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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

助けはこない

助けてあげたじゃない

作者: 揚羽

「まぁ、見て…皇太子さまとミラージュさまよ! 相思相愛でいつ見てもお似合いのお二人よねぇ…」

 誰かが熱を持ちうっとりと放った言葉を、私は鼻で笑い飛ばした。

 あの二人を見てどうして相思相愛だなんて言えるのか。明らかに熱を持っているのは皇太子さまだけだというのに、愚かな人たちはあの二人が想いあってるように見えるらしい。


 私は考える。どうしたら皇太子さまの目をあの女から離し、私に向けられるかを。

 あの男は、私にこそ相応しい。


「かわいそうなマークさま」

 考えた結果出てきた言葉がこれだというのだから笑える。内心で自分を罵倒しながらもそれを表に出さないように努める。

 最悪不敬罪で裁かれるだろう。それでももう口から出た言葉は戻せないのだからどう転んでも諦めるしかない。


「かわいそう……? 私が……?」

 私が想っていたよりも、この男は単純らしい。

 唖然としながら零したその言葉は震えていた。その眼に怒りや苛立ちといった色は見られず、どちらかというと憐憫を宿している。

 ああ、この男は自分が愛されていないことに気づいているのか。気づいていながら、蓋をしているのだ。

 だったら、それを――

「だって、愛されていないんだもの」

 ――開いてやればいい。


 男が落ちるのは容易かった。ひたすら憐れみ、慰めてやるだけでいいのだ。

 マークさまはこんなに素敵なのに、どうしてミラージュさまはマークさまの魅力に気づかないのかしら?

 私が傍におります。私は、マークさまの味方です。

 マークさまはとても頑張り屋さんなのですね、素敵ですわ


 どうしてマークさまの婚約者は私じゃないのかしら……私のほうが、マークさまの魅力を分かっておりますのに……

 マークさまはとても魅力的な男性ですわ、できるならずっとお傍にいたいのに……


 ミラージュさまさえいなければ…

 

 私に気持ちが向いてきたら、さらに言葉を甘くし、そこに少しの毒を混ぜていく。ただ、それだけ。

 それだけで面白いくらい、この男は私を見つめ私を愛していった。逆にあの女に対して恨みを募らせていく。

 あと少し…あと少しだけ、何かがあれば婚約者の座をあの女から奪えるような気がした。

 だから、私は手駒を使うことにした。

 私の実家が支援している家の娘たちを。


 呼び出すと震えながら現れた。扇を顎に当て、高圧的にお願いをする。

「私に対して嫌がらせをし、それが暴かれたときにミラージュにお願いされたといいなさい」

 顔を真っ青にして立ちすくむ娘たちをさらに威圧すると唇をかみしめながら頷いた。

 次の日から私の靴箱に虫が入れられたり、机に落書きがされるようになった。

 なかなかいい動きをするじゃない、と心で笑いながら、泣き顔を作り男に擦り寄る。

 

 計画通りに上手くいった。

 学園のホールで男が女を罵倒する。笑いをかみしめながら、それを表に出さぬよう子兎を演じる。

 女が衛兵に連れていかれ、別室で男と共に駒たちと向かい合う。

「もうミラージュさまは居ないから大丈夫よ! 私、貴女たちと仲良くなりたいの。仲直りしましょう…?」

 駒たちが震えながら頷く。そう、それでいいのよ。

「ミラージュさまは、どうなるんですか…?」

 駒の一人が震えながら男に尋ねた。

「君たちにこれ以上危害を加えることがないよう、領地に戻ってもらった。もう大丈夫だよ」

 

 だが二人きりになったら男はにやりと笑った。

 そして手を引かれ、馬車に乗せられ向かった先には断頭台。私はこれからの出来事を悟って笑った。

 笑いをこらえて断頭台に繋がれた女を見ていたら、私が怖がっているのだと誤解したらしい男に抱きしめられ、頭を撫でられた。

 媚びるように男に擦り寄ってやると、男は嬉しそうに笑った。

 もうすぐ処刑、というところで見知らぬ男が目の前に現れ男と口論をする。会話の内容から女の兄だとわかったが、もう遅い。

 目の前であの女の首が飛ぶ。それを抱きしめ女の兄が泣いているが、何とも思わなかった。

 

 男が何かを破いている音がしたのでそちらを振り返り首を傾げる。

 男は笑うだけで何も言わずに私を抱きしめた。


 宿へ戻り、男から渡されたワインで喉を潤す。気づいていなかったが、私は緊張していたらしい。乾いた喉にワインが染みわたりいつもよりおいしく感じる。

 あの女がこの世から居なくなった喜びもその要因か。勝利の美酒に酔いしれた。

「っ…」

 喉が熱い。頭がぐらりと揺れ、ワイングラスが割れる音がした。

 まさか、と思い男を見ると、男は笑っていた。


 男が私を抱きしめ、いつものように頭を撫でる。

 ひゅーひゅーと喉を鳴らしながら、手を払いのけよう、逃げようとするのに男の力に勝てるはずもなく。

「逃げちゃだめだよ。君は私と永遠に共に居ると誓ったのだから」

 男が私の耳元で囁く。


 そんな誓いをした覚えなんてない…!

 どうして? あの女がいなくなって、これから更なる権力とお金を手に入れて幸せになれる予定なのに!

 私は死にたくない…!


 体の感覚がなくなっていく。

 視界が闇に閉ざされていく。

 どうして私が死ななきゃいけないの…?

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― 新着の感想 ―
[一言] いや~、ある意外あっぱれ。一貫して救いがない。これもまた一興。
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