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2-2.アデラリードは騎士になります!

 さて、お姉さまに抱きしめていただいて再び元気がむくむく湧いてきたのはよろしいのですが、マジでどうやったら朕王に目をつけられずに済みますかね。


 私がうーんうーんと考えている間に、お姉さまは優雅にお紅茶などを淹れてくださっております……いやほんと仕草が優雅だ……なんででしょう、私と同じ血が流れているはずなのに、なぜこの洗練された動作が私にはないのでしょうか。アデラリードがあの高さから注いだら、十中八九こぼします! 


 いえまあ別にいいんですけどね、お姉さまが素晴らしいだけですから、多少私が不器用でも。むしろ、お姉さまの輝かしいばかりの所作に、私のごみのような不器用さが影響しなくてよかったです本当に。いえ不器用ならそれはそれで美味しいのですがお姉さまの場合。


 ……うむ。逃げてないで向き合おうか。問題は私の方ですね。

 できればこのどこでもこけるドジっ子属性、8年先までになんとかしておきたいんだが……。


「はい、アディ。どうぞ」

「あ、ありがとうございますお姉さま!」


 わあい! お姉さまのお紅茶! わあい!

 難しいことは後です、今はこのティーブレイクを全力で楽しまなければ!

 こんなことばっか言っててうっかり二年経ってしまった気がしますが、でも仕方ないねお姉さまとのリアルが一番だもの!


 ちなみに今はおやつの時間です。子どもたちオンリーでお茶会です。この場に召使がいないのはあれです、一つにはこれが誰が邪魔することもできない我々姉妹の禁断の逢瀬であり、もう一つには単純に経費削減で人がいないせいであります。ごめんなさい最初のは私の妄想で、二つ目だけがちゃんとした理由です。調子乗りましたごめんなさい。


 今日は特に、お父様とお母様が家にいらっしゃいませんからね。私たち二人はいい子でお留守番です。

 いつもよく面倒を見てくれる爺ややメイドのウラシアは、そんなわけで二人と一緒にお出かけ中ですし。ほかの使用人の方は私たち二人が特に見張ってなくても大丈夫だってこと知ってるので、呼ばない限りは各々好きな事をしているでしょう。私たちの方も、人数少ないですからやることいっぱいあるでしょうし、どうぞどうぞお手を煩わせるつもりありませんから休んでてくださいって感じです。


 あと、お父様とお母様割と子ども放置気味っていうか勝手に育てっていうか、もう幼いころからどう見ても只者じゃないお姉さまの方は多少気にしてらっしゃるようですが、私に関しては完全凡人顔の二人目の女の子だったせいもあってか、お姉さまの付属品扱いです。

 お勉強とかご飯の時間とか、全部お姉さまと一緒です。むしろお姉さま用に用意されてるのを、お姉さまが気を遣って私にもわざわざ分けてくださっているというか。ええ、物心ついてからこちら、何かあると大体お姉さまが面倒見てくださいます。まさに役得です。この瞬間だけは、アデラリードに生まれてよかったと心から思えます!


 なお、お茶会ではお姉さまが若干10歳にして完璧に準備をこなせるので、私は完全にゲスト役、要するに飲んで食べる係です。むしろ手伝うとなんかこう、完璧なお姉さまを残念にかき乱すので、見守るのがベストなのです。悲しいね、ドジっ子属性。これ本気でなんとかしないとね、いろんな意味で。このままじゃおちおちお姉さまのお手伝いもできないよ。


 それにしても、お姉さまの淹れてくださったお紅茶と、お姉さまの作ってくださった焼き菓子、美味しいですもぐもぐいや本当に幸せですさすがお姉さまもぐもぐずっとこんな時が続けばいいのに! もうやだ私先のこと考えたくない! 朕王やその他のことなんて考えたくない! ずっと子供時代をループしてお姉さまとキャッキャウフフしてたい!


 私がそんなことを思いながらひたすらもくもくしている間、お姉さまは猫舌なので、お紅茶自分で淹れておきながら冷めるまでちょっと待ってます。大事に育てられたから猫舌なのですよお姉さま。私? アデラリードは木に登ることがデフォルトのような野生児かつ、木から落ちてもこけまくっても大してダメージ受けないような子です。より正確に言うと、あまりにもそういうことが多かったので最初の方こそわんわん泣いてましたがもう慣れました。お察しください。この程度の熱湯なんて私の舌はすでに訓練済み、余裕です。


 それにしてもこの間、実に眼福です。

 お姉さまはふうふうなんて優雅じゃありませんから、さりげなくこう、手の中で回して待ってるんです。そしてちびちび飲むのです。たまに加減を間違えたのかまだ熱かったらしく、きゅっと眉根寄せてるのですハアハアマジ可愛いですお姉さま最高ですホントエロ可愛いですまだ子どもなのに! 真正面からガン見してるのに全然気が付かないもしくは気にしていないあたりさらに素晴らしいです! おかげで遠慮なく舐めまわすがごとくあなたの一挙一動を観察できます特等席から! まさに役得! 妹に生まれてよかった!


 おっと、こちらに黒真珠のお目目が。だらけた頬を引き締めてきりっとしなくちゃ。


「今日はあそこで何を考えていたの?」


 あ、いつものご質問でございますね。

 私しょっちゅうあれやってますから、お姉さまとりあえずこれ聞いてくること多いですね。まあ普通の伯爵令嬢にしては木登りが日課なんてちょっとおかしい行動ですからね。心配になる気持ちもわからないでもないです。私自身も不思議ではありますが、なぜか無性に落ち着くのですよ、木の上って。


「ええと、将来のことなどを少しばかり……」

「将来?」


 お姉さまは首を傾げます。

 ええまあ、その、あなたと私のバラ色の未来などをですね。そこに至るためにちょっと邪魔な障害の排除もとい回避などをですね……。


「アディは将来、何かしたいことでもあるの?」


 お姉さまの下僕になりたいです! は、あまりにもひどいですね!


「お、お姉さまをお守りします!」

「まあ」


 ああん、お姉さまが笑ってらっしゃる! 小さなお手手でお口許など覆って愛らしい天使の微笑みを浮かべてらっしゃる! きゃわたん! うちのねーちゃんマジきゃわたん! そしてよーしそろそろ落ち着けアデラリード!


「まるでわたくしの騎士になる、みたいな勇ましさね」


 お姉さまはそういってくすくす相変わらず笑ってらっしゃいますが、その瞬間私に衝撃が走りました。


 ――騎士。

 お姉さまの、騎士。


 そうです! それです! 私、ひらめきました! いいこと思いついちゃいましたよ!


「お姉さま、その通りです。私アデラリードはお姉さまをお守りする騎士になるのです!」

「あら」


 ふっふっふ、冗談でしょうとでも言いたげに笑うばかりのお姉さまですが、私いたって本気ですよ。


 そもそも原作は育成要素のあるゲームで、何を鍛えたかによってアデラリードのタイプが変化し、それによって攻略者たちとの接点が増えたり狙ったキャラを攻略できるようになったりするのです。騎士タイプってのも当然存在しました。

 そういえばこのタイプになると、ドジっ子属性下がってた気がする! 運動能力上がるからドジっ子がフォローできるようになるんでした! そうだちょうどいいじゃない! なんで忘れてたんだろう今まで。


 そうそう、ついでに解説しておくと、育成要素があるってことは当然パラメータの数値も攻略には関わってきますよ。

 好感度マックスでもパラメータが一足りないと結ばれないとかありましたからね。さすがあの原作、ゲームシステムまでもが世知辛い。

 え、じゃあ朕王対応パラメータはって? あいつはアデラリードがどんな女であろうと襲ってきますが何か? 要するに他の誰にも相手にされないと強制朕王ルートですよ、むしろほかの攻略進めている間も積極的に邪魔してきますよ、だって朕王だもの! ハハッ笑えない!


 ああ、同じくパラメータをそこまで気にしない、でも基本奥ゆかしく見守るだけな侍従たんを見習いなさいよ! そういえば、侍従たん自体はありのままのアデラリードでもこっちの好意に応えてくれますが、駆け落ち成功のためにはやっぱり全パラメータが一定以上必要でしたね。隠しルートだけあって若干難易度高かったのよね。ちなみに駆け落ち失敗すると、やっぱり安定の朕王怖いですエンドに突っ込みます。これも余談。


 うう、朕王のこと思い出したら鳥肌が。奴の話は不快になるだけですからその辺にしておきましょう。


 お姉さまの騎士になる。そうです、これです! この具体的なイメージがあればなんとなく方向性はつかめてまいります。

 しかもこれいいじゃない。そうだこのままこの方向性に突き抜けて男以上に男らしい騎士になってしまえば! さしもの朕王も男相手にはその気になるまい! そうだその手があった、それでとことん騎士に、マッスルに突き抜けて男っぽく成長し、勘違いさせて諦めさせてしまえ!


 本当にさすがはお姉さま! ナイスアイディアです! そうと決まれば、さっそくまた鍛錬などの練り直しをば――。



 がしゃあん!



 と思っている間に、なんでしょう!? 向こうからなんだかちょっと不穏な音がしました。ていうか、割と近かったよ音源!?


「アディ、ここにいて。わたくしが見てきます」


 ってお姉さま待って待って! なんかそれフラグっぽいからやめて!


「お姉さまと一緒にいたいです……怖い!」


 こう言っておけばお姉さま優しいからまず離れることはなくなります。

 うう、それにしてもなんだろう……大丈夫、いざとなったらお姉さまの盾になるくらいのことは現時点でも鍛えてるから可能なはずです。


 そんなわけで、優雅なティーブレイク中でしたが、私たち姉妹は恐る恐る、何かの物音がした方に手と手を取って歩いて行きました。

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