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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
転:四天王制圧編~vsタルトレット
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4-4.ガーディアンズ作戦会議、なう

「星の寵児――タルトレット=レヴァンドラですね。私もよくは知りませんが。今回の接触も本当に唐突だったので驚いています」


 木の上で足をぶらつかせていると、下で幹にもたれかかっている、青い髪を束ねモノクロ色の服を纏っている人から落ち着いた声がかけられます。


 時は休日前夜。つまり我々は日中の仕事を終えた後こうしてひっそり集まり、明日の敵地視察に向けてガーディアンズ作戦会議に励んでいるのです。

 モナモリスとのあれこれがあった後、私達の関係は以前のような――それこそ昔実家にいた時のような関係に戻れたらしく、定期的に顔を合わせては情報交換をする日々に戻っていました。組手の練習はなぜかやんわりだけど断固として断られるようになったけど。まあ、武官たちと散々やってるからいいか。

 いやー、でも、仲直りできて本当に良かったよ。持つべきものは信頼できる仲間。と言うか最初っからあてにしてたのに王宮来てからどうもぎくしゃくしっぱなしだったから、ようやく普通に戻れて本当にほっとしたと言うか。そうそうこれが正しい形なんだって。やっぱりこう、何か悩んだ時は誰かと相談するのが私には一番合ってます、うん。侍従さんは何が違うって安心感が違うのだよ。


 すっかりなじんでいる侍従服を着こなしているディガンは、少しだけ思い出すようなしぐさをとってから、スラスラとよどみなく話し始めます。


「年齢は今年で16の新成人、アデラリード様の一つ下ですね。好きな色は白、趣味は様々あるのでその時の気分で変わる。あんな見た目ですがれっきとした男性です。とにかくフットワークの軽い方らしく、神殿関係者にしては幅広い場所に現れますし交友関係があります。特定のものと深くよりは、不特定と浅く広くの方法を人にもそれ以外にも好みます。流行りに敏感ですがあまり堪え性がない上に飽きっぽく、少し浪費家だとか。力仕事は苦手なようですが、二階から飛び降りても特に問題なくその後も動き回っていましたし、身体はよく動く方かと。勉学の成績や口達者っぷりは言うまでもありませんね。天才肌と言うかかなりの器用者と言うか、特に鍛錬も努力もなくあっさりこなせてしまうようですよ」


 一度も迷った風を見せず、また噛むこともなく、何度もそらんじたことのあることばでもあるかのように。

 訂正しよう。持つべきものは忍者。と言うかお主、まだ喋ることあるんかい。って言うかどこで息継ぎしてるんだい、それ。


「出身はウィーラ地方、生まれた月は実りの秋、王都神殿に星の降った夜。元は庶民の出ですね。姉が三人、母が一人。父親は生まれた時すでに他界しており、母親が商売を切り盛りしていた。富豪商人とまでは行きませんが、貧窮していると言うほどでもなかったようですよ。6歳で星の徴が認められ、神殿に迎えられる。10になるまで星の揺り籠で他の孤児たちと生活し、その間病弱な身体――確か喘息でしたか。これのせいで自然と女児と過ごす機会の方が多かった、と。このあたりの成育歴が、彼が少々特殊な話し方をする原因なのでしょうね。10からは星の寵児として神官の公務を始め、その後数年間は各地を転々としましたが、14の時に王都の神殿に入り、以後はここで星見などの勤めを果たしています。治癒術を最も得意としているらしいですが、地方修行の際には討伐経験も複数あったらしい――」


 彼は以上のことを何でもないことのように言ってみせてから、私の方を仰ぎ見ます。


「と、言ったところでしょうか」

「普通の人はそれをよく知っているって言うんだと思う。って言うか本当によく知ってますね、いろんなこと」


 おかげで私がタルトについて解説することがほとんど何もなくなったよ。

 思わずぶらつかせていた足を止めて真顔で突っ込みを入れると、苦笑して肩を竦めました。


「あの少年はとにかく目立つから人伝でも情報が集まるだけですよ。使用人たちはよくその手の話をしたがりますし。調べよとのことでしたらさらに詳しい探りを入れますが、いかがいたしますか」

「あー、うーん。でも明日どうせ顔合わせるからなあ……」

「では明日、あちらの出方を確認してからもう一度対応を考えましょう。もし明日何事もなかったとしても、念のために今後とも注意を続け、何かあればすぐお二人に報告いたします。それでよろしいですか?」

「うん。十分です」


 ディガンは言葉を切ると、視線を下ろして何やら考えています。

 そう言えば、フラメリオを出さない時はディガンが攻略者とかの情報を集めてきてくれるんだった。なぜそんなことまで知ってる、ってことまで知ってる人だった。

 私がほえー、と思いながらなんとなくその端正な横顔を見つめ続けていると、視線に気が付いたのかふっと彼がこちらを向きます。


「どうかいたしましたか?」

「いや、タルッ――げふん、レヴァンドラの事。知り合いとか関係者でもないのに、よく覚えてるなって思って」

「……昔からの癖が抜けていないのでしょう。それが何かの役に立てているのなら良いのですが」


 それきり彼がぽつっと黙ってしまいそうになったので、私は慌てて話題を考えます。


「うっ、噂、と言えば……やっぱ侍従たちとか使用人の中でも、シアーデラ姉妹(わたしたち)って有名なんですかね」

「まあ、王宮にいる以上まったく知らないという方が珍しいかもしれませんね。ご心配なく、最近はそこまで悪い噂ではありませんよ」


 すっごく優しく言ってくれてるけど、それ同時に昔は悪い噂だったってことを意味してるんじゃないのかい、ディガンさんよ。


 とりあえず、どこか硬くなってしまった空気が無事にやわらかくなったようなので、私はほっとします。

 やっぱりディガン、前職と言うか昔のことは触れられたくないのかな。なんかこうわかっていても、ついつい一言多く喋ってしまうんだよな、私は。

 忘れそうになるけど、そう言えばこの人も油断するといなくなってしまう人だった。危なくなりそうだったら早めにフォローせねば。せっかく揃ったガーディアンズがこれから減るのは嫌だよ。


 ながいじかんを、ひとりは、とても。

 ――とても、さびしいから。


「では私はお二人に危害が加えられないよう、星の寵児の言動に気を付けておけばよろしいのでしょうか」

「そうです! 最悪の場合、奴はお姉さまにセクハラを行うつもりでしょうからなんとしても阻止せねば」


 私が拳をぐっと握りしめると、きょとんとディガンは首を傾げます。


「せくひゃら?」

「セクハラです! あんなことやこんなことですよ!」

「……ええと、聞き覚えのない言葉ですが、呪文のようなものですか? 星の寵児は奇跡を用いることのできる神官の中でも特殊な技を使うと聞きますが――」


 私は灰色の曇り空に邪気のない眼差しで見つめられるとぐぬっと言葉がつまります。お、お前って奴は! そうか貴様も天然か! いかんいかんこの空気どうしよう、なおも不思議そうに眺めている顔が不審に変わる前にフォローせねば!


「だから、その、セクハラと言うのはですね」

「はい」

「こう……」

「こう?」

「……察してくれませんかね」

「……この動きでですか?」

「……うん」

「そうは言われましても」


 私が木の上で胸の前あたりに持ってきた両手をわきわきと動かすと、木の下で相変わらず首を捻りながら何の悪気もなく、すっごく真面目な顔をしたディガンが私と同じ動きを真似しています。

 なんだろう、このドツボに嵌っていく感覚。


「こ、この辺りと言うか、こう、わきわきっとしたこれで、ですね」

「わかりました。つまり、この動きが重要、セクハラと言う術の発動機序であると――」

「あなたそれ、もしかしてわざとやってるんですか? カマトトなんて落ちだったらブッ飛ばしますよ!?」

「は、はい!? 何かお気に障ることをしましたか?」

「してる! 現在進行形で!」

「す、すみません……?」

「と言うかその動きやめてよ!」

「ええっ!?」


 誰が言ったか、無知は罪、口は災いの元。

 ……しかし、なんか一方的に罵って終わるのも後味が悪い。

 仕方ないので、私は咳払いしてから木の上で体育座りよろしく膝を抱え(自分で言うのもあれだけど結構器用な事してると思う)、いたって真剣な顔でセクハラを理解しようとしているディガンのためにもごもご喋り出します。


「ハラスメントとは嫌がらせのことなわけで。だからセクハラつまりセクシュアルハラスメントとは、多く男性が女性にその、昼間に大声で言えないような、こう、やらしーことを、ですね。するから女性側が困ると言うか、一言でまとめると……」


 と言うかそもそも、なんでこんな赤くなって気まずい思いをしながらセクハラの解説してるんだろうか私は。馬鹿じゃないのか。なんでいつも通りアデラリード用語だから気にすんな、で片づけなかったし。


 今更気が付いた私は、最終的にすっかり目が点になっているディガンにビシッと指を突き付けて一気に言い放ちました。


「お触り禁止ってことですよ、わかりましたかっ!」

「ああ、はい。なる……ほど?」


 いまいちわかったようなわかっていないような(たぶん私のありがたい解説がもごもごしてたせいで、一番重要な部分があまり聞き取れなかったんでしょう。馬鹿!)顔のままの彼を見ていると無性に怒りが湧き上がってくる。

 おま、誰のせいで私がここまでアレな気持ちになっていると! 大体自爆だけど、自爆なんだけど、でも!


「なんで疑問形なんですか!」

「えっ」

「えっ、じゃない!」

「申し訳ありません……?」

「もーいい!」


 足を伸ばしてぱすぱす肩の辺りを蹴ろうとすると律儀に蹴られようとするところがまたなんとも腹立たしい。

 本当になんでこんな暴走してるんだろうか、私。やっぱりディガンの目には何かおかしなものが宿っているに違いない。だって昔から覗きこんだり見つめ合ったりすると碌な事にならないし。主に私が。


 一人で盛り上がって一人で落ち込んでいるこちらを他所に、ディガンが横にそれた話題を戻してくれます。


「しかしそうなると、例の噂は本当だったと言う事でしょうか。星の寵児はその……大層遊び好きと言うか、あの男に似た唾棄すべき性癖の持ち主であると一部で噂がありましたが」

「そうそうそれ――ん? あの男って?」

「あの男はあの男です」


 彼はきっぱり断言し、それ以上の追及を許さない何かのオーラを出してます。普段穏やかな雰囲気が一気に硬直し、据わった目に無表情。普通に見てて怖い。


 ……いや、うん。なんとなく仲が悪いのは知ってたけど、あなたの中で朕は名前を出しちゃいけない人って感じの扱いになってるんでしょうか。一応侍従だからお世話相手のはずなのにね。

 キルル先輩曰く私がぶっ倒れてる最中になんかあったらしいけど、「俺は裸で正座して見守るしかできなかったんだ……」ってたそがれられても疑問符が増えるだけだってば。一体何があった。

 フラメリオはフラメリオで、「忠犬が猿に吠えてた、みたいなものなんじゃないのかな」とか適当な事言うし。単に犬猿の仲って言いたいんだろうか。なんとなく犬がディガンで猿がリオスっぽいってことまでは解読できたんだけど。


 そんなことはともあれ、私が空気を読んだおかげでしょうか、すぐにいつもの状態に自力で戻ってくれた侍従さんは続けます。


「先日の騒動は私も現場を見ていました。あの輩が何やらよからぬことを企んでいるらしいことは事実。スフェリアーダ様ならうまくあしらわれるとは思いますが、確かにこのまま見過ごすわけにはいきませんね」

「ご理解が早いようで何よりです」

「明日の礼拝堂には私も行きます。あちらが先日以上のことを何かしでかすようでしたら動きましょう」

「んー、そうだな。こっちが合図したら、たとえば手を上げて振ったらあなたが作戦開始する、とかできます?」

「もちろんです」


 もうこの、頼もしい言葉ね! 私がタルトに目を付けられてるのかなんか知らんが妙な牽制をされた以上、是非是非お姉さまを助けてくれると信じています!


 私はよっと少し勢いをつけてディガンの横に降り立つと、えへんと腰に手を当てて高らかに宣言しました。


「と、言うわけで。ようやく我々、守護天使連盟ガーディアンズが活躍する機会なのであります! お姉さまの親衛隊一号二号として、共に悪しき野郎をぶちのめしましょう!」

「ガーディアンズ? 親衛隊?」

「またの名をお姉さまファンクラブとも言います」


 何度目でしょう、彼は私の言葉に首を傾げます。……そう言えば散々心の中で独り言のごとく言ってきてはいたのですが、本人にこうやって言ったのは初めてだったかもしれない。結構長い付き合いのはずなのに全然まだまだだなー。

 と私が暢気に考えていると。


「……その、ガーディアンズとはスフェリアーダ様をお守りすると言う事ですか?」

「えっうん当然。ディガンだってお姉さまの事が好きでしょ?」


 ――ついうっかりポロッと言ってしまった後で、私は自分の失言に気が付きます。

 しまった、自分がお姉さま好き好き言ってるノリで! これはさすがにヤバかったか。赤面して固まるか脱兎のごとく逃げ出すか、それだったらまだいい。なんかものすごく切なそうな顔されたり、怒って口きいてくれなくなっちゃったりしたらどうしよう!


 なんてことを後から噛みしめながら、恐る恐る沈黙を保っている方を向いてみると――。

 予想していたどの表情とも違う顔で彼は立っていました。


 ただただ、途方にくれた感じで。


 ……あれ? 


「敬愛と言うことでしたら……確かにそのように思わせていただいておりますが」

「あっ、あのね。別にいいんですよ? そんな堅苦しい言い訳して遠慮しなくったって」


 私がフォローになってんのかそうじゃないのか苦し紛れの言葉をかけてみると、彼は眉根を寄せて――でも怒っていると言うより、ただただ困惑している顔のまま私をじっと見ています。


 何かがおかしい。今芽生えている、この違和感はなんだろう。


 釣られるように私まで困った顔になると、静かにディガンは言います。


「……アデラリード様、先ほどから、いえ前々からでしょうか。何やら妙な事を考えていらっしゃいませんか?」


 心臓が一つ、大きく跳ねる。いつぶりだろうか、心の扉をとんとん叩く音がする。


 いつの間にか乾いている唇を一度舐めて、私は少しかすれた声を出します。


「妙も何も。あなたはずっと、お姉さまを――」

「それは私がスフェリアーダ様に何やら特別な感情を抱いている、と言う意味に聞こえるのですが」


 心臓が縮む。彼女のささやき声が聞こえる。


 遮った彼の声はとても低く、お腹の底にずうんと響いて広がったのでした。

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