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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
転:四天王制圧編~vsタルトレット
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4-1.祈りの時間

 ご機嫌よう皆様。春です。春になりました。

 うららかな午前の光は柔く身体を包み込み、厳しい冬から温かな季節へと移っていくハーモニー。春眠暁を覚えず。春の朝はそう、ただでさえ眠たいもの。

 だからいくら春の朝の礼拝だのなんだのっつっても、退屈な説法なんぞ聞いていたら、そりゃあさらに眠くなる効果が倍増され、ゆえに私が今寝落ちしても咎めるのは少々酷いというもの。ほら、周りの皆さんも結構眠そうな人いますし、これでも15分は耐えた。もう寝てしまってもいいよね……。


 と言うわけで、開幕からいきなりですが、おやすみなさい皆様。スヤァ。


 むにゃむにゃ、ああ、夢の中でお姉さまがこっちへおいでと手招きを。


 ポン。


 ん? 何か感じる異物感。

 でも睡魔には勝てなかったよ。まったくどこの野暮天か知らないが、お姉さまとのデートを邪魔してくれるな……。

 むにゃむにゃお姉さまむにゃむにゃ、お待ちなさってキャッキャウフフ、ほーら捕まえてごらんげへへへへ……。


 ゴッゴッゴッゴッ、ガスガスガス、ベシンッ。


 ちょっ、いだいいだいいだい、これなんか割と攻撃されてない!?


 最初は柔らかい平面が腕をそっと押していただけなのに、それで私が無反応と知るや、相手は結構硬くて尖ったもので私の脇腹やら背中やらを小突き始めた挙句、最終的に頭をひっぱたいたのです。


 私が慌てて頭を上げてきょろきょろあたりを見回すと、苦笑する左隣のフィレッタ、その向こうの苦笑交じりの真面目顔のキルル先輩、さらに向こう側のにんまり顔のウルル、といった面々が見当たります。


 ……最初のはたぶんフィレッタだったんだけど。あれえ、容赦なさとしてはキルル先輩やウルルでもおかしくないんだけど、いかんせん席が離れてる、おかしいなあ?


 と思っていると先輩が机の下でそっと横の二人に何やら手渡してます。……なんだあれ、扇子と、棒? あいつめ、さては弟と婚約者の装備を借りて中距離攻撃をかましてきてたんだな。人間の手にしては硬い感触だと思ったよ。頭をひっぱたいたのは……ああ、フィレッタとの身長差のなせる技か、彼女にちょっとどいてもらって前か後ろから身を乗り出したのか。どっちにしろ可能だ、納得した。



 連係プレーで安眠妨害した彼らを涙目で睨みつつ、そっと欠伸を噛み殺します。ちらっと視線を上げると、相変わらず前の方で神官たちが何やら喋っていること。


「御子が地上に降り立つと、その六対の翼のうち三対がみるみるうちに黒く染まっていきました。彼女は地上の穢れにさらされ――」


 ああ、また創世だの建国だのって奴か。信心深くないので話半分にしか毎回聞いてないけど。

 それでもまあ、国教の約束事とかだったら誰でも言える。今神官長がとつとつと話している創世の御子の話も、子どもの頃から聞かされるから国民だったら皆知ってる。



 かつて神は世界をつくり、そこに様々なものを、最後に人を置いた。やがて人が栄えるにつれてその罪深さを疎んじるようになり、魔物をつくって彼らを狩らせるようになった。魔と言う人知を超えた力を操る魔物たちの勢いはすさまじく、一時は人類滅亡の危機にまで陥るも、人の嘆きを聞き入れて慈悲深き一人の御子が地上に降り立った。

 御子は神の分身であり、神に似た六対の純白の翼を持っていた。魔を祓う力をふるい、また人々にその方法を授けた彼女は、しかし地上に降り立ったことで穢れてしまう。六対のうち三対が黒に染まった時、彼女はそれ以上の侵食は神の奇跡の行使に影響を及ぼすと言う事で一つの決断を下す。すなわち、自らを犠牲にした魔を退ける結界の構築。これにより、御子の力の及ぶ範囲に魔物が現れることはなくなり、人間は再び栄華を取り戻すことができた。


 しかし、天の神は未だに我らを許しておらず、人間がおごり高ぶれば必ず、裁きの魔が人里に侵略を開始する。だからみなさん欲深くなることなく、平和に暮らしていきましょうね――。


 って感じのお話ですね。ついでにうちの宗教はですから、神様ニアリーイコール御子様が崇拝対象ってところです。神様は厳しい方でちょっと遠い存在なので、実際に助けてくれる(と言うか伝承では助けてくれた)御子様を特に重視してるってのが多数派になるのかな。

 祭壇上のステンドグラスも六対の黒白の羽を持つ天使の姿が描かれていますし、信心深い人は白い翼のオブジェを身に付けていたりします。御子の象徴は正式には白三対黒三対、計十二翼の羽ですが、簡略化されて白だけってこともありますので。


 創世の話がどこまで本当なのかは知りませんが、実際に大抵の人里、御子の力の及んでいる範囲に魔物が現れることは滅多にありません。まあ滅多にと言う事は、ゼロではないわけですが。

 魔物って言うのは人間の欲に反応して増えたり減ったりするので、人々が満たされていると少なく弱く、人々が飢えると多く強力になっていくのです。統治者や神殿の力にもリンクしてる部分があると言われています。政治や人心が乱れると湧くとかなんとか。


 ちなみに御子から授かった魔を撃ち払う力を神法、または奇跡と呼びます。要するに白魔術です。まあ回復したり防御したりってのに強かったりしますね。あとお昼とか光のある場所の方が力が強くなります。

 んで、私達魔術師の魔法はそう、前々からちょいちょい出てきてますが、実の所魔物由来なわけです。攻撃に優れていたり夜とか闇の方が適正が濃かったりします。フラメリオとか思いっきり身内が魔物だし、黒です。正しく真黒です。真黒さんの弟子である私もかなり黒いと思われますので、純白空間では毎回肩身が狭いです。



 え、王家も魔物由来じゃなかったっけって? その辺どうなってるんだよって?

 どうなってるんでしょうね。まあ、それが政治って奴なんじゃないですか。


 朕に詳しく聞いたら色々教えてくれるかもしれませんが、小難しい話にはなりそうだし、あいつの地雷は引き当てそうだしで、あまり乗り気にはなれませんね。



 そんなことを考えたりして眠気を適度に追っ払いつつ、私は頬杖をついて祈りの間に大人しく座っている人々と、祭壇上で厳かな雰囲気を醸している神官たちだの礼拝堂の内装だのをぼんやり見回しています。

 お姉さまの後ろ姿はすぐに発見できるのですが、彼女は前の方に座っているせいで距離は離れていますし、今日は季節行事だから人がいっぱいいるのであまりよく見えないし。別に妄想で補ってもいいんですけどね。お姉さまの妄想してればまず寝ませんけどね。ただ、問題があるとしたら一つ。本人が視界の範囲内にいるのに妄想するって、とても虚しくないか、と。さっき白昼夢見てたじゃないかって? それはそれ、これはこれ。


 仕方ないので神殿内部の他のものを見たりしてひたすら暇をつぶします。

 いやあ、白いなあ、この空間。神殿は基本的に白石で作られるし、神官たちの服も一枚の白布をカットして作る貫頭衣だし。まあ、それだけだとさすがにアレなので、役職とかによって飾りが増えるんですけどね。本当に真っ白なのは見習いと言うか下っ端くらい。神官長はそれなりに重そうな頭飾りはしてますし、結構凝った模様が入った赤い上着を着用しています。


 起こされたとはいえまだ少しの眠気を引きずりながらぼんやり前の方を見ていた私ですが、とある部分に目が行った瞬間、ぎょっとして一気に色々なことが吹き飛びました。



 鮮やかな二つのターコイズブルーが、いつの間にかしっかりこちらを見つめている。



 反射的に慌てて小さく咳払いしながら俯く。横のフィレッタが気づかわしげな目を向けてきたので大丈夫ですよ、と軽く合図してから、恐る恐る視線を前に戻す。


 ……なんでまだこっち見てるんだよ! 咄嗟に後ろを振り返ってから戻ると、奴は何がおかしいのか、なんと小さくクスクス笑い始めた。周囲の神官たちはちらっと目を向けますが、すぐに逸らす。


 彼女――じゃなかった、彼はそういった反応は特に気にした様子はなく、再び私の方――もうこれほぼ確定だ、私のこと見てる――にっこりと小首を傾げ、愛らしい微笑みを浮かべて見せたのです。

 キャアアア!

 途端に密やかな嬌声が辺りに漏れます。侍女にもファン多いからな、奴は。まあ、こっち側に微笑んだから気が付いた数名がキャーキャー言ってるんだろう。いつも通りと言えばいつも通りだ。


 私からすればあいつに微笑まれて上げる悲鳴なんざ、ヒイイ! 一択なんだけどな。キャーじゃないよ、あいつはね、そんな可愛い悲鳴で許してくれる奴じゃないんだよ、そこの淑女方。見た目に騙されちゃダメなんだよ、中身一級調教師だから。ギャアとかヒギィとからめえで済めばマシな方、本気出されたらンホオとかホゲエとかそのレベルまで行くから。それともあんな美少女、間違えた美少年だったらそんなことされてもいいんですかね。私には色々理解できないよ。



 ああ、紹介が遅れました。では私が今怯え――げふんごふん、べ、別に怖いなんて思ってないし? ビビッてなんかないし? ちょっと近づかれたくないだけだし? ともあれ、話題にしていた人物のことをご説明いたしましょう。


 まず目が合った人間だれしもに強烈な印象を残す、ぱっちりしたつぶらな瞳はターコイズブルー。前も後ろも行儀よく切りそろえられている(いわゆるパッツンって奴だと思う)長い髪の色は青紫、今日は公式行事だからだろうか、ゆるめの三つ編みと言う髪型。整った容姿を清楚な純白の神官服で包み、今着ている上着の色は瞳に似ているけどより緑よりのコバルトグリーン。他の神官とは少々異なり、裾の辺りに星の模様がちりばめられて光が当たると輝く。顔はまさにお人形のよう、黙っていればちょっと背の高いぐらいの女の子にしか見えない。

 彼こそはタルトレット=レヴァンドラ。

 年下ショタ(と言っても物語開始時で15歳ですけど。見た目はもっと幼く見えます。かなりの童顔ですから)枠、かつ女子言葉を喋るややオカマ風色物枠な、四番目の攻略対象者。甘いお菓子をほうふつとさせる名前で、実際ふんわりお砂糖みたいな外見です。


 ついでに言っておくと、たぐいまれな幸運を持つ、星の寵児と呼ばれる存在でもあります。つまり前世風に言うなら、LUCKがカンストしている系男子。奇跡(白魔術)を使わなくても奇跡が起こせると言うような事をイメージしていただければ大体それで合ってます。

 さらに具体的に言うなら、たとえば彼がちょっとアデラリードの濡れ透けが見たいなついでに着替えさせたいなと思うと、どんなに晴れていても都合よく土砂降りになったり、誰かが水ぶっかけたりするイベントが起こる、そう言う事。


 何が怖いか、お分かりいただけただろうか。タルトに関わるとただでさえトンデモ成分高い原作がさらにカオスになると言う事です。すごく昔に、バナナの皮とか上からの盥で死ぬエンドがあるって言ったじゃないですか。ええ、もうわかりましたね。こいつに関わった場合に出てくるルートなのですよ、それ。全体的にタルトルートは殺意が高いもので。


 さて、原作ファンからそんな素敵な彼に贈られた通称はズバリ以下の通り。


 クソガキ、腹黒様、ご主人様(マスター)、堕天使系アイドル、死神二号(一号は納得の朕)、不幸の星(アンラッキースター)……そして、玩具使い。


 はい、お察しください。

 原作のアディさん、初回からアブノーマルプレイをぶちこまれました。

 野外? 着衣? くやびく? そんな生易しいものじゃない。お前そう言う事はもうちょい親睦を深めてからだなあ、と言うか信頼関係がなくちゃやっちゃいけない行為でなあ、と、呆れた私の目の前で、さらに悪化していったあの時の気持ちを何と表現すればいいのか。人間の深淵を軽く見た。

 朕もひどかったけど、あいつは痛がるとちょっと工夫してくれた感じの描写あったからなあ。一方タルトはゴリ押しだったよ、うん。

 あのルートのアデラリードって生粋のマゾと言うか、DV夫に嵌って盲目になってる妻と言うか、そんな感じの雰囲気でしたね。私がいなくちゃあの人はダメなの、的な。トゥルーエンドもどこかメリーバッド漂ってると言うか、本当にそれでいいのかって感じのところあったし。


 その辺でやめとこう。相変わらず原作ネタは考えただけで精神がゴリゴリ削れる。



 しかし、これは大問題だぞ。フラメリオに弟子入りし、リオスと殴り合い、キルル先輩をそげぶし、モナモリスのケツを叩いて乗り越えてきたこの一年と数か月。

 お姉さまにも散々言ったし私自身も超気を付けてエンカウントを避けてきたこの男が、なぜ今私に興味を持っているようなそぶりを見せているのか。視線がさっきからこっちに飛んできていることもそうだが、こちらにまったく心当たりがない事が何より怖い。私何かしたっけ!?

 確かに過去には色々あった、あまつさえ神殿内部で地味ーに暴れた(※モナモリスと初めてまともに話した時のあれ)ことだってあった。でもその時はなんもリアクションなかったじゃん。シアーデラ姉妹は変わり者と評判だから、モッさんの時のように向こうが私たちについて知っていてもおかしくはない。でも最近は私割と大人しくしてたし、何がいけなかったんだ。


 奴は一度強く睨みつけたところ、肩を竦めて大人しく手元の経典に視線を戻したようですが、こういう行事の時は大体きりっとすましている口元が今日は若干緩み気味なのがなんとも不気味です。何がおかしい貴様。


 ……ただあっちがこちらを見てただけだろう、さすがに自意識過剰じゃないかって? それならそれで一向に構わないんですが、どうにもざわざわ来ると言うか、あれですよ、女の勘。それでこれ、特に悪い予感は絶対に当たるんだよなあ。



 ともかく、このお祈りの時間を過ぎたらパパッと帰って、あとお姉さまにも少しお話ししておこう。これが終わったら今日は一日休日だったはずだけど、奴が何かの接触をはかってくる前に、お姉さまを安全な場所まで連れ出して――。




 と、考えていた私は割と大事なことを失念していました。


 アンラッキースターは神出鬼没。ワープ機能持ちと言われたほどに。



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