×× やくそくにしたがい
大きな大きな歯車が回っている。
仮面が一つ、その前に浮かんでいる。
どうして。
どうして、こうなってしまったの。
カタカタとその口が動いた。
わたしはだれかにあいされたかった。
それだけのはずだったのに。
ごうん、と歯車がゆっくり回転する音がした。
どうして。
どうして、わたしはここにいるの。
仮面の呟きは続く。
とっくの昔に壊れてしまった旋律を紡ごうとするように。
とおい、むかし。わたしはそのころ、まだだれかだった。
だれかだったわたしはだれかを××して。
だれかだったわたしはだれかに××されたきがする。
なにかとてもたいせつなことがあって、だいじなものをうしなった。
だからどうしてもとりかえしたかったの。
とりかえしたくて、なんども。
ああでも、でも。
もう、おもいだせない。
じぶんがだれだったのか。
どうしてこうなったのか。
なんのためにこうしているのか。
なにひとつ、わからない。
ごうん、ごうん。大きな歯車は軋みながら回る。
仮面は一人、静かにそれを眺めている。ただ、眺めるだけ。
ああでも、これだけはおぼえているわ。
このこころが、このからだが、たましいがすりきれようとも。
わたしがわたしでなくなったいまも。
わたしがわたしをわすれてしまったいまも。
ものがたりは、つづけなくちゃ。
仮面は笑う。まだ唱えることができた。
ときはまわり、はねははこぶ。
やくそくにしたがい、えいえんにつづく、しんじつのあいにちかって。
歯車を回しながらそれは歌っている。
片方の仮面の目から金の光がきらりとこぼれた。
ときよまわれ、はねよはこべ。
あのひとのもとへ、つれていっておくれ。
その約束を果たすまでは、歯車は止まらない。
けれど滑稽なことに、肝心の約束を誰としたのか、どんな約束だったのか。
何度も境界を超えたそれはもう、すっかり全部忘れてしまっていた。




