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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
起:四天王制圧編~vsキルルシュタイナー
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2-06.決着の時です 前編

 私たちの立てた作戦は単純と言えば単純なものでした。

 私が待ち、ディガンがそこまでキルル先輩をおびき寄せる。言葉にしてしまえばなんて他愛のないことでしょう。しかもディガンがいかにも簡単そうに言ってのけるものだから余計に。


 けれど早くも、私はこの作戦を了承したことを後悔しつつあります。


 獣の声が響く。私は今すぐ走り出したくなりそうな衝動をこらえて、懸命にその時を待ちます。


 ……そう。

 うわあ、囮役の方に立候補しておけばよかった! それじゃ意味ないってわかっていてもさっきから何度もそう思っています。

 暴れ回ってる音は聞こえるのに、戦いの気配はすぐそこに感じるのに、待ってるだけなんて――これ結構辛い! 普段が割ととりあえず突っ込め戦法が多いだけに、待機が想像以上に合わない。


 でもそこで衝動のままに飛び出したらさすがにどうかと思うので、ハラハラしながらもずっと待ち合わせのポイントでディガンを待っているのです。

 いや、そこそこ自分が残念な頭の自覚はあるけどさすがに、あなたが心配で待ちきれなかったのとか、私にもできることがあるはず、的なヒロイン思考及び行動をかますつもりはありませんからね。そういう系のアホをやらかすつもりはないですから。どう考えても逆にフラグじゃない。

 心配でも、無謀に飛び出していって彼の気を逸らすリスクは冒せない。私が飛んでいくことで彼に対してしてあげられることもあるのかもしれないけど、その場合魔力が尽きる恐れがある。魔石のストックはもうない。あと残っているのは私の身一つ。……これ以上無駄撃ちするわけには、いかない。


 だから我慢、我慢です、アディ! 待っててって彼は言った。だから信じて待つんでしょ。

 大丈夫、ディガンはできる人。それにもしもがあっても、備えて仕込みはした。だから少なくとも一度目までは大丈夫……。


 何度も自分に言い聞かせていても、姿が見えていないのがだいぶ不安なのと、一人取り残されて考えを巡らせている間に、今更ながら彼も結構存在が死亡フラグだったことが何度も頭によぎって、獣が上げる咆哮が聞こえるたびにびくっと身体が跳ねます。走り出していきそうになる身体をぐっと抑えつけ、奥歯を噛みしめる。頭の中によぎりそうになる赤のイメージを必死に打ち消して、両手をぎゅっと握りしめます。


 大丈夫、大丈夫だから! むしろワンコの苛立ってる声が近づいてくるってことは、着実におびき寄せが成功しているわけで。それに冷静に考えれば、私と一緒にいる時よりも一人で行動しているときの方が、たぶん庇う必要がないからディガンの死亡率は減るわけで。というか義理堅い彼がそんな簡単に約束を破るわけがなくて。


 ああ、それにしたって――遅いっ! 何ちんたらしてるの、ディガン! 早く来て私にパスしてよ――。


 そこではっと思い至りました。

 そう、いくらなんでも遅すぎる――ということは、ひょっとしてわざとやっているの? もしかして、より当てやすくするためにスタミナ削ろうとか思ってる? ほとんど瀕死の状態にしてからじゃないと私の前に連れてこれないとか、そんな感じの事を思ってる?

 ……あり得る。ディガンなら大いにあり得る。


 うわあああ、適当なこと言って急がせとくんだった! 焦らなくていいから怪我しないでなんて余計な事言うんじゃなかった! 彼が焦らずじっくり挑むってことは、その分私が焦らされてるってことだった! その辺の相関関係をすっかり忘れていた、ぐぬぬぬぬっ……。


 それでもやっぱり、私がおろおろしている間にも争いの音と獣の叫び声は着実に近づいてきて。

 視界の端で風ではないもので揺れる木々が映る。


 早く、早く。


 落ちていく汗が鬱陶しいけれど、拭おうとするこの瞬間にもその時がやってくるかもしれない。瞬きも忘れ、呼吸すら止めそうな勢いで、音の方を見る――。



 ――来た!


 先に現れたのは待ちに待ったディガンの方。彼は目にもとまらぬ速さで木々を縦横無尽に――すげえ、私も山猿の称号を賜ってる身ではあるけど、さすがにあそこまでは行かない。さすがNINJA、アクロバティックに三次元を自在に行き来してる。

 キルル先輩が空を虚しく噛みしめると、ガチっと歯が合わさる音が響き渡ります。ディガンは一瞬前まで空中でその鼻先を危なげにうろちょろしていたのに、今はもうどこをどう移動したのか、ワンコが突っ込もうとした場所から右にそれた木の上に飛び移っていました。その調子で今までずっと翻弄され続けていたのか、すっかり苛立った、どこか疲れているようにも思える様子で狼が吠えます――。


 ふふふ、私にはかろうじて彼が何をやっているのか見えるぞ! NINJA装備を使ったワイヤーアクションですね。腕に仕込んだ彼の七つ道具(いや正確な数は知りませんけど、とりあえず色々持ってるから)の一つ、先っちょにカギ型のおもりがついてる長い鋼鉄の糸のようなものが隠密中のディガンの腕にはぐるぐる巻いてあって、おもりを相手にぶつけて攻撃したり、今みたいに枝にひっかけて空中移動に使ったりできるんですよ――。

 おい待て魔法有耽美中世ヨーロッパ風世界観だったはずだろ、方向性がぶれだしたぞなんで野暮な突っ込みはノーサンキューです。仮にも狂気と二つ名を賜る原作ですし、元から色々おかしな片鱗は見えていたじゃない。隠密とか従者じゃなくって、よりにもよってあだ名がNINJAだったあたりからお察しください。

 この間実際に経過した時間はたったの3秒ほど。私の思考がこの非常事態だからこそでしょうか、無駄に唸るぜ――って、そんなことは今心底どうでもよくて!


 キルル先輩が頭を左右に振り、ちょこまか逃げ回る彼を追いかけようとして――けれど次の瞬間、足元にいた私の方に気が付くと標的を変えて、一気に突っ込んでくる!

 間近に迫る、爪が月光にきらめいて――。


 けれど、彼の脚は届かない。

 がぐん、と私の前でその巨体の動きが崩れ、周囲の木々が一斉にみしみしっと鳴る音がしました。ワンコがこれまで以上に困惑の――そしてすぐに、怒りの声を上げます。


 よく見てみれば、ワンコの周囲にはいつの間にか包囲するようにディガンのワイヤー糸が張り巡らされていて、それにひっかかってちょうどワンコの左足が吊り上げられるように上がっており、つまり私の目の前に待ちに待った目標が来ていて――。


「アデラリード様!」


 彼が私の名前を呼んだのと、私がそれを知覚して叫んだのは同時。


「リベロ!」


 今度は驚くほど、成功のイメージしか頭に浮かんでいませんでした。惜しみなく両手から放たれた魔弾はまっすぐに宙を進み、そして狙い違わず、今度こそその左前脚に――彼女が彼のために精一杯心を込めて作った、未だ獣の姿になってもなお彼を守ろうとしているその健気なお守りに届き――腕輪は私の魔術を正しく受け取って、優しく強く輝きだす!



 私が今度こそ成功した、と思った時でした。ゆらっと何かが揺れる。

 それを私が認識して反応する前に、ぶん、と何かが唸る音に、バキっと崩れる音、それから視界いっぱいに広がる白銀の影――。


 あ、そうか。そうだよ。まだ終わりじゃないのに、私ったら何やってるんだろう。最後の悪あがきぐらい予想できたはずなのに。ようやく成功したって、気が緩んで。


 戒めを振りほどき私に飛びかかろうとしている妙にスローモーに動く白銀の手と、輝く爪。ああ、あれにこれから引き裂かれるんだ、今から動いたって間に合わないな、と私がなんとなく思っていると――間に割り込むように飛び込んでくる影。


 ドン、と言う音が聞こえました。


 次に私が気が付くと――温かいものに、強く強く、すっぽり包まれるように抱きしめられています。ふわりと広がって見えるのは、青の髪――。


「――ディガン」


 すっと全身の血が冷める感触がしました。ずる、と力が抜けて崩れそうになる彼の身体を抱きしめて、縋り付く。


「ディガン、ディガン――しっかりして、ディガン!」


 けれど私が半狂乱になる前に、彼は呻きながらも自分で体勢を立て直し――私に向かって優しく微笑みかけました。


「……大丈夫です、アデラリード様」


 私をしっかりと抱きしめていた彼の腕が緩められると、ぽろりと何かが私たちの間の地面に落ちました。

 それは正八面体の、結界を生み出す魔道具――私が作戦を始める前、ディガンに協力してと言った時に差し出して彼に渡したもの。ごく自然に受け取ってから初めて、そういえばこれは何ですかと首を傾げたディガンに、お守りですから持っていてと苦笑交じりに押し付けたそれには、最後の魔石から絞り出した魔力が込められていて――一度だけでも、衝撃から彼を守ってくれるようにと念じていたのです。淡い光を束の間放っていた石の塊は、地面に落ちると役割を果たしたとばかりに光を失い砕けます。


「お守りが、守ってくれました」


 彼はそう言って、私に背中を軽く見せてくれます。彼の服には今しがたつけられたのであろう、紛れもない深い爪痕が残っており、その下の肌にも――軽く引っ掻かれたような感じの傷がついていました。そのままだったら間違いなく、彼の身体をざっくりと深くまで抉ったはずの。


「ばかっ……!」


 でも私はそれを見て、安堵よりも怒りの方が湧き上がってくるのを感じます。

 ばっちり食らってるじゃない! 魔術で防御しても傷がついてるってそれ、お守りなかったら即死だったじゃない! 何が大丈夫ですか――全然大丈夫じゃなかったじゃない!


 罵倒の声が喉が詰まって出てこないのでとりあえず彼の胸板を叩いておきます。……微笑みながらされるままになってるのが余計にいっそう腹立たしいわ!


 ああ本当に、事前に仕込んでおいてよかった。これ以上ないほど鮮やかにフラグ回収しやがって、ディガンの馬鹿――いや、油断した私も悪いけど、やっぱりディガンの馬鹿――。

 ぽかぽか叩くのにもやがて疲れると、改めてディガンが私をぎゅっと抱きしめてきます。


「……一瞬、間に合わないかと思いました。ご無事で何よりです」

「私の台詞ですよ。どんだけ心配させられたと思ってるんですか……」


 そこまで答えておいてから、はっと我に返る私。


 いやいやいや、どさくさに紛れて何してるんですか、アデラリード!? 緊張とか緊張ブレイクとか、なんか色々あって混乱しすぎでないですか私。なんで自然にディガンとハグして――。


 馬鹿な、ハグだと!?


 私が慌てて身を放して逃げると、ディガンは少し驚いたような顔をしてから――やっぱり同じようにはっとした顔になって、気まずそうに目を伏せます。


「気にしないでください」

「は、はい」


 私がぶっきらぼうに言うと戸惑いがちの返事。


 いや別にその今のはあれだ、戦いを終えた友と友の互いの健闘を讃え合うあれであるからして、別に私が気まずい気持ちになる必要など皆無であり、つまりここはそんな場合によってはツンデレに聞こえなくもない発言をしている場合ではなく、落ち着いて冷静にディガンに微笑を返しておくべきところであり、つまり今すぐにでも行動の言い訳を始めるべきであり、あれでもそんなことしたらますます言い訳じみてないか、って何に対する言い訳ですか、ほらディガンの顔見てにっこり笑うだけの簡単なお仕事、無理ですこの状態で直視なんかしたら私蒸発できる自信が――。


 駄目だ。途中から自分でも何言ってるのかわかんなくなってきた。とりあえず顔が熱い。あと心臓うるさい。


 ……落ち着け、アデラリード! 私なんか、一番大事なこと忘れてる――って、あ。


「そうだ先輩、キルル先輩は!」


 いかん、落ち着いたからってすっかり本題の方を忘れてた! 私ったらたるみすぎ!


 思い出して慌ててワンコの方を見ると――相変わらず狼姿のままではありますが、先ほどとは明らかに目つきが違って彼は森の中に立ち尽くしていました。視線は自分の左前脚に――きらきらと輝く石と紐で作られた腕輪に向けられています。


「キルル先輩――私がわかりますか、先輩」


 呼びかけると、ゆっくりと獣の目がこっちに向きます。ディガンがさりげなく私のそばにきて、私と先輩の邪魔をしないように、それでも何かあったらいつでも動けるような体勢になったようですが――その必要はないと感じました。すっかりその目からは戦意や殺意がなくなり、途方に暮れたような雰囲気がしていました。


「あで、る?」


 獣の口が開き、そこから聞きなれた声が漏れると再びの安堵で身体がくたっとしそうになりますが――先ほどのことはありますし、ある意味ここからが本番。私は気を引き締めてぐっと身体に力を取り戻すと、彼に呼びかけます。


「そうです、アデルです。わかりますか?」


 獣は一度口を閉じると、ぶるっと身を震わせます。しばらくガタガタと小刻みに震えて――何事かとぎょっと目を見開いて身構えている私たちに、やがて動きを止めて向き直ります。彼は私たちの視線に合わせるように顔を地面に低く伏せると、囁くように言いました。


「俺を殺してくれ、アデル」


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