1-1.挽回、したいです
前略。運命の日、または恐怖のビンタ事件から1週間が経過しました。
私たち姉妹の現状をご説明申し上げますと、アデラリードは宮中にて新米騎士を、そしてお姉さまは新米侍女をお勤めしております。
はっはっはっはっは……。
お前全然ダメじゃん。口ほどにもねえ。撃退して見せます!(笑) お守りして見せます!(大笑い)
何やってんの。結局何もできてないじゃない。聞いて呆れるわ。
……はい、その通りです。ぐうの音も出ないです。
なじられて当然と言うか、自主的に自分のことをさんざん罵倒済みと言うか、自己嫌悪してどん底に落ちて、これでもようやく立ち直った後ではあるのですが。
過去を顧みすぎても、過ぎてしまったことは変えられません。過ちは過ち、失敗は失敗――けれど大切なのは、今とそしてこれからのことです――。
って、ディガンが言ってくれたし……いつまでも落ち込んで、役立たずのままでは終われません。……終わりたくないです。
そんなわけでその、ぜひとも汚名挽回――間違えた、汚名返上したい私がイン宮中にて何をしているのかと言うと、ある場所にたどり着くべく――というか、ある人物に出会うべく――今現在探索中なのです、が。
くっそ、ゲームやってるときは、そりゃ文章読んでるだけだからあんまり感じませんでしたけど、実際歩くと、なんだこのダンジョンは! 意味わからんですよ、構造と広さが!
というかさらにいけないのは、私が地図読むの苦手な方だってことです。三回角曲がったらもうわけわかんない。二次元から三次元に図をおこして頭の中でシミュレートするとかできないタイプなのに。前世でも割と方向音痴の烙印を押されてた方だったのに。
ああもう、でも泣き言はダメよアデラリード。キリキリ歩くっ。
体力はそこそこありますから別に歩き回って疲れることはないですけど、気になるのはさっきから同じところをぐるぐる回っているような――ああやっぱり同じだ、あの扉の横の飾り、見覚えがある。あっちの窓も。
というか、本当にこっちで正解なのかもわからないですし、そもそも廊下をうろうろしてたらぶつかったって、よく考えたらそれどんなエンカウントだよ、どの廊下で何時何分何秒にだよ、こんな調子で見つかるのかしら――。
はあ。探し物の常套手段、誰かに居場所を尋ねるってのが使えないのがつらいです。引きこもり人間嫌いはこれだから! そういえば、奴の公式が推薦する攻略順は5番目、つまりディガンの一つ前だったな。だからってこんな見つけにくい設定にしてくれなくてもいいのに。
……ふと、朕王なら確実に知ってるってことを思い出しましたが、却下です却下。それは本当の最終手段にしておきましょう。
だってたとえ気紛れにでも教えてくれたとしても、絶対に目的を吐かされるもの。相手が相手でしょうからどうせ最終的にはばれちゃうかもしれませんけど、それでも最初から手の内全部明かすなんて、そんなの嫌です。
……やっぱり同じ場所に戻ってきちゃった。これで5回目じゃないかな、この中庭っぽいところに続く道を通るのは。
やっぱりちょっと一回止まって落ち着こう。精神状態がよくないです。これじゃ見つかるものだって見つからないよ。
落ち着け、落ち着け――ここに来るまでの今までのことでも軽く思い返してみましょう。
まずはあの後すぐ、殴られた朕王の反応――って、しまったこれいきなりダメなやつ思い出した! うああああ、怒りで目の前が真っ赤に!
というかあいつ、ありえねーよっ!
ひっぱたいたその後、お姉さまが非常に丁寧に、暴力ふるったのはいけないけどそれくらいのことを自分がしたってことをちゃんとご自覚なさってくださいね、みたいに言い放ってみんなで帰ろうとしたらこう、お姉さまの手をがしってして! 超いい笑顔で、お姉さまの、お、お姉さまの顎をこう、クイッと! クイッてして、名前は? って!
いやいやいや、何考えてんのあんた頭おかしいんじゃないの、今全力で拒絶したじゃん、なんでそこで強気に出るか。逆効果だろ、その態度は。何なのどうしてそんなお目目キラッキラにして、無駄に背景薔薇エフェクトとかかけてんの、ド屑のくせに。そうかコレ一応乙女ゲーだから男にも花が咲くのか。じゃなくて、そうかひょっとして殴られて目覚めたのか、これから毎晩俺を殴ってくれってあれなの、それってもしかしなくてただのドエムじゃない――。
って私が大混乱してる間に――さ、さらにこう、お姉さまをこう、ぐいっと――ぐいっと抱え上げて! 俗に言う姫抱きですよ、ありえねーよ、あいつパンチ食らったら仕返しに転移魔術使ってそのままお持ち帰りしやがりましたよ。ただの拉致ですよ。双方同意の上でしたらそりゃ乙女ゲーかもしれませんが、今回のケースの場合犯罪行為ですよ。
だからなんでそうなるんだよ! おかしいだろ、さっき同じような事のもうちょいおとなしいバージョンやって、それで殴られたってのに、なぜさらに悪化するのか! あれが乙女ゲーム脳男子って奴ですか! 俺様ヒーローの特権ですか! というかあの朕王、つくづく原作よりずっと行動がひどいんですけど、本当にどういうことなんですか!
それから私がしたことですか? その場に残されてぽかーんとしているキルル先輩に、まずは直ちに部下に連絡を取っていただき、お姉さまのひとまずの身の安全の確保。で、それが済んだのを横で見届けてから、ディガンと一緒に徹底的に絞りました。
ええ、その場でばっちり、契約していただきましたとも。無償でこの後私たちに何があっても協力してくださいねって。無茶振りだろうと答えてくださいねって。
今日が満月の夜じゃなくて本当によかったです。普段は男に二言はない方ですから、あわてて帰っていきましたが当座の壁くらいにはなってくれるでしょう。
けれど、確実に帰ってこないお姉さまのため、ディガンが宮中に乗り込むことを提案し、私も今から推薦状直してもらえるかしら、無理でもやるしかないと考えつつ、重い気持ちを引きずってひとまずお父様お母様のところに合流したら――すでになんかこう、彼らに書面みたいのが送り付けられてたんですけどね。仕事が無駄に早いですよね。この間わずか30分程度でしたよ。
書面の内容は、強い推薦と言うか要望と言うか命令と言うか、これもう恐喝と言うか、要するにお姉さまを侍女に、私を騎士としてぜひとも宮中にってそう言うアレでした。ついでにディガンもなぜか侍従としてついてきていいよってありましたね。いや、ディガンと言うか「非常にエレガントでナイスで品行方正で完璧な従者」って一字一句違えず書いてましたけど。あんたにはバックログ機能でもあるんですか。
お父様もお母様もあんぐり、ちょっとどういうことなの状態でしたけど、お姉さまがどうやら偉い方に見初めていただいたらしい、そして私もなぜかついでに引っかかったっぽいと言うことを理解すると、少し嬉しそうでしたね。社交界行って二年もするのにどなたにもお姉さまがいい顔しないって心配なさってましたものね。
ただし、フォローしきれないくらい強引に連れて行かれましたから、やっぱり二人とも随分と驚いてらっしゃいましたし、不安そうな部分はあったようです。当たり前ですよね。正直この展開についていけないですよね。告白するなら私もです。置いてかれてます。
これ以上動揺させるのもかわいそうでしたから、仕方なく――実に、不本意、無念ながら――お姉さまも強く希望して推薦者についてったってことにしましたけど。
なぜか何かを察した顔になって、お父様がとても渋い方に、お母様が困ったようなけれどほほえましそうな顔になったの見て、いや違う絶対お二人の思ってることと違うって思いましたけど、我慢しました。
なんかこう、やはり親子なのですね。お姉さまと同じような空気の読み方です。
……それ以上に一番腹立ったのは、私宛に個別に用意されていた秘密の追伸でしたがね。
なんかちょっと盛り上がってる部分を漁ったらさらに出てきたと思ったら、くっそ腹立ついかにも俺様な筆跡で、
「シスコン君、安心したまえ。お姉さまはご無事だ。ただ、すっごく機嫌が悪いからさっさとこっち来て宥めてくれ」
と。
目に入った瞬間燃やしかけましたよ。見覚えのあるたおやかな筆跡がその後に続いてなかったら、そのまま傍らの蝋燭にでも突っ込んでましたよ。
「わたくしは大丈夫よ。心配いらないわ」
その華奢で美しい、簡素な言葉。
情報過多でぐしゃぐしゃになりそうだった私を一気に正気に戻し、喝を入れるのにはそれで十分でした。




