3-03.作戦名:ついて行きます
私はカバンの中をごそごそ漁って取り出しては、腕輪を腕に、アンクレットを足に、耳飾りを耳に、と次々にMPの元、もとい魔力を溜めた装飾品で武装を重ねます。……今回微妙に小物多いな。前回いきなりあの首飾り使っちゃったってのもあるかもしれないけど。
ああそう、これは完全に余談ですが、私はピアスじゃなくてイヤリング派です。騎士は武人ですから、引っかかって危ないような装備は嫌がるものですし。
いや、その、というか純粋にこう、開けなくていいのならそれでいいじゃないと言うか。だって、たかが耳されど耳ですよ。どう考えても絶対痛いじゃないですか。しかも一回開けたら塞がらないようにつけ続けないといけないんでしょ、嫌ですよそんなの。
……まあ、お姉さまは大人の嗜みよ、とかで普通になんのためらいもなく開けてましたけどね。社交界デビューの前に自宅で。あの時はあまりにも彼女がさっくりぶすってやって血がピューッとかなって、私の方が軽く、いえだいぶパニックになりかけました。お姉さま、だからもうちょいご自分の身体を労わってですね。未練なさすぎでしょう、色々と……。
ちなみに朕とかフラメリオもピアス開けてる方です。彼らは魔術師ですし、まあその、痛みには耐性ある方々ですし。つーか朕の奴に、
「お前ももう成人してるんだし、せっかくだから貫通しとく? 二択で選ばせてやろう。一瞬で終われて軽めの修羅場になる奴と、じわじわいたぶられるけど血はそんなでない奴、さあどっちがいい。ちなみに鎮痛剤を出してやらんこともないが、10貸しな」
とか言って、すんごい鋭い針と多少まろやかなだけどぶっとい針を両手に笑顔浮かべられ、思わず血の気が引いて無言になった私は悪くない。と言うか10貸しって何だ10貸しって。セオリーに則ってトイチですか。お前はどこの悪徳高利貸しだ。黙ってる間に察しましたみたいな爽やかな顔で、
「初めてだからたくさん血が出ちゃうかもね」
って追加されて、やかましいわ! って飛び蹴りかましたのも悪くない。なんであいつ下ネタかます時だけ爽やか三割増しになるんだよ、中学生か。
「わかる時点で同類だ、むっつりスケベめ」
奴は片手であっさり私の蹴りを受け止めてからそのような事を申しておりました。
うるさいですね、一回人生完遂してれば耳年増にもなるんですよ、たとえ経験が皆無でも! あれ、なんかすっごいぐっさり心を抉った。自分の言葉だけど。死ぬなアディ、まだ死んじゃダメです、ぐふっ。
――ってそのしてやったりみたいな顔くっそ腹立つわあ!
あーもう、だから違う違う、そっちじゃないんだって。今はなき――ん? なんか表現違うな、まあいいか――このイベントを起こす前に散々質問攻めにしたフラメリオの言葉ですよ、今私が思いだそうとしているのは。えーとどれだったっけな。あれでもない、これでもない、ううー、せめてバックログか録音機能がほしかった――。
「契約者の召喚について聞きたい?」
さすが私、できる子! これだこれ、この記憶。
私は検索に成功した記憶をしっかりと思いだせるように意識して、フラメリオとの会話を朧げな彼方から手繰り寄せます。
「はい。私の持っている悪魔の羽とやらは助っ人が呼べる力を持っているんですよね?」
「そうだねえ」
「その、呼び出すことのできる条件を教えていただきたくて」
「条件、条件か……」
「ひょっとして、今は無理ですか? 緊急事態じゃないと情報開示されないとか?」
「んー。と言うよりもね、君の定義する条件ってなんなのかなって」
「ええと……たとえば、呼び出せる相手が誰かってこと、教えてもらえますか?」
次だ。この次が大事。私は集中するためにでしょうか、無意識のうちにギュッと目を閉じていました。
「ああ、それかい。というか吾輩に聞くまでもなく、もうわかっているんじゃないのかい?」
これに答えるのは相当嫌だったけど……まあ、結局は私は喋ったんですよね。
「……前に呼び出せたディガンは今でもそれが可能なんでしょう?」
「もちろんだとも」
あまり深入りするつもりはなかったんですが、ついつい口が動いてしまったんでしたっけ。
「それはなぜ? どうして彼だけは最初から呼び出せたんです?」
「忠実で優秀な番犬はね、少しぐらいの小細工では騙されてくれないのさ。君が意地悪をして他の所につないでも、ちゃんと本当の主を求めて戻ってきた。……だから、そういう事なんだよ」
「……」
「わからないふりをしているのは君の方だろう。思い通りになんかなってくれないさ。君が否定し続けても、おそらく彼はたどり着くよ。自分の真実に、それと本当の主の所に、ね――」
……そうか。確かこの辺で突然、すごい頭痛になっちゃったんだっけ。なんだか周辺の記憶が曖昧だ。思いだしている今も、何の影響か知らないけどちょっとガンガン来てる――。
けど、倒れるほどじゃない。踏ん張れ。もうちょっとだけ頑張れ。もうすぐ、もうすぐ今役に立つあの話が出てくるはずだから。
痛む頭を押さえて、その記憶をたどる。
「――ああ、彼の方かい? うん、今の君だったら大丈夫だろう。あとついでなんだけど、一応ちゃんとした召喚の唱え方も教えておこうかい」
「今更!? 先に教えてくださいよ、そういう大事な事は!」
「いや、別に正式な呼び方しなくても君がその気になれば術式は作動するし。少し使用する魔力量が減るぐらいしか効果ないよ、正しい呪文を唱えても」
「私は魔力量限られてる人なんですよ、死活問題ですからそれ!」
「あれ、そうだったっけ」
よし。なんかだいぶ横道にそれた気がしないでもないけど、これだこれ。ようやく重要なキーワードと師匠のお墨付きを思いだした私は、お祈りでもするように、胸の前に両掌を合わせて目を開き、唱えます。
「今ぞ盟約の果たされる時。守護者よ我のもとへ来たれ」
詠唱を始めるのと同時に、背中がざわざわとした感触に苛まれました。本日二度目な事もあって何の感動も覚えないあたり、一回目との落差を感じますが、さておき。
「其の猛き力を我がために。其の賢き心を我がために。其の強き勇気を我がために――」
……中二とか恥ずかしいとか考えたら負けだ、と言うかいまさらだ、てかこのタイミングで意識するなし、頑張れ私! なんか頬が熱くなってきたので、最後の言葉は一気に終わらせる!
「下れ、キルルシュタイナー!」
っしゃあ、早口言葉になったけど噛まずに済んだ、私すごい! と一人で盛り上がるのと同時に羽は再び拡散し、辺りにまばゆい光が満ちる。
そして、光が収まるとそこには。
神妙に正座をしながら疑問符を飛ばしている先輩が、無事にいらっしゃっておりました。
ひとまず五体満足、たぶん大丈夫っぽい。よし、いい仕事したぜ、私。もうこれで帰っていいかな。ダメか。ダメですよね。仕方ない。
私はひとまず、ワンコに合わせるようにしゃがんでから喋り出しました。
「……と、言うわけなんです。状況がおわかりいただけたでしょうか」
「さっぱりわからん」
「でっすよねー」
とりあえずざっくりした説明をした私でしたが、さすが肉体派、途中で見るからに頭を使うのを放棄してたもんね、知ってた。
まあ、こんな話をいきなりしてホイホイあっさり受け入れるのは、それこそ朕ぐらいの狂人だと思いますよ、私も!
「だけどなんだ……つまり、お前はもう一度、あのときみたいなことになってて、ここはそんな場所ってこと、なのか……」
なんだ、ちゃんとわかってるじゃないですか。
私はこっそりと、存外落ち着いているらしい先輩の様子に胸をなでおろします。最悪足手まといになりそうだったらここで気絶させなきゃいけないかなとか色々考えてましたからね。え、キルル先輩に対するとやたら辛辣? いつものことじゃないですか。
まあ、ぶっちゃけあんな体験させられた後にもう一回こんな目に遭わせるってどうよとも思ったんですが、もう一人呼び出せる奴は今の状況ですととてもうまくやっていける気がしないので、仕方な――げふんげふん。いないよりはマシであろうとの消去ほ――げふんげふん。いや、ちゃんと考えて、超役に立ちそうなキルル先輩にですね、白羽の矢を立てただけでして、ははははは。
「つまりなんだ、今お前は大ピンチで、俺の力が必要って事か」
「今の所そこまでピンチでもないですけど、先輩にご助力いただきたいのは確かですね」
先輩なりにまとめた結論があながち間違えてもいなさそうなのでそう返しておくと――ん? なんだろう、ワンコの奴俄然やる気を出している気が。
「よし、そう言う事ならアデル、任せておけ! お前にはずっと恩返しがしたいと思ってたんだ。むしろ機会がやってきて俺は嬉しい」
胸をドンと叩き、キルル先輩はそんなことをおっしゃっております。
……あー、うん。まあ、いきなり発狂したりどうしてこんな目にと嘆かれるよりは、「役に立たなくちゃ(使命感)」みたいにメラメラ燃えてらっしゃるのは、いい事なのかな……?
さて、そんなわけで駄犬と進む迷宮の旅がスタートしたわけですが。
なんだろう、なんか悔しい。
なんでそんな事を私が感じているのかと言うと、スタート地点にマーカーをつけ、最初の通路を私達二人が慎重に進んでいったところ――特に罠等はなかったのですが、まったく同じ十字路がずっと続いて、しまいにはなぜか遠ざかっているはずのマーカーに近づいていると言う謎の事態が三回ほど繰り返されまして。つまりこれはあれか、いわゆる一種のループ迷路か。正しい方向に進んでいかないと出られない、的な。
と言うわけで私が作戦を考え始めたところで、ふとワンコが片手を上げるのです。
「あのさ、アデル。ちょっとだけ、俺に任せてもらえないか」
……まあ、正直たぶん相当胡散臭い目で見たと言うか、訝しげに睨みつけたと言うか、それでもワンコがなんか策有りって顔を崩さないので、一度くらいは任せてやるかと思い、訳知り顔で進んでいく先輩の後ろに大人しくくっついて行ったところ。
私達はいつの間にかループを抜け出して、次の部屋へたどり着いていたのです。
なんで!? ワンコ、なんで私より先にわかったの!?
「いや、風に乗ってさ、匂いが流れてきたから……」
先輩はループ先の部屋の隅にちょんと置いてあった香炉を指さし、それから苦笑気味に自分の鼻を指さします。
「ほら……俺の鼻、それなりに利くから」
いかん少しだけ、ほんの少しだけかっこいいかもしれないと思ってしまった。ヘタレワンコ相手なのに、悔しい!
このだけ――いや、お犬様、思った以上に使えますね。案外信頼して任せてれば行けるかもしれない!
「わかりましたキルル先輩、アデルは先輩を信頼して、後輩らしく後ろをついてまいります!」
「おう、任せておけ!」
わあ、なんでか知らないけどすっごく頼もしい!
ええ、そう思っていた時期が、私にもありました。




