表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/197

2-3.わーお行き倒れだ――って、侍従たん!?

 お姉さまと一緒に――いえさりげなーくお姉さまを庇える位置をキープしつつ――ちょっお姉さま、だめえっ、そんな勇敢すぎます、ちょっと待ってちょっと待って足早い! ああそうか、思い返せばこのヒトもパラメータがデフォルトでカンストしてる口だった! ラスボスみたいなものだもんね! とても巧みに私を守るポジショニングを保ったまま、譲ってくれません! というか一生懸命やろうとすると「だめよ」って微笑まれたのであーもうだめです勝てませんうわーん……。


 ぐすん。アデラリードの第一回お姉さまの守護天使になるぜ計画は、ほかならぬお姉さまご本人によって打ち砕かれてしまいました。せっかく私のかっこいいところお姉さまにアピールできる機会だったのに!


 でもいいんです。今は雑魚なアディですが、8年後までにはお姉さまの立派なガーディアンになってみせます。そう、どんな男がお姉さまのところにやってこようと、お姉さまが私以外目に入らないくらい素晴らしい騎士に! ちょっと違いますね! どんな男でも追い返せるくらいの立派な騎士にが正解ですね!


 ともあれ。お庭の隅の音が聞こえてきた方をそっと窺ったお姉さまが、はっとその愛らしいお口を開きました。


「お姉さま――」


 私もちょっと遅れてそれを見つけて、お姉さまのドレスときゅっと握りしめます。



 どこから入ってきたのでしょう。うちのお庭に、人が倒れているのです。

 それもなんかこう、どう見ても一戦越えてきたらしい、ボロッボロの行き倒れの放浪者です。要するにばっちり不審者です、本当にありがとうございます。


 お庭の道の上に、ランプでしょうか? ガラス製のものが砕け散っていて、さっきの音は彼が倒れた拍子にそれを石の上に落したことが原因だったようです。


 私は注意深く近づこうと――して、やっぱりお姉さまに阻まれました!


 お姉さまぐいぐい攻めますね、その一方で妹は安全地帯にキープしてますね、ああなんてかっこいいの。でもやっぱりもう少し前に出してほしいです。このままだと私、何かあった時の盾にもなれません! さ、さすがにオープニングもまだですからこう、近づいた人がいきなり爆発してデッドエンドとかないとは思いますが、でも心配は心配です。というかお願いだから守らせて!


 そう思っている間にも、お姉さまはそっと倒れている人に接近して何やらいろいろ考え込んでいる模様。


 私もまじまじとその、深く落ち着いた青色の前髪(あーそうです前世ではありえなかった髪の配色が普通にあり得る世界なのです。実際8年も生きてみると違和感感じない不思議)の下の、ぐったりと気を失っているらしい放浪者の顔を見て――。


 顔を見て……。


 ……えっ。


「じ、侍従たん!?」


 あっと、私としたことが! 思わず声を上げてしまいました。

 お姉さまが訝しげな目を寄越したので、慌ててなんでもないと引きつった笑みを浮かべます。……笑顔なんて浮かんでないね、この顔引きつってるだけだね。ポーカーフェイスが来い! お姉さまのような武装スマイルよ来い!


 それよりもこっちですよこっち……や、やっぱりこの倒れている人――青年――侍従たんに間違いありません! サポートキャラ兼隠れ攻略対象者の侍従たん――もういい加減本名で呼んであげましょう。ついでに改めてご紹介いたしましょう。


 ディガン。彼曰く大層な出自でないゆえに、ファミリーネームは最初はありません。宮中で侍従として働き出すと、ディガン=クルルフィオとか名乗ってましたね。

 ただしこの名前は偽名であり、駆け落ち後のアデラリードにせがまれた場合のみ、本当の名前を教えてくれるらしいです。中のヒトは知らんのに。ずるいぞ前世のアデラリードよ。



 侍従たんに関しては、本編中でもなんとなくその正体や過去を教えてはくれるのですが、基本的に昔のことや自分を語りたがらない方なので、駆け落ち成功エンドを無事迎えた後も結構妄想の余地あるキャラクターだったりします。


 深い青色の髪に曇り空のような灰色の瞳というカラーリング。表情は基本的に伏し目か、やわらかでいながらどこか困ったような微笑み、そんなどこか物憂げな哀愁漂うお方。たまに怒ると無表情になり、美形なこともあってすごい迫力。泣くときは声を出さず、ただただ呆然と目を見開いて涙します。

 ……ねー。泣かせてごめんね侍従たん。あのイベントではマジで心が締め付けられました。ちょっと頑張って純愛貫こうとしたら、朕王に薬漬け後串刺しにされちゃったんだもんねアデラリード。ホント安定の朕王だよくっそ。


 ミステリアスな雰囲気と、家庭的なやさしさの同居する謎の侍従。

 そんな方が、今どう見ても行き倒れているこの青年の現在もしくは未来なのでございます――。



 あっ、そうか! これがもしかして、例の逸話なのか!


 私は混乱しつつも、侍従たんについての情報を頭の中からかき集めます。



 そもそもディガンというキャラは、初回ではとにかく謎なサポートキャラです。

 いつの間にかシアーデラ家に住み着いてた召使で、宮中にしぶしぶヒロインが連行されると、なぜか先んじて侍従として潜り込んでおり、敵の多い中何かと手助けしてくれます。

 絶対入るのも難しかったろう宮中の狙ったポジションを勝ち取り、その後もあっさり侍従をこなしてる上、ヒロインが何か聞くと大体知ってて教えてくれる――サポートキャラにしては高すぎるスペックちゃいますかってのに、態度はあくまで従順、献身的。正直朕王並みにスペック高かったと思う。魔力は低めだったけどね。……ああ、そういえば、彼も目を離すとよく死ぬキャラでした。気を付けないと。


 ともかく、最初はコイツ何者だよあまりにも出来過ぎだよ都合よすぎだよ絶対いつか裏切るよ、とプレイヤーを疑心暗鬼に陥らせたりもするキャラですが、彼との個別ルートに入るとちょっとだけ事情がわかるようになります。というか一瞬でも疑ったこと、全力で謝りたくなります。


 いわく、アデラリードの方は覚えていないのですが、侍従たんは昔彼女に命を救われたことがあるらしいのです。

 で、その御恩返しとかで一生尽くしてくれるわけです。ほかの攻略対象者の攻略も手伝っちゃったりしてくれるわけです。こんなお城もう嫌だ逃げたいと言うと愛の逃避行してくれるわけです。


 何このぐう聖。周りが鬼畜ばかりだから余計神のごとき聖人に見える。も、もっと我儘言ってもいいんだよ侍従たん? 私あなたの言うことだったら割と聞いてあげられる自信あるし、あれだったら他キャラのように闇の中でラプソディーしていいのよ!? 

 ……あっやっぱりやめてくださいごめんなさい。

 侍従たんの場合、アデラリードに差し向けられた刺客と闇の中で以下略しちゃう方だったもんね! エロじゃなくてグロ担当の方でしたね! 夜中物音がするから起きたら血まみれで絶賛処理中のあのイベントは本当に心臓に悪かったです。というか開口一番が起こしてしまってすみませんて、普段起こさずに片づけてたことに震撼しましたよ。すげえよさすが、ファンから与えられた二つ名ハイスペックNINJAを持つ男。さすがだよ。


 ちなみにこの子、なんとあの狂気の原作なのに、肝心のキスシーン及びエロシーンが駆け落ち後の一回のみなのです。基本的に駆け落ち前の宮中での侍従たんとのいちゃいちゃスチルは、一緒にいるだけだったり手を握ってるだけだったり、最大でもハグです。脱衣なんてもってのほかです。ラッキースケベシーンでは、ぽかーんとした後顔真っ赤にして脱兎のごとく逃げました。逃げたちょっと後に、しゅんとして謝りに戻ってきました。こっちが申し訳なくなるぐらいのガチヘコミでした。いや別にアデラリードの裸なんて大したもんじゃないし、そんな泣きそうな顔しなくても。


 まったく、このヘタレめ。だがそこが可愛い。

 とても朕王と同じゲームの攻略対象者とは思えないよね! マジ侍従たん癒し枠ですよ! なんでこの子がセンターじゃないんだよ本当に!



 にしても、本人はどうせほかに行くところないしあの時失っていたはずの命だから、なんて仰りますけど、あなたのような素晴らしい殿方が一生かけるほどの女じゃないと思いますよアデラリードは。自分のことですが。いや本当に申し訳ないです、優柔不断なチョロインで。でもそうしないと即デッドもしくは抵抗むなしく朕王NTRルートなんだもの。いろんな意味でごめんね本当に!


 で、そのアデラリードが覚えていない侍従たんを助けた出来事ってのが……たぶんこれなんでしょう。8歳の時だったのか。


 そういや侍従たん、年齢も不詳だったな。立ち絵と描写の雰囲気からして、見た目は20代後半って感じだったけど。本人に聞いても曖昧な微笑みしか浮かべられなかった気がする。それなりに年上だよってほのめかしてはいた気がするけどね。確かに10歳以上は年上っぽいですね、現時点ですでに大人の顔立ちしてますもん。


 ……うん、なんとなくわかってきた。そういうことね。ここで第一フラグを立てるのね。


 それにしても、なんでこんな割と劇的なイベントをすっかり忘れてたんでしょうね、原作のアディさんは。

 天真爛漫? まああの子ドジっ子ですし、抜けてる部分あるキャラだったからなあ……現世の私なのですがね!



 よし、状況整理が落ち着いたのならひとまず介抱して差し上げましょう。侍従たんのいないこの世界なんて、毎晩ずっと新月が続くようなものですからね! イン・ダークネスのままでしょうからね! なんとしても助けますよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ