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1-5.そのコンビネーションはいらなかった

 私が赤くなったり青くなったり、口を開けたり閉じたりしているのをしばらくカラスもフラメリオも面白そうに眺めていましたが、やがてカタカタとまたカラスの方が何かしゃべり始めました。


「あーあ、せっかくここぞってときに驚かそうと思ったのに」

「吾輩はまどろっこしいのは嫌いだよ。面倒だからね。それに今でも十分驚いているじゃないか」

オレが自分で言いたかったんだってば、これだから師匠は。人の気持ちがわからないんだから」

「な、なななななななな、な、なん――なんで」


 ようやく絞り出そうとした言葉もうまく行かず、カラスを指さして震えていると、それはぴょんと止まり木から机に飛び乗ってからかぱっと口を開けます。


「それで? どっち? 転生? トリップ? 転生だよな、見た目こっちの奴の身体してるもんな。ああでもトリップでも見た目変わることもあるか。で、どんな感じ? 憑依型? 元からいた奴のこと乗っ取ったの? 最初から記憶あった? それとも途中で思い出した? 前のこと、どこからどこまで覚えてる? ――ってあのさ、聞いてんの?」

「カラス――カラスが朕王――」

「チンオー? なんだそれ? オレのこと?」


 いやそれどころじゃないから! と私が心の中で叫んでいるのを察してくれたのか、横にいたフラメリオがたしなめるように語りかけます。


「リオス、彼女は君がカラスの姿であることに大層混乱しているみたいだよ。まずはその説明からしてあげたらどうかな」

「あーこれな。別に変身じゃないから。憑依魔術の一つ。本物のオレは寝室でぐーすか寝てて、意識だけ幽体離脱みたいにこのカラスの中に飛ばしてるってわけだ。オッケー? わかった?」

「う、う――」

「返事はハイかイエスでどうぞー」

「それってどっちも肯定、事実上選択肢ないじゃないですか!」

「おー、いい突っ込みだ。うんうん、そう来なくっちゃ」


 なんだこの妙なハイテンション野郎は! いろんな意味で調子が狂う!

 カラスはきょどっている私の方に今度は机からぴょんと飛び降り、床の上を飛び跳ねて近づいてきます。


「で、状況理解してくれた? 話したいこといっぱいあるからさ、さっさと次行っていいかな」

「いいわけないでしょ、何ですかこの急展開は、なんでフラメリオに会いに来たらあんたがセットで当然のようにここにいるんですか。一番いちゃいけない人じゃないですか! しかも同類って――完全にキャパオーバーですよ!」

「えーだってオレこれでも師匠の弟子だし、あんたよりもずっと接点あるんだけど。てかさ、前から思ってたけど、あんたオレに厳しくないか。何の怨みがあるんだよ。シスコンの怨み?」

「それもありますがそれ以上に前世の怨みですよ! 主にデッドエンドでの!」

「はあ?」


 私がようやく自分の調子を取り戻しかけてきたところで、ポンポンとフラメリオが手を叩きました。


「はいはい。リオスは少し先を急ぎ過ぎだよ。興奮する気持ちもわかるけどね。一度お互いに、落ち着いて話をするべきだと思うんだが――」


 がしかし、思い直したように一度区切ると顎に手を当てます。


「いや、強制的にでも一度落ち着かせなければ。そういえば効果を試していない新薬がこの辺にあったはずだ、鎮静効果の検討と状況の向上、まさに一石二鳥ではないか。いやそんなことはどうでもいい。とにかく薬が打ちたくなってき――」

「お前後半本音ダダ漏れだぞ!」

「たった今落ち着きましたよ、むしろ冷め切りましたよ、というわけで是非我々はお互いのことを話す必要があると思うのです!」

「おう、そうしようっか」


 カラスは短く答えてから、一度賢者の持っている杖の上に羽ばたいていってそこで彼に念を押すように言っています。


「フラー、前も言ったけど、こいつに手を出すな。そういう約束だったろ?」

「えー……」

「誰がパトロンだと思ってんだ、ん?」

「チッ。リオスは興味深いし可愛い弟子だし協力的でけち臭くないいい提供者だが、前の奴みたいに素直に言うこと聞いてくれないのはちょっと面倒だと思ってるよ。せっかくいい劇薬が仕上がっていたのに」


 心底残念そうに、そしてさりげなく相当物騒なことを言っていた気がするフラメリオ。そうだった、忘れてはいけない。

 マッドアルケミストに興味を持たれると言うことは、常に標本エンド(フラメリオルートのバッドエンドの一つ。手術→回復魔術→薬物投与→回復魔術→改造→回復魔術……の無限ループをたどる、別名いっそ殺してあげてエンド)の危機があるってことなんだから!





「……つまり、私たち二人とも、前世の記憶がある――別の世界からの転生者ってことですか」

「そうらしいね。師匠が言うなら確定っしょ。目ぇいいからこの人」


 そんなわけで、私はフラメリオの地下室の床に胡坐をかいて、カラスと向き合って喋っています。なんかシュール。

 一通りのことを話し終えて確認すると、フラメリオがうんうんと頷きながら言いました。


「しかもどうやら君たちは元の世界もほとんど同じ座標だったらしいね。これは偶然で片づけるには無理な確率だよ。何らかの規則性か、それとも何かの意志なのか。いやはや、長生きはしてみるものだ。非常に興味深い」

「……この電波の言ってること、あなた理解できてますか」

「んーとつまりだな。元の世界――前世にさ、異世界って概念あったじゃん?」

「ああはい、まあ」

「異世界は無数に――それこそ星の数ほど存在するけど、朕たちの前世は二人ともその星の数ほどの世界の中の、同じ世界だったらしいってことなんじゃね。要するに同郷者ってことだ」

「君たちは前世の常識を共有できているらしいしねえ」

「……えーと?」

「例えばチキュウ、ニホン、カガク、魔法のない世界――前世ってそういうものだったっしょ? って朕が聞いたら、あんたちゃんとその意味が理解できるし、それでいてハイって答えられる。そういうこと」

「……」

「なんで今あからさまに距離取ったんだよ」

「いえ、別に」


 電波の会話を理解しているだけでなく、解説までできるだと。てっきり朕もわからんって返すかと思ったら。なんだこいつ。同郷者だと言っているが、別世界の生き物に違いない。


「んで、何? 乙女ゲーム世界? 朕がメインヒーローであんたがヒロイン? ふうん……なるほど、それで原作知識とやらのアドバンテージがあんたにはあると」

「……どうでしょう。すでに相当原作と展開ずれてますから、参考程度にしかならない気がしてきましたよ……特に、あなたの存在のせいで」

「いやそこで責められても困るんだけど、そらなー。現場ってのは常に事故が発生するもんだし、あんたアドリブに弱そうだしな」

「うるさいですよっ!」


 くっそ、にしても、よりにもよって一番言いたくない相手の前で吐かされるとは……だって前世の記憶もちってだけじゃ朕王やフラメリオについての事前情報知りすぎてない? って質問に答えるの渋ってたら、フラメリオが拘束具つきの手術台みたいのいそいそと奥の方から出してくるんだもの! 注射器になんか薬入れてるんだもの! 圧迫面接よくない!

 そしてこの転生者朕王、なんかこう妙に理解が早いと言うか順応性高すぎると言うか、なんでこいつこんな落ち着いてるんですか。もっと動揺するなり混乱するなりするところなんじゃないの、乙女ゲーのヒーローポジに自分が転生してるなんて事実聞かされたら。


「リオス、ところでそのオトメゲームってのはなんだい」

「女の子の欲望をかなえてくれる素敵なシステム。ヒロイン役をロールプレイして、いろんな男に口説かれるシミュレーションすんの。男版だとギャルゲ。こっちは野郎をシミュレーションして女の子口説きまくる」

「ほうほう」


 さらにこのマイペースに自分の興味を追及する師匠と、ちゃんと答える弟子である。というかお前乙女ゲーの解説までできるんかい。さらっと聞いた前世のプロフィールは、本人曰く一般的男子高校生だったはずですが。


「しかもどうやら朕もあんたも攻略対象者――だから、ヒロインを口説いてイチャラブする役らしいよ」

「イチャラブその口で言うな、ぞわっとします!」

「ほうほう? しかし、別に吾輩今のところ彼女に対して何も思わんよ? 興味深いサンプルだとは思っているが」

「師匠枯れてるからな、人間の大事な機能が色々と」

「必要ないからね。それに成功も失敗も、精力的な弟子が散々実践してくれた――」

「あーやめろ10代の時の黒歴史を掘り返すな!」

「あの時の君はそう、まるで太陽のように輝いていたね。朕のハーレムキタコレと――」

「若気の至りぐらい許せよ!」


 ……何も聞こえない。何も聞いてませんよ私。深い意味を考えちゃダメです。なんで一番組んでほしくない奴らが、こんなに仲良しなの。早くも目が死んでる状態になりかけてます。し、しっかりするんだアディ。


 にしても、確かにフラメリオって自分に対しても実験してたりするせいで人間的感情、特に恋心なんて失ってるって設定でしたね。朕王の指摘通り、枯れてる。まあこの見た目で実年齢ピー百歳らしいですし、仕方ないね。人外の血と実験の効果恐ろしいね。

 ……枯れてるはずなのになぜかヒロインのアディさんにだけはぐっとくるんでしたっけ。触手プレイだの手術台プレイだの、散々お世話になりましたよ、この18禁あるある設定が!


 ただ、私には何とも思わないと本人直々に宣言されているということは――。


 と考えている間にまたカラスが何か言い出しました。


「いや、にしてもちょっと納得いったわ。道理で男の顔が妙に整ってると思ったんだ、この世界。まあでも良かったじゃん。これで懸念事項なくなったっしょ?」

「は? 今まさに懸念事項が増えていってる最中で、その最たる元凶であるあなたが一体何をおっしゃるんですか?」


 私が威圧気味の声を上げると、きょとんと朕王カラスは首を傾げます。


「だってつまりさ、あんたはオレに殺されるバッドエンドが嫌で、今まで警戒しまくってたってことなんでしょ? 安心しなって、全然そのつもりないから。あんたに対しても、あんたのねーちゃんに対しても。殺してしまうなんてとんでもない!」

「あのですね、理解してるようでしてなかったようなのでご説明しますけど。デッドエンドも嫌ですけど、普通に正規ルートをたどるの自体が私は嫌なんですよ。要するにあんたとも、あんた以外との攻略者とも近づきたくないしお姉さまにだって近づかれたくないんです、私は。ですから田舎に隠居させてほしいんですが――そもそもなんでわざわざお姉さまを拉致なんてしたんですか? 相当強引でしたよね、あれ」

「……あー。まあ、その場のノリってあるじゃん。それに引き込んだ以上は責任取って姉妹二人とも面倒見るつもりだったんだけど。ダメ、か?」


 あれ。今までポンポンと明るく軽く答えていた朕王だったのに、この答えには妙な間が空いた気が。一瞬抱いた違和感に首をひねりつつもカラスにちょんちょん手を突っつかれたので、お返しにぺしっとくちばしを払いつつ言います。


「ダメ、です。というか、お姉さまが本命で私はおまけですよね」

「仕方ないね、今のところ女性以前の山猿だもの」

「おい貴様」

「だが青田買いって線もあるし。ねーちゃんがあれだからこれもいつかは進化するかもしれない。そうしたら朕は遠慮なく二人ともまとめて嫁に迎えらえる。何か問題が?」

「あんたが問題なくても私たちには大問題なんですが。そもそもなぜ同じ世界からの転生者なのに、忌避感なく姉妹丼ルートに突っ込めるのか。一夫一妻の道徳精神はどこに飛んでったんですか」

「いやそこはせっかく生まれ変わったんだし、リセットしようぜ」

「私はお断りですよ、大体ですねえ――」


 言い募ろうとした私の横で、ふわあーと遠慮のないあくびをしつつ、フラメリオがぽそっと一言言い放ちました。


「仲良さそうだねえ、君たち」

「え、そう?」

「どこがですか!?」


 全力で否定した私とは裏腹になんか嬉しそうなカラス。凸ピンしようと思ったら、遠くに逃げられました。

 ――そこで私は、いまさらながらこのカラスがあの朕王で、と言うことは言っておくべきことがあったと思い出します。


「そうだそうだ。再会したらこれ言おうと思ってたんですよ――あんた一体何考えてるんですか! 馬鹿なんじゃないですか!?」

「やー、そんな漠然と怒られても困るなー」

「まずはお姉さまに対するたび重なる狼藉! あと私たち姉妹に対するポジショニング! 仮にも数年間現役で王様やってれば、名ばかり伯爵家要するに実質無名貴族の姉妹にいきなりあんなことしたら周囲が荒れるってことぐらいわかるでしょうが! 前任者解雇して王妃不在なのにいきなり侍女長だなんて! あと、意味わかりませんよ特別取締騎士って!」

「……あー。ためてた仕事一気に片づけたついでに結構大変なとこ押し付けたのはまあ、多少は悪かったと思ってるよ」


 おや、またもどこか答えにくそうな感じに。なんでしょう、さっきから時々あるこの変化は。どうも特定の話題には慎重に答えようとすると言うか、渋々答えていると言うか、カラスだからいまいち表情掴めませんけどどこか苦々しそうな気配すらあるっていうか……。


「……あんたのねーちゃんには、正直その……なんて言ったもんかな――」


 ちょっと。もしかしてお姉さまがらみ? 一気に私の気分はカチンとなります。


「なんですか、うちのお姉さまに何か文句でもあるんですか」

「別に? どっかの山猿と違って、美人で強気でレディーで色白でおっぱいでかくて安産体型で触り心地よくて、非常にいいと思うよ。是非一戦交えたいんだが、いまだお許しが出ていない――」

「なんたる――なんたることを――許せませんっ、その羽全部むしりとってやります!」

「やめろ馬鹿野郎――言われたくなかったら、まずその外見と態度を少しはなんとかしろよ、山猿野郎が!」

「私のことじゃないです、お姉さまのことです!」

「なんでだよ、余計意味わかんねーよ、どう聞いても褒めてただろーか!」

「あれはセクハラにカウントされるべき最低発言だと思います――それ以前にあんたがお姉さまを語る、そのことが許せません!」

「うーわめんどくさい、シスコンマジめんどくせー!」

「名誉のシスコンです!」

「いや絶対これは不名誉の方だ!」


 ギャーギャーわめきながら飛び回るカラスと私の仁義なき追いかけっこは、呆れた顔になったフラメリオのぽそっとしたつぶやき「新薬」によって終わりを迎えるまで、しばらくの間罵り合いとともに続いたのでした――。

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