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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
起:四天王制圧編~vsキルルシュタイナー
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2-01.ふざけた話ですよね

「……ゲーム? ゲームって、なんですか?」


 ようやく立ち直った私が震えを抑えてそう言葉をかけると、フラメリオは何かぶつぶつ文句を口の中で唱えていたかと思うと、やがて肩を竦めてからこちらに向き直ります。彼の顔は今やすっかりと表情を失って、無機質な彫像のようになっていました。


「あのオープニングの時点で確かに嫌な予感はしていたが――軌道修正をしたのにさらに悪化してしまうとは、正直呆れを通り越して感心すら覚える。フラグブレイクどころか、まさかモブとフラグを重ね、しかも手順を無視してエンディングに至ろうとは。あがきもがき苦しむ、その過程における自由裁量は君たちの正当な権利であるが、今回は明らかにそれを逸脱している。このシナリオは認められない。よって我々は二度目の介入を行う必要があると結論付けた」


 私があんぐり口を開けたまま立ち尽くしていると、フラメリオは容赦なくいつもより数段電波率の高い言葉を連ね、突き刺してきます。


「しかし、前代未聞の事故を嘆く声がある一方で、この新しい流れを歓迎する声もある。そこで協議の結果、我々は逸脱者たちにゲームを課し、その結果により対応を決定することにした。本空間はそのために用意された専用ステージである。マップのどこかにゲートが存在し、そこから脱出することが可能である。脱出者は勝利者とみなし、これまでの行いの一斉を不問に処す。元の世界に戻って元通りの生活を営むがよい。ただし、ゲートをくぐることができるのは一名のみであることを留意されたし。通過できずに残った二名は敗北者となり、ペナルティを負う」


 はー、と盛大に溜息をついてから、フラメリオはなおも震える私にやる気のなさそうな顔で話しているのです。


「また逸脱者三名には同時に、キルルシュタイナーの本来のイベントもこなしてもらう。ゆえに狼を制した場合もゲーム終了となるが、この場合のみ特別成功報酬としてゲートの人数制限を解除する。さらに、もしもプレイヤーが身体的および精神的苦痛等によりゲームが続行不能な状態に陥った場合、あるいは棄権を申し出る場合、敗北者として処理される。三名のうち二名が敗北者となった段階で、残り一名は自動的に勝利者の権利を得る」


 眠たそうに半分ほど目を閉じ、どこか不機嫌そうに眉に少し皺を寄せながら、いつも以上に抑揚のない声が淡々と続いていたかと思うと――ようやく、彼は話を終えたようでした。一つ大きく瞬きをしてから、改めて私に向き直ります。


「――だ、そうだが。大丈夫そうかね」


 私はたっぷり数十秒沈黙してから――ようやく、言葉を見つけました。


「大丈夫? これの――これのどこに、大丈夫になれる要素があるって言うんですか!?」


 声が震えていますが、それは異様な雰囲気だったフラメリオに対する恐怖よりも、今のあまりにも理不尽な状況に対する怒りによるものでした。大賢者の方は私の吐き捨てるような言葉に首を傾げています。


「怒ってるのかい、アデル?」

「当たり前です! 黙って聞いてれば勝手にわけのわからないことをべらべらと――ゲーム? 馬鹿にするのもいい加減にしてくださいよ!」


 フラメリオはやれやれ、とでも言いたげに大きく息を吐きます。


「逃避も拒絶も結構だが、それで損や後悔をするのは君の方だと思うよ。吾輩はきちんと君に言うべきことを伝えている」

「ふざけないで――」


 勢いのままになおも食って掛かろうとしたその瞬間、ヒュンっと空を切る音がして私の頬を何かがかすめていきました。続いて感じる痛み。また、直後すぐに連続する何かが突き刺さる音。それから最後にズドンズドンと二回重たい衝撃が左右から響いてきました。


 我に返ると、フラメリオが上げた片手を下ろしたところです。私の周りをふっと見渡してみると――身体の両脇、ほんの一歩踏み出せば届く場所に、私が三人ほどいれば抱えきれるだろうかというような直径の氷の柱が、見上げれば高く高く周りの木々を越える程度にまで出現していました。次に地面を見てみれば、少々大き目の針のようなものが無数に両足のすれすれの地面にささっており、そこからぴしぴしと音を立てながら氷が広がっていきます。頬をかすめて行ったのも同じようなものだったのかもしれません。四方八方から漂う冷気。あっという間に、私は氷の群れに囲まれていました。


 黙り込んだ私に、静かに師匠は言います。


「そうキャンキャン喚き散らすものではない。付け入られる隙が増えるぞ。大体、こういう場合に激しい動揺を見せていいのは、そうすることで相手が助けてくるような場合ではないのかね。残念ながら、吾輩は君がどれほど心を動かそうが、理解はできても共感はできない。()()()()()のだからね。同情で優しくしてほしいのなら、別の誰かにやりなさい」

「……そんなつもりじゃ――」

「ならばなおさら、止したまえよ。吾輩は若者なら弟子にすることもあるが、赤子ならお断りだ。動物と大差ないからね」


 先ほど電波語を連ねていた時よりもさらに冷ややかに言ってのけてから、フラメリオはふうっと息を吐きます。


「それに、吾輩はあくまで伝言係にすぎない。吾輩に負の感情をぶつけても、この状況はどうともならないよ。今の君の行動は無意味だ。……冷静におなり」


 私はしばらく彼を穴のあくほど、強い眼差しで睨みつけましたが――やがて怒らせていた肩を下ろし、彼に倣って深く息を吐き出します。こちらの頭が冷えると同時に、瞬時に氷の群れは消えてなくなり、森はもとに戻ります。気のせいかもしれませんが、空気もどこかやわらかな感じになりました。


「いい子だ。落ち着いたね?」


 拳を握りしめて頷くと、それでいい、と師匠は口角を上げます。


「……先ほどの話をまとめると、私はゲームをしろと強いられているわけですね」

「そう」


 ギリッと、噛みしめた歯が鳴る音が聞こえます。私は自分で自分をなだめながら言葉を絞り出しました。


「一体どこの誰がこんな馬鹿げたことを? 我々、とは誰の事ですか?」

「主催者の正体を知りたいと言うことかな、その質問は」


 頷いて見せると、フラメリオは顎に手をやって少々考えるポーズになりました。


「この状況を望んだ存在、ね。具体的な人物名を挙げることは吾輩にもできない」

「言えない理由があるんですか?」

「別に肩入れしているわけではないよ。吾輩はあくまで中立でいたいと思っているからね。だから単純に、定義の問題なんだ。今現在君が直面しているこの状況は明らかに魔術や魔法を以てしても異常事態だ。これほどまでに強力で繊細、かつ悪質な奇跡を司る力は人間には持ちえない。肉体の器の問題でキャパーオーバーだからね。それができる存在が仮にいるのだとしても、もはや人間とは呼ぶことはできない。あれに個人名はない。もはや一つの概念のようなものだからね」


 私は必死に師匠の電波用語を頭の中で解読しています。ああくっそ、今だけあの翻訳カラスを召喚したい――かもしれない。幸か不幸か、彼はこうして私がうんうん悩んでいても、面白そうに観察しながらのんびりと、次に言う事を待っていてくれるのですが。


「……つまりそれは、この世界の神様みたいなものですか? そういったものが、ゲームを期待していると?」

「ひとまずはその理解でいいと思うよ」


 フラメリオはそう言ってから、またも首を左右に振ります。


「やれやれ、この間までは勝手に喋りかけてくるだけだったから気楽なものだったんだが、今回は無理矢理出動させられたよ。少しだけリオスの言ってたことが分かった気がするね。作業途中で強制召喚とはまったく気の利かない奴らだよ。あそこからが一番いいところだったのに……」


 ……あっ。もしかして師匠がさっきすごい勢いでプレッシャー放ってたのって、これが原因じゃない!? 今話している間に、明らかに空気が悪くなっていってる!

 なるほど。文句の切れ端から推測するに、たぶん彼は趣味に没頭真っ最中でここに強制転移でもさせられたんですね。実験か、錬成か、それとも材料集めかな。何にせよ、一番邪魔されたくないタイミングでやらかされたから、最初に会った時にあんな異様なプレッシャーを醸し出していたのか。私はだから、とばっちり食らったも同然ってわけか。さすが師匠、いつでもどこでもマイペース。なんかだいぶ力抜けたな……。


「ゲームとやらのこと、確認させてもらってもいいですか。脱出するか、キルル先輩のイベントを終わらせるかが終了条件なんですよね」


 フラメリオが肯定の声を上げるのをなんとなくぼんやり把握しつつ、私は頭をフル回転しながら質問を続けます。


「脱出口を通過すれば元の世界に戻れる。でも、デフォルトの脱出口は一人しか通過できない。ただし先輩を制する――正気に戻すことができたら、全員が通過できる入り口が出現する。そういう理解で正しいですか?」

「制するとは戦闘不能にすることと同義だから、殺してしまってもいいんだよ、アデル」

「……なるべくそれはなしの方向でお願いします」


 にこやかに告げられた物騒な言葉にぐっとくる感情を抑え込んで、私は忙しく思考をめぐらせています。


「棄権も敗北者カウントってことは、ゲームをしないと言う選択も負けの理由となる。ペナルティとはつまり――死ぬってことですか」

「端的に言えばそうだね。ちなみにその場合、元の世界には肉体も魂も戻れないから、永遠の行方不明として処理される。アデル、だから敗北者になんてならないでくれよ。この特異空間で死なれたら魂も肉体も回収できない。それは吾輩が困る。非常に困るよ、君」

「……ちなみに今思いついた他愛のない事なのですが、私が死んだら死霊魔術で呼び戻そうなんて、まさかあなた考えてませんよね?」


 ここに来て能面みたいな気持ち悪い笑顔だった師匠が、別の意味で気持ち悪い、心からの無邪気な微笑みになりました。


「何を言ってるんだアデル。やらない理由がないじゃないか。リオスも君も、死んでも吾輩の弟子だから安心してくれたまえ」

「何その悪魔契約もどき聞いてない、しかもどこにも安心できる要素がない――というか、私たちの意思は!?」

「リオスは半分諦めたと言っていたし、君も潔く諦めればいいんじゃないかな」

「いやそれつまり、半分は兄弟子リオスも逃げる気満々ってことじゃ――なんでもないです。えーとそうじゃなくてですね、ほら! 世の中には禁術と言う、やることやればできないわけではないけど、やらかすと周囲に多大なる被害をもたらす、もしくは人道的にアウトなので使ってはいけないという魔術があってですね――いや、弟子が師に言う事じゃないですよね、これ!?」


 私が冷や汗ダラッダラで言うと、フラメリオはどこかとぼけたような調子で返します。


「それは人間の作ったルールだ。四分の一が人外に由来する吾輩には不適当だと思わんかね。何、禁忌を犯したところで多少気候が荒れ魔獣があふれるだけだ。人間は図太いから少しぐらい環境が厳しくなっても大丈夫だよ。……6割くらい数は減るかもしれないが、まあ特に気にするほどのことでもあるまい?」

「とても気にしなければいけないことだと思うんですけど、その辺の認識は我々の間の越えられない壁なのでしょうねっ……!」


 さすがマイペースマッド。ナチュラルに人類の敵。リオスさん、あなた人間の王様なんだからもうちょっとこの危険人物の手綱握っておかないと、国とか民とか色々危ないんじゃないんですかね。

 一瞬気が遠くなりかけましたが、なんとか戻ってきて気になることに確認作業に戻ります。


「キルル先輩は今獣化してますよね。そのままゲートを通っても人間として戻してもらえる――なんてわけには、やっぱりいきませんか」

「狼のままくぐったら当然あちらでも狼のままだ。おそらく一生治らないね。ただし、キルルシュタイナーは今のままではゲートをくぐれない。君たちのどちらか、あるいは両方を殺すか、人狼を制して正気を取り戻すか、戦闘不能状態に陥るかのいずれかによって通過が可能になる」


 ……つくづく趣味のよろしい神様だことで。聞いているうちに再びもやもやと心の中に黒い感情が湧きだしてきますが、師匠の言う通り、ここで爆発しても何もいいことなんてない。噛みしめた唇がピリッと痛み、鉄の味が口の中に広がった気がします。


「それは阻止しないと。そんなことになったらキルル先輩だけじゃなく、いろんな人が苦しむことになる――」


 言いながらはっと気が付き、私は顔を上げました。


「そうだ、フィレッタ。彼女のことはどうなっているんですか? プレイヤーは私、お姉さま、先輩の三名だったはず」

「キルルシュタイナーの予期せぬ想い人のことかい? だったらあれは有象無象の一人であり、重要な決定に携わるには役者不足というもの。そもそもかかわったことが間違いなのだから、神聖なこの場にだって立ち入る資格はない――とのことだよ。繰り返すが、ここで怒っても無意味だからね、アデル」


 フラメリオの宥めるような声に、再び衝動を我慢しますが、思わず唸ってしまいます。


「わかってますよっ! ――でもそれは好意的に解釈するのなら、彼女はつまりお咎めなしってことでいいんですよね」

「そういう解釈も可能だね」


 ほう、っと息が吐き出され、少しだけ身体にかかっていた負荷がなくなった気がしました。あちらの言い分には今現在も虫唾が走る思いですが、フィレッタが巻き込まれてないのは素直に嬉しい。恋人が狼になって襲い掛かってくるなんて間違いなくトラウマものですから、心優しい彼女がこんなひどい目に遭わなくてよかった。それにもしも彼女がプレイヤーだった場合――身も蓋もなく言ってしまえば、彼女は足手まといになりえる。お姉さまだったら多少は自衛の心得があるでしょうが、フィレッタはドジっ子だし、運動神経いいとは言えないし、体力ないし、魔法は使えないし、おまけにメンタルだってそこまで強いとは――ごめんよ、フィレッタ! なんかすごいボロボロに言ってるけど、あなたが悪いんじゃなくて――だって、れっきとした箱入り娘の貴族令嬢なんだもの! 平常時でこそ輝く美徳の持ち主なんだから仕方ないんですよ、うん。逆になんだろう、そこそこ似たようなポジションを得られたはずなのにバリバリ戦闘カモンな私の方がおかしいだけですから、うん。


「あと、あくまで参考に、なんですけど。もしも先輩に私達二名が食べられるような事態になったら、その後はどうなるんですか?」

「その場合もイベント終了だから、キルルシュタイナーが勝者とみなされゲートが出現することになる。殺戮衝動が満たされたことで獣化も一応は解けるだろうね」


 ……もろにバッドエンドルートをたどるってわけか。まあ、そうなるよね。

 私がどんよりとした顔になっていると、不意に師匠が目を細め、すっと腕を上げて私の左後ろの方を指さします。


「ゆっくりしていられるのはここまでみたいだね。……準備をした方がいいんじゃないのかな」


 ――すぐに私にも聞こえました。オオン、と夜の森に響き渡る獣の声に共鳴するように、ざわざわと木々が鳴ります。近づいてくる獣の気配に身体がぞわぞわと反応し、私は素早く周囲を見回して――これだと決めた木に駆け寄り、さっさと登り始めます。三つめの枝に足をかけたところで振り返って様子を見ると、面白そうにこちらを見ていた師匠がぽん、と手を打って話してきます。


「そうだアデル。一つ覚えておくといい」

「はい?」

「君のサポーターは優等生だが、君が共存を望むのなら劣等生だ。生かしておきたいのなら、目を離し過ぎないことだね」


 電波的ヒントが解読しきれなかった私が非常に微妙な顔になると、穏やかな微笑が返ってきました。


「健闘を祈っているよ。――では、吾輩はここで」


 その言葉を最後に、賢者の姿はふっと掻き消えました。……まあそりゃ、あの人がゲームに参加したらパワーバランスがおかしくなりますからね。説明役が終わったら帰るのも当然か。――あれ? 私は一瞬違和感を覚えますが、直後すぐにそんな場合ではないと思い直して木登りを再開します。ひとまず姿が隠れる位置まで到達して、あとは静かに彼を待つ。


 ――はたして間もなく、少し前まで私たちがいた場所に、銀の毛並の狼が唸り声を上げながら姿を現しました。

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