出発
「本当に掘り返すのかの?」
「はい、日本に戻る方法を探してる時に突発的に戻れる事態になったら困りますから、だから一緒に連れて行こうと思います」
村を発つ日の早朝、俺は源さんと一緒に埋葬した少女の骨壺を掘り返しに来ていた。こっちの世界に来たのは突然の事だった。前触れの様な事があったわけじゃない、だとしたらあっちの世界に帰れる時も突然の事になる可能性がある。だから遺骨を連れて行こうと考えた。こんな姿で帰ってくる娘さんを両親はどう思うんだろう? 親ではない俺には想像しか出来ないが、とても辛い事だろうな。それでも帰れた方がいいはずだ。絶対にその方法を見つけないと…………。
「そうか、両親の元へ帰らせてやれるといいのぉ、ほれ、これでよかろう」
「ありがとうございます」
源さんが掘り返した骨壺を木の箱に納めて渡してくれる。
「絶対に帰してやる」
眠っているのに掘り起こしてしまってごめん、でも絶対に日本に、両親の所へ帰すから、少しの間我慢してくれ。
「それじゃあ戻るかの、お前さんの旅の荷物をまとめにゃぁならんしの」
「これ位でいいかしらね」
大きな荷物を前に明里さんがそうつぶやく。
「これは、何が入ってるんですか? 俺のリュックの倍以上はありそうなんですけど」
「そうねぇ、まずお米、この国じゃ殆ど出回ってないから貴重よぉ。それから梅干しとか、お漬物の入った小さめの壺、同じく味噌と醤油の入った小さい壺、あと納豆も入れてあるわね。それから猪鹿のお肉で作った干し肉を少し多めに入れてあるわ、たくさん狩ってくれたから多く作れたしね」
壺多くね? 漬物と調味料の壺を合わせて七個位入ってる。その上骨壺もある、俺の持ち物壺ばっかりになる…………というかこれ結構重いんじゃ?
「ぬおぉおおお」
試しに担いでみたけど結構な重さである。これを担いで旅をするのか…………挫けるな俺! やるって決めただろ! 弱気になる心を奮い立たせる。やるって決めたんだ、絶対にやるんだ!
「航、これも持っていけ」
源さんに小さな革袋を渡された。なんだこれ? なっ!?
「源さんこれ金貨、こんなの受け取れませんよ。ここに来てお世話になりっぱなしで食料だって分けてもらってるのに」
革袋を突き返す。
「世話になりっぱなしという事もないじゃろ? 子供らと遊んでくれとった様じゃし、食料とてお前さんが狩って皆に分けてくれたじゃろう? お前さんに持たせとるのはその礼じゃ」
「だとしても金貨は…………それに俺はろくに町に入れないから貰っても使えませんよ」
そうだ、俺が町に入っただけで大騒ぎになるだろう、買い物なんて出来るはずもない。
「そうでもないぞ? 他国と交流のある港町なら他国籍の異界者が町を歩いておっても騒ぎにならんからの、上手く紛れ込めれば買い物なども出来るじゃろうし、他国へ渡るならその金も必要になるじゃろ? それにこれも礼じゃよ。ミスリルの鉱床を二つも見つけてくれたそうじゃからな、これ位は当然じゃ」
そういえばそんな事もあったか、すっかり忘れていた。確かにあれば便利だろうし、厚意に甘えるか。
「それじゃあ、ありがたくいただきます」
「うむ、そうしてくれ」
お世話になりっぱなしで本当に感謝に堪えない。
「わったる~、おっはよ~」
「よう! とうとう出て行っちまうんだな!」
美空と親父さんが来た。
「どうしたんだ? こんなに朝早くから」
「見送りと届け物! 朝早くって、早く来ないと航行っちゃうじゃん」
届け物? 俺何も頼んでないぞ?
「そら! 餞別だ! くれてやる、感謝しろよぉ!」
「っ!? これ!?」
俺が前に頼んだ短剣と長剣を渡された。なんでだ?
「その剣変わった形してるからな、もし無くしたり、壊したりした場合の事を考えての予備だ。それとこいつも持ってけ!」
前に鉄の玉を入れて渡されたウエストポーチの様な物も渡された。あれ? 今度は軽い、中身は何が――。
「あ!? あ、あの、これ、ミスリルなんじゃ?」
「おう! その量作るのは中々大変だったぞ! 大事に使ってくれよ! 五百位はあるはずだからな」
五百!? 玉は小さいとはいえ五百って、それに短剣と長剣をもう一振りずつだとかなりミスリルを使ったんじゃ?
「あ! 変な心配はするなよ、そいつはお前が見つけた鉱床から採れたんだ。それにまだまだ採れそうだ。だから何の問題もない!」
「あ、ありがとうございます!」
「おう!」
やっぱりこの村の人には世話になりっぱなしだ。
「あれ~、美空ちゃんもう来てる~」
「愛衣おっそい~」
「私は準備があったの! はいお兄さん、お弁当です。おむすびだけですけど、よかったら食べてくださいね」
愛衣に包みを渡された。わざわざ作ってきてくれたのか…………。
「ありがとう、あとでいただくよ」
ここを出る事が少し名残惜しい、こんな気持ちになるとは思ってなかった。
「ねね航、あれやろう、あれ! カシャッってなるやつ」
写真の事か、もう会う事もないかもしれないからお世話になった人たちの姿を撮って保存しておくのもいいかもしれない。
「んじゃみんなで撮るか~」
適当な台を持ってきてセルフタイマーで撮れるようにする。
「お、おいそれ、美空が言ってた魂が取られるってやつじゃないのか!?」
美空、親父さんになんて伝えたんだよ…………普段豪快な感じの人なのにビビってるよ。
「ごつい顔してなにを怯えておるんじゃ、あれは姿が写るだけじゃ、魂を取る力なぞ備わっておれば儂は疾うに迎えが来て逝っておるわ」
源さんは慣れたもんだな、カメラ機能を教えたら美緒と一緒に色々撮ってたからなぁ。
「ほ、本当かよ村長、俺ぁ、魂だの霊だのって話は苦手なんだよ」
「デカい図体して情けないことじゃな…………」
こんな感じでいいだろうか? 並んだみんなが画面に収まりきる様に調整する。う~ん、引きこもりだった俺がこんなに大勢と写真を撮るなんて思いもしなかったな。
「航まだ~?」
「もう出来た! タイマーにするから光るまで動くなよ!」
走ってみんなが並んでる端っこに加わる。
「お兄さんなにしてるんですか? お兄さんは真ん中ですよ!」
「うぇえ?」
愛衣に引っ張られて転けそうになりながら真ん中へ連れて来られたところでスマホが光った。うへぇ、今絶対変な顔だった…………。
「お、お、お、おい、ひ、ひ、光ったぞ!? あ、あ、あれ、だだ、大丈夫なんだろうなぁ? 本当に大丈夫なんだよな?」
美空の親父さんフラッシュに滅茶苦茶動揺してる…………俺さっき光るって言ったよな?
「平気だよ父さん、あたし達何度も写してもらってるけどなんともないもん!」
スマホを確認したらやっぱり俺変な顔してるし。
「どんな感じ? あら、私目を瞑っちゃってるわ」
「儂も半分閉じた様な変な顔じゃな…………」
「ぷっぅふふふふふふ、村長変な顔ぉ~」
みんな源さんの顔を見て笑い始める。これはこれでいい写真なのかな?
「もう一回撮らない? 私目を瞑った状態で保存されるなんて嫌だわ」
「儂も皆に笑われたままというのは不服じゃな」
「じゃあもう一回」
この写真も悪くないけど、ちゃんとしたのも欲しいしな。
「航! その後あたし達と撮ってね、航があたし達の事忘れない様にいっぱい撮るの!」
「りょーかい、りょーかい」
気恥ずかしいけど友達と写真を撮るのも悪くないか。
「じゃあもっかいいきますよ~」
タイマーをセットしてみんなのところへ行く。
「今度はちゃんと真ん中に来たんですね」
「また変に写るのは嫌だからな」
そしてカシャッっと音が響く。うん、今度はみんなちゃんと写ってる。
写真を撮り終えていよいよ出発だ。
髪と目を隠すためにフード付きのマントを羽織る。そして腰に二本のベルトを巻いて、二本ずつ佩剣する。おお、後で剣が交差してなんかカッコいいかも、これで二刀流とか出来たらもっといいな。両利きじゃないから無理だけど…………。この状態ならカッコいいのに、だがこれはゲームじゃないわけで必要な物を持って行こうとしたら大荷物になる、ゲームみたいにどれだけ有っても身軽な状態ならいいのに。
「いいかい、君が見た麓の町の門、その反対側の門からのびる道を行って、途中の分かれ道の左の道、それが港町に続いているから他国に行くつもりならそこを目指すといい」
「ありがとうございます、秋広さん」
「これ位別にどうって事ないけど、本当に麓まで送らなくて大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。ここに来ようとしても辿り着けないけど、山を下りる分には問題ないんですよね?」
「ああ、下りるなら迷う事はない」
なら問題ない、送ってもらうとかこれ以上迷惑掛けたくない。
「航、これも持っていけ」
なんだこれ? ペンダント? 水晶の様な透明な感じだけど淡く光ってる感じのする石が付いている。
「これ、なんですか?」
「村に戻るための鍵のようなものじゃ、これを持っておればまた村に来る事が出来る」
いくら村長でもこんなの俺に渡したらマズいだろ、危険だから追い出せって話だったんだから戻れる様にしたらダメだろ。
「はい、航さん、また村に来てくださいね」
受け取るのを躊躇っていると、源さんからペンダントを受け取った美緒がそれを俺に握らせた。
「でも、俺は…………」
「お前さんを追い出せと騒いでおった連中も納得済みじゃ、疲れたら戻ってくるとええ」
納得済みって、なんで? あんなに騒いでたのに。
「美緒たちが航は危険じゃないと説明して回ってのぉ、それでじゃ」
いつの間にそんなことを…………。
「これでいつでも戻って来れるんだから、ちゃんと戻ってきてくださいね、お兄さん」
「そうだよ! ちゃんと戻って来なかったら、あれだよ…………」
「あれってなんだよ?」
「あれ、あれっていいうのは…………呪う!」
マジかよ…………。
「分かったよ」
こう言うしかないよなぁ、正直戻って来られるとは思ってない。この国を出られたとしても、今度はこの国に入って動き回るってのが難しそうだし。
名残惜しいけどグズグズしてたら、時間がどんどん過ぎてしまう。
「そろそろ行くよ」
「絶対だよ! 絶対に戻ってきてよ!」
「私たち待ってますから!」
「航さん、いってらっしゃい!」
「元気でな」
「道中気を付けて」
暖かい見送りを受けて村を出た。
「重い…………」
村を出て三十分、俺はもう戻りたくなっていた。これ重すぎる、じいちゃん達の手伝いで稲刈りをして収穫した米の入った袋を運んだりした事があるけどあれより重い気がするんだが…………あれって大体三十キロ位だったか? 絶対壺だ、壺が重い! でも置いて行くのもなんかなぁ、この世界にはない調味料だし。
「あぁ~だるい~」
グチグチ文句を言いながら山を下りる。これ下りでよかったな、登りだともう死んでると思う。
「はぁ、休憩にしよっと」
愛衣が持たせてくれたおむすびをいただく。
「梅干しすっぱ~」
おむすびを平らげてしばらくぼーっとする。今山のどの辺りなんだろう? 今日中に下りれるよな? 巨大ゴキブリの居る山での野宿はかなりキツイぞ。
「歩こ」
スマホで音楽を聴きながら歩く。スマホ復活出来ててよかった~、ただ無心に歩くのはかなり辛いから気を紛らわせる物があるのはいい。
歩いて、歩いて、スマホに入れてある曲を大方聞き終わる頃に麓の町が見えてきた。
「やっとか」
もう日が暮れそうだ。
…………あの日を思い出す。もし俺が逃げなかったら? 無駄な考えと知っていても思ってしまう。町に着く頃には完全に夜だな、門は閉まってるだろうし、どうやって侵入しよう?
戻って来た、ここに。町の門を睨み付ける、なんであんな惨い事が出来るんだお前たちは! 絶対にあの男を捜し出してやる!




