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1-3.ファインディング・マッドアルケミスト

 さて、ここからはゆっくり歩きながらでも考えてみますか。ゆっくり散歩しながらの考え事っていいアイディアが降ってくるらしいですし、ずっと座ってるのもなんかアレですし。


 ついでに、これから出会ってしまったのなら確実に対立は避けられないであろう、素晴らしき攻略対象の皆様のことでも振り返っておきましょう。可能なら全員異空間に隔離したいくらいですよ、まったく。

 ……彼らのことはお姉さまにも、今度二人きりになれた時にしっかりかいつまんでお話ししておく必要があるかなあ。今の段階ですと主要出現ポイントにお一人でうろつかないでください、ってことしか言えてませんからね。できれば後宮出るときは私を一緒に連れてってくださいとお願いしていますし、彼女も了承してくれていますが、魔窟に一度踏み込んでしまった以上、何があるかわかりませんから。


 さて、せっかくですし、公式の推薦順に行ってみますか。


 一人目は言わずもがな、朕王リオスドレイク。

 最重要危険人物のくせに、さらに懸念事項がありそうなところがもう、どれだけ私の胃痛を促進すれば気が済むんでしょうね。

 奴については散々コメントしてるので割愛です。今度会ったとき、ぜひともその正体の一端を掴まねば。

 まあでも、なんとなーく……すごく当たってほしくないんですが、なんとなーく……思い当たることが、あるのですが。

 お願いだからこの予感だけは杞憂であってほしい。当たってたら、場合によってはそれだけで詰み状態になれますからね。


 さて二人目は近衛騎士キルルシュタイナー。

 この間からちょいちょい出てきてるあの方です。またの名をガチワンコ先輩。ええ、何のご縁か知りませんが、現世では学園の先輩でもありました。

 初回では明るくて面倒見がよくて、まさに理想のお兄ちゃんタイプ、彼こそまともなシナリオ――だと思ったから、余計に後半の裏切られたあの瞬間の絶望が半端ない。ついでに彼ともう一人のサブキャラのせいで、このゲームに出てくる人の好さそうな男は全員裏があるように感じられ――というか、主に侍従たんを疑うことになるのです。

 あれらのイベントがあるから余計、ディガンどうせお前もいい奴そうに見えるがそのうち豹変するんだろ、知ってるからな!? って構えてしまうのです。私がどうにも彼を好きになりきれないのはこの辺の事情があります。侍従たんに最初素直にぐいぐい迫れなかったのは、大体あんたのせいじゃ!

 ホント、裏事情さえなければ、裏事情さえなければ、普通にいい人だったのにー! 必要以上に近づかないように距離を保ちたいところです。


 三人目は陰険眼鏡貴族文官モナモリス。

 まあ、なんですか。割とテンプレ通りのプライド高い眼鏡キャラです。……えーと、その、正直に申し上げますとね、コメントに困るほど普通の眼鏡なので、なんかこう、ぶっちゃけ言うことあんまりないって言うか。公式でもたびたびその影の薄さをネタにされるほどに、印象に残らない。

 だって他のキャラが設定といいシナリオといい、圧倒的に濃いんだもの! なぜこの男にも吐き気を催すほどの個性を与えてあげなかったの、製作者! なぜ彼だけが普通のヤンデレなんだ!

 あ、そうか違った、他がおかしいんだった。しっかりなさいアデラリード。彼だって十分一般人に比べれば性質悪いですよ。

 ただそのなんていうか、絡まれても無視し続ければどうということはないですし、危険度は比較的低めです。たぶんきっとおそらく。ゆ、油断はしないけどね。


 四人目はおねショタ神官タルトレット。

 そう。公式はあれをおねショタだと思っているらしいが、違う、そういうことじゃない! 誰だ製作者におねショタの間違った概念を導入し、その後修正しなかった奴は!

 彼の見た目は――ええ見た目だけなら、どう見ても天使のような美少女であります。口調も一人称ボクだけど、それ以外は少女のような言葉遣い。好きなものは可愛いものと甘いものと……あと、玩具。

 だが男だ。れっきとした、男だ。

 そして清純な見た目と正反対に、中身の方は屈指の猫かぶりクソガキビッチ腹黒野郎なのです。いや、この見た目でおいてノンケの男、むしろ総攻め属性しかないから、ビッチは違うか。肉食系? というか、ハンター?


 朕王もヤバいが、こいつもヤバい。何がやばいってその計画性と積極性。神殿だけは、神殿だけは私のいないところで絶対行かないように、とお姉さまにもこれだけは現時点で念を押しています。理由を時間と環境の都合上ご説明しきれなかったのが悔しいですが、あとは次に私がきちんとお話しできるまで彼女を信じることにします……。



 ……んで、今探しているのが、五人目のマッドアルケミスト大賢者フラメリオ。

 王宮の奥深くの自分の部屋に引きこもっており、怪しげな物質生成や実験が大好き、動物が大好きな一方、人間関係はめんどくさくてたまらないので、基本出歩くときはステルスして自分の存在がばれないように行動する。

 ここまで聞くといろいろ面倒そうな奴ですし、実際そうなんですが、一度知り合うとそこそこフランクですし、何よりさすがは大賢者、結構チート級のサポートをしてくれたり。

 まず第一に、彼はアデラリードの能力キャップを外してくれます。これによってはじめてアディさん無双ルートが可能になるのです。まあ無双ルートが開けるってことは、最大のバッドエンドである大虐殺ルートも開けるってことなんですが、ともかく。それに他にも、意中の相手とうまく行かない場合に怪しげな惚れ薬をくれたり、逆に場合によっては毒薬をくれたりもします。

 まあ思考がマッドな男ですからね。危ないことを嬉々としてやりたがる謎の思考回路ですからね。


 ただこいつ、何回か出現イベント起こさないとそもそも出てこないんですよ。

 その最初のイベントが、廊下で見知らぬ誰かの気配を感じ、それに対して能動的なリアクションを起こすこと。

 一回目は誰もいない廊下で視線を感じ、そこで「気のせいじゃない」→「注意して周囲を見る」を選択。この時点ではまだ見つかりませんが、そうするとそれから数日後、二回目にもう一度視線を感じるので、「探してみる」を二回選択。この二つのフラグを立てておくことで、ようやく三回目のイベント【目に見えない誰かとぶつかる】が発生時に、「咄嗟に手を伸ばしてひっつかむ」、からの「後を追いかける」、の選択肢を選ぶことができるのです。最初の二つからしつこく探しておかないと、三回目に選択肢を選べず逃げられてしまいます。


 そりゃあ五人目扱いもされるわ。というか半分隠しキャラみたいなものじゃないの。


 そんなわけで、まず私は手始めにいろんな廊下を歩き回って誰かステルス人間がいないか探しているわけなのです。

 ……え、早くもこれを実際に見つけるは無理ゲーな気がしてきたと? そ、そんなことないですよ! い、一応たぶんこうしていればいずれ会えるって根拠はあります!


 何かって言うとですね。単刀直入に言うと、フラメリオって変なものが大好きなんですよ。アデラリードが何度も気配を感じるのも、あちらが彼女の潜在能力(ヒロイン補正と言い換えてもいいかな?)に興味を抱いて度々観察してきているからこそ、こちらも気配を感じ取れたって事情があるらしく。だから何かって言うと、まずはあっちにこっちを見つけてもらって興味を抱いてもらう必要があり、ゆえに私がこうしてちょこまか歩き回っていることが決して無駄ではない……はず……なこと、おわかりいただけたでしょうか。


 ああそう。それとあの人って、ちょいちょい発言がメタいんですよね。この世界でも相変わらずそうなのかしら。今思い出したら微妙に気になったり。ちょっと好きだったのよね、あの癖になる言い回し。



 ……あーあ。考えている間に、またも見覚えのある場所に戻ってきたみたいですよ……。


 って、あれ? 待てよ。いや、さすがにおかしいことに気が付きましょう。

 だって今回は、今まで一回も角を曲がらずにまっすぐ歩いていたんですよ。なんで元の場所に戻ってくるんですか。円形のカーブを描いているとかそういうことでもないのに。というか今気が付いたけど、なんでここはこんなにも静かで――誰もいないんだろう。


 立ち止まった私の頭の中に咄嗟に浮かぶ文字列。


 無限ループって、怖くね。じゃなくて。


 今度こそ私は注意深く、辺りの気配を探ります。……そして、直感しました。


 息を大きく吸ってから、ゆっくりと歩みを再開させます。数歩して、立ち止まる。それからなんとなく感じ取れる感覚を頼りに、右側へ。右の端、廊下に突き当たるとそこから元来た方へ引き返し、すぐに左にあった曲がり角を曲がります。けれど数歩行くとまた立ち止まってから、そこだと感じる部分をなぞるように横に移動し、反対側の壁に突き当たると元の通路へ。


 それを何度か繰り返し、一通りのループ地点(たぶん)からループに気が付いた最初の場所まで戻ってきました。そこで中庭の方を向いて、再び深呼吸してからきっとそのあたりを睨み付けます。


「大賢者様、ですね。私をからかっておいでですか」


 痛いほどの静寂。私が普通に呟いたその声が、妙に大きく響きます。


 それからやがて訪れる、さやさやとした風の音。揺れる中庭の木々。そして再びの静寂。

 はっと我に返ると、そこはすっかり元通り。おかしな気配も感覚も消えて、後ろのあたりを誰かがこっちを訝しそうに見つめながら歩いて行ったのを確認しました。


 ……あ、私ひょっとしてこれ滑ったあれですか。うわ恥ずかしい。うわ、すっごく恥ずかしい。

 微妙に得意そうな顔してちょっとかっこつけたせいで余計に痛い――。


「ご、ごめんなさい、きっと私の気のせいですすみませんでした!」


 誰に対する言い訳なのか、私が顔を真っ赤にして逃げ去ろうとした瞬間です。

 背を向けた中庭の方で音がしました。

 はっとそちらを見ると、白いカラスが――ええ、この世界でも相当に珍しい白いカラスが――中庭に降り立ち、カーと一声上げました。私が近づくと飛び立って行ってしまいましたが、よく見てみればそれの止まった木の下に、はらりと紙片が舞い落ちます。

 辺りを見回しても、また誰もいません。それを確認してから中庭に分け入って紙片を拾い上げます。

 そこにはちょっと癖のある、お世辞にもきれいとは言えない筆跡でただ一言だけ書きなぐられていました。



 夜にもう一度ここへおいで。



 小さな紙片を握りしめる両手から、やがて全身にカタカタと震えが広がるのを私は感じていました。

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