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偽りの俺と親友の手  作者: 沫雪(AWAYUKI)
第一章 綻ぶ底辺学生の仮面
8/13

逃げた先、孤独でなく、眩しい光だった。

 「あーあ~、空は蒼いのに、雲は自由で、何で俺はボッチの筈なのに目立って自由が無いんだ〜?」


 昼休みの屋上で、一人仰向けに空をみつめながら、イツキは愚痴を零す。今は目隠しの包帯は外してる。

 遥か彼方には、淀みのない美しい青と、それを途切れ途切れに囲いながら漂う雲があるばかりだ。

 暫く見続けると、身体が空腹を訴える。昼休みが始まって、悠に十分を過ぎている。まだまだ、三十五分の余裕はある。


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ〜……飯にしよう。マジでアイツしつけぇ……。ノーヒントだったら、完全に撒けなかったな」


 今日は珍しく、ヴィクセンから弁当に誘われたが、断ったら尾行されていた。

 今度は認識阻害に加え、幻聴で耳を狂わせた後に撒いた。

 そしたら、いつもは直ぐに見つかるが、今回はそうは行かなかった。本当にラッキーなものだ。


 「さてと、今日の弁当は……典型的だな。美味しそうだよ、リリス」


 ポーチから二段弁当を取り出し、蓋を開けて微笑みながら作った人に感謝をする。

 いつもなら、イツキが一人で作るのだが、昨日の作業疲れのせいで出来なかった。そうなった場合は、ヴィレノが様子を見に来て、手の開いている料理係のリリスに伝える事になる。

 弁当柄は、出汁巻き卵にウィンナー、ブロッコリーにレタス、更に唐揚げが有る。二段には、おにぎりが二つある。

 遠くがゲシュタルト崩壊するまで、俺は空を見上げながら弁当を完食した。


 「(……一人は良いが、やはり暇だ。こればかりは仕方のない事だな。どうしようか、元素魔玉(エレメントボム)でも作ろうかな……)」


 暇をやり過ごそうにも本が無い、スケッチブックは家に置いてきた、素振りをしようにも食ったばかりではまともに動けない。

 更には、元素魔玉(エレメントボム)を作ろうと思ったが材料を切らしたことを忘れた上に、道具が無かった。


 「発狂しそうだ、暇過ぎて……」


 こんな時、都合の良い暇つぶしはないかな〜と、思ったが、通り過ぎた鴉が鳴いただけだった。


 「あれ? 待てよ。あの鴉、もしや八咲(ハッサク)か?」


 通り過ぎた鴉に、俺は見覚えがあった。その鴉は、俺を見て屋上の柵に停った。


 〝もしやお前、八咲か?〟


 〝む、その念話の波長は、イツキ殿ではありませんか。お久しゅうございます〟


 〝本当に久しぶりだ。七年ぶりだったな〟


 この鴉は、普通の鴉と違って、東方の魔物の夜叉鴉(ヤシャガラス)と呼ばれる、高位の魔物だ。

 最大の特徴は、馬鹿みたいに強い魔法、薬の知識や膨大な情報網を持っている。

 昔の俺が、そうとは知らずに、必死になって重傷だったあいつを介護した。

 だってこいつ、普段は普通の鴉の姿なんだぜ? 正体を知った時は、とても驚いた。

 その時のお礼として、念話を教えて貰ったり、いろんな魔物の情報を貰ったり、他にも色んなサポートをしてくれた。


 〝して、イツキ殿。何故(なにゆえ)にそのようなお姿を? 最初に見た時は、汚れなき白をしていたのだが……今では全てが染まりきっていない黒であるが、眼も色が真逆ではないか?〟


 〝あぁ、コレね。故あって、幻覚魔法で黒くしたんだが、何故か髪だけが染まりきらなかったんだ〟


 〝何と!? ただの幻覚魔法で、この儂の目を欺くまでに腕を上げるとは畏れ入った。最初は簡単に看破できたのだが、今では困難だ〟


 〝ハハハ、実はこれでも抑えているんだ。完璧だと、返って違和感を覚えられて見破られてしまうんだ〟


 〝益々畏れ入った……。そして、一体このような場所で何を?〟


 〝今昼休みでね、困った事に暇を持て余してしまっているんだ。本当にどうしようかと……〟


 〝なるほど、それは退屈でしょう〟


 〝だから、少しでいいから話してくれないか? 休憩ついでに〟


 〝儂はそこまで暇ではないが、少しなら問題ない。しかし、本当に少しだけだ〟


 〝ありがと〟


 〝噂で聞いたのだが、ミョウムと言う、有名な職人の噂を聞いたのだが、もしや貴方では在るまいな?〟


 〝……どこで聞いたんだい? そんな噂〟


 〝その様子だと、真のようだ。心配せんでも、そなたの周りにいた小動物たちが言っておったぞ〟


 〝あぁ、なら納得いった。これ、広まったら大変な事になるんだよな〜〟


 〝その割には危機感がなさそうに見えるが……まぁ良い。ここに来る途中、近くでお主が作ったと思われる腕輪を見かけたぞ〟


 〝へ~、どんな奴だった?〟


 〝金の女だった、それも貴族のな。嵌めていたのは壊れていたが、それでも強いものだった。女は優しそうな奴だったよ。話しやすいかもしれんし、助けてみてはどうか? 腕輪の事で、困っておるみたいだった〟


 〝そうか、ありがとう。もしかしたら、オーダーメイドかも知れない……〟


 〝そうかそうか。それでは、儂はこの辺で立ち去る事にする。そうだ、もう一つ伝えねばならぬ事がある。お主なら心配無いじゃろうが、ここ最近、悪しき者の集団が、人々に悪さをしておる。中には人に取り憑き、操る者さえもいる〟


 〝そうか……ここ最近、妙に事件が多いと思ったらそう言う事だったのか。分かった、暇が向いたり、こちらに手を出そうなら潰しておくよ〟


 〝お主らしいのう……。では、去らばだ。達者でな〟


 八咲はそう言い残し、翼を広げて飛んでいった。


 「〝あぁ、達者でな〟」


 俺は呟きを念話に乗せて伝えた。その頃に、アイツは小さくなっていた。


 「さてと、その女の子にどうやって会おうか? このまま会ったら、特定されるしな……そうだ、敢えて本当の姿で接触すれば、特定は難しい筈だ。良し、それで行こう」


 外した包帯の真ん中を、人差し指と中指の上に乗せ、眉間に当てる。

 すると、勝手に包帯に巻かれ、目を隠した。あとはその上に、幻覚魔法で隠して終わり。


 「八咲が飛んできた方向は西側……となると、西のボッチスポットからか。余程困っているみたいだな」


 取り敢えず、そこに向かうことにした。


 ◆


 すれ違う人間に全く気付かれずに、難無く目的地へ到着した。

 そこは校舎の影になっていて、壁に近く、少し木が多い。それでも、昼間には快適な場所で、日向ぼっこにも向いている。

 俺は校舎に隠れて、ある人物を見つけた。

 金髪碧眼の、ショートヘアの似合う少女だった。木の側で座り込んでて、手には真っ二つに割れた腕輪があった。


 「(エルフの精霊石……アレの注文、誰がしたっけ? でも、懐かしいな)」


 俺は隠れていた校舎から出て、少女に近づいた。少女はそれに気づいて、驚いた顔をしていた。


 ◆


 「どうしよう……腕輪が壊れた」


 私、フェーリア・クレセシュタインは今、掌にある壊れた腕輪を見て悩んでいる。

 この腕輪は、四年前に誕生日プレゼントとして作ってもらった腕輪で、私にとって、安全面でも思い出でも一番大切な物です。これが無ければ、私は身を守る術が無いのです。


 「うぅ〜、もし帰り道で狙われたら、私連れて行かれちゃう……」


 普段はこの腕輪を頼りにしてたけど、それ以外に頼る事ができない。運動はダメダメで、剣もろくに握れないし、ロッドを扱う技量も無いので、唯一術が有るなら、お友達の精霊の力を借りてどうにかするしかなかった。

 けど何故か精霊魔法が使えなくて、精霊に頼るしかなかった。この腕輪は、その精霊を連れて歩けて、その精霊が十分に力を発揮させるための物。今、その精霊さんは、ただ私の周りを漂うばかり。

 途方に暮れている私に、近づく足音に気付いた。私はビクリとして、その人へ目を向ける。


 「あ……」


 そこから先は、何も言えなかった。私の目に前まで歩いて来た人は、とても美しかった。


 「どうやら先客が居たみたいだね。こんにちは」


 「え、えっと……その、こんにちは」


 優しそうな声で、それでいて長く結われた、純白の糸で出来ているような髪に、同じ純白の瞳を持った人だった。それ以外は、ただの夏の学生服を着た、男子生徒。まるで、美術品の様な人だった。

 私は夢でも見ているのかな? と、目を疑って擦ったりした。


 「あははは……その反応は、久しぶりのような気がする」


 目の前の人は確かに存在して、苦笑いをした。


 「ご、ごめんなさい! 余りにも綺麗だったので、つ、つい……」


 「いいよ、気にしないで。もう何度も見たから慣れた。」


 恥ずかしくて、顔を逸らしてしまった。こんな人、初めてです。本当に。


 「それより、何しにここへ? 俺は暇だから、此処で昼寝でもしようかなって、思ってさ。昼寝には快適な場所なんだぁ」


 「すみません! あの、邪魔ですか?」


 「? 別に。気にはしてないね」


 「そうですか……」


 本当にこの人、一体何者なんだろう? 私の事を知らないのかな?

 それに、こんなに綺麗なら、学校で有名になるのに、全くそれといった噂に引っ掛からない。


 「あの、私はフェーリア・クレセシュタインです」


 「……あ~、領主さんの次女の。なるほどね。俺はリエイルって言うんだ。別に覚えなくていいよ」


 思い切って、自分の名前を教えてみたけど、反応はまるで興味が薄い。

 普通だったら、媚たりとか、無駄に丁寧だったりとかするのに、全く無い。


 「まず忘れろと言う方が無理な気がします……」


 「そうだね、かなり皆と違うし……。それより、何かお困りかな?」


 「あ、そうだ。実は、大切な腕輪が壊れてしまったんです。これなんです。ミョウムと言う有名な職人さんが作ったんですけど、修理に出そうにもこの時期には不在ですし、買い替えてもこれを上回るような物じゃないとダメなんです……。それでどうしようかと、途方に暮れていて」


 「そうか、ちょっとそれをよく見せてもらってもいい?」


 「はい……」


 私は戸惑い無く、何故か渡してしまった。それにお構い無しに、まじまじと腕輪の状態をよく見る。


 「……やっぱり、エルフの精霊石だ。しかし、これが壊れるなんて、どうしたものか……?」


 「な、何でそれがエルフの精霊石と分かったんですか!? オーダーメイドで、世界でたった一つの物なのに」


 もし他人で知っているのなら、ミョウムさんと関係のある人しかいない。

 でも、ミョウムさんの弟子なんて居ない筈。何か怪しい……。


 「怪しまないでよ。知っているも何も、俺はミョウムと一緒にこれを作るのを手伝っててさ、ミョウムが材料集めの時に頼まれてたんだ。用途は精霊の入れ物、他に術者と精霊の繋がりを大幅に強化。精霊と精霊魔法の強化……だったかな?」


 「そ、そうなんですか!? 疑ってすみません!」


 「まぁ、疑うのも無理ないか……。こんな所で自分が手掛けた物と再開できるなんて、懐かしいな。あれからもう四年かぁ」


 リエイルさんは、懐かしむ様に点検を再開する。


 「四年も経っているのに、大して輝きが失われていない……それどころか、よく手入れがい行き届いていて、大切にされている。光沢は、古くなっていて味が出ている。職人として、嬉しい限りだよ」


 「あ、ありがとうございます!」


 「でも、手入れが丁寧で、四年しか経っていないのに、この光沢の渋さは六年経っているような……おかしいな。ねぇ、これっていつ壊れたの?」


 「え~と、ここに来る前に、授業の実習の終わりにです」


 「使った感じ、何か違和感は?」


 「宿っていた精霊さんが、少し力が出難いってって言ってました。その時は何ともなかったように見えたんですが」


 「まぁ、素人じゃ分かんないもんね。さっきよーく見た所なんだけどさ、術式が魔力に耐えれず、焼き切れているんだ。本来なら、十年は持ちそうなんだけど、耐久力を上回る魔力を込めたみたいだね」


 「えっと、私はそこまで魔力は無いです。あるとしたら、精霊さんが……」


 「いや、それは無いね、焼き切れ方が全く違う」


 「そんな、どうして?」


 「……うーん、こればかりは想定外だよ。このまま直しても、また近いうちに壊れてしまう。……もしかしたら」


 「?? あの、何か付いてますか?」


 「いや、違うけど黙ってて」


 「はい……」


 突然、リエイルさんは、私の体を調べるように見る。

 その目に下心はなく、真剣に観ていた。


 「……ん!? ちょっと待って、おかしいぞ!?」


 「え、きゅ、急に何ですか?」


 暫くすると、異変を感じて驚いた。一体、何を感じ取ったのだろう?


 「ごめん、額に触れていい?」


 「ど、どうぞ」


 許可を出すと、私の額を、右手で覆う。そして、目を閉じて、困惑の表情を浮かべる。


 「君、精霊魔法を使えた事は?」


 「一度も無いです……あの、なにか関係が?」


 「うん、はっきり言うと、病気だね」


 「ええええええぇ〜!? 私って病気ですか!? やばいものなんですか!?」


 「落ち着いて、落ち着いて、命を取るようなものじゃないけど、身体能力や魔法に影響が出るだけだよ。ちょっと訓練するだけで治るから」


 「本当ですか!? 今まで困ってたんです!」


 「うん、原因が解れば、腕輪の強化もできるし、それを抑えることが出来る。今から修理してみるから、見ていて。大丈夫、すぐに終わるから」


 そう言って、リエイルさんは紙を三枚取り出した。

 その内一枚に腕輪……の残骸を乗せた。そしたら、激しく光って、収まる頃には元の腕輪があった。


 「す、凄い……」


 そして、腕輪にあの二枚の紙を巻きつけて、今度は優しく光った。

 後は出来を確認する様に、よく確かめる。


 「……うん、完成だ。ほら」


 渡された腕輪には、青くて丸い宝石に、不思議な模様が描かれた金色の腕輪だった。古めかしい感じもそのままだった。


 「あ、ありがとうございます! あの……どの位払えば」


 それを聞いたリエイルさんは、キョトンとした顔になった。


 「ああ、いいよいいよ! 要らないから! 寧ろ懐かしい物を見れたからそれだけで十分だよ。それと、君の病気の事なんだけど、非常に珍しい物でね、なかなか無いケースだよ。実は君の魔力は圧縮されていて、しかも量が多いし、魔力の流れが乱れ放題さ。腕はには、その魔力を展開して正常に放出する機能も加えておいた。これで身体能力は別だけど、魔法は使えるよ。後は魔力切れが起こるまで魔法を使う、それを一週間続ければ正常に魔力が働くよ」


 「本当に何から何まで、ありがとうございます!! あの、次はいつ会えますか? 私は壱学二階級です!」


 それを言うと、彼は困ったような顔をした。


 「そうだな……二学だが、階級は教えない。虱潰しに探せば居るかな? 俺目立つの鬱陶しくて嫌でさ……。それに俺は会いに来ないし、見つけられないかもしれないぞ?」


 「会いたくないんですか……?」


 「うん、言えない理由が在ってな……」


 それに戸惑いなく、肯定された。嫌われたのかと思ったけど、違う理由があるみたい。


 「そうだ、一つゲームをしようか」


 「ゲーム、ですか?」


 「ああ、ルールはすごくシンプル。俺を見つけれたら、俺が君に会いに行く。ただし、俺は全く目立たないから、目立つ奴は違う。俺を見つけれたら、『ライアー』と言って」


 「約束してくれるんですね! その時は、私のお姉ちゃんも紹介する! 私の恩人だって!」


 そして、彼は悲しく笑ったような気がした。


 「閃烈の剣聖アリセアだったかな? あぁ、そいつは楽しみだ!」


 「あ……」


 不覚にも、その顔に見惚れた。悲しい筈なのに。


 「本当に、楽しみだ……」


 そして、立ち去ってしまった。いつの間にか、消えるように居なくなってしまった。

 見渡しても、人影一つも見当たらない。唯一、彼が居た証拠は、元通りの腕輪だけだった……。


 「本当に、何者だったのでしょう……」


 その疑問は、空虚に掻き消えただけだった。


 ◆


 「……いつ会えますか? か。どうしちゃったんだろ、俺……? 本当は会いたくないのに、ゲームなんて持ち掛けちゃったな……」


 俺は彼女に直接会いに行って後悔した。俺が今まで保ってきた何かが崩れた気がした。

 今では、いつも通りの姿に戻って、屋上で空を仰いでいる。


 「あぁ〜あ、空はこんなに青いのに、俺は孤独の逃げ道に走ったのに、どうして眩しいんだろう……?」


 今まで学校で得られなかった、優しさに触れて、目頭が熱かった。涙は包帯に染み込んで、そこに暗い色を落とす。

 今の俺では、どこまで独りを保てるだろうか……。

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