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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-ep5.お姉さまのおっしゃることには 後編

「どうしてそんなことを言うの?」


 お姉さまはそれはもう、無邪気で眩しくて直視できない感じの笑顔で、子どものように首を傾げお尋ねになられます。さりげない上目づかいがもうなんか見てるだけで鼻血出そう。天国ってここだったんだな。


 そ、そうですよね! そんなこと、聞いた私が馬鹿――。


 ふわふわ流されていきそうになったお気楽思考に、しかし別の思考から突っ込みが入ります。


 いや、待つのだアデラリード。昔の私ならここでこのままフリーズしていたが、今は違うのだよ。私はアホでシスコンだ、それはもうどうしようもない。だけど、それだけってわけじゃないだろう?


 お姉さまは可愛い。その視覚的恩恵にあずかるのも構わない。が、それに流されるだけじゃ、今までと同じだろう? 私は成長できる子。今こそ成長の時。

 さあ、だからアデラリード。勇気を出して新たなもう一歩を!


「いや、だってその、私達って」


 にこっ。


「わ、私達って」


 にこにこ。


「その、つい最近まで冷戦状態だったわけでして、あのそのえっと」


 にこにこにこにこ。


「えっと、冷やしているのは戦ではなくそうめん――あれ、私何言ってるんだろう――えっとだから私が言いたいのはっ」

「ん?」

「私が言いたい、の、は……あの、お姉さま」

「なあに?」

「ひょっとして、ひょっとするとですね。今ものすごーく、怒ってらっしゃいます?」

「どうして? わたくしの顔が怒っているように見える?」

「みっ、みえないれす!」

「そうよね」

「はい、見えないです!」

「そうよねぇ。わたくし怒ってなんかいないもの」

「ひゃいっ……!」


 にっこにこにこにこにこにこ……。


 怒ってないって、言ってるのに、言ってるのに!


 微笑むお姉さまの笑顔は太陽。確か昔の私がそんなことを喋ってましたよね。なぜでしょう、同時に今、北風と太陽ってワードが頭の中に浮かんできている。太陽の持てるエネルギーをふんだんに使い、じりじりと旅人を焼き殺していくスタイル。あれってそういう話だったっけ、違うよな。あと、暑くて汗が止まらないって言うよりも、足元から上がってくる冷気で寒気が止まらなくて冷や汗って方が正しいな、状況的に。


 すごいな、慈愛の聖母のごとき微笑みって、局面によってはただの威嚇にもなるんですね。えっとやっぱりこれ気のせいじゃないね。私今、笑顔で威圧されてるよね。もう一歩踏み出したいのに、踏み出すどころか足を上げさせてすらもらえない感じなんですけど! そしてなんかお姉さまの後ろから見えちゃってるよ! 黒い何かが。黒い何かが! ダメだ直視が怖い。一反足元でも見て落ち着こう。


 だ、だが負けるなアデラリード! なんのために走ってきたと思ってるんだ、一つはお姉さまのご無事をご確認すること。それは果たせたから、次は我々の関係の確認をば――。


 いや、まだだ。一つ目の目的も、きちんとは果たせたって言えるのか。

 不意にすっと私の盛り上がっていた気持ちが引いて、冷静な思考が顔を覗かせはじめます。


 お姉さまはご無事に見えるし、ご本人も聞いたらそうだと仰るだろう。で、私はそれを鵜呑みにするほど未だ無能なのか?

 よく見て。考えて。お姉さまは私がここに来ることをたぶん知っていたか読んでいた。でなければ全部悟ったような顔で待ち構えていたりはしないはず。


 じゃ、私が来るのがわかっていたのにこの恰好なのはどうして? 未だベッドに寝ていらっしゃるのはどうして?


 アデラリード、気が付いて。いえ、もうとっくに気が付いているはず。


 私は今までずっと、心のどこかで――私だけは違う、私だけは彼女の特別だって、あの時まで思いあがっていたんじゃないのか。お姉さまが私にあんなふうにきつく接してくることがあるはずがないって、過信していたんじゃないか。

 そして、キルル先輩とモナモリスから、彼女が私にまだ優しいお姉さまでいてくれているんだってわかった時、もう一度元の姉妹に戻れるって一も二もなく飛びついた。


 元通り。待ってよ。元通りで、本当にいいと思っている?


 視線をゆっくり上げると、お姉さまは相変わらず読めない笑顔で微笑んでいる。その瞳が私に何かを問うている気がした。

 少し前、確か同じ目を見た。あの時の彼女はなんて言った?


 ――あなたが知りたいのは、『あなたにとって都合のいい』本当。そうでしょう?


 その通りじゃないか。私は見たいものしか見ようとしなかったし、考えようとしなかった。


 私はアホでシスコンだ。変態だ。それは別に変わらないし構わない。

 だけどそれに甘えて無能でいられる時間は、終わったんじゃないの?


 息を深く吸い、吐き出す。なるべく気分が、心が落ち着いてちゃんと考えられるように。



 小さいころからずっとそうだった。

 できる姉と、できない妹。素晴らしいお姉さまと、そうでもない私。賢い彼女と馬鹿な私。


 今までずっと、それを言い訳にしていたんじゃないの?




 皮が剥がれる感覚に似ている。思考を進めていけばいくほど、ひりひりとどこか痛む場所がある。

 見たくないもの。聞きたくないこと。だからあえて、痛いと感じる方に進んでいく。


 凡人系モブ風ヒロイン。私は私をそうとしか表せない。この身には、骨の髄まで卑屈な根性が染み付いている。

 私はお姉さまのついでの出来損ない。ヒロインなんて柄じゃない。



 ビリッとめくれて見えるのは――そう。思いだしたくもない私の前世、だった。

 私は自分の前世を語らない。前世に何があったかは話しても、前世の私がどんな人間だったかはなるべく言及しなかったはずだ。


 だって大嫌いなんだもん。はっきり言うけど憎んでいる。前世から現世の今もずっと。あんなどうしようない役立たず、さっさと死んじゃって本当に良かったと思う。遅すぎるくらいかもしれないけど。資源の無駄遣いでしかなかったんじゃないかな。


 思いだす私はいつもへらへらぺこぺこ、いわゆる一つの弄られキャラ。醜態を晒して笑いを取ることで生存を許される惨めな人生。

 でも本当に無能だからそれぐらいしかできることなくって、より一層情けなかった。見た目も凡庸。一生懸命努力しても失敗続き。生まれだって庶民。

 なんでそんなにできないの? 周囲に聞かれるたびに私が聞き返したかった。なんでこんなにできないの? 馬鹿なのに、どうして自分が馬鹿だってわかる程度の知能はあるの?


 ささやかな幸せがなかったわけじゃなかったと思う。でも最終的に、私はやっぱり私の存在する意義を見出せなかった。


 私は山に行った。そこで前世が終わった。結構はっきり覚えてるものです。忘れたっていいのにね、こんなもの。




 だから、生まれ変わったことを思い出した時。

 本当に嬉しかった。憧れのお姉さまの妹だって事が一番だけど、それと同時にほんの少しだけ。


 あの時私は確かに、「ヒロイン」になれた私に歓喜していた。何にでもなれる。前とは違う。そんなことまで思っていた。



 ――次に変わったのは、彼と会った時。


 二人と蚊帳の外の自分を見て、私は悟った。やっぱり、お姉さまがヒロインなんだ。私は脇役。そうだ、適材適所。一体なんの問題がある?

 そっか。これでいいんだ。

 ――これで、いいんだ。






 ああ、嫌だけど、でも大事な事を思いだした。私はまだ、そこに燻っていたんだ。

 何をしても、結局私の根底にはそれが存在する。


 どうせおまえになにもできやしない。

 ずっとそうだった。

 わたしはやくたたず。できそこない。むのう。

 なにをしたってけっきょくおなじ。


 そうね。あなたもずっとそう言い続けていたものね。

 だけどそれじゃ意味がない。気が付いてます? あなたの言ってること、結構穴だらけ矛盾だらけですよ。


 ……だんだんなまいきになってきたこと。


 元からです。知ってるでしょ?


 でも、わかっているわね?


 ええ。もう繰り返さなくて大丈夫です。忘れませんから。悪い癖ですよね、嫌な事はすぐに全部、記憶の底に閉じ込めてしまおうとするんです。うっかり屋なもので、しまい込んではいけない大事なものまで時々一緒に。


 やくそくよ。


 そう、約束だった。私の時間は最初から限られている。12時になったら消える夢。


 ぜったいにまもってね。


 守らなければいけない。時計の音はずっと聞こえている。






 お姉さまは私が沈黙して考え込んでいる間も、ずっとこちらを見つめ微笑んだまま待っていらっしゃいます。


 ――いかなる魔性、奇跡を用いようとも、一度起こした出来事は覆らない。


 電波様の大ヒント、でしたっけ。早速使う事になりそうです。

 だったら、今までと同じふりをするのは止そう。無能で言いなりなだけの妹は終わりにしよう。

 私達の関係はもう前とは違ったものになってきている。




 アデラリード。大事な事は何?

 お姉さまを守ること。そのために生まれ変わった。それが私の使命。


 私にできることは?

 それはわからない。でもこれだけは言える。――何もできないわけではない。私にだってできることは存在する。


「聞かせてください、お姉さま。私のこと、本当はどう思ってるんですか。本当に、いらないと思っていらっしゃるんですか」


 一歩を踏み出した。力強く、しっかりと。

 正面から見据えると――彼女は苦笑して、ふっと目を伏せました。


「……そんな風に聞かれたら、本当の事を言うしかないじゃない」


 少し拗ねるように言ってから、悪戯っぽく、そしてほんの少し照れたように――初めて見る笑顔で言った。


「いらないなんて思うわけないでしょう。たった一人の大事な妹なんですもの」


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