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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-07.今晩のメニューはイカ飯よ!

 お姉さまは微笑をさらに深め、にっこりと私に笑いかけていらっしゃいます。そのかぐわしきかんばせを、私に惜しみなく――。


 やだ、どうしよう。うちのお姉さまが世界一可愛くて真正面から久しぶりに見たら私がフィーバーするに決まっている自明の理について、今この瞬間まですっかりこっきり忘れてきっていた。

 なんたる不覚。いや不覚ではない。これはそう、予測可能回避不可能、確定的事象、だんだん自分で自分が何言ってんのかわかんなくなってきてますよ、しっかりなさいアデラリード。


「アデル、おいっ、アデルッ」


 黙れ犬! お前にそこに存在しているだけで絶対正義、そんな彼女の抗えない魅力がわかるのか! わかるまい!


 ああ愛しの君よ、こんなむさくるしく暗く汚く侘しい場所に、ウルトラスーパーハイパーミラクル大大大、大天使がいらっしゃってしまって大丈夫なのですか。大丈夫じゃないですね、私が。


 それにしてもデジャビュー、前にもこんなことがあった気がするけれど、感動的なほどまるで成長していない。おのれ語彙。誰だこんなセンスのない褒め言葉を捧げようとしているのは。しっかり仕事しろ。って私のことじゃないか。


 いやしかし、私のもとからそこまで優秀でない脳は、一瞬にして心奪われてしまったヴィィーナス(自主的強調)を五感で味わい――表現が気持ち悪いから訂正しよう、持てる限りの力を尽くしてその魅力を受け止めようとした結果、安定の容量オーバーに――まあ私ごときの卑小な器に受け止めきれるはずもないので、うへへお姉さま超美人可愛いマジ可愛いです、それだけでいいや。


「このタイミングでフリーズすんな馬鹿! と言うかその前に表情なんとかしろよ、騎士にしろ女の子にしろ、その顔はダメだろ!?」


 黙れ駄犬! 私の顔面なぞお姉さまを観察することに役立てればそれでいいのだ!


 しかしよしわかった、お姉さまにこの小汚い面を晒すなと言う事ですね、なるほどその事実を思い起こさせてくださったのはファインプレー。両手で隠します。全部隠すとお姉さまが見えなくなるので、目だけ指の隙間から見えるように、と。


「ちげーよ、そうじゃねーんだよ、なんで中途半端に反応してるんだよ、煽ってんのか俺を!?」


 もう、駄犬さんのことなんか知らないんだから、ふふっ。そんなぐいぐい腕引っ張ったって意味ないですよ。


 どうしよう。まさか絶賛ツン期につき守護天使に突きだされた伝説の解雇通知、取りすがる暇も取り付く島もなく放置放置また放置、そして無視のコンボ技、さすがお姉さま、的確に私の心を抉っていく(号泣)――からの、私だけに向けられているあの慈愛の笑顔。


 この破壊力、お分かりいただけるでしょうか。地面に潜り込むまで踵落とし食らってからアッパーみたいな。

 身体中が訴えている。そう、私に今まで足りていなかったのはお姉さま分。正確に言うのなら、お姉さまにフィーバーする萌え心が足りていなかった。だってこんなご褒美二度ともらえないって覚悟してて、血を吐く思いでお姉さま語りの自重もしていたりして――。


 そう。すべては予測できていなかったいきなりの大きすぎる報酬に対し、私の中のドーパミンやらアドレナリンやらエンドルフィンやら、それらが過剰分泌されてハーモニーを奏でているが故の、乱雑で美しきカオスによるハルマゲドン。


「アデル、この馬鹿――今はそんなこと(シスコン)にかまけている時じゃないんだってば、骨抜きにされてんじゃねーぞ!」


 犬は放置。私幸せ。がくがく肩揺らしても無駄ですよ、先輩。


 え? さっきから何言ってるか全然わからないって?

 奇遇ですね、私もわかりません。お詫びにわかりやすく一言でまとめますね。いやいやそんなご遠慮なさらず、私とあなたの仲じゃないですか。


 そう、今の私はですね、お姉さまが素敵すぎてうっかりときめきすぎて鼻血がぶしゃっと出そ――。


「だから、正気に、戻れっ!」

「ごぶうっ!?」


 美しく軌道を描いた右ストレートが私の頬に吸い込まれ――あ、本当に鼻血出た、たぶん興奮とかじゃなく、普通に打撃で切れて――。

 しかし殴られてから無様に飛ばされず、ぐるんと一回転して着地しポージングし直せるのが今の私なのですよ。どうだ、すごいでしょ!


 って、違う!

 私は腕で乱暴に鼻をこすりながら抗議の声を上げました。


ばびぶぶんべば(なにするんですか)べんばびびぼび(せんぱいひどい)、お父様にも殴られたことないのに!」

「俺な、今だけは陛下とまったく同感だから――シスコンも大概にしやがれ、そんな場合じゃねーんだよ、アホチビが!」


 しまったボケてもネタが通じない人だった。あとお目目がいつものピンクから若干赤みを帯びているのといい口調といい割とじんじん痛んでるほっぺたといい、めずらしくそれなりに本気で先輩が怒ってるらしいので、ちょっと気圧された。


 そうだ――しっかりしなさいアデラリード、さっきから私、ずっとおかしいですよ。いくらお姉さまが大好きでも、こんなに他のことが目に入らなくなるなんて。

 ……ちょっと、平常運転すぎてまったく違和感覚えなかったですって!? あなた私のことなんだと思ってるんですか! 変態にだって空気ぐらい読めますから!


 って違う違う。あーもう、なんかもやっとして鬱陶しいっ。

 私が違和感を取り払うようにぶんぶんと頭を振ると、靄がかかってふわふわしたような意識がさっとカーテンを引くようにクリアになり、目の前にはお姉さまが――。


「……えっ?」


 唐突に戻ってきた現実は、私が素っ頓狂な声を上げながらあっけにとられるのには十分な量の情報を示していました。


 私が見つめていたはずのお姉さまは忽然と姿をけし、そこにはなぜか色を失くして壁際にしがみついている眼鏡。

 その視線に釣られるように、先ほど私たちの前に広がっていた、だだっ広くぽつりぽつりと岩があるだけの何もない空間に目を移すと――客席のない殺風景なコンサートホールの中心部は一転して、すっぽり黒の中に沈んでいるのです。


 穴? ここに来て特大の落とし穴?

 違う。聞き覚えのある音に、揺らいで反射する光。あれは水だ。私がなんだかおかしな精神状態に陥ってる間、床だったはずの場所に池が出現したんだ!


 けれど、そんなものよりもさらに衝撃的なのが、その池の中から複数本突き出ていてうねうねしているアレ。

 私が二抱えする必要があるかもしれないくらいの、ぶっとい胴回り――いや、胴じゃない、いち、に、さんし、いや、多くないか――ちょっ、全部でこの数って事は、そうかそうか、ふざけんな――。

 うわ、これ、本当に事実を認めたくないんですけど、やっぱ目をこすっても変わらないので仕方なく受け入れます。


 あのいやらしい吸盤付きの十本足は、イカだ! あんなでっかくて凶悪な奴見たことないけど。あとなんかこう、暗くて見えにくいけど割とグロイ配色してるっぽんですけど。


 なんでだよ、これモナモリスルートだろ、なんで海洋生物触手担当がこんなところに出張してるんですか。ここは管轄違いよ、大人しく賢者ごしゅじん様のところにお帰り! うねうねするなら水槽の中にして出てこないでよ、気持ち悪い!

 いや、待て。でもさすがの賢者様どへんたいもここまで大きい触手さんは飼ってなかったと思う。だってあんなに太かったら、せっかくの触手プレイが入らなやかましいわ自分、黙れ!

 セルフガッツのついでに両頬を力強くプレスしておきます。うん、ようやく冷静になった。


 見覚えがないってことは多少誰かの悪意にまみれている天然ものってことですか。ああそうか、そうですね。ダンジョンの一番奥にあるとっておきのお宝の前は、皆大好きボス戦と相場が決まってますものね――心を込めて言ってやる。このクソッたれ!


「先輩、何が起きたんですか!?」


 イカは何やらばしゃばしゃあっちでやってますが、こちらにはあまり気を払っていないらしく、ひとまずは生理的に気持ち悪い見た目に震撼するだけで済んでおります。

 私が聞くと、先輩は険しい顔をしたまま素早く答えます。


「お前がぼけーってしてる間にスフェリアーダが箱に近づこうとしたら、突然ここの地形が変化してあいつが湧いたんだよ。幸運なのはおかげでお前が変になってる間に向こうに先にタッチされずに済んだこと、不幸なのは見ての通り――おい!」


 瞬間、話の途中でしたが状況を把握し、今更ながら真っ青になった私はその場を走り出しました。

 湖の中に転々と浮かぶ岩――ああ、だだっ広い空間にやけに無意味に岩があると思ったら、この足場のためのものだったのですね――を飛び越えてうねうねの中心部と思しき場所に近づきます。


 そこにはやはり、岩の上でイカに応戦しているらしいお姉さまの姿が。触手が何度か彼女に飛びかかろうとしていますが、見えない壁に阻まれるように途中でバシッと音を立てては水の中に戻ります。彼女がきっと口元を引き結んで両手を掲げると、カッと大きな光の弾が生まれ、イカの脚が逃げ惑います――その瞬間、パリンと何かが割れる音がしました。お姉さまの髪飾りが光りながら砕け散り、ぶわりとまとめられていた優美な漆黒が広がるのが見える。


 それが一瞬の隙を生んだ。

 しゅっと空を切る鋭い音がして、お姉さまに背後から逃げて行ったのと別のイカ足が飛びかかる! 彼女は身を捻ってその攻撃はかわしたのですが――。

 バキッ。

 女物の靴のヒールが、ごつごつした不安定な足場のどこかに引っかかったのでしょう。体勢ががくんと崩れるのと同時に、彼女の眉根がぎゅっと寄せられたのが見えます。


「――っ!」


 息を呑んだのは尻餅をついた彼女だけではありません。それを三つほど先の足場から眺めていた私もだったでしょう。

 そして同時に今この瞬間、一つの未来が確定したのでした。


 イカ、死すべし、慈悲はない。


「あんたの相手はこっちですよ!」


 私が足場に両足踏ん張って吠えるのと同時に、こちらを認識したらしいうねうねたちが襲い掛かってきました。しかし、先ほど遠くて見ていた時の嫌悪感やら恐怖やらは全部吹っ飛んでます。


 ハハハこやつめ、図体がでかいだけの軟体動物の分際で、この私の目の前で蛮行に出るとはいい度胸だな。お望み通り、この不肖、お姉さまの守護天使第一号(一時解雇につき再就職希望中)めが、今晩のおかずに解体して料理してやりますよ!

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