2-1.楽しんでたら8歳になりました
ごきげんよう皆様。私、アデラリード=シアーデラと申します。
隠しキャラ以外まともな男のいない同人乙女ゲーム「ラプソディー・イン・ダークネス」(絶対コレ適当に命名したよね!?)のヒロインとして転生し、6歳のみぎり木から落ちて無事にそのこと思い出しました。いや本当に思い出せてよかった。
なぜならば、このまま順調に正規ルートに甘んじると、私ことヒロインはおそらくメインヒーローたるヤ〇チン国王に監禁されてレイ〇目ボ〇腹エンド直行の道なのです。最高権力者の唯一の妻で愛されて子だくさんだよ、やったねアデラリード――って、ふ ざ け ん な あっ!
おま、だって今までは各方面に散らされてた欲望が何の間違いか全部この私に降りかかると、結果として少なくとも6人は産ませられることになるんですがそれは? 最低6回は死にかけるってことなんですがそれは? 最初の出産で身体壊してんのに、こういうゲームにありがちな都合のいい秘薬使ってまでだよ? しかもお部屋から一生出してもらえないんですよ? 私の記憶が正しければベッドに鎖でつながれるガチ監禁でしたよ!? そらある意味理想の引きこもり生活かもしれませんけど、食って寝てヤられての自堕落生活を甘んじて受け入れられるほど人間落ちてませんから!
ヤンデレは他人事だからいいんだ。三次元でやられたらただの犯罪ですから、それ! 安全地帯から他人事として眺めていられるから、初めて萌えることが可能なんですよ!
大体、いくらハンサムでスペック高くて富も権威も持ってて頭良かろうと、奴の性根は短気で激情家でヤリチ〇。怒るとすぐR18展開(エロ的な意味でもグロ的な意味でも)、選択ミスると即デッド。物理的死亡もありえれば、国家権力をフルに駆使して社会的精神的に追い詰められ、命はあるけどこれもう死んでるのと同じだよね状態に突き落とされる場合もありましたね。
まったく、つくづく無駄に豊富なデッドエンド集だ。これ一応乙女ゲーすなわち恋愛ゲーだろうが、いつから主人公の死亡シーンを楽しむホラーゲームになったんだよ! 全部ドシリアスかと思ったら、たまにバナナの皮で足滑らせて死ぬとか上から降ってきた盥で死ぬとかリアクションに困るネタデッドもぶち込んでくるんだから、突っ込みが追い付かなくて呼吸困難になりますって。とりあえずバナナの皮では死にたくないです、絶対に。
……ブルブル、あれらの狂気のルートを自分が辿るのかと思うと、怖気がぶわっと。勘弁してくれっ……!
さて、まあそんなわけでして、自分の身もこのままいくと十分にヤヴァいわけですが、それ以上に製作者に愛され過ぎて全ルートできっちり死亡する、愛しの我が女神大正義スフェリアーダお姉さまの方が深刻でしてね。
よかった今回のルートではお姉さま残ったわって安心した瞬間、エンドロールの彼らの後日談的なクレジットでばっちり死亡確認できて号泣って目に何度遭わされたことか。追加コンテンツでもばっちりとどめ刺されましたよ。もうやめてよお、私のメンタルはゼロよお……。
ははっ、製作者の高笑いが聞こえるようだ。完敗だよ、見事に踊らされたぜ、私。完敗でいいからお願いだからもうお姉さま虐めないでよ殺さないでよ、うわあああああん!
……ぐすん、すみません、泣いてる場合じゃありませんでした。
で、どうやって彼女の死亡を回避し、なおかつ私も平穏な未来を手に入れようかについて作戦を立てねばならなかったのでした。
頑張れアデラリード。お姉さまと私の未来は、すべて私の行動にかかってるのよ!
……って、意気込んだのはいいのですが。
いやね、ぶっちゃけ私まだ年齢2桁ですらない子どもの身ですし、今から何をすればいいのやらって感じで。
その、もちろん日々のお勉強やら自主鍛錬は欠かしていないですよ? お姉さまとのスキンシップだって重ねておりますよ? お遊びにだって全力で挑んでますよ? でもこう、具体的にどうすればいいのかなー、と……。
お姉さまの死亡回避&私の幸せな未来って、漠然とした目標はあるのですが、それに向かっての小目標とでもいいますか? それが設定できずに時を重ねてしまいました。
ううーん、思うようにいかないものです。前世の知識によると、確かこんな風に強くてニューゲーム無事にできた主人公の皆様って、私と同い年くらいですでに無双開始してますよね。悪役な実家を没落させるための布石をすでに打ちつつ、自分だけは安全な逃避ルートを着実と建築中だったり、なんか勉強でえらい秀才ぶりを発揮したり、前世知識をフル活用して改革に挑んでいたり、果てはこの段階ですでに単身敵地に乗り込んだりとか。しゅごい。とても同じ境遇の方々とは思えない。
それに比べて私ときたら、なんか毎日勉学やら自主鍛錬にはげみつつ、お姉さまと一緒に過ごせて幸せすぎる生活満喫していたら、気が付いたら2年経っ――。
いやいやいやまだ挽回可能ですまだ私8歳です、16歳のパーティーまで仕込みの余裕あります、しっかりするのよ。遊んでただけじゃないでしょ、い、一応! お姉さまの色香、じゃない魅力に惑わされまくってちょっと自分の使命忘れかけていたのは否めないが――ま、まだ慌てる時間じゃない、行ける行ける、落ち着け!
わかった、ではここで落ち着いて状況の整理をしましょう、そうしましょう!
私アデラリードは何不自由なくお姉さまとのリア充ライフを堪能してます。
じゃなくて。何言ってんだこいつ、完全に浮かれてやがる。
そ、そうお姉さま。お姉さまと私の幸せの一番の障害となるものは――まあどう考えても朕王ですね。
うん、だから絶対宮中には行っちゃだめです。だってお姉さまが悪女になること決意しちゃうのも、宮中行って生活してからのことですから。あの魔窟さえ行かなければ、普通の伯爵令嬢として何とかならないこともない気がするのですよ。まあその後も朕王回避は必須ですが!
そうなると、やはり決め手はあの強制イベント。ゲームにおけるオープニングシーン。その16歳の私のパーティーをぶち壊しにできればいいのですが、さてどうしたものでしょう。
たとえばひどい作戦ですが、当日腹痛起こして欠席とか、パーティー自体をお釈迦にするって手もあります。でもそうすると、なんか別の方法で朕王と遭遇しそうな気もするところが怖いです。私の勘ですけど、16歳に朕王と出会うってところは何しても動かない気がするんですよね……。
……あ、そっか。要するに、出会っても奴に目をつけられさえしなければいいんじゃないか? エンカウントしても、その辺のモブ子同様何とも思われなければいいのですよ。宮中に連れ帰りたいなんて思わせなければ何の問題もナッシング。出会い頭の好感度がマイナスになるのならなおよしです。
お忍びとはいえ国王相手ですからあんまり下手なことはできませんが、少なくとも出会った瞬間即死亡はさすがになかったですから。即死亡が本気出すのも宮中行ってからですから。ブルブル。
でもそうすると、奴の好みの反対?……って、あいつ割と節操なしだからもう目と目が合った瞬間世界の終わりな気がするんですが。じ、地味子がいいのか? でも地味子だとそれはそれでコレクション入りさせられそうな。今までにないタイプだな、ちょっと味見してやんよみたいな感じで――くっそおおお、あのヤリチ〇が、なんであんな手が早いんだよ、ほんとふざけんな!
そんなことをぐぎぎと考えつつ、私はお気に入りの木の上でぶらぶらと足をばたつかせております。
伯爵令嬢らしくないからやめなさいと両親は怒りますし、お姉さまはちょっと心配そうにしますが、なんかここが一番落ち着くのですよ。原作のアデラリードもそうでしたし、私自身も木登りは大好きです。こうして木の上で一人考え事にふけるのは、物心つく前からの癖なのです。登るのも落ちるのも手慣れたものですよ、ふふん。
思えば6歳の記憶が戻った時も、ちょっと木登り欲求かき立てられる大きな木にチャレンジしたことがきっかけで――。
「アディ。アデラリード? どこに行ってしまったの?」
はうあ! あれなるは、親愛なる――いやもう愛してる――愛してるなんてもんじゃない崇拝している――わが姉上、スフィー――いえスフェリアーダ! はいはいお呼びなら今行きます、今すぐ馳せ参じますとも!
「ここです、ここですお姉さま、スフィーお姉さまーっ――って、はぶあ!」
うぐぐ、なんたる失敗。くっそ、ちょっと降りるのを急ぎ過ぎてしまったようだ。行けると思ったんだが、そういや私まだ8歳だから身体小さいんだった。軽いから衝撃小さいってのは利点なんですけどね。
というか、私アデラリードにはドジッ子属性あるんだった。
くっ、原作ゲームは確か育成要素あったはず、ステ上げしてこの汚点、さっさと払拭しなくっちゃ――。
って、思い出したあああ! 確かこのドジッ子属性のせいで逃げ切れなくて例のヤリチ〇に襲われるルートあった! しかもあのイベントの場所はちょうど庭園! つか正規ルート! これ死活問題だああああ!
っていうか連動して思い出したらヤリチ〇ルートどころじゃなく、ほとんどの攻略キャラのルートでアデラリードのドジッ子からのR18ルートあったああああ!
だめだあの原作者、完全にこっちを掘りに、じゃないヤりに――やかましいな自分、ちがうよ殺しに来てやがる。
プレイヤーだったあのころはまあそう言うゲームだしと思いながらR18版も他人事でエロシーン見てたけど、当事者になった以上冗談じゃない。
でも、やっててよかったR18版。自分がどれだけヤバい立場なのか、全年齢対象だけだったらこの崖っぷち感をここまで切実に味わえなかった。具体的に何されるのかまではわかんないもんね、フリーの方だと。乙女ゲーだし、普通の甘々いちゃいちゃらぶえっちだと思うでしょ? でも狂気の原作だもの、その程度で終わらせてくれるわけないじゃない!
何より私はまだあれとして、お姉さまがあのヤリチ〇に組み敷かれるのかと思うと腸煮えくり返るわ。
あの愛らしく美しく高潔なお姉さまにあの野郎、あんなことやこんなことをさせるんだぜくっそおおお〇リチンめええええそこ変われ絶景が見えない! 間違えた! 絶対そんなことさせるか、阻止してやらあ!
あら伯爵令嬢らしくない汚らしい言葉使い。いやだわホホホ。落ち着かなくっちゃ。
よし、とりあえず腹筋と背筋と腕立ての回数増やそっ。あと護身術。原作製作者のおにちくぶりを忘れていた。少なくともステマックスまで鍛え上げなければおそらくとてもお姉さまを守りきれな――。
「あら、こっちにいたのね。また転んでしまったの? お転婆さんね」
あ、姉上えええええ! 御尊顔が! 垣根を分けてちょんとのぞかれている御尊顔がまぶしいですうううう! やばいうちの姉上マジ美人んんん! まだ10歳にしてこの美貌ひゃっほおおおおう、私妹に生まれて良かったあああああ! 薄桃色のドレスめっちゃお似合いですいやあああああああ!
「まああ、泣くほど痛かったの? 可愛そうに。すぐ転ぶんだから、お馬鹿さん」
はいそうですお馬鹿さんですっ! ああそんな、かがみこんで抱きしめてくださるなんてそんな、っていうか10歳なのに発達途上ですが既にお持ちですね。この二つの未発達なプリンがたわわに実るころ、抱き付くついでに顔をうずめたらさぞかし気持ちよかろう――って我慢だアデラリード、自制せよっ! そんなことしたらお姉さま怒って口きいてくれなくなるに決まってるじゃない――ああそれにしても、うちの姉上がいい匂い過ぎて私が錯乱しそう。もう錯乱してた! 手遅れだった! でも幸せ!
落ち着け、私。よし落ち着いてきた。ふふ、特技ですからね、すぐに平常心に戻ることって。
……でもね。妹の私が、まだ8歳の妹の私が10歳の姉上指して言うことじゃないかもしれませんが、この人、魔性です。
もう五感すべてに訴えかけてくるいい女臭とでも言いましょうか。私の陳腐な描写力ではとてもお伝えしきれないだろうが、もともとこの特権君たちにおすそ分けするつもりもない。
残念だったな! うちのねーちゃん超美人でめっちゃいい香りでツルツルしてやわらけーんだぜ! そんで声も腰砕く気ですかってくらい華奢なのに凛としててはにゃんとくすぐって、頭もいいんだぜ! でもお前らには絶対見せない触らせないぞ男どもお! ざまー見さらせあーっはっはっは!
「ちょっとアディ、本当に大丈夫?」
「あっはい大丈夫ですお姉さま私とっても元気ですわ!」
「もう。……仕方ない子ね、アディ。痛い痛い思いしたね、よしよし」
お姉さまは私を抱きしめ、(お姉さまと接近できて感動のあまり)泣いている私をそっとあやしてくださる。
……嘘だと思うだろ。この方、ほっとくと悪役になっちまうんだぜ。