2-1.お紅茶パーティーメンバーが増えました
拝啓皆様。お元気でしょうか。アデラリードイン宮中でございます。
現在は午後の優雅なひと時、お姉さまとの魅惑のお紅茶パーティー真っ最中です。
青い空、白い雲、流れる穏やかな風。まだまだ屋外は寒いですが、そこは暖房(魔術的な何かを使ってます)やショール等を駆使するのです。お洒落のためなら熱さ寒さ息苦しさ、それらの多少の苦難は当たり前に我慢してナンボなのがファッションと言うものなのです。
……庶民派の私は見た目より実益で、だから多少ダサくてもいいやと思った時もあったのですが、お姉さまにさりげなく――ええ、実にさりげなく、笑顔のアドバイスやら贈り物攻撃やら褒め殺しやらで――矯正されました。髪の長さといい、ちょいちょい彼女好みにされてる私。まあ、いいんですけどね。だってお姉さまのなさることなんですもの! ルンルン。
場所は後宮の一角にあるテラス。屋内と言うか半屋外とでも言いましょうか、外がよく見える開放感溢れる場所です。夜になると星空が広がってそれも名物だったりするのですが、今見えているのは主にお城の池ですね。城の周りの堀にもつながってるんですよね、確か。昔の戦乱期には軍事的な利用がなされていたらしいですが、今は主にこうして観賞用。船浮かべて遊んでる人とかもたまにいるくらいですしね。朝とか湖面にきらきら光が反射してなかなか綺麗ですよ。
そのテラスにある机や椅子に持ち寄ったテーブルクロスをかけ、食器を並べ、お菓子とお紅茶をセットいたします。やってることは実家と大差ないのですが、さすが王城、お姉さま方があれが足りないこれが足りない、こんなものがほしいだとかと言っていると次のお茶会には揃っています。べ、別に無駄な贅沢とかしてるわけじゃないですよ!? ちょっとした小物です! お花がほしいとか言うとどこの誰から贈られてきたのか知らないけどちゃんと翌週には希望通りのものがそろってるんですよ!
……お姉さま。私の見てないところで、変な色目とか使ってませんよね……?
穏やかな午後の空気に流れていく女たちのひそやかな会話。ちらっと目を上げると、お姉さまは彼女の座っている隣の女性の話にくすくすと笑ってらっしゃる模様。ああなんてチャーミング。今日も彼女はきゃわたんです。
はあ、にしても、なにこれ優雅。まるで貴族のようだ。ああそうだ一応私も貴族だった。
相変わらず猫舌なのでお姉さまは微笑みながらお茶が冷めるのを待っています。今日のドレスは藤色基調。特にイベントもないオフの日なので露出もデザインも大人しめです。
あ、私ですか? 上着は若草色、下のズボンは白です。ズボンはきゅっとしたデザイン、キュロットって言いましたっけ? あれに近いかな。そのまま馬に飛び乗れそうな感じ。あとはまあ、ブーツのようなものを履いてます。前世では主張する太腿が気になって避けていた膨張色ですが、現世では普通にコーディネートに入れられる幸せ……!
鍛えておいてよかった筋肉。生足全然怖くない。
――しかし、平和だ。こうやってお姉さまと一緒に平和な時を過ごしていると、すべて忘れて浸りたくなってくる……だって三か月過ぎて、そろそろここでの生活にも多少慣れてきたし……。
……ずずー。
「栗毛ちゃん。ダメよ、そんな風に音を立てては」
あっと、リラックスモードに入ってたら、つい! 前世時代の悪い癖が出てしまった。いかんいかん。
私を注意したのはお姉さま――ではなくて、その右――だから、私から見ると左側に座っているお方ですね。ちょっと前までお姉さまに何か楽しげにお話をしていました。
そうそう。いまさらですけど、そんなわけでお紅茶パーティーメンバーが増えました。今現在はですから、特に最近仲のいいお二人の女性と一緒に、合計4人できゃっきゃうふふタイムですよ。
――ちょっと! 私だってお姉さまだって、姉妹ばっかり気にしてるわけじゃないんですよ!? お姉さまは学園でいっぱいお友達作って今でも定期的に何人かと連絡とってらっしゃるらしいですし! 取り巻きだけじゃなくて、普通にお友達だっていらっしゃるんですから!
……えっ。わ、私ですか?
青春時代は基本野郎と取っ組み合いしてたので、はい。まあ彼らも一応友人っちゃそうですけど、ええ。
――い、いいもんちゃんと今はできたもん、女の子のお友達! い、今がよければ過去なんて――い、いいんですよ――ぐすん。もうちょっと女の子がいっぱいいる所にしておけばよかったなんて、お、思ってないもん。
「すみません――って、あの。栗毛ちゃん呼ばわりはやめてくださいと何度言えば」
私はちょっぴり非難のこもった目を、窘めてくださったお方に向けます。
燃える夕焼けのような茜色の髪の女性はにっこりと微笑みました。まるで男性のように短く髪を切り、暖色の服も一応スカートっちゃそうなのですが、露出は相当低いし中性的なデザインです。後宮の侍女ではなく、王宮でお勤めしている文官さんですからね。
正直、山猿の私よりよっぽど男装の麗人してる。なのにちゃんと身体に凹凸があるからけして男性には見えない。高い身長やキツイ感じの細い目も相まって、まさにバリバリのキャリアウーマンです。な、なんだろうこの無性にこみ上げてくる敗北感は……しっかりするんだ、アディ!
ま、お姉さまもできる女ですからキャリアウーマン風な部分が無きにしも非ずっちゃそうですが、彼女はどこまでもこう……女らしいと言うか? ズボン履いてるのなんて乗馬の時ぐらいしかないですし。乗馬も私みたいにバリバリ障害飛んだりとかじゃなく、たしなむ程度にって感じですし。だから方向性がちょっと違うのですよ。
「おやおや? 仔馬ちゃんの方がよかったかな?」
「似たようなもんじゃないですか! なぜですか? いえ確かに私の方が年下ですよ、身長も低いですよ? それはもう動かぬ現実ですから認めますよ? ですがこう、なぜ皆様揃いも揃って可愛い系のあだ名ばっかり課してくるのですか!? 馬術訓練の時とか、模擬試合とかであんなに活躍したのに!」
「まーこの子は生意気な。可愛いってのはね、期間限定でしかもらえない最上級の褒め言葉なのよ? 素直に褒められてなさいって、君のいいところなんだから――」
「あっちょっやめっ――お姉さま! お姉さま助けて! ゼナさんを止めてください!」
女性は素早く立ち上がって近づいてきたかと思うと、椅子の後ろから私を抱え込みます。私これ完全に犬扱いされてる! 絶対飼い犬にブラッシングしてるあれと同じだ! わわわ、頬ずりまで!? ひっきりなしにがしがしされている私は救いをもとめてお姉さまに手を伸ばしますが、彼女はカップを手にしたまま、にこりと微笑むと――。
「アディ、だめよ。ゼナは親愛を込めてるだけなんだから。大人しくしてなさい」
あうー! お姉さまの裏切者ー! でも反射的に大人しくなるこの身体が憎い! 仕方ないねお姉さまのお言葉とあれば多少理不尽でも――あっちょっ脇はダメ、脇はくすぐったいからダメですってば、ひぎゃああああ!
くっそおお、お姉さまのご命令さえなければ! この程度のこと、振りほどくのに! うわああんやられっぱなし――そろそろ腹筋痛くなってきた、やめてー!
「あーあ、スフェリが羨ましいわ。私もこんな妹がほしかった。ううん、弟でもいいからせめてこんな風に可愛げのある子がよかったなー」
「ゼナのところはお兄様と弟君がいらっしゃるのだったかしら?」
「そーそー。もー、ほんっと可愛げのない男どもなの。スフェリ、だからちょっとアデルうちにくれない? いっぱいいっぱい可愛がるから」
赤毛の女性――ゼナさんは私をぎゅーっと抱きしめてお姉さまに言います。
ちょ、ちょっと私の意志は――。
と思っている間に、お姉さまがおもむろにティーカップを机に置いてふっと目を細めました。
「あら、ダメよ。アディはわたくしの妹ですもの。ゼナにも譲るつもりはないわ。そうよね、アディ?」
静かだけれど、はっきりとした意志を持つ凛としたお声。
――やだ、不意打ち。ちょっとくらっと来ました。
「お、お姉さま! 私もお姉さまがいいです! いやそのもちろん、ゼナさんが悪いってわけじゃないですけど、私にはお姉さまが一番――」
「はいはい、わかってます。まったくこの姉妹は……」
ゼナさんは苦笑して私を離すと、元の席に戻っていきました。ふっと椅子に腰を下ろすと足を組み、ひょいっと机のお菓子を摘み上げて口の中に放ってます。……不思議だ、あれでなんでちっとも下品に見えないんだろう。
すると、今までずっと黙っていた、私の右側に座っていた浅黄色のドレスに薄黄色のショールを羽織っていたご令嬢がおずおずと小さな声で言いました。
「でも私は、アデル君はその……かっこいいと思います」
「フィレッタ……! 私の味方はあなただけですっ!」
「あ、アデル君……」
思わず身を乗り出してがっしり両手をつかんでしまいます。本当になんていい子!
このフィレッタ嬢こそ、私の記念すべき女友達なのです。ええ、優しくておとなしくてお淑やかで、私には過ぎた友達と言えるかもしれないですね!
ああ。その、ゼナさんはまあ、御年にじゅーぴー歳の最年長お姉さまですからね。友達と呼ぶのはちょっと違うかな。しかしフィレッタ嬢は私とちょうど同い年。行儀見習いとやらでやってきた新米侍女さんであり、お姉さまの学園の後輩でもあるのですよ。
髪は日に透けるようなプラチナブロンド、お肌もお姉さまには敵いませんが透き通るような白さ、目の形は同じたれ目なのに何でこう愛らしいんでしょうねって配置、瞳は同じ青色のはずなのになぜこうも透明度が違うのでしょうねと言う宝石のようなサファイアブルークオリティ。……言ってて虚しくなんかなってませんよ。い、いいんです私は運動能力が優れていればそれで。
正統派薄幸系美少女と言いましょうか、身体が弱い面もあるし、すっごく守ってあげたくなる。それに見てくださいよ、この困ったように嬉しそうにする、はにかむような笑顔! 山猿には到底真似できない女子力です!
お姉さまは微笑んだままですが、ゼナさんが呆れたように声を上げました。
「フィレッタったら、君づけなんてしちゃってまあ」
「い、いけませんか?」
「いえ、ぜひその方向でお願いします」
「ちゃんで十分でしょうに」
「ふふん、フィレッタ嬢には私の勇ましさがちゃんと伝わっているのですよ。ゼナさんとは違うのです!」
「はいはい、よかったねー、一人くらいはその価値観に同意してくれる子がいて」
「ちょっその言い方はない――もう、お姉さままで笑わないでください!」
くっそう、ゼナさんはじめとする年上組は軒並み栗毛ちゃん仔馬ちゃんアデルちゃん――等々のちゃん付け、野郎どもはおチビ呼ばわりばっかりしてくるからな……! 私はゼナさんになんだかあしらわれている気がしないでもないですが、フィレッタ嬢はきらきらした可愛いお目目を変わらず向けてくださいます。
彼女は小さいころから病弱で、あまり激しい運動とかできないそうですからね。飛び回りまくってる私に、その方面で憧れみたいのがあるらしいです。まあ体力には多少自信ありますからね、私。
この4人のそれぞれの馴れ初めからこうしてお茶会を楽しめるようになるまでには、またちょっとした波乱があったりなかったりしたのですが、過ぎたことなので省略しましょう。
……にしても、こうしてずっと、お茶会して過ごせればいいのに、ハア……。最近顔見てなかったからそろそろあいつがやって来る頃だもんな、ハア……。




