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黒の瞳の覚醒者  作者: 一条光
三章~やるべきこと、やりたいこと~
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報復

「メアリー、ここには来てはいけないと――誰だ貴様! なぜここに居る!?」

 やっぱりこいつだ、さっきも確認したけど、こうして正面から確認したら間違いない。あの時の男だ、漸くだ、漸く見つけた。

「返しに来た…………」

「なに? なにを返しに来たと言うんだ? 私は貴様など知らんぞ!」

「お前が殺した日本人の少女の痛みと苦しみを返しに来た!!」

 こんな大声を出すつもりはなかった、だがこの部屋の有様を見て自然と大声が出ていた。

 少女が入っていた様な檻がいくつもあり、その中に人間が入っている。入っているのは日本人じゃない、瞳の色、髪の色が違う、同じ世界の人間でもこんな扱いをするのかこの国の人間は! 檻の中に居る人たちはボロを身に纏い、腕の無い者、脚の無い者が居る、なんだよこれは!? この醜悪な場所に居るだけで気が狂いそうだ。


「ニホンジン? 異界者の事か? 貴様異界者に肩入れするのか? そんなことをすればどうなるか知らないわけでもあるまい、そんなことはしないのが利口と言うものだ。さぁ、さっさと出て行け、今の言葉は聞かなかった事にしてやる」

 フードのせいで俺が異界者だと気付いていない。男は言うだけいって、檻へ手を伸ばそうとした。

「ふざけるな…………あの娘の痛みと苦しみはお前に返す」

 伸ばされた男の手へ電撃を放った。

「がっああああぁぁぁぁー!」

 気絶はさせてない、力を抑えて痛みを与えた。

「先ずはお前の右腕を斬り落とす。次が左脚、最後に腹を裂く」

「ま、待て! お、お前覚醒者か!?」

「どうでもいい事だ。お前はどうせ死ぬ」

 淡々と話す。人を傷付け殺そうとしているのに、驚くほど何も感じない。

「ま、まぁ待て! 覚醒者なら国に取り立ててもらえて、いい暮らしをすることが出来るぞ! 女も犯しほうだいだ! 私が口利きをしてやろう、だから――」

「口を開くな、お前の汚い息で空気が汚れる。それにお前が今言った事に俺は興味がない、お前たちの同類になる気はない」

 下卑た思考だ。盗賊達と大して変わらないじゃないか。


「同類? 貴様ら異界者と私が同じだと!? ふざけるなぁぁああああああ! 貴様ら奴隷人種と私が同じはずがないだろう! 下賤なお前たち異界者を飼う資格を持つ者、それが私たち、この国の人間だ! それを――」

 同類という言葉が余程気に入らなかったのだろう、男が喚き散らす。

「俺は黙れと言ったんだ」

 長剣を抜いて、男の右腕目掛けて振り下ろした。

「ぎぃぃやぁぁぁあああああああああああああああ! う、腕、私の腕がぁぁあああ、どうしてくれる!? なぜ私の腕が斬り落とされなければならない!?」

 男の腕は驚くほどあっさり斬れた、この剣凄い切れ味だな。それにしても頭が悪い、理由はさっき言ってやったろうに。それに自分は散々他人の手足を斬っておいてこの言い草か…………。

 男の喚きを無視して、今度は脚を斬るべく剣を振り上げる。人の腕を斬り落としたというのに何も感じない。

「ま、待て待ってくれぇ! お前が言う少女とはどれの事だ? 本当に私が何かしたという証拠があるのか!?」

「ひと月ほど前にお前が奴隷を売った帰りに拾ったと門番と話していただろう、その娘はその日の夜には右腕と左脚を失った状態で町の外に打ち捨てられ獣の餌になっていた」

「あ、ああ、あのガキの事か、あれは俺がやったんじゃない! ほ、他の、私の知り合いがやったんだ! 少女好きの奴と人体を斬りその一部を集めてる奴がいるんだ。そそ、そいつらの仕業だ」

 睨み付けると怯え、焦って話し出した。

 俺がやったんじゃない、か、怯えもあるだろうが動揺してる様にも見える、こいつが関係ないという事はないだろう。どちらにしても他の奴にも確かめればいいことだ。


「パパぁ? さっきからどうしたの? 大きな声で騒いで――」

「っ!? 騒ぐなよ? 騒げばこの男の首を飛ばす」

 振り返ると扉を開けてこちらを見ている少女が居た。この男の娘だろう、殺された少女と同じ年頃に見える。同じ年頃の子供が居るのにあんな事が出来るのかこいつは!?

「ぱ、パパ!? どうしたの!? なんでこんな事に!?」

「め、メアリー…………」

「余計な会話はするな、お前がさっき言っていた奴の名前を言え」

 刃を首に当てて促す。

「ひぃっ! しゃ、喋るから止めてくれ、ダニーとアルベルトだ。これでいいだろう? 私は関係ないんだ、もう止めてくれ」

「関係ないかどうかはそいつらに確認する。止めるかどうかもその後だ」

「や、止めなさい! あなた異界者でしょう? 奴隷のくせになんでパパに逆らうの!?」

 こんな子供までこんな考えか、この国で育ったら誰でもこうなるのか? 虫唾が走る!

「黙れ、黙って俺の指示に従え」

「誰が奴隷の指示なんて――」

 電撃を放って脅かし黙らせた。この子供にさっき名前の挙がった二人を連れて来させよう。

「もう一度言う、黙って従え、無用な事はしたくない、いいな」

 娘が頷いたのを確認して続ける。

「俺はさっきこいつが言った名前の奴に用がある。お前はそいつらをここに連れてこい、余計な事を伝えたり、不要な人間を連れてくればその時点でこいつの首を落とす。大勢連れてくればなんとかなるなんて思うなよ? 俺に人数は関係ない」

 天井に向かって電撃を放って、こちらの力を確認させる。

「メアリー、ダニーとアルベルトだ。家の場所は分かるね? 私がいつもの用事で呼んでいると言えば来てくれるはずだ、だから頼む、急いで連れて来てくれ」

 娘は頷くと走って出て行った。

「余計な人間が来た場合はお前の首を落とす」

「あ、ああ分かったから剣を離してくれ」



 ふと檻に目がいった。憐れなもんだな、同じこの世界の人間だろうに…………。

 物音がした。娘が戻って来たようだ。一瞬兵士とかを連れて来ていたら? という考えが頭を過ぎった。もし兵士を連れて来ていたとしても今なら排除して逃げるだけの力はある、だから大丈夫だ。直ぐには見えないように扉の死角に移動した。

「おいダン、娘を呼びに来させるなんて珍しいじゃないか、そんなにいい奴隷(おもちゃ)が手に入っ――」

「おい! どうしたその怪我!?」

 男二人が部屋に入ったのを確認して扉を閉めた。

 っ!? 娘も入ってきていた。これからする事を考えると居ない方がいいだろうけど、余計な人間を呼ばれても面倒だ、このまま続けるか。

「それは俺がやった」

 フードをめくって、姿を見せて言い放った。

「お前一体?」

「っ!? お前異界者だな!? ダン、あいつにやられたのか? 奴隷が檻を抜けだしたのか?」

「余計なお喋りは要らない、俺の質問にだけ答えろ」

 こんな空間に長く居たくない、早く用を済ませてしまいたい。

「はあ!? 奴隷のくせに何をふざけたことを――がぁあああああ!」

 電撃を撃って黙らせる。

「俺はここに長く居たくないんだ。大人しく質問に答えろ、嘘を吐けばその度に電撃を与える。ひと月程前にその男、ダンが拾って来た異界者の少女にお前たちは何をした?」

「か、覚醒者…………!?」

 電撃を食らって倒れた男を見てもう一人がガタガタと震え始めた。

「な、何もしていない! 俺は何もしていない! 関係ないんだから俺は帰っていいだろ!?」

 電撃を撃たれなかった方が叫ぶ。

「なっ!? ふざけるなアルベルト! 喜び勇んでお前が一番にあのガキを犯してただろ! それに死んだのだって首を絞めると更に締まりがよくなって気持ちいいって言って窒息させたんだろ!」

 よく見るとアルベルトと呼ばれているのはあの時の門番だった。クズの知り合いもクズだったか、直接殺し、少女好きなのが門番、なら電撃を浴びせた方が人体収集をしてる奴か。


「っ!? ダン! お前だって犯しただろ! 娘と同じ年頃なのがいいって、何度も! それにお前は腕を斬り落としただろ!」

 やっぱり参加してるんじゃないか、ダンを睨み付け腕を帯電させる。

「私じゃない! こいつだ! ダニーが人体収集をしてるんだ! 私は何もしてないぃぃいいいー!」

 電撃の痛みを思い出したのか喚きたてる。

「はっ! 何を言ってるんだ。俺がやったのは左脚と腹を裂いて中を少しもらっただけだぜ? 俺は犯してもいない!」

 自分が助かりたいがために、次々に仲間の事を話し自爆していく。ダンが腕を斬り、犯した。アルベルトは犯して、首を絞めて殺した。ダニーが脚を斬り、腹を裂いた。

 もういい、これだけ分かれば、これ以上こいつらの腐りきった行いについて聞いていたくない。

「お前が殺したんだったな」

「よ、止せ! 来るなぁあああ!」

 アルベルトの首を掴み電気を流す、電圧は徐々に上げていく。こんなデカい男に襲われてどれだけ怖かっただろう? こんなクズの快楽のために首を絞められてどれだけ苦しんだだろう? きっと助けを乞うたはずだ、それを無視して自分たちの快楽の為にこいつらはあの娘を殺した。

「あの娘の痛みと苦しみを知れ」

「がっががぁぁぁぁあああああ! い、痛い! 止めてくれ! なんでもする! だからぁああ!」

 命乞いか…………お前たちは少女のそれを無視したんだろう。

「なら、あの娘を生き返らせて両親の元へ帰して見せろ…………出来るはずないよな? だからお前はもう終わりだ」

「あがっがががががあぁぁぁああああああああああああー!」

 アルベルトは痙攣し失禁した。嫌な臭いが立ち込める、アンモニア臭と生き物の焼ける臭いが。

 「ひっ!?」

 黒焦げになったアルベルトから手を放すと、その身体はダンたちの方へ倒れた。

「お前は犯し、腕を斬ったんだったな」

「ま、待ってくれぇ! む、娘を、娘を差し出す! お前が怒ってるのはあのガキが欲しかったからだろ!? だから娘を差し出すから好きにするといい! だから命は、命だけは!」

「ぱ、パパ…………?」

「…………」

 呆れ果てて言葉もない。悔いて赦しを乞うのなら理解出来るが、娘を身代わりとして差し出すなんて…………。

「お前には生きる価値も、人の親になっていい資格もない!」

 剣を振り下ろそうとして止めた。

「ひっひぃぃぃぃぃぃ」

 今、俺は怒りで殺そうとしてた。これは復讐じゃない、報復だ。ただ返すだけのはずだ…………。


「っ! 逃がすか!」

 俺がダンに気を取られてると踏んで、脇を通り過ぎようとしたダニーの左脚を斬り落とした。

「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああ、脚ぃ、お、俺の脚ぃ! この! 奴隷の分際でぇぇえええええ! 死ねぇやぁぁぁあああ!」

 この場で人体を斬る時に使ったであろう血と錆の付いた剣を転けた状態で俺の脚目掛けて振り抜こうとしてくる。

 自分の剣を脚と相手の剣の間の床に突き立てて受け止めた。俺の剣にぶつかった瞬間ダニーの持つ剣は折れて刃が飛んでいった。

「なっ!?」

 驚いているダニーの顔を蹴り上げて仰向けに転がした。

「お前は左脚と腹だったな」

 転がったダニーを見下ろした。

「や、やめ――」

「あの娘が受けたものはすべて返す」

 脚を斬られた痛みと恐怖で引き攣った顔をしたダニーの腹を斬り裂いた。

「がっ、ごぼっ、おおぉぉぉ、た、助けぇ、ごぼっ」

 血を吐きながら傷を押さえている。とどめは刺さない、あの娘が受けたものを返すだけ、結果生き残っても苦しい人生になるだろう。

「次は――」

 残ったダンを睨み付けた。

「や、止めてくれ! お願いだ! む、娘だけじゃ足りないなら他所から買ってくる! お前が満足するまで買ってくるから! 他にも好みがあれば出来るだけそれに沿う様にする! 他の奴隷商に頼めば色んな女を揃えられる! だから!」

 まだ言っている、根本的に考え方が違うのだろう。こいつらと俺は一生理解し合えない。

「俺はそんなものを望んでいない。右腕は落とした。あとお前がやったのは、犯したんだったな――」

「いや! 違う! 私は犯してない! やったのはこいつらだけだ! 私は手を出してない! 触れてすらいなかった!」

「もう聞き飽きた。…………感電をすると電流の通った場所や電流が入って来た場所が壊死する事があるらしい、お前はその股間の不要な物を失くせ」

「止せ! 止めろ! 止めてくれ! それだけは嫌だ!」

 ダンは青ざめて座り込んだ状態で後ずさる。

「お前はあの娘が助けを乞うた時に聞き入れたのか?」

 ダンは俺の問いに答えず、顔は完全に血の気が引いて死人の様だった。

「そういう事だ。お前の願いは聞き入れられない」

 股間を踏みつけて電気を流した。

「がががががあぁぁぁああああああああああああぁぁぁ」


「うぇぇ」

 ダンが失禁したのに気付いて慌てて足を離した。痙攣しているからまだ生きてはいる様だ。

「パパ! パパぁ! あなた奴隷のくせによくも!」

 この国で育って、この考え方に染まった奴はもうどうにもならないのかもしれない。子供ですらこうなんだ、大人は確実に変わらないだろう、最悪の国だ。

「っ!? なにしてるのっ!?」

「檻を壊す」

 剣が切れたんだ、もしかしたら檻も切れるかもしれないと思って檻に剣を振り下ろした。思った通り檻を切る事が出来た。

「逃げたきゃにげろ、無責任で悪いが檻を壊す以上の事はしてやれない。この国じゃ異界者の俺は自由に動けないからな」

 唖然としている檻に入れられていた人たちにそう伝える。

「なに言ってるの!? そんな事許されるはずないでしょ!? こいつらは家の奴隷なのよ! 勝手な事言わないで!」

「そんなこと知らん。俺の用は済んだ」

 喚き散らす娘を無視して家を出た。

 嫌な空間だった。さっさとこの町を離れよう。


 門の近くまで来たが、町で騒ぎが起こっている様子はない、これなら入った時と同じで登って出るか。壁を登って町を見るがやっぱり事件があって騒いでいるという様子はない。それなりに大きい町だし兵士位居ると思うんだけど、あの娘伝えに行ってないのか?

「まぁどうでもいいか」

 壁を飛び下りて荷物の場所へ戻る。

「疲れた…………」

 俺、人を殺した…………なのに今の自分は何も感じていない様に思う。

 やっぱり俺もどこかが壊れているのかもしれない。

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