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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-02.作戦名:いのちをだいじに

 フラメリオから一通り今回の説明をされると、すぐに声を上げました。


「最初に確認しておきたいんですけど、今のチュートリアル中、これからの私の質問タイムでも、イベントとか時間とかが進行するってことはないんですね?」

「チュートリアル枠はちゃんと設けられているよ。さすがにスタートくらいは公正に親切に、らしいからね」

「前回は問答無用で始まったじゃないですか」

「あれは少々特殊だったんだってば」


 賢者が可笑しそうに笑うのに半眼を向けてから、私は聞いた情報を整理して質問を考えます。


「つまり、今回は目的地に先についた方が勝ちってことでいいんですか? それだけ?」

「まあそういうことになるね。実にシンプルだ」

「私が勝ったらモナモリスの隷属印、消してもらえるんですよね」

「もちろんだとも」

「お姉さまが勝ったら?」

「一生消えないかもね」


 思いついたことを片っ端からとりあえず挙げていく。


「……モナモリスはお姉さまに同行してるんですよね?」

「今の段階では完全に彼女側の人間だし、逆らえないだろうからねえ」

「時間制限は?」

「ないよ。心置きなく探索するといい」

「……あまり長居したい場所じゃないですけど、ここ」


 どこかじんわり湿った空気に身を震わせ、ぞわぞわとする腕をさすります。フラメリオがそこでああ、と思いだしたと言った体で情報を付け加えてきました。


「ちなみに君たち参加者の身体の状態は一定に保たれ、ゲーム中は食欲や排泄欲等の生理欲求に悩まされることもないから、その辺の心配も不要だよ。心置きなくって言うのはそう言う意味でもある」


 聞いた瞬間に自分の顔がげんなりしたのがわかります。


「いや、そんな親切いらない……ううう、でも有難く受け取っておくべき……?」

「ただし体力や魔力は普通に尽きたりもするから計画的にね」

「HPとMPですね、わかります。まったく、どこのゲームを参考にしたのやら」

「参照元はデータバンクだよ、アデル」

「私から発した話題とは言え、あなたが何言ってるのかまるでわからないんですがそれは……」


 いつも通りと言えば通りのやり取りにどこか心を落ち着かせつつ、頭をフル回転させて情報を整理しながら、今この人に聞いておかなければいけないことを考える。


「で、本当にどっちかが目標物に先にたどり着き、“タッチ”するだけでいいんですね? その時点でゲーム終了、私とお姉さまのどちらも元の世界に戻れると」

「うん」

「つまり、前回みたいな敗北によるデスペナルティはないと考えてよろしいのでしょうか?」

「そうだね」

「では、お姉さまが危険な目に遭う確率は低いと考えてよいと?」

「おや、どうしてそう思うんだい? きみだって知っているだろう。この迷宮は危険だらけだよ?」


 一瞬きょとんとしてから私は返します。


「……だって、今の彼女には死ぬ理由がないじゃないですか。だから危険なことはしませんよ、あの人」


 静かに、まっすぐ。賢者の黄金の瞳を見据えて。


「彼女も今同じことを説明されているのだとしたら、きっとあちらから身を引いてくれることはない。結構意地っ張りですから。猫舌なのに熱い紅茶飲もうとするし、飲めてないのに飲んだって言うし」


 語る言葉に自然と熱がこもっていくのを感じます。……仕方ないね、解雇中とは言えお姉さまファンクラブ筆頭、守護天使第一号だもの。

 フラメリオが黙っている、けれど続きを促すように時々目元の表情を変えるのに釣られるように、私はぽつぽつ語ります。


「あの人、すごい頑固なんですよ。あと、負けず嫌い。こんな風に真正面から喧嘩売られて引き下がるはずがない。特に、相手が私なんだから……全力で迎え撃ちに来るはず。だったら死ぬような行動は取らない。涼しい顔でこんな迷路さっさと攻略して、ほらねやっぱり言ったとおりでしょー、って決め顔するんですよ。……そういう人です、スフィーお姉さまは」


 正直、私の作戦だの考えだの、激しく矛盾している気もする。今フラメリオが説明してくれたことで前回よりは気が楽とは言え、相変わらず死の可能性があるイベントであることは変わりない。それに彼女を巻き込んでおきながら、死なないと信じる。


 でも、妙な確信があった。それは今でもある、続いている。だから私は、最終的にリオスの提案したこの賭けに乗ることにした。

 おそらく気を付けなければいけないとしたら、イベントの最後。

 それまでは、お姉さまはきっと、彼女にとっての最善の行動を取ろうとするはず。



 だいじょうぶ。アデラリードにはそのときがわかる。

 いまはそのときではない。だからだいじょうぶよ。



「何を言われようと私はまだ彼女が好きだし、信じている。私の知っているお姉さまを……信じるんです」


 その言葉はもう、フラメリオに対する問いかけと言うよりは自分に対する言い聞かせ。


 そう、今だって私のシスコン魂が消えたわけではない、むしろツンされたことで以前に増して燃え上がっている。

 ゆえに、一方的だろうが変態だろうが、捧げるのです。

 妹の姉さま至上主義ハートを!




 ……わかってます、痛いのはちゃんと客観視できているから、そう生温かい目で見るのはやめて。なんか沈黙続けられると、下手に諭されるよりもよっぽど冷静になるんですけど。




 フラメリオは少しだけ首を傾けて微笑みます。……いや、機嫌がいい時の癖だけど、見た目は一応美青年もどきとは言え、ピー百歳のおっさんが小首傾げるってどうなの。


「まあ、この迷宮のトラップに嵌るか、何らかの事故が起きて普通に死んでしまってもフォローはないと思うけど、そうだね。確かにそういったものに君の姉がうっかり引っかかることはまずないだろう。それに、正規利用だから前回ほど君たちを殺しにかかってる設定じゃないだろうしね」


 はいはいスルースルー。わからない電波の処理は後で。帰ってても覚えていたら朕に翻訳してもらおう、それくらいの扱いでちょうどいいのだと最近の私は学習しつつあります。と言うかそのくらいのノリじゃないと混乱して思考に支障が出る。


「うーん、えーと。ああそう、それじゃ、棄権しても死なないってことも保証されます?」

「勝ち負けが決まって元の世界に戻されるだけだね。で、君は今ここでするのかい?」

「ご冗談でしょう。私が始めたことなのに」


 私が瞬時に冷たく返すと、フラメリオは嬉しそうに何度もうなずきます。……あまりいい気分ではありませんが、まあそこまで目くじら立てることでもないか。たった今されたルール説明、過去の知識、前回のイベントの経験、あらゆる情報を統合しているとふと一つの疑問に至りました。


「ところでささやかな疑問なのですが、お姉さまにもあなたから説明するんですか?」


 なんか絵面が想像できないのと、できたらできたで天使なお姉さま(平常心を装いながらも愛らしく困惑中)に絡むボロボロローブ電波(一応見た目だけは美男子、と言えないこともないがとにかく胡散臭い)と言う、どう考えても通報な図ができあがったのですが。もしそんなことがあるならば、目の前の人物にちょっと任意同行からの正義の鉄槌かましておく必要があるんじゃないですかね、私。想像図で並んだだけで犯罪臭漂うってどういう事なのフラメリオ。

 賢者はそんなこちらの心を知ってか知らずか朗らかに微笑みます。


「いや、あちらはあちらでまた別の方法で伝達が行われているよ」

「え。なんでまた?」

「んー。君の方が不安要素が多いから、吾輩が直接出向く必要があるんじゃないのかな」


 少々賢者氏の言葉を理解するのに時間を要しました。


「ええと、真面目に言ってんですかね、それ」

「いたって真面目だと思うよ」

「断定しないのがまたなんとも」


 答えようとするフラメリオがどことなく怪しい微笑みを浮かべながらおもむろに両手を広げたので、私はしまった、と一瞬感じますが、このマイペースを止める術などあろうはずもなく。


「脳で解釈して世界を見ている以上、完全な主観などありえないのだし、真の断定はありえないことなのかもしれないのだよ」

「はい、翻訳さんがいらっしゃらないので電波はそこまでで」


 しかしうまく遮断ができなかったようだ。


「今の言葉はメタじゃないよ、アデル」

「そこまでって言ってるでしょ!? 大体ね、電波語が理解できなかったとしても、私は昔の雑魚ラリードとは違うんですよ。師匠だって日々成長してるって言ってくれたじゃない!」

「そりゃ成長は着実にしてるんだろうけど、肝心の所で噛んだりどもる残念な癖が未だにあるからねえ。まあ君らしいから別にいいと思うけど」


 あれっ、今何か心にグサッと……き、気のせいですね、ははは一体何を仰っているのやら――。


「左胸に手を当てて吾輩の事をまっすぐ見て同じことを言ってごらん」


 うちの師匠が微妙にサドなんですが、これは弟子に似たんでしょうか、それとも弟子が師に似たのであって、彼の素はもとからなのでしょうか。


「吾輩に嗜虐趣味はないよ、アデル」


 嘘つけ! ラプソディー・イン・ダークネスの男が鬼畜じゃないなんてありえない! 約一名以外!


「心外な気もするんだけど、まあ君がそう言うのならそう言う事にしておこうか。だけどそうだな、強いて言葉にするのなら、弟子二人の反応を鑑賞する趣味なら確かにあるよ。特に君は期待通りの反応を返してくれるから、いつになったら成長するのかリオスと賭けてたりもするしね。リオスもリオスで面白いが、あれはからかいすぎると仕返しが怖いからなあ」

「……泣いていいですか。あと兄弟子はいつか腹パンします」

「前者はあらゆる観点から無意味だと思うけど、それで君の気が済むならね? 後者は好きにしたまえ。高い鼻だから半分くらい折れても支障なかろうよ」


 じゃあ心の中でそっと涙を拭い、イメージトレーニングに励むだけにします。ぐすん。あと前から思ってたけど師匠、兄弟子に全デレと見せかけて定期的に辛辣ですよね。


「……さて、他は大丈夫かい?」


 私はうーんうーんと唸ってから、とりあえず頷きました。フラメリオは首を竦めます。


「では、長居はよくないらしいし、行きたまえ。今回も健闘を祈っている、吾輩の愛弟子よ」


 そして無造作にすっと手を動かしたかと思うと、特に前触れもなくその姿がかき消えます。



 一人になった私は、フラメリオが消えた瞬間、私がここに入ってきたのとちょうど逆の壁に出現した入り口を睨みつけ、腕まくりをし、深呼吸します。あそこから行けってことですね。で、さしずめ出たら本格スタート。


 さて、それじゃ始めたいところですがその前に。

 悪魔の羽様に、本日二度目の労働を行っていただきましょうか。

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