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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
転:四天王制圧編~vsタルトレット
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4-3.困った時の電波様

 一通り私が話し終えると、褐色肌にぼろぼろのローブを纏った男は巻物から目だけ上げて確認してきます。


「それで君はなんだい、その外見詐欺神官とやらに言い負かされて落ち込んで、姉に慰めてもらって一瞬で復活して、ひとしきり午後のデートとやらを堪能しきった後に、我輩のところに泣きつきにやって来たってわけかい」

「ぐうっ」


 くっそ、あえて省略した部分まで補いやがった、この賢者!

 相変わらず散らかりきっている机に頬杖をつきながら、クスクス笑います。


「ぐうの音くらいは出るか」

「笑い事じゃないですよ、師匠!」


 私が大騒ぎしても彼はいつも通りどこ吹く風、涼しげな顔のままです。

 その手を先程から一心不乱につついていたカラスが、ようやく反応した左手を避けるように止まり木まで飛んでいき、私に向かって不満げに鳴きました。そうだよ君も問題のひとつなんだよ、わかってるじゃん!


「ど、どうしよう。あああこれだから私は、アデラリードはすぐにプッツンするから。あの時調子乗ってあんなことするんじゃなかった。幻の異端審問とか実際かけられたらどう考えても一発アウトだー!」

「まあ落ち着きたまえよ」

「さぶいっ!?」


 だからそう、いちいち物理的に冷やしてくる戦法やめてくださいよ! 気がついたら足元が凍ってた! 春とは言えまだ寒いのに、風邪引く!


「なんとかは風邪引かない……って、やかましいわ!」


 あれ、なんかつい物足りなくて空中に向かって一人漫才をしてしまった。

 自分で自分の奇行に首を傾げている私を、フラメリオが残念なものを見つめる目で静かに諭します。


「大丈夫かいアデル。いくら茶化し担当が不在で寂しいからって、自分で補っても余計孤独感が増すだけだよ」

「別にそんなつもりじゃないです! 予行練習ですよ!」

「芸でも練習してるのかね、我が弟子たちは。誰に披露するつもりなんだか。我輩かな?」


 流れ的に話せば話すほど状況が悪化する未来が見えた私は、急いで軌道修正を試みます。


「そんなことよりも!」

「ああ、うん。異端審問の危険性だったかな」

「それだけじゃないけどそれもあります!」


 賢者はいつもの事ですが落ち着き払っていました。読み終わったらしい巻物をくるくる巻きながら私に答えます。


「結論から言えば、可能性は極めて低いよ」

「そ、その心は」

「吾輩に打診が来てないからね」

「……はい? 打診? え、何が?」

「普通は審問会からまず相談が来る。その後正式に実施するかどうかの連絡もね」

「待ってください。まるでそれ、異端審問やるたびに師匠の所に通知が来ている、みたいな風に聞こえるんですが」

「そう言っているつもりだが、何かおかしいかね?」


 カー、とカラスまで馬鹿にしたような声を上げるので、私は増えることはあっても減らない部屋の障害物を避けつつ、机に大股で歩み寄ってバンバン叩きます。


「だからその、なんでこの子理解できてないんだろうみたいな顔、やめーや! どーしてこんな悪の親玉みたいな人外のところに、その悪を断罪する正義の機関主導の裁判と言う名の公開処刑会のお知らせが来るんですか! 色々おかしいでしょう!?」

「素晴らしい舌捌きだ。惜しむらくは詠唱の練習で発揮されないことかな」

「そうですね。今の文章より短い呪文でも、練習する時は私ほぼ毎回噛み噛みですからね。まあでも本番では結構勝率高い――って、ちがーう!」

「だから落ち着きたまえよ」

「あなたが突っ込みどころ満載の喋りをするからでしょう――さむい、頭がさむい!」

「冷たいって言うんだよ、そういうときは」

「やかましいわ!」


 消えていた氷が、いつのまにか復活して髪にまとわりついています。理不尽に感じはするものの、確かにある種の効果はある。

 私は話がループに嵌まりそうになっていることに思い至り、色々言いたいことはあったものの我慢して黙ります。


「さて、アデル。それじゃあまあ、ちょっと長くなるけど君の理解のために順を追って話そうか」

「オネガイシマス」


 プルプル震えながらも私が傾聴の姿勢になると、師匠は鷹揚に頷いて話し始めます。


「まず、神殿を必要以上に恐れることはないよ。少なくとも向こうだって馬鹿じゃない。こちらに用がある時は必ず事前にお伺いを立ててくるさ」

「えーと?」


 話がいまいち見えないぞ、と私が首を捻っていると、師匠は「もう話してもいいかな」なんて呟きを挟んで続けます。


「王都の主要施設もだけど、神殿には魔物避けの術式が施されているよね」

「はい」

「あれ作ったの、吾輩だから」

「へー――って、ええええええ!?」

「正しくは設計図を描いてやった、とでも言うのかな。原案が我輩、実行は彼らとでも思っておけばいい。これで繋がりがわかったかな。まあ、その時からの縁なんだよ。王家も神殿もね」


 私はつい片手を上げて聞いてしまいます。


「師匠って今何歳いくつでしたっけ」

「さて。100を越えてからなんだか馬鹿らしくなって、もう数えてないよ」

「……さいですか」


 朕が居れば年号と出来事聞き出してささっと計算できるのになあ、と思います。

 ……いや、だって私は計算面倒だし。まあいいや、フラメリオの実年齢は。


「まあ、人間が集まって長い年月が経てば色々不思議なことも起こるのさ。大体ね、普通の審問ならともかく、異端審問ってのはね、よっぽど問題のある神官か、多少問題のある魔術師にしかなされないんだよ」


 私がでも神殿は白で魔術師は黒で、と唸っていると彼はそんなことを言います。


「ん? じゃあ、大問題のある魔術師はどうなるんです?」

「人間の生活区域から追い出すか、闇に葬りさるかだねえ。その手合いは表にはまず出てこないよ。だから我輩に事前に色々聞きに来るんじゃないか」


 気軽に聞いたらさらっととんでもない答えが返ってきたぞ。これ以上聞くとなんか減りそうだからやめておこう。


「つまり師匠は神殿と繋がりがあるので割と内部事情も知っていると言うことで?」

「ほんの少し賢くなったね、アデル」


 おい気のせいか、今ものすごく「ほんの少し」に力が入ってたような。ええい、悔しいけどどうせループするからスルーだ!


「ええと、だから……」

「君が審問にかけられる心配はまずないってことだ。アデル、君は仮にも我輩の弟子なんだよ。神殿の上の連中だってその事は承知している。やるとしても我輩に何も言わないはずがない。下手に手出しして睨まれたくはないだろうからね」


 なんかものすごく頼もしいような、本当はとんでもなくおぞましい事を言われているような。


「だからなんだろうね、その神官とやらが何を考え行動しているにしろ、神殿の総意とかではなく、本人の意思及び個人プレーだろう。まあ、神殿も一枚岩ではないから完全な個人かと言う疑問は残るが、あの性格上独断行動だとしても何らおかしくはない。かなりの問題児のようだから、ね」

「でもそうなると安心したような、ますます訳がわからなくなったような……」


 私がなんとなくカラスをちょんちょんつつきながら(当然嫌がられたけど気にしない)なんとなく部屋を見回していると、机の上から再び笑い声がします。


「こういう時に頼れる兄弟子がいないのは不安かい」

「……何も言ってないじゃないですか」


 一瞬ドキッとしたのを引っ込めてむっとした顔になると、彼はふと両手を組んで諭すように言いました。


「いい機会だよ、アデル。今までが甘やかし過ぎていたくらいだ。吾輩もリオスも、君の望む時にいつでも助けてあげるなんてことはできない。……君がそれを望まないのなら、ね。我輩の言っている意味がちゃんとわかるかい?」

「……」

「いい子だ」

「リオスはともかく、師匠は何か……思っているんですか」


 私がポツリと聞くと、金の瞳を細めて彼は穏やかに言いました。


「知っているだろうが、我輩は共に歩を進められる男ではないよ。君自身が強く願うのであれば検討はするが、おすすめはしない。その選択は君を不幸にするだろう。君は大切なものを喪うことになるよ。必ずね」


 ああ、どこかで聞いたことのある台詞だ。あの時はひどく冷たく思えた言葉なのに、こうして実際にかけられると突き放していながらわずかに温かい。


 私が黙り込んでいると、フラメリオは付け加えます。


「それに我輩も、愛弟子は愛弟子のままでいてほしいものだ。君が吾輩を師として選んだのなら、我輩だって()()()を弟子に選んだのだからね」


 ……その言葉は知らない。けど、


「安心してください。そこまで悪趣味じゃないですから、私。電波と罵りつつ多少は尊敬しているので、長生きしてくださいね、お師匠様」


 できるといいわね、フラー。

 ……それとももう、じゅうぶんながいきしてるかしら。



 私が顔を歪めてそう言うと、彼は珍しく邪気のない柔らかな微笑みで、心得たとばかりに応えたのでした。






「そうだな。個人的にも、今回の件なら特にリオスの手は借りない方がいいと思うね。忘れているかもしれないが、彼は元々いつだって忙しいし、神殿とは常に微妙な関係にある。それと君本人の頼り癖の修正時だ。あいつは本当に性格が悪い。借りを作りすぎるととんでもないものを利子につけられるよ。……もう半分ほど手遅れかもしれないけどね」


 少しの間を挟んでからいつもの様子に戻ったフラメリオが何事もないように続きを話し出し、私はうえっと顔をしかめます。


「なんですかそれ。まあでも、いると絶対向こうも口出ししてくるし、最近顔を見せないのはいい機会かもしれませんね。ふふん、一人で完璧に解決して後で来たときに自慢してやろっと」

「それに今度の休日だったっけ。どうせ行くんだろう?」

「あれだけ目立つパフォーマンスされたら、さすがに無視ってわけにもいきませんし。一回は行かざるを得ないでしょう。ちょうどいい、一度であいつの思惑やら今後の対応やら、はっきりさせて来ましょう。ついでにお姉さまにはノータッチだって揺るぎなき事実もわからせてやります」

「一回で済めばいいけどね」


 決意を新たにしようとしていた矢先、朗らかに物騒な言葉が投げかけられる。おい馬鹿フラグを立ててくれるな、電波に言われると洒落にならん。


「やっとヒントが出たと思ったらなんつー不吉な事を……」

「相手は星の寵児だ。覚悟していくといい」

「うわああ……」


 私ががっくり項垂れてトボトボ出口に歩いていくと、カラスの間抜けな一声と、「どうしても手詰まりになったらまたおいで」と言うのんびりした言葉がお見送りに飛んできたのでした。


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