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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
起:四天王制圧編~vsキルルシュタイナー
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2-5.別に飼い犬じゃないのに、なんか噛まれた

「で、先輩。その辺のことはまあいいとしてですね。問題はあなたですよあなた」

「は? 俺?」


 きょとんとした先輩に私はおもむろに立ち上がると、素早く呪文を唱えて氷の刃を出現させます。

 先手必勝! ふはは、武装してないからって油断したな! もうちょっと訓練重ねた後だったら召喚魔術で武器を呼んでも良かったのですが、今のところ呼んでも来るかの勝率が五分五分なので確実な方で行きます。かっこよく魔術唱えて沈黙流れたらなんかこう、私いたたまれないし。


 いきなり喉元に切っ先突き付けられた先輩が展開について行ききれず、赤くなったり青くなったりを繰り返していますが、仕方あるまい。このまま進めます。


「とあるお方から、あなたに関する聞き捨てならない垂れこみがございましてですね。そのことについて真偽を確かめるべく、ここまでご足労願ったわけですが」

「垂れこみ!? 真偽!? ――よし待て、アデル落ち着こう。俺も落ち着くから」

「一応これでもそれなりに落ち着いている方ですよ」

「あだだだ、いや痛くはないか、それより冷たい、よせったら――な、なんなんだよ、いったい!?」


 だって私、頭に血が上ったら身体で突撃するタイプだもの。朕王の時のように。まる。いやそんなことはともかく。うりうりと氷の刃の先端を先輩のほっぺたに押し付けながら私は続けます。


「単刀直入にお聞きしましょう。先輩がお慕いしているのはどの侍女さんですか」


 銀髪ピンク目長身の見た目は爽やかな隠れガチムチは、たっぷり10秒ほどフリーズし――私の言っている意味を十分に理解し終えると、ボンッと効果音を付けて差し上げたくなるほどの勢いで顔を赤く染めました。外を走り回ったりもする職業ですから多少は日焼けしてますが、元が色白なのと彼は赤くなってすぐ戻ってしまうタイプなので、より一層赤いのがわかりやすいですね。


 ああそうか。比較してみるとよくわかるけど、フラメリオの顔色がわかりにくい理由って、あの人の肌が黒いからもあるのか。赤くなってもわかりにくいんだもんな。いやあの師匠が赤くなる場面って想定できないけど。知的好奇心的な興奮の意味で赤くなることだったらあり得るか。


 じゃなくてだな。おいワンコ、そこで百面相してるだけじゃ相手がわかりませんよ。


「なるほど。とりあえず、あなたがお慕いする方がいらっしゃることと、どうやら侍女であると言うことについてはまず間違いなく真実なのだろうとその反応から推測いたします。一応反論の時間は差し上げますので、異議申し立てがあるならどうぞ」

「ど、どどどどどどどどこで聞いた!? じゃなくて、そんなに俺がわかりやすいのか!?」


 彼に半獣化能力がついていたら、今この場で耳と尻尾が出現してぺたんと伏せられたり変な形になってビリビリと震えてたりしてるところでしょうね。まあ、そんな器用な変化の仕方できませんけどね。人型か狼型かの二択ですからね。ファンサービスの足りない製作者だ。


 ……いや、あの耽美な絵柄で普通のオタッキーな萌えに走られても困るか。むしろおねショタの大惨事から推測するに、たぶん悪化しかしないから製作者が獣人萌えを知らなくてよかった。いや、ケモナーと言う種族は奥深い。安易な耳尻尾人間ごときを獣人とは認めないコアな感じのケモナーだったと言う線も十分あり得る。


 ――だから、さっきから隙があると逃避しているよ、戻っておいで、アディさんや。わかりやすすぎる先輩の反応に、無性に目をそらしたくなる気持ちはこみ上げてまいりますが。


「垂れこみ元については黙秘の方向で。まあどうせ私が隠したところで、向こうからそのうちあなたのもとにやってくるでしょうから、嫌でもわかるとは思いますが。それと、わかりやすいと言う点に関しては、先輩は私の知り合いの中でも一、二を争う程度だと思いますよ。――で」


 このまままた黙り込むと、先輩の百面相を生温かく見守りながら、思考の波と言うか妄想の嵐に私が流されていきそうなので、次の段階に行ってしまいましょう――さあ、思い切って!


「基本的には先輩がどなたをお好きになろうと先輩の権利ですから、特に邪魔立てする気はないのです。二次元ならば萌え語りの素材になりえますが、私に三次元の人間の色恋沙汰に首を突っ込む趣味はありませんので。めんどくさいですからね」

「……サンジゲン?」

「お気になさらず、アデラリード用語です――が。先輩のお好きな方が侍女であると言うことは、つまりその辺の前提を覆す事態が起こり得ると言うことでして、つまりあなたの想い人が私の想定している方でないことを、今現在祈るばかりなのですが――」

「――そういうことか! アデル、だったら誤解だ!」


 おや。何かを悟ったらしい先輩が、氷の刃を押しのけてわたわたと手を振りながら言います。


「俺は別に、お前の姉ちゃんのことは何とも思ってない!」

「――なんとも?」


 現世での私の声は見た目相応に――いや別にけしてその見た目が小動物系だと自分で認めたわけではなく、あれですよこれはあと二段階進化を残している最初の段階の姿なので仕方ない――ともかく、まあ叫ぶとキンキン響く程度に高いのですが、今はオクターブかそれ以上に下がっていることを感じます。


「あなたまさか、うちのお姉さまに何か文句でもあるんですか」

「ねーよ! なんでそこで怒るんだよ!?」

「だってあんなにエロ可愛いお姉さまにぐっと来ないだなんて、男としてどうかしています。ハッ、まさか先輩、私が知らなかっただけで実は幼女が趣味なんですか。それとも熟女ですか。いえ、ひょっとして女には興味がなくて――」

「俺はいたって健全な男だ、勝手に妄想を進めるな! いや、だから、普通に魅力的な女性であるとは思うけどさ――」

「やはりお姉さまのことをそんな目で見ていたのですね、先輩のエロ魔人!」

「お前は自分のねーちゃんについて賞賛を受けたいのか、無関心でいてほしいのか、まずその辺をはっきりさせろ!」

「崇め奉りつつ無関心でいてください!」

「両立するのかそれは!?」


 いつの間にか氷の刃はどこかに投げ捨てていました。私と先輩は立ち上がり、お互いにぶんぶんと手を振り回しながら言い合っていましたが、強い風がびゅおーっと二人の間を通っていくと、どちらからともなく肩を落とします。


「落ち着きます」

「そうしてくれ」

「落ち着きました」

「早いな!?」

「つまり、お姉さまが完璧で麗しく愛らしいことは疑いもないわけですが、あなたの想い人なわけではないってことですね」

「………………たぶん、そういうことなんだと思う」

「ちょっとなんですか、今の意味深な長い沈黙は」

「お前の言ってることの意味と、お前が怒らない答え方を考えてたんだよ!」


 今度はヒートアップの熱がオーバーする前に二人とも冷静になりました。


「保身のための嘘じゃないですよね?」

「違うよ……」

「やましい部分がないなら、私の目を見て言えますか?」

「ああ。これでいいか?」

「はい、ありがとうございます。くどいようですがもう一度だけ念押しさせてくださいね。たとえ天使のごとく愛らしくとも、女神のごとく輝かんばかりの美貌をお持ちであろうとも、先輩はお姉さまに、キスしたいとかにゃんにゃんしたいとか、そういう邪な想いを抱いてないんですね?」

「……にゃんにゃん? にゃんにゃんって、何――バッ、馬鹿言ってんじゃないぞお前! 大体なあ、その辺の野獣と一緒にするな! 俺は騎士だ! たとえもしも万が一そういう想いが湧き上がってこようと、ちゃんと自制するっつーの!」


 真面目な近衛殿には少し過激すぎた模様ですな。今まで以上に顔真っ赤にしてキャンキャン吠える先輩ですが――あなたの場合マジで野獣に変化しますから、微妙に説得力低いんですが。……まあ、あのイベントが起こるまでは確かにちゃんと気合いで抑え込んでたんだし、努力は認めねば。


 しかし威勢よく吠えてたかと思うと、次の瞬間まだ赤いまましゅんと小さくなって、おずおずと何やら不満を申し立ててきます。


「キスは、その……よこしまなものに、なるのか……?」


 未だガキのウルルならともかく、21歳の健全男子がそんな純情ぶるんじゃないですよ! どうせもう(性知識的な意味で)汚れているくせに! にゃんにゃんで赤くなる程度の知識はあるくせに!

 一気にガッとこみ上げてきた色々な思いの勢いに身を任せ、私は先輩に滑らかにお答えします。


「何言ってるんですか。ABCのAがしたい段階で、めくるめくBとCのフラグは立っており、プラトニックで終わるつもりならそもそも身体接触など最初から望むべくもなく、つまりAもしたいなんて発想には至らないわけでして、というかAと一口に呼んでも、それこそかるーい触ったか触らないかのようなライトなものから、えっろくふっかいねっとりぐっしょりなものまで多岐にわたるので、キスしたいがどのキスをしたいかで十分よこしま判定できるものでありまして――」

「よしわかった、もう一度落ち着け。な? 悪いが、お前がそうやって早口でまくしたててくる場合、俺には高くて聞き取りにくいのと、そもそも意味が分からないのとで、何を言ってるのかさっぱりなんだ。お前の熱い想いはわかったら、内容もわかるように喋ってくれ、頼む」


 ハッ! いかん、なんかつい、両の手をぐっと握りしめて語りだしてしまった。

 私は我に返ると黙り込み、先輩の瞳を覗き込みます。……まあこの方は基本的にわかりやすい方ですから、もしもお姉さまが好きだった場合、絶対に落ち着かなそうにぐらぐら揺れているところでしょう。しかし、今はしっかりまっすぐ私を見据えて逸らしません。

 うん、白だ。ならばよし。


「そうですか。それはご迷惑をおかけしました」

「おう。とりあえず、落ち着いたみたいで、良かったよ。んっとに、学園にいたころからまったくぶれないシスコンだな、こいつは……」

「後半部分が小声で聞こえなかったので、もう一度お願いします」

「あー、独り言だから気にすんな」


 私はほーっと安堵で思わず座り込みます。場合によってはこのままここで先輩を始末しなければいけないかもしれないと覚悟してましたからね。よかったよかった、湖の有効利用がなされずに済んで。


 まあでも、最初からおかしいとは思ってたんですよね。だって先輩の好みは、放っておくと危なっかしい薄幸系不憫ドジっ子。お姉さまとは割とタイプが逆と言うか、彼女も無理矢理王宮連れてこられたり、不憫や不幸属性がないわけでもありませんが、ものすごいしっかり者ですから、心配で目が離せないって方じゃございませんし。お姉さまの方だって、ちゃんと五人の男性の名前と顔、あと不用意に近づきすぎてはいけない理由についてはもうお話ししてありますし、ご本人もそれを聞いて、なるべく関わらないように注意するわって笑って答えてくださったのですから。私が見ている限りでは、キルル先輩とは侍女長の立場上たまに関わることもありますが、知り合い以上友達以下の状態を維持しようとなさっているように見えましたし。


 私が一人で納得している間に、先輩も再び座ってから、今度は聞こえるくらいの音量でぽそっとつぶやきました。


「……俺がお前の姉ちゃんに懸想してるって、誰かから聞いたのか」

「いえ、侍女の誰かにお菓子だのお花だの差し入れているらしいとだけでしたが、まさかなと思いまして」

「そっ、そうか……」

「しかしお姉さまでなかったのなら、よかったよかった。では私はこれで――」

「待て、アデル」


 晴れやかな顔で立ち上がって歩き出そうとすると、思いっきりぐんっと服が引っ張られる感覚があります。あれ、おかしいな。振り返ると、そこそこ離れていた所にいたはずの先輩が、無駄に豊富な運動能力を駆使でもしたのか、ちょっと目を離した隙に間合いをつめてしっかりと私の上着を握っています。え、何それ。なんでそんなしっかり引き留めて、どこか期待に満ちた目で見つめているんでしょう――。


「なんですか先輩、別に私はこれ以上は――」

「お前、ここまで聞き出しておいて、そっけなさ過ぎると思わないか?」


 先輩はどことなく真剣な表情のまま、さりげなーく握力だの腕力だのを強化しています。おい待て、なんか嫌な予感がするんですが。


「今までは、その……誰にも相談できる相手がいなかったんだ。いや、いないわけじゃないんだが、どいつもこいつも茶化したり余計なことをしてきそうな奴ばっかで、一人で悩んでた――」

「ちょっと待ってください、なんですかこの展開、やめてくださいませんか――聞きませんよ、それ以上は!」


 私は急速に鳴り響き始めた警鐘に従い、耳をふさごうとしますが、先んじて両手をがっしり掴んだ先輩に阻まれます――うわあああ、やめろ、はなせー! 

 女子が全員恋バナ好きだと思ったら大間違いですよ! 見ず知らずの他人ならまだあり得ますが、知り合いの三次元の話なんて、大体すごくめんどくさいか惚気で疲れさせられるかのどっちかじゃない――。

 うぐぐぐぐ、さりげなく魔術使って身体強化してもびくともしねえ! くっそ、もっと素早く逃げておけばよかった! 力勝負に持ち込まれたら勝てない!


「アデル、むしろよくぞ気が付いて、話しかけてくれた。俺の悩みを聞いてくれるか」

「聞きたくないっつってんでしょーが、あなたが私の話を聞きなさいよ!」

「頼むよ。……聞いてくれるだけでいいんだ」

「いろんな人にばらして回りますよ、それでもよろしいならどうぞ!」


 先輩はまた、真正面――先ほどよりずっと近い距離から私の目を覗き込み、そして微笑みます。


「いいや。……お前はそんなことしない。真面目で律儀で優しい奴だ。でなければ、どうせ断るだけのウルルのラブレターを、寝不足になってまで解読なんてしない――そうだろう?」


 開いた口が塞がらないとはこういう状況なのですね、なるほど――。


「なんで知ってるんですか!?」

「ウルルから聞いた。あいつ、お前に振られるたびに俺のところに報告に来るから。それはもう、逐一詳細に」


 あの駄犬、何してんだよ! まさかそんな細かいところまで話しているとは! こっちは本人の名誉やらなにやら思って、誰にも喋らずにそっと胸にしまっているのに!

 それをこの場で慈愛の眼差しとともに披露しようとするワンコ一号、あんたも鬼か!


「お前は優しい奴だ。他にもウルルが――」

「わかりました、わかりましたよ!」


 非常に――非常に悔しいですが、私は手早く白旗を上げることにしました。無理。あまりのいたたまれなさに、私が耐えられません。


「先輩、おとなしくあなたの恋バナをお聞きします。ですからウルルネタはそこまでにしていただけませんか」


 一瞬きょとんとしてから、先輩はどこかはにかむような笑顔を浮かべました――。


「悪い、アデル――やっぱお前、いい奴だな」


 くっそお、これだから純の天然は嫌いなんだ! 計算でやってない分、よっぽど性質悪いですよ!


 ……しかしあの口軽男ウルルめ、覚えてろよ。



 そんな風に思わぬ反撃を食らった私は、微妙に寒い冬の湖のほとりにて、彼のドキドキ初恋物語を聞かされることになったのでした――。

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