オカマは大人気
「あれ? それヒデマロの名刺だね。もしかしてヒデマロに髭を無くしてもらったの?」
オカマの渡していった名刺を見ていたら店員さんに声を掛けられた。
「店員さんあのオカマ知ってるんですか?」
「店員さんじゃなくてメア、ね! もしくはメアちゃん、どっちでも好きに呼んでいいよ。あと敬語も要らないよ? お客さんだしね。ヒデマロの事ならこの町に居る人なら大体の人が知ってるんじゃないかなぁ」
町中が知ってるって、そんなに有名なのか? あのオカマは。他国に所属してるとしても、異界者がそんなに有名で大丈夫なのか?
「そんなに有名なの?」
「む~、その前に言う事があるでしょ~?」
んん? なんだ? 言う事って? さっき鱈腹注文しろって言ってたから何か注文しろって事か?
「私は名乗ったんだけどなぁ~?」
あぁ、なるほど、そういう事か。さっきからリオが呼んでたから分かってると思ってたけど、名乗られたんだからこっちも名乗るのが礼儀か。
「き――航です」
危ない、名前だけなら少し変わってる、で済むかもだけど苗字まで名乗ったら異界者だってバレる可能性がある。
「ワタルね、よろしくっ。それで、ヒデマロの話だよね。頭が寂しくなった男の人とかムダ毛に悩んでる女性に大人気だから殆ど町中の人が知ってるの、毎回ヒデマロが来るって分かると他所の町から来る人もいるくらいだしね。代理の人が予約を受け付けるんだけど、毎回物凄い人数みたい」
名前に関しては特に怪しまれなかったみたいだ。
「そんなに毎回人が集まるんだ?」
「女性は一回でいいけど男の人はほぼ毎回だからね~。毛を無くしたら無くした部分はヒデマロに頼まない限り二度と生えないらしいからムダ毛の処理は一回で済むんだけど、無くなってた髪を生やしても元々無くなってた状態だからずっと維持する事は出来ないんだって、施術は結構な料金だし毎回お客さんも多いから凄く儲かってるみたい」
なるほど、髪を生やせても頭皮の状態が悪いとまた抜けていくと…………ハゲは良いカモだな、憐れな…………。
結構な金額を取るのに、タダでやってくれたからサービスって事か、良いオカマじゃないか! 髭の不快感から一生さよなら出来たって事だろ?
んん? 違和感を覚えてズボンの裾をめくった。無い…………もしかして髭だけじゃなく全身のムダ毛が永久にさようなら? マジか…………本当に良いオカマだった。
「お! 脚も綺麗だ~。で、ワタルはどれ位掛かったの? 私はお店でのサービスが良いからって、安くしてもらえたんだけど、他の人に聞くとかなりの料金なんだよね~」
あっちの世界でも永久脱毛とか育毛ってお金掛かるしなぁ、それも複数回病院に行かないといけないはずだし、それが一回で済むなら高い料金取るのも普通な気がする。
「いや、俺はお金払ってない、というかあのオカマがそんな仕事してるのも知らなかったし」
「え!? 払ってないの!? というかヒデマロの事知らなかったのになんでオカマは分かるの? 私ヒデマロに会うまでオカマって言葉も知らなかったし、あんな人が居るって知らなかったのに」
げ!? テレビでもオカマの芸能人とか見るからオカマの存在なんてあまり気にしなかったけど、この世界にはオカマ居ないのか!? マズいなんて説明すればいいんだ…………?
「と、盗賊の仲間にオカマの異界者が居たんです。それで知ってるんです、ね? ワタル」
「そ、そう、そうなんだよ! あの時はびっくりしたなぁ」
咄嗟にリオが誤魔化してくれたのに乗っかる。
「ふ~ん? 初めて見た時はびっくりするよねぇ。ヒデマロに聞いたんだけど、異世界には男を好きな男とか女を好きな女が居るらしいんだよね。ヒデマロだけが特別なのかと思ってたんだけど、他にも居るんだねぇ…………不思議」
あ~、ヤバかった。発言にもっと気を付けた方がいいかもしれない。
「リオ、ありがとう」
リオにだけ聞こえるようにお礼を言った。
「誤魔化せてよかったです」
そう言って微笑んでくれた。
「おい! 坊主! おめぇ勝ったんだからどんどん頼んで飲み食いしろ!」
坊主って呼び方止めて欲しいなぁ。ハゲてるみたいでなんか嫌だ。呼ばれた時まさか髪まで無くなってるんじゃ? と思わず頭を触って確認してしまった。
「本当にいいんですか?」
船に乗れさえすれば正直飲み食いはどうでもよかった。
「お、俺たちに二言はねぇ、好きにしろ!」
暗い顔の人とか涙目の人居るんだけど…………。
「俺の明日からのこずかいが…………」
「お前はまだマシだろ、俺なんかヒデマロにかなり取られた後だぜ…………」
「俺もだ。女房に叱られちまう…………」
色々ぶつぶつと言ってる…………まぁでも酔って欲望に走った結果だから同情はしないけど。
「ほらほら、おじさん達もこう言ってるしどんどん注文してね~、うちの店の為にも」
最後にぼそっと付け加えていった。鬼だな。
とりあえず開いてる席に着いたけど、注文って言われてもこの世界の料理なんて分からん、それどころかメニュー表すら読めんのだが…………。
「お困りですか? お客様」
いつの間にかリオが隣に居て覗き込んで来た。近い、近い! リオはなんか無警戒な気がする、おっさん達にもこの距離間で接してるのか? それとも俺が男として見られてない?
「ぼーっとしてどうかしたんですか?」
「あ、いや――っ!?」
よく見りゃここのウェイトレスの制服大胆過ぎじゃないか!? 胸元開き過ぎだろ! 谷間見えるし…………慌てて目を逸らした。そうか、ここが人気なのはこういう理由もあるのか。
「ワタル、大丈夫ですか? 顔が赤いですよ?」
「だ、大丈夫、酒場なんか初めて入ったから空気に慣れないだけ」
「てめぇぇ、ただのお友達のくせににいつまでもリオちゃんを引き留めてんじゃねぇよ! リオちゃんはみんなのリオちゃんだぞ」
急にやって来たおっさんに肩を組まれて酒臭い顔を寄せられた。うげぇ、酒&加齢臭がぁぁあああ! 臭いくさい! 俺臭いのもダメ! 鼻が痛くなるし頭痛もしだすから! 化粧、香水、整髪料、タバコなんかの臭いがキツイ物全部ダメ!
「注文取ってもらってただけですって、とりあえず離れてください…………」
「注文なんて適当にすりゃあいいだろ、リオちゃん、メデシロの塩焼きとエリカバーのステーキと適当な酒を持ってきてやってくれ」
おっさんは離れず勝手に注文していく。もう注文はなんでもいいから離れてくれよ、頭クラクラしてきた。
「ワタルはそれでいいですか?」
「ああ、うん、もうなんでもいい」
リオが離れればおっさんも離れるだろ。早くこの臭いからの解放を!
「それじゃあ伝えてきますね」
リオは離れたのに、おっさんが離れない…………臭いしむさい。
「ところでよぉ、お前もうひと勝負しないか?」
ああ、お金の心配か。
「あの、心配しなくても自分で払いますので」
「そんなこたぁどうだっていいんだよ、それに負けたんだから俺たちがきっちり払う。そんなことよりリオちゃんのおっぱいに触れる権利を得るチャンスが欲しいんだよぉ!」
…………めんどくせぇ、さっきリオが友達だって言っただろ! 俺にそんな許可だす権利なんかねぇよ!
「おっ! 面白そうな話してるじゃないか、今度は俺が相手になるぜ! アランとの勝負で腕を痛めたなら楽勝だ」
最低に卑怯だな。話を聞いてたおっさん達がわらわらと集まって来た。更に臭いがキツクなったんだが!
「いや! 俺に再戦させてくれ、さっきは油断してたんだ。こんな細腕の坊主に負けたなんて知られたら町中で笑いものだ」
再戦とか絶対無理! 今だって動かしてなくても痛いのに腕相撲なんて出来るわけがない。
「腕痛いので無理です」
だから早く散ってくれ! 臭過ぎて気絶する!
「反対の手ぇ使えばいいじゃないか」
「そうだ! まだ反対側があるじゃないか! 是非もう一度俺たちに夢を見るチャンスを!」
アホか! 左は添え木を外してからまだ数日だ。動かしても痛みは感じないが完全に骨がくっ付いてる保証はない、無茶してまた折れたら堪ったもんじゃない!
「おじさん達しつこいねぇ、ボロ負けしたんだから諦めなよ。それに私しつこい人嫌いだなぁ?」
「うっ、メアちゃんが言うなら仕方ない、今日は諦めるか」
メアの一言でおっさん達が散っていった。か、解放された…………。
「はいこれ、悪い人たちじゃないから許してあげてね」
ジョッキを置いて、そう言ってウインクして戻っていく。たしかに可愛いな、看板娘なだけはある。にしても蒼い髪に紫の瞳ってすごいな、やっぱ異世界だなぁと改めておもってしまう。そんなことを思いながらジョッキを傾けた。
「ぶふぅううううー、げほっ、げほっ」
これ酒じゃんか! そういえば適当な酒を、とか言ってたな、周りが酒臭過ぎて臭いで気付かなかった。
「おいおい! 急に吹き出してどうしたどうした?」
「ワタル! 大丈夫ですか!?」
急に酒を吹き出したもんだからみんなが集まってくる。
「げほっげほっ、大丈夫、酒苦手なのに酒だと思わず飲んで吹いただけ」
「酒が飲めないなんてお前いくつなんだよ? そんなにガキなのか?」
悪かったな飲めなくて! 誰だって好き嫌いあるだろう? 俺は多めな気がするが。
「二十四」
「二十四!? 二十四にもなって酒の一杯も飲めないのかよ! あっははははははは、とんだお子様だな!」
店中大爆笑、今日笑われすぎだろ…………。
「他の飲み物持ってきますね」
「あーいいよいいよ、リオちゃんは座ってオトモダチの相手してなよ、久しぶりに会えたんだから、店長にも許可取ったから大丈夫」
メアはささっとテーブルと床を綺麗にして、言うだけいって厨房の方へ戻っていく。
「ワタルのおかげでお休みになっちゃいました」
笑いながらリオが向かいの席に着いた。
な、なにを話せば? まさかリオに会うなんて思ってなかったし、森に居た時は必要な事を聞いたりしてただけだし…………。
「はい! お待ちどおさま! メデシロの塩焼きとエリカバーのステーキです」
「ちょ!? あ、あのこの魚は一体…………?」
運ばれてきたのは魚の塩焼きとステーキ、ステーキの方のエリカバーってのは確か猪鹿の事だったはずだし見た目に問題はないからいいとして、塩焼きの方! 目が滅茶苦茶デカくて飛び出てるんですけど! 魚の大きさはティッシュの箱位、でも目が卓球の玉位かそれ以上の大きさで飛び出ている、漫画なんかの驚いてるシーンの表現みたいに! これを食いたいとは思えない…………。
「これはメデシロ――じゃなかった、ペザマァティって魚だよ。漁師の人がメデシロって呼ぶんだけど、注文の時もメデシロって言う人が多いから癖になっちゃってた。海の近くに住んでなかったら知らないよね」
てへっって感じで舌を出して笑ってるけど、そういう事が聞きたいんじゃなく、こんなもん食えるのか?
「ちなみに焼くと目が飛び出る白身魚だからメデシロね」
どうでもいい、心底どうでもいい…………これを食わないといけないのか? 餓死しかけた事があるんだ、食べ物の好き嫌いは良くないと思うけど、せめて頭部はカットしておいてくれればいいのに、なぜこのグロテスクな頭部をわざわざ客に出す?
「ワタルはお魚苦手ですか?」
「いや、そうじゃないけど…………」
魚は好きだ。日本人だから刺身や寿司でよく食べてた。でも、えー? 誰もこれを気持ち悪いと思わないの? こいつ何にこんなに驚いてんの? って位飛び出ている、寧ろお前の顔に驚くわ!
「どこの海でもよく獲れるし美味しいんだよ」
メアがさぁどうぞ! と皿を俺の前に寄せてくる。そして横にナイフとフォーク…………え!? 俺ナイフとフォークで魚食った事なんて無いんですけど!? 箸が欲しい、我慢して食べるにしてもせめて箸が!
「どうしたの? 冷めちゃうよ?」
食うしかないのか。
「あ、はい…………いただきます。ぃっつぅ!?」
覚悟を決めてナイフに手を伸ばそうとしたら激痛が右腕に走った。そうだった、さっき右腕ダメになったんだった…………左の時は利き腕じゃないからなんとかなってたけど、これはどうすりゃいいんだ? 折れてないはずだから数日だけだと思うけど。
「あ~手痛めてたんだっけ、ん~、ならリオちゃんに食べさせてもらったら?」
『え?』
リオと声が重なった。そんな恥ずかしい状態は避けたい。
「いや、なんとか左で」
やろうとした、やろうとしたけど片手じゃ上手く切れない。
「ほら無理じゃない、リオちゃんが嫌なら私が食べさせてあげようか?」
「ワタルは私が嫌なんですね…………」
「嫌じゃない! あ…………」
メアがニヤニヤしてらっしゃる、ハメられた。
「じゃあリオちゃんに任せて私はお仕事してくるね~」
楽しそうに去っていくメア、完全に遊んどるな。
「ワタル、どうぞ」
リオが隣に座って食べさせてくれるが味が分からない。恥ずかしさと周囲のおっさん達の殺気を感じる。
結局味の分からないままに食事を終えた。
「よう、少しいいか?」
船長? 何の用――船の事か!
「はい、どうぞ」
「お嬢さんは遠慮してもらえるか?」
ん? リオが居ちゃマズいのか? まさかまた賭けの話じゃないだろうな?
「? はい、じゃあ私はメアさんを手伝ってきますね」
リオがウェイトレスの仕事に戻っていく。
「奥の席に移ろう、聞かれるとよくない話になるかもしれないからな」
「はあ」
船長に付いて奥の席に移った。
「単刀直入に聞くがおめぇ、異界者か?」
そういうことか、船長にはバレてたのか。
「はい、そうです。他の国は異界者を保護して受け入れてる所が多いって聞いたんですけど、お願いできませんか?」
「やっぱり異界者か、だとしたら船に乗せてやるのは少し難しいかもしれん。この国は異界者という資源を逃がすまいと必死でな、出港前には船員、乗客の確認に積み荷も細かく調べられる。確認時に他国籍だと証明できない異界者が乗っていれば強制的に連れていかれる」
資源か…………どこまでも物扱いだな。
「出港した後ならどうですか? 船が港を離れ始めた時に飛び乗るとか」
無理をすれば多少の距離は跳べるはず。
「確かにそれなら乗せてはやれるが、二度とこの国に来れなくなっちまうから国の為を思うと了承してはやれんなぁ」
…………そりゃそうか、厳しくチェックしてるんだから不正に船に乗ろうとする奴が居たら引き返せ! ってなるか、資源扱いしてる異界者を勝手に連れてけば国際問題? やっと希望が見えたと思ったのに振出しに戻るのか?




