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1-4.想定内と想定外が同時に起きています

 さて、夜になりました。そんなわけで、さっそく後宮にある自室から出陣したいと思います。

 アデラリードの超重要任務開始ですよ――。


「まあアディ。こんな時間にどうしたの?」


 げっ。散々深呼吸して奮い立って歩き出そうとした瞬間、これですか!?


「ちょ、ちょっと眠れないので散歩にでもと――お、お姉さまこそいったいどうなさったので!? 危ないですよ、こんな時間に」


 いろんな意味で心臓バックバクになりながらも、私はなんとか平常心を保って彼女に向き直ります。

 お姉さまは夜眠るための、ゆったりしたあまり体のラインが見えないような――ドレスって言っていいんでしたっけこれ、ネグリジェに近いかな?――淡い色合いのお洋服に、うぐいす色の肩掛けを羽織ってらっしゃいます。うーん、黒髪がところどころ胸元に垂れていてセクシー。

 お姉さまはぱちぱちと愛らしい目を瞬かせ、いたずらっぽく微笑まれました。


「わたくしも、少し眠れないの。だから散歩に行って帰ってきたところ。そうだわ、アディ。これから一緒に歩きましょうよ」

「い、いえ、その……」


 なんたる偶然。なんだこれ。せっかくのお申し出はありがたいし、ぶっちゃけ最近足りてないお姉さま成分の補給だとか、これからのお話しのためには是非是非そっちに行きたいのですが、私ちょっと運命を決める戦いにいかなきゃいけないので、その――。

 としどろもどろになっていると、彼女は急にふっと身を引きました。


「そうね、あなたの言う通り。夜歩きはよくないわ。わたくしもなんだか眠くなってきちゃったし、おとなしくもう帰るわね」

「お、お姉さま――」

「ふふ、大丈夫よ。心配しなくても後宮からは出てないわ。……あなたもほどほどにね、アディ」

「お姉さま!」


 そのままどこか訳知り顔で、ご自分の部屋まで戻って行かれそうになったお姉さまを、思わず私は呼び止めます。

 振り返った彼女に一度目を伏せてから、決意してお願いしてみました。


「……少しだけ、手を握ってもよろしいですか、お姉さま」


 お姉さまはちょっと驚いたようにしてから、それからまたとびっきりの笑顔でお答えになりました。


「もちろんよ、アディ。あなたの気が済むまで」


 勝利の女神の微笑み、あーんど祝福(手を握らせてもらえるだけ)キター……今夜はもうこれで勝つる! よし、充電できた。頑張りますよ、アディ!




 そんなわけで、再びこっそりここまでやってきたわけですが。お姉さまには後宮にこもれ言っておいて、自分は出ていることに若干の罪悪感。まあでも、そこまで遠くない場所でよかった。もう一回戻ってこれるか心配でしたが、曲がり角をどっちに何回曲がるかってしっかりメモしたので、あまり迷わずちゃんとたどり着けましたよ。

 辺りを見回しても、今は誰もいません。見回りの兵が定期的にやってくるはずですが、今は別の場所に行っているみたいですね。よしよし。


 廊下の窓からまた中庭を見てみると、見覚えのある白いカラスが同じ木の上に止まっていました。夜だと目立ちますねえ。

 私を見ると待っていたぞ、とでも言いたげにカーと一声上げ、その後すうっと飛んで――急にいなくなりました。

 私はその後を追うように中庭に降りて、カラスがいなくなった地点まで歩いていき――ちょうどその辺りに自分が立つと、転移が始まるのを感じました。



 ……おそらく、地下室なのでしょうか。

 奥側までが細長く左右がちょっと圧迫感のある長方形の部屋には、私の背後以外の三方にいかにも重そうな奴ばかりつまった天井まである本棚があり、そして本棚の中にも前にも物の嵐です。毒々しい色合いの植物、得体のしれない何に使うのかわからないけどとりあえず実験器具っぽいもの、あとは紙束とか――それからぽつぽつと、いろんな種類の人形たち。そんな風に、全体的に不気味な雰囲気のあるものが所狭しと整理されることもなく、そこいらじゅうに置かれています。左右に圧迫感があるのは、けして部屋が狭いわけじゃなくて、これらの物がびっちり置かれているせいでしょう。

 私の後ろの入り口っぽいドアから奥にある机――その机も、なんかいろんなもので埋まっている――まではかろうじて歩く場所っぽいスペースが確保されているので、とりあえず机の前までゆっくりと歩きます。

 机の右側には止まり木があって、そこで白いカラスがカーカーと、私に向かってまた鳴いています。微妙にうっさい。


 それをなだめるように数度撫ぜてから、不意にこちらを見つめてくるその男――彼こそが、フラメリオ=ニーラその人でした。



 質素なボロボロのローブに身を包み、それとはちぐはぐな色とりどりの宝石でできているじゃらじゃらの首飾りをぶらさげ、いかにも魔女だとか魔法使いが持っていそうな、先端部分に大きな何かの石が埋め込まれている木製の杖を片手に持った、ぐっしゃぐしゃの黒髪どこか光沢を放つ黒肌――褐色肌と言った方がいいかな――の人物。けれどその眼だけはちぐはぐに黄金色で、地下室をあちこちで照らしている松明がゆらりと揺れると一緒に怪しく輝きます。……なんでも人外の血を引いているせいでこの目なんだとか。うう、瞳孔が妙に細いせいで余計不気味だ。


 私たちは長らく無言で見つめ合っていましたが、彼のやはり黒い手が緊張の中ですうっと上がっていって、顎のあたりに添えられました。


「……君。面白い設定をしているね」


 ……ああうん、原作初登場時とまったく同じセリフを。ホームページにある彼の紹介項目に立ち絵と一緒に載ってるサンプルセリフも確かこれでしたっけ。

 しかしこの世界でも大賢者は微妙にメタい。なんか今までがあまりに原作ブレイク続きだったから、妙な安心感が。いや原作ブレイク狙ってるから仕方ないんですけれども。


 彼の金色の瞳が好奇心できらきらと――いや爛々と――って言うか、なんかちょっと興奮してませんアレ? さすがマッドアルケミストの称号を賜った男、実際本人を前にして改めて感じたけど、これはどう見ても変態の目だ――!

 うっとりと、お酒でも飲んだんですかって言いたくなるようなとろんとした目で、けれど同時に獲物を見定める肉食獣の目で、彼は私を上から下まで舐めるように――ぎゃあああああ、ねっとり質感のある視線だ、と、鳥肌が止まらない! 本能がコイツはあかんと告げている!


「すごい、すごいよ……いろいろなものが詰まってる。なんて矛盾と混沌の塊……ああ、この部分なんてまさに……」


 ごくん、と唾を飲んでから、重々しく続けられた一言。


「リオスそっくりだ」


 一瞬出遅れましたが、私はすぐに黙っていられず抗議の声を上げました。


「――あのひょっとしてリオスって私の知ってる朕王リオスなんですかね、だとしたら色々な意味で聞き捨てならないんですけど!?」

「まあ、リオスの方がまだマシだったけどね。すごいね君、本当に」


 おいこら大賢者ァ! どういう意味かいまいちわかりきってませんが、私に対する最大限の悪口――たとえ本人的には褒め言葉だったのだとしても――だってことぐらいはわかります。撤回しなさい、今すぐ! ああでもどうして、私ったらブルブル震えてるだけ! 本当に衝撃だの怒りだのが強い時って、逆に何も声が出ないものですね!

 奴は私のわななきなどまったく意に介せず、独り言を続けています。


「いやはやまったく、見た目もすごいが中身もすごい、見たこともないちんちくりんだなあ――」

「修正するどころかさらに悪化してるんですが!? ちょっと、大体見た目がちんちくりんってどういうことですか! これでも、黙っていれば美少年と割と各所で定評が――」

「プッ」

「定評が――っ!?」


 引き続き賢者に突っ込みを入れ続けようとした私は、一瞬聞き逃しかけたその音を認識するや否や、急いで周囲を見渡すも――何度見てもこの場にいるのは私とフラメリオだけです。

 で、でも今の声は! 今思わず吹いたって感じに聞こえた声は! 気のせいですか? いや気のせいだったら全然かまわないのですが、むしろ気のせいであってほしいんですが――。


 って私が忙しくしている間に、いつの間にか机の向こうからこっちにやってきていたフラメリオが、自由にぐるぐる私の周りをまわっては、さりげなく顔だの肩だの背中だのタッチングしつつ――おいこら待て、お触りは禁止ですよ! というか、人が別のことに気を取られている間に、あんたちゃっかり何やってるんですか! 初対面の子をべたべたしちゃいけませんって、どこかで習わなかったんですか! ああそうだ、常識何それ美味しいのな逸般人だから期待しても無駄だった!


 気安く触るなと慌てて手を払っても、フラメリオは特に気にした様子はありません。


 この安心と信頼のマイペース、及び感動的なまでの他人に対する配慮の無さ、ええまさに原作の大賢者そのものです。いまさらながら微妙に後悔している私。もうちょっとこう、いろいろ武装してくればよかったかしら。腰って粘着質に撫でまわされたら割とアウトゾーンだと思うんですが、どうなんですかね。

 つか一通り終わってすっかり堪能したわーみたいなその呆けた顔すんな。賢者モードか。賢者だけに。ああもう、私の思考回路がうるさいですよ!


 そうこうしている間に、フラメリオはどこかへにゃんとした薄ら笑いの顔――ああでもこれ、彼のデフォルト顔です――を浮かべました。


「さてカオス君。吾輩のことはどうも知っているみたいだけど、一応初対面なわけだし自己紹介しておこうか。確か名前はフラメリオ。大賢者なんて呼ばれてるけどそんな大したものじゃない。いろいろ面白いことを探っていたら勝手にそんな風に周りが呼んでいるだけ。基本的に人間は面倒だから必要以上に関わりたくないんだ。だけど君は面白そうだから話をしてみたと思った。で、君のことを教えてもらえるかな?」


 唖然呆然。事前情報があるからこそ、少し間を置けば私立ち直れますけど、これがガチの初対面だったら、私間違いなく何も言えないか、回れ右してるかのどっちかですよ。なんですかこの会話の一方的な投球は。

 ともあれ、ようやくこっちの話を多少聞いてもらえる状況になったらしいので、咳払いして気を取り直し、私は答えます。


「アデラリード=シアーデラと申します。先日騎士に任命されました。以後お見知りおきください、大賢者様」

「ああうん、アデ――ア――うーん。なんかごてごてした名前だね」


 そうですか長すぎますか。この無関心め。私は自分についているあだ名の中から、比較的呼ばれてもイラッとしない覚えやすそうなものを思い浮かべます。


「……じゃあ、アデルでいいですよ」

「ん、なーんだいいじゃないか。そっちにしようよ。人の名前なんてただでさえ覚えられないんだから、仰々しいのはいけないよ。でも君は面白いからインプットがうまくいくように努力する――アベル君」

「アデルです、大賢者様」

「いい反応だ。アデル、これはアデル――うん、定義した。吾輩のことはフラーでいいよ、アデル」


 こんにゃろ、ついでに私の反応チェックしてやがるな。無関心な事には感動的なほど労力払いませんが、関心があると徹底的に粘着質ですからね。今彼は定義と言いましたが、おそらく私と言う新奇刺激に対する情報をすさまじい勢いで集めて蓄積している最中なのでしょう。

 ……なんかそう思うと、別の意味で鳥肌が立った。


 名前を覚えてもらったということで、第一段階はクリアってことでしょうか。興味関心の最低ラインには到達できたようです。それにフラー呼びでいいって言ってくるのも、少なくとも好意的にはみられている模様。


「で、アデル。君はどうしてここに来たのかな。何か吾輩に用があったみたいだけど」


 ……さて、にっこりほほ笑む大賢者様に、私は見えない選択肢が浮かんだような気がしました。これ考えるまでもなく分岐ですよね。原作とは質問が違うけど。しかし現実には選択肢なんてないし、残念ながら時間制限というものも存在する。さあ、どう答えたものか。

 私が迷いながらも口を開けようとした瞬間――フラメリオの目が、きらっと発光しました。


「おっと、それじゃ当ててみようか。君が吾輩に会いに来たのは――前世の記憶って奴に絡んでいることなんじゃないのかな?」


 ――今度こそ、何も言葉が出ない。私はいきなり先手を打たれて、驚愕の顔のまま頭が真っ白になってしまいました。


 フラメリオは私の顔で答えを察したらしく、思った通りと嬉しそうに一人頷くと、不意に横を向きます。


「図星だ。やっぱりそうだった。間違いないよ、リオス。彼女は君の同類だ」


 彼の視線を追うと、止まり木の上で妙に人間っぽく足で頭をかいていた白カラスが顔を上げて瞬きします。それからカタカタとくちばしを鳴らし――そこから聞き覚えのある声を発しました。


「師匠ー、せっかくオレ黙ってたんだし、もうちょい引っ張ってもよかったんじゃないか? いきなり全部ばらすとかないわー」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

作者の都合により、2月から更新を三日おきにさせていただきます。次回の更新は2月4日の予定です。

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