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2-4.あれこれ私いらない子疑惑?

 私がだだっと侍従たん(もう本名で呼ぶのは諦めました。親愛こめてるだけなんだ、許せ侍従たん)に駆け寄ろうとすると、まあ当然と言えばそうですがお姉さまのまっちろな手が行く手を阻みます。


「だめよアディ。危ないわ」

「お姉さまっ……!」


 いやんきりっとしたお顔も素敵! じゃなくてですね……。


「お姉さま、この方を助けて差し上げないと!」


 侍従たんは味方ですよ! 唯一の! 信頼できる!

 いえ、爺ややウラシアが信頼できないってわけじゃないんですがこう、やっぱスペックの差と言いますか、侍従たんいるのといないのだとだいぶこの先のハードモード具合が変わってくるっていうか、ぶっちゃけいないと絶対詰むって言うか――。


「落ち着いてアディ。……この国の人間じゃないわ」


 あ、そうだったかも。侍従たんいろんな国の混血なんですよね。決め手は灰色の瞳なんですけどね。この国の人間は灰色の目なんていませんからね。


 ……そうそう、お父様とお姉さまの黒目ってのも、この国オリジナルの人間だったらまず持ってない色です。黒髪や茶色系の目ならそこそこいるのですが、ここまで真黒なのは本当に珍しいでしょう。


 なんでも、最初にお金で爵位を買った私の曽祖父にあたる方ですか? その方が、まあ有体に言っちゃえばですね、やっぱりお金で愛人囲いまして。曽祖父様はどうやら正妻さんの方とは子どもができなかったらしく、お父様お姉さまにも順調にその異国の方の色が受け継がれていると。だからでしょうかね、お姉さまのお顔立ちはちょっとこの国の人間としては特殊です。


 でも侍従たん、絶賛気を失ってお目目閉じてる最中ですからね。お姉さま、服装や装飾品から判断したのでしょうかね? ちょっと身に着けているものが違いますもんね。

 そういえば、さっきはランプって言いましたけど、よく見れば傍らで割れてるそれも、魔術が編み込まれた転移装置ですね。アレ使ってどっかから逃げてきたんでしょうね、たぶん。


 ……ううっ。なんとなく察知はしてましたが、やっぱり世知辛い人生送ってたんだね侍従たん……! こんなにボロボロになるまで……。


「お姉さま……この方、悪い方じゃありませんよ?」

「……どうしてそう言えるの?」


 うぐっ。お、お姉さまが真正面から覗き込んできてらっしゃる。でもここは、断言できますよ。


「女の勘です!」


 前世の経験と知識です!

 ――は、さすがに言えませんからね! 私お姉さまにも前世云々は話してませんから。


 いえ、実際には6歳のあの時に血迷いかけたのですが、すんでのところで踏みとどまりました。

 ……ふっ、虚勢を張るのはやめにしましょう。さらに訂正します。

 なんかこう、途中まで話しかけたのですが、聞いてくださってるお姉さまの瞳が慈愛にあふれた生温かいものにみるみる変化していきましてね。あれは冷水頭からぶっかけられるよりよっぽど効果ありましたわ。

 確かに客観的に見たらどう見ても頭湧いてるやつですもんね。ただでさえ木登りで心配かけてるのですから、これ以上お心を煩わせるわけにはいきません。なので私はその日から転生云々の言葉は一切封印しております。


 そんなわけで代わりに、大人がこれだったらちょっと顰蹙ひんしゅく買うかもしれませんが、私まだ8歳児ですし、いいですよねこんな答えでも?

 だって下手になんか賢そうなこと言ってみようとすると、お姉さま隙あればガチ論破してくるんだもの! 地味に大人げない! でもお姉さまだから仕方ないね私が諭されて毎回終わります!

 ……一回くらい、口論もしくは議論でお姉さまをぎゃふんと言わせてみたいです。ぎゃふんはいいです、単純に賢い子だねって褒めてもらいたいだけなのです。



 お姉さまは私の言葉にちょっとびっくりしたような顔で首を傾げられましたが、やがてふっと微笑みます。


「まあ。アディったら、おませさんね」


 ……あれっ。ひょっとしてなんかお姉さま、変なこと考えてます? いやその、原作に従うのなら正しいかもしれませんけど、別に私そこまで惚れっぽい体質じゃありませんよ? 侍従たんはそりゃかっこいいとは思いますが、見ず知らずの怪しい男って補正つけたら普通の私だったら今すぐスルーしますよ? この人が侍従たんだからこう、なんとしても生き延びてもらわなければならない理由が――。


「はいはい、それじゃお姉さまが内緒のキューピッドになってあげるわ」


 ちょっ、蠱惑的にシーってポーズするのはめちゃめちゃきゅんっと来ましたけど、絶対お姉さま勘違いしてる! なんかお姉さまの中のアデラリード像が今絶対原作に近いものに修正されている! 違いますお姉さま誤解です、別に私そんなチョロい子じゃないです――!


 って心の中で叫んでいる間に、お姉さまは侍従たんの近くにしゃがみ込んで何かつぶやいています。

 次の瞬間、ふわっと侍従たんが光に包まれて――なるほど、回復魔術ですねこれは! さすがお姉さま!

 私がやるよりずっと上手です。魔力もたっぷりお持ちですし、大人でも難しいような術もバンバン使えちゃったりします。


 回復魔術って一口に言っても、病気やけがの状態によって相当細かく呪文やら何やらが分かれているので、普通その全部は覚えていません。

 ですから私のような一般人ですと、参考書を片手に、ああこの場合だからこの呪文ねって確認しながらやるものなのですが、さすがお姉さま、迷いなく使ってらっしゃる……。というか実にさりげなく、症状をチェックするためでしょうか、相手の状態を探る目の魔術も同時に併走させている……。

 私がしょっちゅう怪我してそれを治す係がお姉さまだったからでしょうか。我が家はお姉さまがいらっしゃるので医者いらずです。



 そうそう。さっきのことですが、そんな見知らぬ男に倒れてるからって子供二人で近づくなんて、使用人の大人さっさと呼びなさいよって思った方いらっしゃるでしょう? お姉さまがちょっと強気だったのはこんな風に強い魔術が使えるからだと思います。

 ぶっちゃけ現時点でこのレベルですから、その辺の大人でも全然かないません。私を庇って返り討ちにするくらい余裕でしょう。慎ましやかなお方ですから、あまり人前で大っぴらに披露されることはないですけれど。


 ――恐ろしいのは、このお姉さまの、しかも8年後の力を以てしても、朕王にはまったくかなわないってところなんですが。

 あいつ公式チートにもほどがありますよ。なんですか、ほとんど全ての魔術を相殺できるって。そんじょそこらの攻撃は全部反射できるって。なんなんですか本当にあいつは! 化け物ですか! というか、魔力の量がチートなんですよ奴は。たとえるなら、お姉さまが人間の頂点だとするなら、奴の魔力は完全に人外の域に達してますからね! 術比べで互角に張り合っても、持久戦に持ち込まれたら確実にこっちが燃料切れで負けます。


 ……一応、アデラリードも主人公ですから、潜在的な能力は高く、最盛期なら朕王とタメ張れるかもないい線行くことも可能ですけどね。この時点だとまだ覚醒フラグがないので、全然凡人レベルなんですよね。初期状態だと、魔力については鍛えまくっても一定以上に能力値が上がらないのです。

 覚醒するには宮中行って、あそこに引きこもってる大賢者ルートをたどる必要があります。まあ今のところ――いえ宮中には行かないので一生無理です。魔術の範囲は、朕王に出会いさえしなければ普通にお姉さま最強ですし、お任せします。



 にしても、前からちょっとだけ思ってはいたのですが、どうもお姉さまの中では私はおバカキャラであって、それを越えようとするとさりげなく牽制されますね。

 あれ、今つらつら思いついちゃいましたけど、ひょっとしてお姉さま、これって計画的犯行ですか? 計画的に妹にキャラ付けしようとしてます? 自分好みに?

 やだ、私、お姉さま色に染められちゃう。ドキドキ。


 ――でもやっぱり、どうせ染められるなら、アホの子じゃなくて才女がいいですっ、お姉さま!

 ていうかひょっとして原作でアデラリードがやたらド天然だったの、お姉さまのせいじゃありませんか!? さすがお姉さま! だけどそれ死活問題なので、もうちょい頭のねじしっかりはまってる子にしてくださいお願いします!



 そんな風に、お姉さまが全部やってくださっているので私は心の中でうるさくしながら、見た目はおろおろドキドキ黙ってお姉さまを見守るだけの簡単なお仕事です。


 うん、最初は血の気のなかった侍従たんのお顔の色がずいぶんとよくなってまいりました。

 おっ、今うめいた! これはもう少し待ってたら起きるかも! よかったよかった、さすがはお姉さま。


 ……あれ? そういえば、結局介抱も全部お姉さまがやってて、私、今のところ本当に何も役に立ててな――。

 そ、そうだ! お水を持って来ましょう侍従たんのために! そのくらいならできます!


「お姉さま、私ちょっとお水持ってきますね!」

「あら、それだったら私が持ってくるから、あなたこの人見てらっしゃいな」


 いやあの仕事をください! このままだと私いらない子疑惑を払しょくできません! ってお姉さま早くも歩き出してるしっ――そうだ!


「こ、この方のために私が――私がっ! お水を用意して差し上げたいのです!」


 よっしゃお姉さま止まった納得した!

 お姉さまの中じゃ今の私はチョロインですもんね。ちょっと不本意ですが、まあちみっこい妹が初恋もどきに一生懸命だってことで理解してもらいます。


「あら、それなら、わたくしが邪魔立てしてはだめね。行ってらっしゃい、アデラリード」


 お姉さまの、やっぱりどこか生温かい視線に見守られつつ私は走ります。

 ……いいもん。侍従たんが助かるなら、何でもいいんだもん。なんか悲しい気分になんかなってないもん。

 私お水汲みに全力尽くすだけだもんっ……!




 ええ、この時の私は、思ってもみませんでしたとも。

 まさかこんな――こんな些細な私の意地が。


 思わぬ分岐につながるなんて……!

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