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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
起:四天王制圧編~vsキルルシュタイナー
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2-6.そんな子に育ってしまうなんて、後輩は悲しいです!

「しかし、賢い事がいつでも美徳であるとは限らないのではないかね。……例えば恋愛なんて、愚者の方がよっぽど上手にやってのけたりするものだよ」


 ……いえ、今唐突にふっと思い出した原作の台詞なんですけど。

 まあこのもったいぶった喋り方から、発言者が誰かはわかりやすいでしょうか。ええ、大賢者様の有難いお言葉でございます。


 狂気の原作「ラプソディー・イン・ダークネス」が育成要素のあるゲームだと言う事は、既に何度か言及していますね。それでまあ、育成を進めてアデラリードのパラメーターを上げていくと、ある一定値に達した時に一番フラグの立っているキャラが反応するんですよ。大体はルート入ってるキャラが出てきて、近頃頑張ってるね! とか、素敵になったね! みたいな内容の声をかけてくるって、それだけのイベントなんですが。これを利用して、今誰ルートが一番有効になってるのかってチェックしたこともあったっけ。

 ともあれ、賢さのパラメータを上げた時、大賢者フラグが一番だと当然彼が出てきてよく賢くなったねって褒めてくれるわけなんですが――その際に、好感度が非常に高いと、上記の台詞が通常の褒め言葉の後に追加されるんですよ。さらっとね。実にさりげなくね。原作つくづく鬼分岐。製作者が自分で細かすぎて全部は覚えてないって公言してるしな。


 ……なんで、それを今思い出したのかと言うと。


「アデル、聞いてるのか?」

「えーと、まあ、一応……?」


 季節は冬。防寒対策をしているとは言え、まだまださっぶい屋外。しんと冷えた湖のほとりにて――。


 愚かなワンコの切ない恋バナを、しっかりがっちり聞かされている私。

 いや、正確に言うと、熱烈に語る先輩を前になんとなく意識が遠くなってくるたびに、悲痛な声でしぶしぶ現実に呼び戻されているって方が正しいでしょうか。


「ちゃんと付き合ってくれるって言ったじゃないか!」

「あーえっと、はい、そうですね……」


 ああそう。念のために言っておきますけど、別に先輩と付き合うって単純に恋バナ聞かされてるだけですからね。我々の間には学園時代から現在に至るまで、色気の気配なぞ欠片もございません。彼が私に対して親近感と言うか親しみを覚えているらしいことは、恋バナの生贄に任命されるくらいですから確かな事なのでしょうが、少なくとも恋愛対象としてはカウントされてませんね。これは断言できます。可愛い後輩くらいに思ってんじゃないですかね?

 だって、奴がそんな正々堂々思いの丈をぶちまけられるような勇士だったら、今こんな状況にはなっていませんから。押せ押せキャラは朕王リオスの担当なので、この人はどっちかと言うと肝心なところででもでもだってなヘタレ枠なのです。リオスと違って本人に十分後ろ暗い部分も自覚もありますから、そのせいなんでしょうけどね。


 それに、万が一、億が一、無量大数が一にでもフラグ立てられてたら――今頃なりふり構わず、全力で拒否って逃げてますよ! もっと真剣に拒絶しますから――そう、ウルルのように。


 ……やっぱ私の断り方って甘いのかなあ? 普通に断ってるだけのはずなのに、温いのかなあ?

 今だって先輩に結局は捕まってるし、ウルルだって振り切れてないし。

 そうだよな、クララフィアトの不憫な子孫たちとはいえ、ワンコのストーカー因子だって入ってるんだもんな。もっとこう、きっつい断り方しないと通じないのかも。

 いやでも、今の時点でも割と拒絶してると思うんだけど……これ以上強くしたら、それって鬼畜だとか外道だとか、そういうレベルに到達すると思うのだけど……。


 もう! それもこれも、あの疫病神リオスドレイクが変なこと吹き込むからですよ! ええそうですよ、奴が私の罪悪感を煽るようなこと言ってくるから、不憫とか言うから、なんかいつもより調子が出なくて――っ。


「アデル!」

「はい、わかってます、聞いてます――と言うわけで、ちょっと整理してもよろしいですか」


 ここら辺で、先輩の話を大人しく聞いて相槌を打つだけだった私でしたが、会話の主導権を握ることにいたしました。

 物理的に冷えてきたせいもあってですね、頃合いかと。ついでに心も凍えそう。いや、これが可愛い女の子とかだったら色々言いたいところをぐっとこらえてご本人が満足するまで聞き届けますが、二十歳越えた野郎なんだもの。シャキッとせんかい!


「時系列順に行きましょうか。始まりは一月ほど前のこと。先輩は珍しく図書室に用事があった」


 両膝抱えてこっくり頷くワンコェ……。どこ行ったんですか、訓練場やら大会やらで自信満々に輝いていたあなたは――。

 い、いやしっかりしろ、アデラリード。大の男が頬を赤らめもじもじしている光景、実際目にしてみてやはりなんかこうダメージはあるが、耐えられないわけではない。深呼吸して、続けるのだ。


「探していた本を取ろうとした瞬間――同じ本を探していた方と手がこっつんこして。で、その相手だった見知らぬ彼女に一目でフォーリンラブしてしまったと」


 さー落ち着け、落ち着くんだ私! 先輩が真っ赤なままずるずると沈んでいってるが、そんなことは些細な問題だろう。

 突っ込むべきろところがあるとしたらそこじゃない。ベタすぎる出会い方だ!

 まあ、原作にも確かにあったんだけどね。あったけど、違うこれじゃない感。だって原作の方で図書館ニアミスイベントが起きるのは、そこそこ先輩とフラグが立った後だったはず。少なくとも、互いに知らない間柄の際にそんなことが起きたなんて断じてなかったはず。

 私がちょっと黙り込んだからでしょうか、キルル先輩は言い訳のように言葉を発します。


「お前の言いたいこと、わかるよ。一目ぼれなんて――全く知らない相手にいきなりなんてそんな、話だけだと思ってたよ。まさかそんな――自分が、そうなるなんて」


 呻きながら膝に顔をうずめた声が弱弱しくて痛々しい。


 ……こんな先輩は初々しいですか。可愛いですか。そうですか。それはですね、当事者じゃないから言えるんですよ。私だって、画面の向こうだったら愛い奴だうんうんとできますよ。でも事件は現場で起きているんだもの! そして私、思いっきり現場の人間なんだもの今現在! どうしてくれようか、この何とも言えない空気を。


「まあそのなんですか。お気持ちわからないとは言いませんけど」


 私は空に視線を漂わせつつ、かろうじてそんな言葉を紡ぎます。


 だって先輩曰く、ニアミスしたのはまるで妖精のような、目を離したら消えてしまいそうなほど白く儚くたおやかな美少女――んでしかも、男の人とタッチしたことに動揺して、キャアっとか可愛らしく言いながらこてんと――私だったら間違いなくぎゃーすとか喚きながらどっしんと行くでしょうから、なんか別世界の生き物の気配を感じましたが――ひっくり返ってしまったんですって。それで、先輩はいきなりこけられるわ、ドレスの端から見えるその細い足首やら小さな足やらに錯乱させられるわで、結局対応しきれずに固まってガン見と言う悪手しか取れなかったと。おいワンコしっかりしろ。

 で、先輩が固まっている目の前で、妖精姫(暫定ネーミング)は涙を浮かべながら、でも泣かずに頑張ってこらえて起き上がろうとし――はっと先輩に気が付いて顔を赤らめると、恥ずかしそうにあっちを向いてしまって、ふるふると震え――。


 ああうん、ごめんなさい、もう限界だ。突っ込ませて。

 あざとい! なんだこのあざとすぎる女は! 見た目と言い一挙一動といい、すべてがすべて先輩の好みをついてやがる! そりゃ、こんなことされたら一気に好感度ダダ上がりだわ!



 えっこれもしかしてもしかすると、三人目の転生者さんだったりするのかしら。先輩狙いの。いや、そう説明されても普通に信じられる。むしろそっちの方が天然説よりよっぽど理解できる。いねーよ、いくら元が乙女ゲー耽美世界たって、そんな妖精のごとく清純な外見で中身も清純な可愛子ちゃんなんて――。


 ……ん? 待てよ? 頭の隅に今なんか引っかかった。というか、先輩の話を何度も聞きながらずーっと心の扉が叩かれ続けている気がする。気づいておくれ、ここに答えがあるよと声がする。でも同時に、その答えは私に多大なるダメージをもたらすよと言う警鐘も鳴っている……。


「それで先輩、足を挫いてしまった彼女を慌てて医務室に連れて行ったんですよね」


 半ば自分をごまかすように、ひとまず話を進めます。深入りはやめておけ、そんな予感がガンガンする。


「……微妙に拒まれたんだが、ほっとくわけにもいかないだろ」

「ええまあ、ですよねえ……」


 傷ついたご婦人――いや、彼の話的にご令嬢か?――前にしてただでは帰れませんわな、騎士だもの。姫抱きにしてったのかな。よしなさいアデラリード、深入りしても自分がダメージ食らうだけだってわかっているでしょう!


「幸い、大した怪我ではなかったと。まあよかったですね。それでその時は、そのまま別れたと――」


 沈黙。……私はしばらく待ってみて――何もなかったので、一息ついて結論を述べました。


「で、先輩はなんですか、それから名前も知らない彼女が気になって気になって仕方なくて、図書室に通い詰めてなんとか侍女であることを探り出し、今度は後宮に通い詰める日々であると――完全にストーカーじゃないですか、これー!」

「バッ――ち、ちちちちち違うアデル誤解だ、俺は――」

「黙れ駄犬めが、そこに正座なさい!」

「ひゃいっ!?」


 反論してこようとした駄目ワンコを気合いで圧倒します。寒空の下、長々と純情ストーキング日記を聞かされてた私の想いがついに火を噴くぜ!


「いいですか、理由が純情だろうが照れだろうが愛だろうが、正々堂々話しかけずに陰から見守る行為を、儚げな美少女相手に継続的に行っている成人男性――さあ、それが今のあなたなのですよ。ご自分の実態をちゃんと顧みてごらんなさい、客観的に見てどう思いますか?」

「え、えっと、でも――」

「どう見ても不審者です、本当にありがとうございま――って、あなた仮にも花形騎士でしょうがぁ! こいつお巡りさんです、を地で行くんじゃないですよ! いいですか、恋心がいつでもどこでも免罪符になると思ったら大間違いですからね。動機が純愛だろうが、合意でない時点でもう十分アウトです――世の中舐めてんじゃないですよ!」

「うっ、ううっ――」

「大体、そんなに気になるんだったら、ちゃんと話しかけてお友達になればいいじゃないですか。素直に! 普通に!」

「それはだから、俺だってできるならやって――」

「そうですよ、今回何が一番腹立つって、そこなんですよ――なんですかその、実物を目の前にすると頭が真っ白になって喋れなくなるって――どれだけ、どんっだけ、情けないんですか、あなたって人は! ああくっそ、あまりの憤りに罵倒の言葉がうまく出てこない! 先輩のヘタレ! ドヘタレ! ダメワンコー!」

「す、すまん……」


 先輩相手にもかかわらず、思わず全力で丹田使って叫んでしまった。



 でも、この叫びは仕方ないと思いません?


 もう、原作通りにシナリオが進まないのとかは諦めた。それはなんかもう、当たり前と言ってしまえばその通りなので、いまさら私も原作展開なんて希望はしていない。むしろブレイク推奨は記憶がよみがえってこちら、ずっと望むところである――。

 が。

 なんでこう、ことごとく悪化方向にブレイクされているのですか!?


 こんなキルルシュタイナーじゃなかったはずなのに! 確かに奴は爽やかマッチョ武官と見せかけてその実結構なヘタレであったし、フルルギルの因子に汚染されたのかバリバリのストーカーに進化する、そんなバッドエンドルートもなかったわけではない。

 でもそんな、一目ぼれした子に直接名前も聞きに行けないほどヘタレで、碌にフラグを立てる前から観察追っかけ行為に勤しんでいるだなんて――。


 後輩は悲しいです! どうしてそんな子に育っちゃったの、キルル先輩!


 ああ師匠、確かに愚者の方が恋愛には向いているのかもしれません。でもヘタレで愚か者って救えない気がするんですが、どうでしょうか!?



 私が息を切らせ肩を怒らせていると、すっかりしゅんと小さくなっている先輩がビクビクしながら――ほとほと困った様子で、言葉を連ねます。


「だからその、わかってるんだ、自分でも――ちょっとヤバいってことは、わかっているんだ」

「ちょっとじゃないです、だいぶです」


 そこ、認識修正しといてください。割と大事な部分ですから。――なんか哀愁漂う潤んだ目で見あげられようと、私はごまかされませんよ!


「どうしたらいいと思う? どうしようもないんだ、自分でも」

「……はあ」


 ついうっかりやる気のない答えになってしまいましたが、悩める先輩は自分が深刻すぎるからなのか、特に気にした様子はありません。頭をかきむしって顔を両ひざにうずめてしまいます。そのまま喋るものですから、随分と声がくぐもって聞こえます。


「他のことで気を紛らわそうともした。仕事に打ち込んだりとか、訓練してみたりだとか。でも、何をしても彼女のことが浮かんでくる。だけど、近づく勇気はなくて――お前の言うとおりだな、なんて情けないっ――」


 ……そして沈黙。ガチヘコみしてますなこれは。うーん、まあその……恋ってのは確かに、いきなり湧いたり思いもよらない行動を取らせたり、手に余るものではありますわな。それでまあ、先輩も先輩で、自分に振り回されて困ってるのよね。ようやく私と言う吐き出し口が見つけられて、改めて色々自分の気持ちと向き合ったりしているわけですね。


 さて、私も一回全力で叫んですっきりして落ち着いてきたし、どうしたもんだろうか。つか、自分の弟をふった経験のある後輩山猿なんて、確実に相談相手を間違えていると思うんだけど、まあ現状仕方ないか。とりあえず――。



 私は考えながら口を開きかけ――そして、そのままなんとも間抜けな顔でフリーズしました。


 ああ、気が付かなければよかったのに、どうして今この瞬間、視線を先輩の向こう側に見える木に移し、そしてその枝に注目してしまったのだろう。


 凝視する私の視線を受け、湖の周りにぽつんぽつんと並んでいる木のうち、一番我々に近いものに止まり、腹立たしいほど優雅に毛づくろいをしていた――すごく見覚えのある白いカラスが、わざとらしくカーと鳴いて見せました。


 わなわなと震えながら、私がようやく、あ、く、しゅ、み! となんとか口を動かしてみせると、なんだか一瞬ふわっとした感じがしたと思った直後、鼓膜が揺れて耳に音が届きます。


「今気が付いたお前が悪い」


 ……少し遅れて、もう一声。


「まだまだ修行不足ですなあ、弟弟子君――ぷーくすくす」


 未だ沈没している先輩を挟んで、私はカラスにひとまず、この野郎、後で覚えてろよ! とジェスチャーを絞り出しました――。

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