばっかりだとは思いたくない。
「戻ったぞ~、ワタルの仲間を連れてきた」
はあ!? なんでこんな状況の時に!?




