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偽りの俺と親友の手  作者: 沫雪(AWAYUKI)
第一章 綻ぶ底辺学生の仮面
9/13

何ができるか……

 昼休みが終わった後、俺はヴィクセンに睨まれながら教室に戻った。

 あまりにも鬱陶しいので、割と強めに殺気を当て、沈めた。


 「それでは、今回も模擬戦を行う。各自、用意を済ませ次第、【サイト】に集合」


 本日もある、模擬戦授業。大体三時間がこれに充てられ、俺は手を抜いてわざと負けるやつだ。


 「それと、イツキ・ハルヨミ」


 「……はい」


 返事も念話でやりたい所だが、流石にそんな舐めたことはせず、低い声で返事をする。

 そう言えば、呼ばれる事はあんまり無かったな。


 「放課後に残ってもらいましょうか。聞きたいことがあるので」


 あぁ、おそらくはあの事だろうな。

 俺は少し面倒に思いながら、教室を出る。


 「待てよ」


 “しつこいね、君も……。僕に何か用?”


 後ろからヴィクセンが追いかけて来て、俺の隣に並ぶ。

 今日から鬱陶しい程、真剣な顔で問いかける。


 「お前から完全に音が聞こえなくなったんだ」


 “……で?“


 「昔、じっちゃんから聞いたことがある。お前、幻術使いだな……」


 その答えに、俺は口が釣り上がる。

 どうしてコイツは五階級に居るんだろうと本気で思った。


 “ある意味では正解だね。だけど、聞いただけでよく分かったね。何で君は此処に居るんだい? もっと上に行けただろうに”


 「俺のじっちゃんは兎人族(レビルムール)だ。幻術を使う奴は、感じる音に違和感があると言っていた。それだけだ」


 “……なるほど、今までの疑問に納得がいく。君は耳が良いんだね。まさか、兎人族(レビルムール)の血を引いていたなんてね”


 兎人族(レビルムール)は、主に耳と足が発達し、瞬発力に優れている。

 その耳は、魔力に響く音を拾うと言われ、それを利用すれば、目が無くとも周囲を察知することができる。

 俺の幻術に、耳が反応したのだろう。

 しかし、彼はとてもレアケースだと言える。四分の一の血で、こう言った能力を引き継ぐのはかなり少ない。


 “……で、それだけだ?”


 「いや、今回の模擬戦……俺と組んで欲しい」


 “断る……”


 即答だった。単にコイツとは組みたくないし、メリットも無く、信用できないから。


 “何で今まで散々悪意の有る行為を、君から受けたと思ってるんだい? 調子に乗るなよ……!”


 それに、俺は学園の人間達は全て信用ができない。コイツも例外でもない。

 憎しみにも似た意思を、俺はぶつけた。

 だが、一瞬怯み、ただそれだけだった。直に持ち直し、後悔したような顔でこう言った。


 「確かに、今まで俺はお前に最低な事をしてきた……」


 “最低な事をしてきた自覚はあったんだね。驚きだよ、てっきりこれが君の本性だと思ってたよ”


 俺は容赦なく思った事を言った。

 が、ヴィクセンは顔色一つ変えなかった。


 「都合の良い事を言ってるのはわかっている。今まで俺はお前の事を誤解していた。それで散々迷惑をかけた事は謝る。今更許して欲しいとは言わない……すまなかった」


 ヴィクセンは、頭を俺に下げた。それは本心で間違い無いだろうと思う。

 少しだけ、俺は驚いた。こんなにも、プライドの高い奴が頭を下げてきたからだ。


 「だから、もっとお前を知りたい……」


 “……ただの少悪党が、僕を知りたいだって? バカなの? 今でも流れてる噂が、僕の姿だよ。理解する必要も無いし、君なんかに理解されたくも無い。君程度に理解されても、嬉しくないよ”


 勿論、俺に対する悪意の噂は嘘だ。だが、ある意味では本当と捉えている。

 何故なら、複数の他人が思うなら、それが本当であると思っているからだ。

 ヴィクセンは、俺が辣を飛ばしても、俺に頭を下げたままだった。


 “……もういい、頭を上げなよ”


 ヴィクセンは、それに従い、頭を上げた。

 そして、俺は納刀したままの刀で頬を殴り付けた。

 頬は赤くなり、口内で切ったのか、口から血が薄っすらと出た。


 “もう一度言うよ? 調子に乗るなよ……! 僕は君のエゴなんかに興味も付き合う意味も無い! 悪いと言う罪悪感があるなら放っておいてくれないかな!? いい加減鬱陶しいんだ!! 身勝手も大概にしてよね、今回はそれで済んだと思え……! 僕は君を許せないし、認めたくないね。少しは期待したけど、所詮君はその程度さ!”


 俺は踵を返し、暫く頬を押さえ、俯き立ち尽くすヴィクセンを置いて行った。このままだと、本当に斬ってしまいそうだから。


 ◆


 分かっていた。だがよ、どうしても謝っておきたかった。この貰った痛みはその結果だ。

 俺はツクヅク最低なクソ野郎だ。

 耳が良かった俺は、負けた後色んな情報を集めた。言うまでもなく、あいつの事だ。

 だが、噂を拾う内に、矛盾が出て来た。

 いや、単に噂だけで判断するのは無謀だが、それでもやらずには居られなかった。

 アイツは強いと言う噂を拾った。同時に、何がアイツがあんな事になったのかを詳しく調べた。

 幼少の頃から冒険者としての実力が高く、そこからこの学園に入学した。その時の成績は、とても優秀だった……と聞いた。

 模擬戦では一二を争い、筆記では常に上位に居た。神童として有名だった。それに、自慢する事なく、常に正しくあった。

 ただし、冒険者時代の記録は未だ謎だった。

 だが、ある日を境に、裏切り者に転落した。

 理由は、凶暴で最悪な魔物を嗾けたそうだ。最悪なのが、そのターゲットがソイツの信頼していた親友だった。

 そいつ等が言うには、イツキが魔物を嗾けるのを見て、都合よく助けに来たと言った自作自演だった。

 魔物はイツキによって斃されたそうだが、その後に裏切り者とされた。

 そこから人殺しとして有名になり、数々の虐めが発生した。

 だが、段々と無視という形に変化していった。直接的、手を出すのは俺だけとなった。

 それからと言うもの、真っ黒だった髪に、白髪が混じり始めた。目を隠すようになった。誰とも話さなくなった。成績も落ち、五階級にまで下がった。

 不思議な事に、成績は必要最低限までをキープしていた。点数も赤点ギリギリ。実力テストは手を抜くようになったが、それでも最低点は抑えていた。

 本当にそれが真実か? 良く考えれば、矛盾がある。

 何故、成績優秀である筈が、こんな事を必要としたのか。いや、する必要があるのか?

 答えはNOだ。そもそも、それ以上の意味が無い。リスクも分かりきっていたことだ。

 それに、一番おかしいのが、誰もこの事に疑問を抱かない。全てが噂に誘導されていた。恐ろしく辻褄が不自然なまでに合う程にな。

 これに気付けたのは、恐らく俺だけだろう……ちがう、当の本人も分かっている。

 それを証明しなかったのは、失望したからだろう。


 「思いっきり殴られちまったな。血でいっぱいだ」


 歯は折れていないようだ。だがこの位で済んだ。

 アイツと話していると、時折殺気が滲み出たり、本能が何度警告をはっした……。証拠に、アイツの左手で抑えている刀がカタカタと音を立てていた。

 そう言えば、誰もあの刀を抜刀した所を見たという話が無かったな。

 それは置いておくとして、さっさと【サイト】に行くか。

 あー、口の血が止まんねぇ……薬でも使うか。


 ◆


 あーーーー……!!! 凄く苛々する!! 怒気は俺に纏わり付くし、表情は崩れるし、幻覚で取り繕っても違和感を周りから覚えられてる!

 無表情で近寄り難く、今まで認識できなかった人間が居る事に驚き、ヒソヒソと話す声が聞こえる。

 今日は嫌な事しか無さそうだ。

 そう思っていると、周囲の興味が俺から離れた。

 彼らの興味の先には……。


 「(閃烈の剣聖アリセア……か)」


 金色のポニーテールに碧眼、青い制服が良く映える女子生徒が、多くの視線を集めている。

 整った顔につり上がった目、それでいで、まだ少女の様な可憐さを残していて、多くの人の目を惹き付ける。

 それに似合わず、腰に携えた細剣は、僅かな隙きをも突くと言われ、時折混ざる斬撃は剣線しか見えないと言われる。

 それが、アリセア・クレセシュタイン。クレセシュタイン領主の長女だ。

 実際、出会うのは初めてだから、包帯をずらして確認してみた。

 

 「(ゲームで負ければ、この人と会うことになるのか……。そう言えば、期限決めてなかったな……)」


 進行方向に俺が居たので、左に避けて歩く事にした。勿論、認識阻害を用いた。

 後少しですれ違う時、一瞬だけ、視線がこちらを向いた気がした。

 そして、完全にすれ違う時、俺の右腕に手が伸びた。

 若干驚きつつも、それを避けた。


 “……何”


 警戒を顕にして、俺は問いかけた。

 彼女は俺の念話に戸惑ったのか、驚きの表情を見せた。


 「あ、あぁ、すまない。何かが居るなと思って、気になって手をのばしたら君が居たことに驚いて……」


 この時、拙かった認識阻害が破れてしまった。

 周りからは一気に注目され、敵愾心(ヘイト)が集まる。

 面倒くさいと思う頃には、冷静さを取り戻して、認識阻害の術を貼る隙きを伺っている。


 「そうだ、今探している人が居るんだが、聞き込みを━━━」


 “急いでいるから無理”


 「━━━ま、少しだけでも話を!」


 とにかくこの視線から逃れたいので逃げる。


 “そもそも、僕は人に興味も無いし、他人については何も知らない。他を当たってください”


 と、その旨を伝えて追ってこないようにする。


 「そ、そうか。すまない。実は白い髪の長い弐学の男子生徒を探してるんだが、見かけたら教えてくれ」


 その声を聴き流して、俺は【サイト】へと足を向けた。

 意識が俺から逸れた瞬間、認識阻害を発動させる。今度はいつも通りの出来だった。


 「(あれ、今の俺じゃね? 何で見せたことのない奴が……あぁ、あの子の姉だったな。気をつけるか)」


 今更ながらも、尋ねられた人が俺(本来の姿)であることに気づいた。

 気付いたときには、既に目的地へ付いていた。

 扉の隣に有る、セキュリティーシステムの機器にカードを差し込む。そして、いつも通り機械音を立てて扉が開く。

 俺は扉の傍の壁に(モタ)れながら、時間が来るのを待ち、寝ることにした。


 ◆


 「情報集めはこんなもんでいいか……」


 イツキに殴られた後、ヴィクセンは時間の許す限り彼の情報集めに勤しんでいた。とは言うも、たったの十分しかないので、情報量は高が知れている。


 「(やっておいて正解だったが、意外だったな……美術部に入っていたとはな)」


 彼はリストアップされている情報を確認する。


 壱学の時に美術部に所属。部内では机の上で腕を枕にし、窓の外を眺めながらスケッチブックに絵を描いていた。

 これだけでは不真面目にやっているように聞こえるが、大きな大会や、暇な時にでも技術の高い絵を描く。

 その絵は準優勝か優勝をし、玄人素人問わず目を惹きつけるものばかりだった。

 学園内の中等部は彼の描く姿を目当てに、多くの生徒が入部した。

 しかし、あの事件が起きてから、彼は周りに不信な目を向けるようになった。

 部員はそんな彼を疑おうともし無かったが、大会を前に退部した。

 大会に出す絵を描きかけのまま筆を置き、『もう辞める。楽しくない……』と言い、描きかけの絵を放って部室を後にした。

 結局、顧問や部員による引き留めにより、退部は認められず、籍は残す事となったが、イツキがそこに足を運ぶことは無かった。

 今も籍と描きかけの絵は残されている。

 同時に、大会でイツキの絵を楽しみにしていた審査員は、落胆した。

 彼の絵は、希少性から高額で取引されている。


 俺が集められた情報はここまでだった。

 一度、美術部の部員に聞き込みをしないと、もっと情報は得られないだろう。

 それを知った上で、俺に何ができるだろうか。

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