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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-8.あなたの思い通りになんか、させない 前編

「……わかった、話す」


 モナモリスの言葉に私がいったんゆっくりと手を離したとき、眼鏡の顔は相変わらず蒼白でしたが、ほとんど一瞬にして彼は狼狽の状態から落ち着きを取り戻していました。眼鏡の奥ですうっと表情がなくなったのを見て、逆に私は緊張が高まるのを感じます。モナモリスは元から表情読みにくい人ですが、顔が無表情に近づけば近づく程集中している証拠――つまり追い詰められた彼はまだ諦めておらず、何らかの反撃に出てくる可能性があるってことですから。


 やっぱ、ちょっと強硬策に出過ぎたかな。いきなり痺れ薬叩き込むとか。

 あ、ちなみに私にサド趣味なんてないですから。痛そうなのは見るのも経験するのも嫌いです。


 だけど、あなたは違うみたいですね。

 心の奥がバンバンと叩かれる音がしています。


 なぜとめるの。なぜためらうの。そいつはてきよ。

 もうきがついたでしょ、このおとこがちかづいてきたのはそういうことなのよ。

 だから、はやく。

 ころしなさいよ。


 ……耳鳴りが頭の奥に響く。キルル先輩のイベントからこちら、だいぶ主張が激しくなってきましたね。同調しないように注意しないと。


 でも、モナモリスの態度と言い方からして――きっとその通り、そうなんだ。だったら私、絶対にこの先平静じゃいられない。気をしっかり持たないと。


 モアイはふー、と大きく息を吐き出してから呟くように言います。


「……学んだ。シアーデラは気が短い。あと、裏表が激しい」


 ほら、この言い方。やっぱり彼は――。

 そこで思考を打ち切るようにぶんぶんと首を振ると、彼の言葉にふんっと鼻を鳴らし、答えを返しておきます。


「私に限って言えば、気が短い事は周知の事実だったかと思われますが。それに友好的にしてくださる方にまで牙を剥くことはありません。つまり、この事態の半分はあなたの自業自得です」


 瞬間、私の心臓がぎりっと鋭い痛みをあげました。


 なによなによ、わるいのはぜんぶあいつじゃない!

 どうしてといつめないの、いくじなし!


 …………。


 よかった、モナモリスはちょうど下の方を――祈りの台の上に組んだ両手を見ていて、私が真っ青になって胸を押さえたことに気が付いていない模様です。どんどんと、心の扉をたたく音がうるさい。痛い。

 それらに知らないふりをして、私は彼の言葉に耳を傾けます。


「こちらも悪かった――かも、しれない。言ったはず、話がしたいだけだ。ただ……確かにとても友好的とは言えない態度。けれどそれは――何から話すべきだろう。自分も相当、混乱している」

「混乱、ですか?」

「…………」

「黙っていても私にはあなたの考えてることなんてわかりませんよ。今私がしたのは少しだけ痺れる薬を投与した、それだけです。読心なんてとてもできませんからご安心を」


 私が言うと、少しだけモアイは意外そうな表情になりました。やっぱりあなた、私を師匠だの朕だのと同列レベルの魔術師だと思ってましたね。残念ながら未だ読心は習得できていないのですよ。どうにも精神操作系は私と相性が悪いようですし。


「魔術師にもグレードがあるんですよ。私はせいぜい中級です」


 肩を竦めてみせると、モナモリスは私にもわかるほど大きく目を見張りました。


「……それ、普通に言っていいこと?」

「駄目に決まってるじゃないですか」


 思いっきり手の内を相手に明かしていくスタイルなんて、魔術師としては最低な行動ですからね。私たちは隠して隠して隠しぬくもの。上の方からも微妙に呆れているらしい気配が漂ってきていますし。


「じゃあ、なんで――」


 モアイは言いかけて、はっとするように黙ります。私の顔を驚きの目で穴があく程見つめてから、ふとためらいがちに言葉を発します。


「シアーデラは、異常なほどに姉妹の結束が強いと聞く。本当?」


 ああ、これで確定だ。やっぱりそう言う事なんだ。

 それでもあえて私は髪をかき上げ、ドヤ顔でポーズを決めました。


「ふっ、私の女神であるお姉さまに対する愛は天より高く海より深いですよ! それがどうかしましたか?」


 モナモリスはきょとんとした後、ああこれが噂の、とでも言いたげに少々目を遠くします。まあ、私のシスコン既に宮中でも関係者各位の間で相当有名になってますからね。


 だから、まだ道化でいさせて。あと少しだけ、結論が出るまで待って。心の準備を急いでするから。


 彼はシリアスモードだった私がちょっといつものシスコン体勢に入って空気が柔らかくなったからでしょうか、どこか励まされるようにぎこちなく言葉を紡ぎます。


「ユディエから君たちの話は聞いているし、君たちはよく目立つ。君たちは知らないかもしれないが、自分は時々見る機会があった。その印象から判断して、シアーデラの妹。君は少々口数が多く、気が短く、直情的で、正直自分とはあまり合わない性分だと思う。……おまけに、姉を病的なほどに深く愛している」


 ――いや絶対これは不名誉の方だ!

 唐突に昔言われた言葉がよみがえります。……はは、今このタイミングでか。私はそっと、あの時言わなかった言葉をなんとなく浮かべてみます。


 ねえ、リオス。あなたに言われるまでもなく、私自身が一番よくわかってるんです……わかりきっているんですよ。


 そうやってちくちくと心が痛むのを感じながら、なおもじっとモナモリスの言葉を辛抱強く聞き続けます。口下手な彼が一生懸命喋ろうとしている邪魔をしたらきっと、私の話してほしいことも黙り込んでしまうから。


「それでも、シアーデラの妹。君は――口では辛辣な事を言っている相手にさえ、本当はとても優しくて、誠実な人間と聞く。ユディエは君について、素直でとてもいい子だといつも言っている。評判ほど馬鹿でもないと。こうして直接話してみても、自分もその印象は間違ってないように思える。……こちらが真剣に相談をすれば、無為にされることはない。たとえ自分たちが単なる顔見知りの間柄でも」


 思わず足元を見てそわそわと手をすり合わせます。な、なんだろう。二つぐらいの意味でいたたまれない。

 一つ。知人からの自分に対する評価を聞かされるのってこう、なんか面はゆいじゃないですか。褒められててもそ、そうかって感じですし、けなされてたらもちろん落ち込みますし。

 もう一つ。ゼナさんの話題が出るのはわからなくもない。が、なぜ彼女の名前を出すたびにあなたの眉間の皺が増えるのか。

 よし、やめようそれ以上考えない。ちょっと心のキャパオーバーにつき、この議題については後で深く考えさせてください。今は心を無にして、眼鏡の言葉を聞くのです。


「……ので。今日、どうしても教えてほしいことがあって、ここまで来てもらった。神殿を選んだのはその通り、君が魔術師だと思っていたから。だけど君は……なんだか自分の思っていたのとは違っていて。だから、自分の事が何か気に障ったのなら、申し訳ない。言葉も態度も、なるべく改める。……どうか途中で怒って帰らずに、話をしては、もらえないだろうか」


 不器用な、けれど真剣な言葉が終わると、私も彼に合わせて姿勢を正します。


「まあ、なんとなくそちらの事情はわかりました。私に聞いてほしいお困りのことがあるのですね。……どうぞ、本題に入ってください。あなたの喋り方からして、こちらに気を遣おうとすると余計な事が増えて話が長くなるようですから、単刀直入にズバッとお願いします」


 そこで区切って、ぽそっと小さな一言を付け加えます。


「……なるべく私もカッとしないように注意しますから」


 彼は何か察したように一つ頷きました。

 緩みかけていた空気が再び張りつめる。私は覚悟を決めて、伏せていた目を彼に向けます。


 ――お待たせしました。でも、おかげで十分な心の準備ができました。さあ言って、モナモリス。


「では、単刀直入に聞かせてほしい、シアーデラの妹。君の姉は、一体何を企んで自分に近づいてきている」


 あれほど構えて待っていたからでしょうか。予想通りの言葉は確かに私の衝撃をもたらしましたが、ああ、やっぱり、そうだったんだ。そのように私の中にすとんと事実は落ちていきました。


 シアーデラ。彼は最初に私をそう呼んだ。その後も繰り返し、しつこいほどに姉妹について言及した。

 彼は私を魔術師だと知っていて警戒し――ある種怯えてさえもいた。それなのに、一筋の希望を見出したいとでもいうように、ほんのわずか眼鏡の奥に期待を輝かせていた。


 そして、お姉さまのここしばらくのご様子を思い出せば、わかっちゃうんですよ。

 彼女が私の知らない所でモナモリスに深く接触したんだと言う事ぐらいは。



 ああ、お姉さま。貴女はどうして。

 ――おねえさま、あなたはどうして。


 開けた口から漏れ出て行ったのはため息でしょうか。もっと重くてねばっとしたものだった気もします。


(大丈夫よ、アデラリード。近づいたりなんかしないわ)

(心配しないで。うまくやるわ)


 こうして思い出すあなたは私を前にいつも笑っているのに。

 いつからでしょう、笑うあなたの目じりが緩まないようになったのは。



 私は答える前に真剣な表情の眼鏡からいったん視線を下げ、礼拝堂に差し込んできた西日を浴びて徐々に私の影が伸びていくのをぼんやり眺めていました。

 同時に、どろりと心の中に黒い染みが広がっていくのを感じながら。

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