3-1.クククすべて計画通り……ってことにしてください
どうも皆様。独り言の激しいアデラリードでございます。
ええ、自覚はありますよ。でもあくまで脳内一人会議ですし、害はないでしょうからこのまま突き進みます。
さて、8歳の時に侍従たんフラグイベントをミス――ってません、これも計画のうちです。お、お姉さまガードを増やす私の完璧なプランには、何の狂いもありませんよ? ぜ、全然想定内ですよ?
――おっほん。で、あれから早いもので5年ほど経過いたしました。
アデラリードは今13歳です。順調に武闘派コース、雌ゴリラの道へ邁進しております。
いや、何がすごいってね。前世ではありえなかったこのバッキバキの腹筋。お見せしたいですよ。とても13歳のいたいけな少女とは思えないと、関係者からは定評がありますからね。なのに誰も褒めてくれないから、積極的に自画自賛しております。人間やれば割れるものですね。
……その代わりでしょうか、ちょっと身長が伸びなくなったのが気になっているのですが。結構食べてるほうなのに。
や、やりすぎたかな。あまり小さいころに体に負荷を掛けすぎると身長伸びなくなるっていまさら思い出したんですけど、これ今からでも間に合いますかね?
今の段階ですと私、ちょうどふくよかなお姉さまのお胸に顔があたる位置なので。いえこれはこれでハグされた時に超お得なのですが、守護者としては不適当なちっささだと思うのです!
そもそもただでさえたれ目の童顔なのに、この上身長まで低かったらこの先の私、舐められっぱなしじゃないですか。せっかく男装の麗人どころかどう見ても男にしか見えないルックスに育ちつつあるのに、これじゃ男じゃなくて男の子どまりです! 違う、そうじゃないの! 可愛いものを見る目で見てほしいんじゃないの!
あ、そうそう。そんな私に対する皆様の反応はまあ……その。時代のパイオニアは常に理解を得るのは難しいものですからね。
最初の頃こそ家族から猛反対を受けましたが、これも私とお姉さまの未来のため、涙を飲んで突き進んでまいりました。
今では両親も半分くらい諦めたのか、お姉さまさえまともに育ってくれれば、私の方は犯罪に手を染めなければいいかぐらいに思ってらっしゃるようです。一度はお父様に勘当言い渡されそうになりましたけどね。
結局両親は最終的にお姉さまの懇願で折れたようなものですからね。
……ご迷惑おかけして申し訳ないです、お姉さま。
ですがお姉さまが私のことを気にかけてくださった上、理解して味方してくださって、私は本当にうれしかったです。
そんな13歳のアデラリードが日ごろ何をしているかと言うと、学校に通っています。
この国では11歳から16歳まで、子どもたちは教育が義務付けられているのです。
どんな階級でもただで学校に通わせてもらえますよ。建前は。まあ実際のところは、下層階級や労働階級は小さいころから働いてたりしますから、家の手伝い優先で学校休むとかもあるらしいですけれど。
貴族の場合ですと、時間は割とある方ですから11歳から寄宿学校に通って、16歳の卒業と同時に社交界デビューってのが定石でしょうかね。
それ以前も学校通いは可能ですが、我が家は家庭教師でした。だってお姉さまがとってもよくおできになるし、私はお姉さまにわからないところ教わってましたからね。両親はお姉さまに対しては割と親馬鹿で、できれば社交界デビューまで箱入りにしたいくらいの勢いでしたし。あ、私の方は安定の放置です。お気になさらず、私も気にしてませんから。
そうそう、ですからお姉さまも11歳から学校に行っていて、春夏冬のお休みの時だけ帰ってらっしゃいます。
もちろん名門のお嬢様学校ですよ。当然ですね。模範生ですから奨学金も出て、家計にも優しいです。
選ぼうと思えば男女共学の学校も選べたのですが、我が家族全会一致で女子学校入学が決まりました。お姉さまみたいな可愛くて美人なお方を野獣の中に解き放つなんてとんでもないという部分において、珍しく気が合わない両親と意見がぴったり一致しましたよ、私。
まあ女子高は女子高で恐ろしい魔窟ですが、朕王やその他の猛獣と今から私の見えない部分でお姉さまが遭遇するリスクを考えたら安いものです。朕王の選りすぐりの美鬼――間違えた、美姫たち集う後宮を制圧できるお姉さまなら、小娘たちの園の制圧くらい余裕でしょう。むしろ女王様として崇め奉られてそう。っていうか、確か原作でもそんなことさらっと回想かなんかで言ってた気がする。
なお、原作のアデラリードはお姉さまよりは若干ランク低めの、普通の貴族令嬢が通うような女子学校を卒業しているのですが、私は男女共学の、前世で言うなら体育系の学校――というか、軍人養成学校にですね。今現在、在籍しております。
ええ、勘当の理由これです。気持ちはわかりますよ。わからないとは言いませんよ。でも奨学生だし、どうせもともと期待してなかったんだし、というか生存確認すらやる気あるのか怪しいくらい放置しきってましたし、あそこまで怒ることないじゃないですか。……ああ、寝耳に水だったから余計許せなかったのでしょうか。
なんかこう……たぶんお互いに思ってることでしょうが、両親と私は相性が悪いです。お父様お母様が貴族ライクっていうか、この世界のこの階級としては非常に正しい性格の持ち主なせいもあるのかもしれません。金で買った位のくせに、名ばかり貴族のくせに、しかも今はそのお金だってないのにと思ってしまう私は、どうしても何かにつけて彼らに反発してしまいます。
お姉さまもそりゃ貴族っちゃ貴族ですが、なんていうのですか? 頭ごなしに決めつけるようなことはしません。
たまに何考えてるのかわからなかったり、論破されて涙目になることはありましたけど、お姉さまはきつい事を言った後に必ずフォローを入れてくれますから。言い方も、そうじゃない! ではなくて、それは違うかもしれないわよ、くらいですし。何より、一度窘めても私が考えを曲げなかったらお姉さまはその意見を尊重してくださいます。さすがお姉さま。
……でも一応育ててはくれてるのですし、お姉さまいわく、両親も私のこと気にしてないわけじゃない、ただ扱い方がわからないでいるだけ、らしいですし。
機会があれば、もうちょっと歩み寄ってもとは思うのですが。
うぐぐ、辛気臭くなりました! 話を変えましょう。
学校はもちろん軍人学校ですから大変なこと理不尽なことも多いですけど、ここに入って正解だと思いますし、大いに満足してます。
なんといってもこの学校独自の決まり、在学中の生徒はファミリーネームを名乗るの禁止ってところがいいです。
入学時に特殊な宣誓書みたいのにサインさせられて、そのせいで在校生は校舎内では自分の苗字を口にすることができません。やろうとするとなんかこう、すーすー音がするだけになります。
建学以来の伝統で、そうやって完全実力主義を守ってきたんだとか。教官も立場を気にすることなく遠慮なく生徒たちをしごけますし、生徒同士も身分にとらわれることなく友情をはぐくんだり切磋琢磨しあえます。
まあ一緒にいればどうしても察することはありますが、卒業までは口に出さないお約束なのです。
やっぱり前世の経験のせいか、それとも私生来の気質なのか、実力主義ならまだ受け入れられるのですが、生まれで決まる階級制って苦手なんですよね。
それはそれで一つの秩序なんでしょうが、やっぱり肌に合わないものは合わないです。
やれって言われればそりゃお姉さまのツンモードみたいなこと、私にもできますけど、でもできるならやりたくないです。だってめっちゃ肩凝るんだもの、あれ。
うまく朕王をかわすことができたら、さっさとそんなこと気にしなくていい緩い田舎に引っこんで、お姉さまと牧歌的ライフ楽しみたいです。
そのためにも、日々アデラリード――いえ、アデルルイドは元気いっぱいに走り回っています。
いや、うん。男って勘違いしてもらえた方が、都合がいいし? ファミリーネーム禁止なぐらいですから、偽名名乗っても普通にオッケーですし? アデルって呼ばれることにも慣れました。
――ただ、親愛なる同朋及び先輩後輩、そして教官の皆様。
君たちね、一つだけ我慢ならないことがあるんですよ。
何かにつけてチビって言わないでください! 私それ、今一番気にしてるんですから!