在庫処分
吹き荒れる竜巻の中、二人の男は思考を働かせていた。
一人はこの戦いを速やかに終わらせる為、一人はこの状況の打開策の為、其々が考えを巡らせていた。
「(この竜巻、一向に終わる気配がしねぇな。オマケに、視界に限りじゃあいつに姿を全く捉えられねぇ)」
竜巻は、遠心力に従って目を作っているが、吹き荒れる風によって目を開けられない。ヴィクセンはイツキの姿を捉えようとしているが、瞬きをするように確認しただけでも全く見えない。周囲を同じように確認したが、全く姿が見えない。
「【システムウィンドウ】……!」
ヴィクセン・オルフェグラン
Lv.32
HP:461/1157
MP:287/287
AP:231/632
イツキ・ハルヨミ
Lv.25
HP:633/847
MP:404/971
AP:1583/1583
「徐々にHPが削がれてやがる。とんでもねえもん隠し持ってやがったな。長期戦になるに連れ、こっちが不利になる」
ヴィクセンのHPは482から461にまで減っている。このまま蓄積していけば、ヴィクセンは確実に負けるだろう。当然、イツキからの攻撃が加わらないわけでもない。
だがそうなれば、イツキが何処に居るかが容易に解る。ヴィクセンは、それしか頼る手が無い。が、これに頼るのは危険である。ヴィクセンが思う限りのイツキは、狡猾だろうと思っているからだ。
一方、イツキはまだ空中待機中である。
「空爆という手段しかないな。が、位置が確実にバレるな、真上から落としたら。さてはて、この手は上手く行ってくれるだろうか」
丁度俺は、標的の真上にいる。勿論、ここから落とすつもりもない。
そこで考えたのが、内包されている魔力核を極力圧縮し、極限まで最小化をした元素魔玉が役に立ちそうだ。
これ作るのに何度も爆発を起こして大変だったな〜。楽しかったけど。
サイズは親指一本分。とても軽くて矢に括り付けることが可能。威力は高位魔法に匹敵する。ただし、込める魔力が完全に適切な量でなければ中位魔法程度だ。失敗例は、少な過ぎると大したダメージにならない。適切量の誤差25までなら中位魔法。これを過ぎると手元で暴発する危険性がある。
魔力操作に優れた者ならば、割と楽に成功できる。
名前は極限魔玉。属性指定がなく、ただ魔力を込めれば無属性攻撃になる。ただし、使用者の適性が、水属性だったり火属性だったりすると変化する。また、別の元素魔玉と一緒に投げるとその属性に染まる特色を持っている。
「ただなぁ、作るのが豪くシビアで、量産が出来ないのが欠点だな。創る時にはかなり神経を磨り減らした地獄が……。在庫所持してる個数は……十個か。行けるな」
極限魔玉を三つ取り出し、どのタイミングで投げるかを考える。目暗まし程度でいいだろう。最も、牽制だけでもかなり食らうやつを使うが。
ついでに、砂塵魔玉も混ぜておくか。
「(目標固定。魔力充填まで、5、4、3、2、1……放て!!)」
荒れ狂う竜巻に向かって投げ、それは、風に乗りながらもヴィクセンの方へ向かって行く。そして、目の前で砂を巻上げながら爆発した。
「ブアッ!! ペッ、ペッ! 砂が口に入りやがった!」
完全に砂がヴィクセンを覆った後、俺は急降下をし、ヴィクセンの背後を取った。そして、着地の勢いを回し蹴りの勢いに乗せる。が、腕を滑り込ませられ、防がれた……。それでも、ダメージは貰ったらしく、衝撃を殺しきれなかったらしい。体がよろめいたからだ。
「ぐおっ!」
続けざまに反射した足で地面を蹴り、左足で腕を蹴り上げる。腕の防御を壊し、体制が崩れる。再び地面を蹴り、体を無理矢理捻り、がら空きの胴に右脚で蹴撃する。その際に、障壁で脚をコーティングし、極限魔玉を挟み込む。念には念を入れた攻撃なので、今度は絶対に防げない。
先ず、強化された蹴りが胴を襲う。ヴィクセンは息を無理矢理吐いたが、追い打ちに、極限魔玉が爆発した。
俺は反対側に横回転しつつ、威力を殺ぐ。無事に成功した様で、ノーダメだ。そして、そのまま立ち上がり、埃を払う。
ヴィクセンは、何度かバウンドしながら無様に転がる。ザーマーァー!
多分、最初の蹴りの時点で、【サイト】でなければ確実に骨に罅が入る。二撃目の攻撃で肘は砕かれ、三撃目で肋骨が折れ内蔵に突き刺さり、場合によっては破裂、追加攻撃の爆発で、内臓は見事に掻き乱されるだろう。当然、即死は免れん。
が、あいつはそれでも尚立ち上がろうとする。HPがまだ残っているみたいだ。咳き込みながらも、何度も崩れかけては立ち上がった。
……風が、止んだ。吹き荒れる竜巻が消え、視界が元に戻った。
『おーっと! ヴィクセンは瀕死の状態だぁ! しかし、しれでも立ち上がる! なんてガッツなんだ!』
『しかし、もう手は無いでしょう。ここまで圧倒され、立ち上がる事が限界ですね。HPの残量を見ても、勝ち目は無いです』
本当にそうだよ。かなりの精神力だ。純粋に、賞賛に値する。しかし、限界のようだ。もう、引導を渡してやろう。
ただし、タダでは死なさない。俺は、クックック……と嗤いながら―――声は出てないが雰囲気だけで―――宣言する。
〝僕、警告したよね。次、喧嘩売った時に後悔させてやる。殺してやる、ただ死ねると思うなよ、て。君の処遇は決定したよ。『在庫処分の刑』だよ〟
ヴィクセンは、睨むことしかできない。アレだけ派手に食らっても尚立ってられるが、それだけでは敵わないものが多いだろう。努力さえすれば、三から二階級まではいけただかも知れない。が、力の振るい方を誤った。一体何がコイツを、不良にしたのかは興味がある。もし、友としての立場であれば、正しく導いていやりたいと思う程だ。
だから、俺はソイツに、ヴィクセンに対する態度を少し改めよう。後はヴィクセン次第だ。
〝約束通り、君に興味を持ったから名前を覚えてあげるよ。ヴィクセン君。だけど、もっと僕に近づきたいなら、君は自分を見つめ直してから声を掛けると良い。先ずは無闇に力を振り回さない事だね〟
俺は飛び上がり、足元をコーティングして極限魔玉を爆発させる。爆風を利用したハイジャンプだ。
そのままの状態で、俺はアイテムバックを取り、逆さまにした。
『『え!?』』
普通誰もがやらない事、それは元素魔玉の大量消費。一気に使う事。大量の初期作品に混じって、試作品が混じる大規模な空爆だ。
〝罰の清算ね〟
ヴィクセンは真っ青な表情で固まり、次に発した言葉は。
「うぎゃあああああぁ!?」
絶叫と共に、爆音に掻き消される音だった。ついでに俺もただじゃ済まず、巻き込まれた。当然、こうなる事を分かった上で多重障壁を張り、後方に飛ぶ。
広範囲に広がる爆風に押されながら、様々な花火の色を楽しんでいた。
爆風が鳴り止む頃には、ヴィクセンは消えていて、周りが静かになった。そこに、無機質な声が響く。
《オーバーキル。勝者、イツキ・ハルヨミ。リザルトを表示します》
ヴィクセン・オルフェグラン
Lv.32
HP:0/1157
MP:232/287
AP:43/632
イツキ・ハルヨミ
Lv.25
HP:438/847
MP:404/971
AP:1583/1583
俺は結果を見た後、さっさと闘技場を後にして家に帰った。