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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-08.いつからイカだと錯覚していた

「ベニット・モーラ・フォルス!」


 私が右手を掲げて唱えると、すぐにそこになじみのある感覚が収まった気配がします。

 うし、タイミングばっちりですよ。師匠が気紛れに投げてよこしてからこちら、割と長らく倉庫の置物の憂き目を見てきていましたが――ようやく見せ場がやってきました、私の相棒!

 しっかり握ってびゅんと一振りすれば、返ってくるのは期待した手ごたえ。迫ってきたうちの一つが描いた線にそって分かれ、同時に怪物の苦悶の声と振動が重く低く辺りに響き渡る。


 ふふん、所詮イカ。考えなしに突っ込んでくるとは馬鹿め。何でも切れる魔剣フェーアスレーヤの味はさぞや不味かろう。まあ、こいつ魔剣ですから、切るたびに魔力吸うんですけどね。前回はまだ召喚術に自信がなかったり、先輩切っちゃうのが可哀想だったり、どう考えても魔力が足りなかったり、等々の理由で使えませんでしたが条件が揃った今回は行ける――はずっ。長期戦にならなければ!


 ……と言うか、イカってビギィイイイイイイって鳴くんだ。鳴き声までキモイな。いや、コイツだけかもしんないけど。あと、切ったらぶしゃって出て微妙にかかったこの液体ってやっぱイカスミなのかな。


 はい? いや、毒とかじゃなければ別にそこまで避けませんよ。

 学園時代悪友どもになすりつけられた伝説のシスコン、そして教官の皆様に勝手に定着させられていた泥まみれの雑草騎士の二つ名――つまりそういう事です、ハイ。

 学生のみぎりは連日ホイホイポイポイ投げられる役、後宮特別取締騎士(久々に出したなこの肩書き)になってからもあっちこっちに走り回ることが仕事な私は――もうね、汗だくになったり汚れたりすることにはね、すっかり慣れきってるんですよ、ハハハ。だから今更イカスミごときで怯んで差し上げるような可愛げは残っていないのだよ、バーカバーカ!


 って、罵倒の言葉を浴びせかけてやれればスッキリはするんでしょうが、基本的に戦闘中に喋っても集中力切れるのと舌噛むのとでいいことないので、はたから見た私は黙々と襲い掛かってくる腕を捌いているように見えるでしょう。口開けて得体のしれないイカスミ飲み込みたくないし。

 脳内実況してたら意味ないんじゃないかって? これ、めちゃくちゃ集中している結果の産物ですから、ご心配なく。


「アデル!」


 あっち側から叫び声が聞こえてきたので、いったん目の前のうるさい奴を片づけてからこっちも吠え返します。


「そっち、と言うか半分任せていいですか!」

「わかった!」


 視界の範囲に入ってないからワンコの状態はちょっとわからないけど、まあ仕事はするだろう。私は私で目の前の奴をなんとかせねば。


 一本一本で行っても切られるだけだとようやく学習したのでしょうか、今度はタイミングを合わせ、複数が一斉に飛びかかってくる。私は動きを見切って素早く身をかがめてからジャンプし、別の足場へと飛んで移る。そこで振り返って誘うようにうりうり剣を動かせば、いい子なイカさんはちゃんと追ってくるようでした。

 ――ってなんか今まではこっちを捕まえようとしたり単純に潰したり突き刺そうとしてきた触手の先が突如光ったかと思うと――うええ、何それ、足から火の弾!? おかしいおかしい、ちょっと、聞いてないんですけどそんな攻撃、イカのくせに反則!


「くそっ――」


 半分任せたあっちからも、何やら少し苦戦している音が聞こえてきます。

 触手だけでなく新たに増えた攻撃を切り払っては逃げ、足場を移動し、を何度か繰り返して、十分かと思ったところでチラッと元来た方を確認すると――よし、狙い通り、お姉さまの所からかなり離れられた。


 彼女はどうやらヒールが折れた時に立てないほど負傷していたらしく、未だぺたんと岩の上に座り込んだままでした。ああん、座り方超可愛いお姫様か。伯爵令嬢だものあながち間違ってないね――ってそうじゃない。

 イカの脚が自分から離れていくと見ると、彼女は素早く視線を落としてドレスをまくり上げ――いやん、大胆! 美脚! イカが邪魔しなければずっともっと見てられるのに、おのれイカァ!――ともかく、おみ足に両手を当てて、治癒の術を唱えてらっしゃいます。

 なんとおいたわしや、私が引き離すまでは時々一緒に戦ってくれてた気配がしていましたが、やはりさっきの攻撃で結構派手に挫いてしまわれていたのですね。そんなこったろうと思った。


 たとえ守護天使解雇中だろうがそれなりに遠い距離だろうが、お姉さまを正確に余すことなく把握するこの両目には、一瞬だけあなたの顔色が変わったこと、ちゃんと捉えられていたのですよ。妹の目はごまかせません。あなた、嫌な事があると表情失くして声も我慢するから、実は案外見分けられると言う――もう、意地っ張り! ひねくれ者! なのに微妙にわかりやすい! 天使か!


 はい今回は錯乱してるだけじゃないですよ。私はできるシスコン。さあ、満足できたら戻っておいでアディさん。というわけで、お姉さま語りで私のヒーリングタイムも完了した。イカに集中してさっさと片付けよう。


 左右から潰して来ようとした二本の触手をまとめて相手するために剣を横に薙ぎ払った瞬間、耳に片方残っていたイヤリングから力が抜けて、落ちていくのを感じる。ここからはストックがない。あとは自分の魔力を削るだけ。これでも相当もった方か。


 ん? 待てよ、さっきから感じていた違和感。やっぱりおかしい。

 ちゃんと数えてはないけど、いくらなんでもイヤリングのストックが切れるほどってことは――しかも半分は先輩に任せているはずなんだし――もうとっくの昔に10本以上切れてておかしくないはずですよね?


 今度は集中して、上から叩き潰そうとするように振ってきた腕を跳ね上げるように応戦し、他の腕の攻撃を当てられないように注意しつつも、イカスミの飛び散る負傷した腕を見守る――。

 と、いったん水中に消えたそれが再び顔を出したとき、半分ほど切断されていたはずが何事もなかったかのように元通りになっていたのです。


 思わず舌打ちしてしまいました。そうか、こいつも超速回復持ちの魔獣か。だったらどこか弱点を叩かない限り死なない――だけど、さっきから見えているのは足だけだ。そういえば私コイツのことイカイカ連呼してるけど、肝心の頭部分が全然見えてこない。大分ダメージは与えているはずなのに。


「アデル、このままじゃきりがないぞ! 弱点、せめて本体を水中から引きずり出さないと」


 ちょうど隣の足場にやってきたらしい先輩が、同じことを思っていたらしくそんなことを言います。


「引きずり出すったって、一体どうやって――」


 返しかけた私は次の瞬間、首筋の裏がざわっとなったのを感じます。はっと気が付くと、今まで一生懸命やっきになってこちらの相手をしていた触手たちが水中に消えていく。


「やったか!?」


 おいワンコ貴様、わかっててもフラグ立てるんじゃないの!


 ――それはほとんど直感でした。

 触手がすべて水の中に飲み込まれた瞬間、私達二人は示し合わせるように、今までいた巨大な池の中央部の足場から逃げ出します。

 その直後、さっきまでいた場所に突如光の柱が複数水中から現れ、柱の中に飲み込まれた足場がじゅっと音を立てて消えていく――。


「嘘でしょう、レーザービーミュッ――!?」


 叫んだ自分の声が完全に裏返った上に噛んだと言う――いやでもそれも致し方ない。


 おいこのイカ、足から火の玉でも十分トンデモ案件なのに、約直系3メートルくらいの足場を一気に消すビームを複数水中から打つとか、ホントどうなってるんだよ! 私の知ってるゲソと違うぞ!

 しかし今のは足と火の玉のレベルじゃない。さすがに威力と攻撃範囲が大きい。あれじゃいくらこの剣でも、防ぎきれるかどうか――。


「なんだそりゃ!?」


 私以上にビビっているワンコの声が聞こえる。そりゃね、いくらファンタジー世界の魔獣討伐担当でも見たことないよね、あんな極太レーザー吐くようなびっくりワンダー生物は!


 しかしそんな私たちをさらに混乱させるような事態が現在進行形で起こっています。


 ちょうど、池の真ん中――つまり今レーザービームによって足場が消えたあたりなのですが――そうすることで居場所を得たとでもいうように、大きな影が濁った水の中からぬっと出現しました。

 水柱の中から現れたシルエットは、想像していた先端がとがってひょろ長いものよりは、どちらかと言うとつるりと丸く、ツボを逆向きにしたような形をしています。さかさまにしたツボのちょうど口の方から、先ほどまで散々こっちを手こずらせていた10本の触手たちがうぞうぞと蠢きながら水中に伸びている。――あれ、ってことは、こうやってパッと見るとタコっぽい気がしないでもない。


 タコイカの身体の色は藻だの苔だのがびっしり生えているような、そんな暗い緑。モッさんの頭も似たような陰気な緑してるけど、こっちは表面がぬめぬめつるつるしている上になんか血管っぽい青筋がところどころ見えるあたり、よっぽど酷いな。ワカメ頭が非常に健康的で好ましいものに思えてくる。


 だけどこれだけじゃ終わらなかった。私達の見守る前で、シルエットはさらに進化を続けます。

 ボコッ。嫌な動き方を一度してから、ひっくり返したツボの底、つまり出現した怪物の頭だと思っていた部分が割れ、中央からぱっくりと、さながらツボをひっくり返すように外側に開きます。口を開けたのだと、開いたふちに並んでいる牙らしきポツポツを認めて私の頭は認識しました。


 が、それよりも。

 その口の中から上に向かって伸びていく、だから私たちの常識からすると、位置的には舌にあたる器官だと思われる、その先端に――見たくないのに、思わず注目せざるを得ないものがある。


 10本のそれぞれの触手よりもさらに一回り大きなそれの先っちょには――血走っている上、ぎょろぎょろと蠢いている、金に発色する目玉様が鎮座していて――ちょうどこちらを見つけると、ぶるりと大きく、一度身を震わせます。


「ビギイイイイイイイイイイイイ!」

「ひぎゃああああああああああ!」

「うわあああああああああああ!」


 イカからタコ、そして神話生物にランクアップしたそいつの咆哮と、私達の絶叫がぴったり重なった瞬間でした。

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