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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
起:四天王制圧編~vsキルルシュタイナー
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2-10.天然×天然の次はお前か駄ワンコ二号!

 結論から申しあげましょう。

 先輩、大勝利です。と言うのも、実はフィレッタの方も彼のことを知っていて――まあこれは孤高の銀牙さんだから別にそんな驚くほどのことでもないですが――憎からず思っていたのでした。その辺の詳しい経緯を聞いていて気が付いたんですけど、彼女私の時と言い、なんか筋肉オタクの節がありますね。自分にないものだから憧れるのかしら? そういえば思い返してみれば、前に一緒に着替えた時も、妙に腹筋や上腕二頭筋やらに騒いでいた気が。さらにちゃんと思い返すのなら、そう言う事があるたびにことごとくスルーか否定してきちゃったね、てへぺろごめんなさいなんですけど――馬術試合とか公開模擬戦だとかのたびに、フィレッタは毎回キルル先輩チェックしてましたね。私が先輩に冷たい空気を出していたのを感じ取ったせいで、彼女なりに気を遣って私の前では話題に出さないようにしていたらしく――結果、いやそんなの寝耳に水です、あんたら元からほとんど両想い状態だったんかい、な今の状況になったわけですが。

 うん、少しでも威圧したら喋らなくなる友人なのに、積極的にキルルウルル兄弟の話題を封じた私が悪かった。あと、攻略対象者とモブっ子にフラグなんて立ちっこないって先入観も悪かった。もっとこう、臨機応変に行かないとね。


 ともかく、びっくりするほどとんとん拍子に話が進み、彼が一大決心をして最初に図書館の妖精さんに声をかけてから早2週間ほどが経過していますが……。


「それでね、アデル君……」


 ほんのり赤く染めた頬を両手で押さえつつ、フィレッタは今日も今日とて先輩についてのあれこれを私にとつとつと報告しています。なんでしょうね、この非常にデジャビューな状況は。


 他の人に聞かれると恥ずかしいとかで、お付きのメイドさんたちにはちょっと部屋の見えない場所まで離れていてもらっています。適当な小部屋の丸テーブルを囲んで二人のお茶タイムのついでに恋バナを披露されている私。でもフィレッタは大事な友人ですし、美少女なのでそこまで突っ込みを入れる気にはならない。なんかこう、ただひたすら見守ってます。

 ……先輩が暖色系が好きだからとかで、以前はブルー系や黄色系を着ていた彼女のドレスが最近ピンク系になってきてますねえ。しかも彼の目の色と合わせるかのような色合いに。ブルータスお前もペアルックか。いや違う。私は何を言ってるんでしょう。現実逃避が始まってますよ、しっかり、アディ。

 フィレッタのサファイアブルーの瞳がキラキラと、彼女がはしゃぐたびに光って弾けます。


「お花をくださったの! 私の大好きな、ムーンジュエリー――ああ、次の満月が楽しみだわ!」

「それは――良かったです、ね」


 やばい素直に喜べない。ムーンジュエリーって、その名前の通り満月の夜だけ宝石みたいに咲くって超ファンタジーな感じの花じゃない。まあこういうロマンチック系この子大好きだからプレゼントとして大正解っちゃそうですけど――どうせ本人じゃなくてまたあの糞腹立つライオントサカ髪野郎の入れ知恵なんでしょうけど――ともかく、彼の事情的に大丈夫なのでしょうか。うっかりお花デートとか誘われたら、フィレッタが即死コースじゃないの。あ、抑制薬あるからセーフ? どうなの? ワンコめ、ちゃんとその辺考えてるんでしょうね!

 つうっと背中を冷や汗が伝っていった気がしますが、気を取り直して私は悩める乙女の呟きに耳を傾けます。


「でも、お返しにわたくし、何を差し上げたらよいのかしら。殿方の喜びそうなプレゼントなんてその、さっぱりで……」

「あー……んんっ、えっと。フィレッタの好きなようにすればいいんじゃないですか?」

「す、好き!? やだ、アデル君ったら!」


 ははーそこで過剰反応するかー、りんごほっぺにしちゃってまーホントこの子は。

 私は落ち着くために一回深呼吸してから、表情筋に再び活を入れて笑顔を作り、考えながら提案します。


「……参考までに。まあ食べ物だのネクタイだのタイピンだのちょっと捻って本だのって感じに無難に攻める手もあるんですが、せっかく先輩は武人なのでそっち方向で行ってみましょう」

「ええと、つまりどういうこと?」

「我々も友人でプレゼント交換なるものをしたことがありますが、その時にかなり好評だったのがグローブや籠手など手を覆うものでしたね。鍛錬やってると、地味に消耗するので。もらったら嬉しいですが、邪魔ってことはまずないかと」

「グローブ……それだとオーダーメイドの方がいいのかしら。手袋くらいだったらできそうなのだけれど……」

「おや、フィレッタが作るんですか?」

「だ、ダメかしら? わたくし、お裁縫くらいしか特技がないもの……」


 何気なく尋ねただけでこの子は真っ青になります。いやいやいや。そんなオーバーに反応しなくても大丈夫ですって。

 私はさっきから色々と倒したり落としたりしそうになっている友人から、さりげなくテーブル上の食器や茶器等々を守りつつ、ひと段落したところで紅茶をいただいてお茶を濁します。うん、うまいこと言った自分。こうでも思ってセルフ冷却してないと、喋り手に飲まれてこっちまでのぼせてきそうですから、しかたないですね。


「いえ、非常に有効だと思います。そうですね、でしたら防寒具を編んでみたらどうです? ああでも、今から作ったんじゃ季節が違っちゃうか――」


 って言っている間にも、あぶなっ! フィレッタがそれまで話の合間にせわしなく弄っていた小箱が、彼女が手を動かした拍子に机の端から落下しかけ――私は手を伸ばしてなんとか受け止めます。おっと、受け止めるのには成功しましたが、少し蓋が開いてしまったようで、はみ出しそうになる中身を私は直そうとして、思わず凝視し――。


「だめえっ!」


 ふっ、甘いぞ万年引きこもりドジっ子! そんな風に愛らしく手を振り回すだけでは、訓練を積んだこのアデラリードから小箱を取り戻すなど――あ、ごめんごめん速やかに返します、お願いだから泣かないで。さすが小動物さすが強い。

 敵のあざとい戦略の前にあっという間に降参した私ですが、まあ――今のを追求しない手はないわな。


「ひょっとして、お守りですか? 手作りの?」


 手作りらしい腕輪が二つ、小箱の中にはしまわれていたようでした。五色の糸の編み込みに、五色の石の組み合わせ。――うん、私もなんとなく知ってる。この世界にあるおまじないの一つですね。まあ前世におけるミサンガのようなものだと思ってください。それをフィレッタは抱え込んで、悲鳴のように私に一生懸命弁明しようとします。


「ち、違うのこれは! 別に所有者の加護だけじゃなくて縁結びのまじないなんかこもってなくて、恋愛成就のためのお守りなんかじゃなくて、二人がそれぞれ手首に結び付けてお互いを偲び合うとかそんなものじゃなくて――」

「落ち着きましょうかフィレッタ。私が聞く前に全部自分で効果を喋ってますよ」


 我が友人ながら見事な自爆であった。再びお茶をずずーっとする私――あっいけないまた音立ててる――そして口を開きかけたまま、目を回してぷしゅーと空気が抜けているフィレッタ。私はふっと息を吐いて、おもむろに二つで一つのセットらしい腕輪をぎゅうっと胸にしている彼女の片手をとり、自分の両手で包みます。もう彼女の中で答えは出てるんだもの。だったら、後押ししてあげるだけ。


「いいじゃないですか。行っちゃいましょうよ、それで。先輩に渡しちゃいましょう?」

「で、でも――」

「何か問題でも?」

「だ、だって――アデル君の、いじわる! 出来上がるまでにはそれなりに時間が必要だもの。だからつまり――わたくしが前からあの方に憧れていたこと、わかってしまうわ」

「何の問題もないと思うんですが、それは」

「いや! 恥ずかしいの! だってわたくしそんなことしたら、明日からキルル様のお顔がまともに見れないわ!」


 まあまあこの子ったらすっかり赤くなってしまいまして。……今まで一生理解できないと思っていた全国のドエスの皆さんの心境が、ほんの少しだけわかった気がしないでもない。私は自分でも悪い笑顔してるんだろうなあ、と思いつつフィレッタに囁きます。


「フィレッタ、知ってますか? 先輩って結構モテるんですよ」

「――うっ」

「お姉さまもいい男ねーなんて仰ってましたし」

「スフェリお姉さまが!?」


 うん、嘘は言ってない。いいひとね、って無難な社交辞令挨拶してただけですけど、褒めてたもん。


「なにせこわーい侍女のお姉さま方にも幅広く人気者ですからねえ。あなたがこうしてもたもたしている間に、誰かについうっかりぺろりと食べられちゃったりして」

「ぺ、ぺろり――!?」


 ま、本当に先輩をぺろりできるような方はお姉さまぐらいでしょうから、心配いりませんけどね。先輩の天然回避は威力高いですからね。想い人以外には難聴系主人公かお前はって能力発揮しますからね。

 よし、もうひと押し。私は手にぐっと力を込め、


「恋は戦争、女は度胸ですよ、フィレッタ」

「……ええと、よくわからないけど――ありがとうアデル君。わたくし、頑張ってみる!」


 くっそう、ちょっとかっこよく決めたつもりだったのに、しまらないですね!


 無事に友人を焚き付けることに成功した私は、勇ましくきりりと顔を引き締めさせたフィレッタが、ちょっとこけそうで心配にさせられる足取りで、でもしっかりと部屋を大急ぎで出て行ったことを確認すると、盛大に脱力しました。……ここ最近、大体こんな感じなんですけど。もうゴールしてもいいかな。なんかこう、大いに精神値が減った気がする。





 そしてその一週間後。


「アデル、聞いてくれ!」

「あんたは許さん!」


 まったくもう、次から次へとこいつらは!

 非番の人たちと一緒の訓練を終えた私のところに走ってきた喜色満面銀髪ワンコに、ついつい態度を厳しくします。美少女は可愛いから許す。あなたはもっと自重するべきだと思うの――あっほら、今まで周りにそこそこ人がいたのに、ここ最近あなたが私に駆け寄ってくるたびに空気を読んだように遠巻きにするんだから! ……まあ、私の人徳のなせる業なのか、それともウルル含めた今までのやり取りなどからして武官のみなさんは把握済みなのか、浮いた噂を流されないのだけは救いですが。嫌ですよそんな、余計なところでフィレッタとの友情崩壊したら。もしそうなったら先輩を恨みますよ。

 ……よし、さりげなく怖々見直してみると弟の方はいないな。まああいつが出現するのは大体こう、もっと人目のない時を狙ってやってくるしな。ならばなりふり構わず逃げ――ごほん、戦略的撤退する必要はとりあえずないようですね。

 ごしごしとタオルで汗ばんだ肌をぬぐいながら、私は先輩に小声で――でも結構強い感じの語気で――訴えかけます。


「まったく、こっちはもう、初めての出来事にドッキドキ☆乙女のスーパー告白タイムでSANがすごい勢いで減って気力がないんですよ。そこに加えてあなたまで、そんな恋するワンコパワー全開でぶつかってこられたらたまりません。だからこれ以上はもう勘弁してくださ――」

「すまんやっぱりお前の言ってることは半分くらいわからん――あのな、フィレッタが、フィレッタがプレゼントをくれたんだ!」

「知ってた! というか聞きなさいよ! あと大の男が、たかがプレゼントごときでそんな大はしゃぎするんじゃないです!」


 ところがどっこい、恋に浮かれる幸せ満面なワンコには些細な吠え声なぞ届いていないようだ。半ばあきらめながら私が傾聴モードに入ると、先輩は銀と桃色の石が輝く腕輪をつけた左腕を、私の前でぶんぶんと振って見せてきます。


「すごいんだ、手作りで――しかもお揃いのお守りなんだ」

「はいはい、良かったですねえ……」


 私が若干投げやりに言っても、先輩は特に気を悪くしたりする様子は見せません。離れていく様子も見せません。くっそう。


「アデルは知ってたってことは、やっぱその……フィレッタから相談を受けたりしたのか?」

「まあ、一応私達は友人ですし」

「そうか――」

「言いませんよ、フィレッタが私にしていた相談内容だの、プレゼントを選んでいた時の愛らしい様子だの」

「なぜ俺がこれから聞こうとしていたことがわかった。そしてやっぱり愛らしかったのか、そうか――」

「あっしまった、私ったら自分で馬鹿やった――」


 しかし、びっくりするほどうまく行ってるよなあ、お二人さん。もう公認バカップルになる日もそう遠くないんじゃ――。


 これだけで十分嬉しそうな先輩に早くも妙な徒労感を覚えつつ、不意にワンコの気配が不穏になったので私も構えます。


「アデル」

「なんでしょう」

「本当に驚いたよ――まさかフィレッタがお前の友人だったなんてな。それで思うんだが、やっぱり俺らというかディザーリオ家とお前ってけっこう縁が深いわけで、その――」

「ウルルの差し金ですね、やめさせてください」


 私は言いながら、周囲へのサーチも同時進行で既に始めています。先輩のスーパー告白タイムを聞いていた時は完全に湖で二人きりでしたので心配いりませんでしたが――状況的に、やばい。せっかく今まで安全地帯だったのに、先輩のフラグのせいでワンコ弟の出現率が上がっている。あの地獄耳ワンコは兄に話題に出されると、示し合わせたかのようにどこからともなく寄ってきますからね。なんなんですか。光に吸い寄せられる蛾ですかあいつは。


「……ダメか?」

「何度も言ってるじゃないですか、もっとまともな女を見つけなさいと」

「お前は普通にいい女だと思うんだがなあ」


 一瞬だけ何言ってんだコイツ、と思ったのが、静かに手拭いをたたんで服の内側にしまいこんでいる私の冷たい視線にもろに反映されたのか、ワンコはきりっとすました顔ですぐに補足します。


「あっ――俺が愛してるのはあくまでフィレッタだ。勘違いするなよ。後輩や、弟の嫁としてと言う意味で――」

「誰が嫁だ誰が。自惚れないでください――そんなわけで、私はこれで!」


 先輩に言い放つと同時に、私はその場を蹴って離れます。直後、今まで私がいた場所にばっと黒い影が飛び込んできて――。


「何で逃げる、アデル!」


 そりゃ、この展開読めてたからね!

 逃げ――戦略的に移動していた目標へのダイブを失敗し、私の方に振り返って悲しそうにキャンキャン鳴きます。――が、止まって喋っていると即座に追い付かれるので、私は既に武官たちの訓練場から王宮の廊下へと疾走しながら後方に叫び返します。


「さようならキルル先輩、そしていい加減学習しなさい、ウルル――私に構ってる暇あったら別の事しなさいつってんでしょーが!」


 ちゃんと見なくても一瞬にして追跡を開始した男の姿はわかっています。シルエットは先輩にそっくりですが、その髪の色は先輩とは違い、鬱陶しいほどの赤。ピンクの目だけが兄弟まったく一緒で、ぱちぱちと瞬きしてから悲痛にゆがめられます。


「アデル、昔から冷たかったが最近は特にひどいな――だが、そこが」

「それ以上は許しませんよ、駄犬! ――あーわかってる、犬って動く物を咄嗟に追っちゃう生き物ですよねー、ですから条件反射で追っかけちゃいますよねー、ははっ――先輩、ここはひとつお行儀のいいところを披露して、通行の邪魔なんで止まっていただけませんかね!」

「アデルが止まればいいじゃないか――」

「嫌ですよ、そんなことしたら最後、鬱陶しいあんたの話を延々と日が暮れるまで聞かなきゃいけないじゃないですか!」


 私は返しながら、突然のことに目を丸くしてキャアっと叫ぶ、洗濯物を抱えたメイドさんたちの間をかきわけて進みます――ごめんなさい、最近のあいつ、しつこさが兄貴のウザさと比例するかのようにグレードアップしてて、追い付かれるわけには行かないの。ちょっと前までは逃げだしたら追ってこなかったのに、今じゃこのありさまだもの――。


「あははっ!」


 後ろから再度聞こえるメイドさんたちの悲鳴と、なんかバタバタする音。ほらー駄犬なんだからもう、追っかけっこだと思って喜んでるし! 19歳にもなって、ホント性根がガキだなあいつは!

 さて、このまま駆け続けていると被害が深刻になるからどこかでまかなきゃいけないとして、どうしたもんか。前みたいに中庭から師匠のところに逃げ込むって手もあるけど、あんまり使うとなんか変に悟られそうだからどこかその辺で――。ってげっ、やばっ! 一個曲がるところ間違えた、こっちは袋小路だ! こうなったらとりあえずどっかに入れる部屋は――。


 まるでそう思っている私の心を読んだかのように、ちょうど一番近くの扉が音もなくすうっと開きました。

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