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4-7.おのれ朕王ー! 後編

 朕王をディガンが制してくれている間に、私は一度ふっと息を吸い、それから足に集中します。

 寒い時に足をあっためる魔術、覚えててよかった。この国は冬場結構冷えますからね。下半身冷えると辛い女子にはありがたいですよ、まったく。


 ――ちょっと、しょうがないじゃない! 私だってできれば男がよかったですよ! あっでも、もしも弟として生まれていたら、ちょっとお姉さまの色香に本気で惑わされて今頃さらに暴走していたかもしれないし、これで結果オーライなのか――。


 そんな場合じゃないでしょうが! ちょっとだけ頭に血が上ってきたり氷で冷えたりで、フラッと意識が朦朧としてる場合じゃないですよ。しっかりなさい、アデラリード!


 自分を奮い立たせ、唱え慣れたそれを数度重ねて呟くと、ぴしぴしと氷から音がして、ぽたんと水滴が顔に落ちてきます――ううっ、足の方もじんわり濡れる感触が気持ち悪いっ。それとは別に額に嫌な汗の粒が出てきて、少し息が上がってきました。どくどく鳴る心臓の音がうるさい。一般人だとこのあたりが限界なのか。すでに身体能力強化とか重ね掛けとかやってますから、そろそろ魔力が切れてきたらしいです――。


 同時に足に力が入るか試して――よし、この薄さにまでなったらいける――やった、抜けたっ!


 木から落ち慣れている私ですから、氷から落っこちるのもなんとかなりました。……というか、下の地面がいつの間にか石じゃなくてふかふかの土になっていました。着地の時モフッて音がした。

 なにこれ。もうちょっとしたらどっちにしろ落とすつもりだったってことですか。王の情けですか。舐めプですか。余裕ですか。くっそ腹立つわあ!


 ともあれ、さっと顔を上げて状況を確認すると、東屋の中のお姉さまが、こちらを見て多少ほっとした顔になったのがわかりました。良かった、お姉さまの方は特に何も起こってないみたい。


 それからその東屋から続く階段の下、円形の小広間の端で朕王とディガンが――待ってください。ディガンのさらに背後に銀髪先輩が立っていて、彼に向かってどこから出したのか剣を構えています。うーん、あれは召喚魔術かな? ディガンが朕王にぴったり張り付いているほどの密着ではありませんが、銀髪先輩も一歩踏み込めばいつでも切りかかれるような間合いで構えてます。

 ――ってつまりそれ、見た目は朕王人質に取ってる侍従たんと銀髪先輩の睨み合いかもしれませんが、実質ほとんど二対一じゃないですか! だって侍従たん、魔術使えないんだもん! 今はなんか大人しくしてる朕王ですが、いつでも反撃可能だもの!


 私が声を上げる前に、近衛先輩が声を発しました。


「頼むから、その人に危害を加えないでくれ。君のために言ってるんだ」

「では、お嬢様をお放しください。でなければこちらも退くわけにはまいりません」


 そして睨み合い。――たぶん私が飛び込む直前も、こんな感じだったんじゃないのかしら、この二人。

 私はほんの一瞬悩んでから、覚悟を決めると――銀髪先輩に向かいます!


「キルル先輩!」

「――アデル!」


 侍従たんが朕王を制し、侍従たんを近衛先輩が制し、そして私は今その近衛先輩を――制するとまではいかないかもしれませんが、さっき落っこちた時についでに氷柱からむしりとってきた即席の刃を向けます。


「学園ご卒業以来、お久しぶりです。お変わりないようで何より――と言いたいところですが、再会を喜べるような状況ではありませんね。ところで先輩、私の通称を覚えてらっしゃいますか。……覚えてらっしゃいますよね、あなたなら?」

「あー、うん、なんでお前がそんな怒ってるのかは、よーくわかってるよ。そりゃあんなに美人なねーちゃんだったら、まあそのなんだ。気持ちがわからないわけでもない。ちょっとだけ納得したよ、おチビ――」

「おチビ言うな、アデルですアデル! あんたらがひょろっと高いんであって、私が低いんじゃないですから!」


 おいこら朕王、どさくさに紛れてそこで肩を震わせんな! お前に笑われんのが一番腹が立つんだっつの!


「とりあえず、その、おチ――じゃない、アデル。そこの尋常じゃない彼は君たちの関係者らしいが、何者なんだ」

「うちの非常にエレガントでナイスで品行方正で完璧な従者です。それ以上でもそれ以下でもありませんが何か」


 そこにおわすのは、どこに出しても恥ずかしくない侍従たんですよ! どこに出しても恥ずかしいあんたのご主人様とは違うんですよ!


「……あ、はい。いや、要するにお前の身内だってわかったんならそれでいいや。だったらさ、お前からも一度引くように言ってくれないか。それとお前もだ。落ち着こう」

「……なぜですか」

「その方が、お前らのためだからだ。――なあ頼むよアデル、言うこと聞いてくれ。俺もさっきからすっごく困ってるんだってば」


 なんかちょっとプッツン来たので、一度息を吸ってから私の出せうる限りひっくい声で言います。


「というかこの状況から推測するに、元はと言えばよそ様にご迷惑なんてかけたことのないうちの優秀な従者にここまでさせるほどの無礼を、あなたのご主人様がお姉さまにやりやがったのが原因だと思うのですが、そこのところどうなんですか。要するに先に手を出したのそっちですよね。今だってあんなことしてますし、だから引くならそっちが先なんじゃないですか。ディガンだって言ってるじゃないですか。そっちが引くならこっちもって。ええ、その後だったらいくらでもお話に応じますし無礼のお詫びもしますしアレだったら制裁だって受けましょうよ。ですが今現在どう考えても、ここまでこじれてるのはあなたの手癖の悪いご主人様のせいですよね。声かけるなら私達じゃなくてご主人様に声かけて、それでもだめなら力づくで首根っこ捕まえて引っ張っていくのがあなたの今日の仕事なんじゃないですか。要するにまとめると、平和的解決のためにはまずはお姉さまの解放が第一ですので、あなたから彼に説得をお願いします、セ・ン・パ・イ?」


 銀髪先輩がちょっと涙を浮かべながら目を白黒させてますね。


 いや確かにね、メタ知識としてそいつが国王だってことも、あなたがどういう立場にあるかってことも知ってますから、本当はこっちを庇ってくれてて、というかあいつに振り回されてるんだろうな、板挟みで大変なんだろうなとは思いますよ。


 でも元はと言えば、あんたの職業から考えるなら、今夜のお目付け役だったはずのあんたが、お姉さまに手を出そうとした奴を止められなかったことが今のこの状況の最たる原因ですよね。つーか原作でもそうだよ、あんたがこのフリーダムを止めてくれさえすれば、アディさん宮中行かずに済んだんじゃ! んな無茶なことをと思われても、思わずにはいられんわ!


 ご本人は基本的に善人でいい方だと言うことを、前世でも現世でも知ってはいるのですが、いかんせんどうしてもこの方には私ちょっと厳しくなりがちです。

 だってこの人ったら――。


「まあそういじめてやるな。お前の先輩はよく頑張っているよ。成果が出ないこともあるが」

「お前が言うな!」


 あ、私じゃありませんよこの発言。先輩です。

 思考を遮った圧倒的元凶の発言に対して、私だって喉元まで出かかりましたけど、飲み込みましたから。


「さて、多少気がそれていたとは言え、朕の背後を取れる実に優秀な従者君、及び未熟な新成人ピヨコ――それともちっさな戦士とでも呼ぼうか?」

「バカ、その状態で挑発すんなって――」

「二人とも、別に好きにすればいいさ。そうとも、そこにいらっしゃる麗しの貴婦人をオレは口説こうとして、それでこの男は怒ったらしい。山猿、お前もそうだろう。だがこっちもこのまま引くつもりはない。これが終わったらまた遠慮なく、さっきの続きをさせてもらうつもりだ。だからそれが許せないと言うのなら、そのままオレをざっくりやってくれても構わんよ。それを咎めるつもりもない」

「リオス――!」

「まあなんとかなる――なんとでもしてみせるさ、キルル。――さあ、どうする?」


 ……この人、本当に先輩に対する扱いひどいですね。ことごとくスルーしている。

 先輩も、原作でのアレがなくて、もうちょい仕事してくれる人だったら、素直に同情できたのですが。


 え? 私がこの程度の目に見えている挑発、乗るわけないじゃないですか。別にこれはあれですよ、全身がったがた震えているのはその、そうです怒りじゃなくて、いわゆる一種の武者震いですよ――。


 が、我慢ですアディ! なんかまた笑われてます! 思い通りに突っ込んじゃダメです!


 にしても朕王あいつ、首に刃突き立てられてうっすら血もにじんでるっぽいのに、余裕満々なのが怖いわ。その余裕も仕方ないなって思えるくらいの公式チート野郎だから、よけい怖いわ。というか、そんな化け物にぴったり張り付けてる侍従たんがすげえと思うのと同時に、いまさら本格的に心配になってきた!


 ディガンは私が視線をよこすとすぐに気が付いてくれたようで、油断なく抑えつつも、どうしますか? って感じに目だけちらっと返してきます。

 先輩は先輩で、なんだか悲壮な顔で私を見ています。



 ……本当に、どうしよう。


 あの面白がっているけれど不穏な雰囲気漂う様子から、どうやら私は奴に試されているようです。


 まず一つ。私が正体にどこまで気が付くのか。

 キルル先輩と知り合いだってことは、さっきの私たちの会話から察したか――あるいはもっと前から知っていたのかもしれません。

 その先輩の立場と発言から、自分が誰なのかこの山猿は推測できるのか。


 ――まあその、ぶっちゃければさっきから思いっきり、先輩がリオスって愛称を連呼してますからね。陛下呼びしないだけマシなのかもしれませんが、リオス――リオスドレイクだってピンとくれば、普通にこいつが王様だってわかるんですけどね。


 もう一つ。それを知って――わかっている上で、どちらを選択するのか。


 引くと言うことは、彼の威光に屈し賢い判断をして――同時にお姉さまを差し出すと言うこと。なんか奴妙に彼女に執着してますし、たぶん好みドストライクだったんでしょうし、これどう考えてもそのままお持ち帰りされますよね。――そんなのダメに決まってるじゃないですか!


 しかし、抗うと言うことは――言ってしまえばたかだか姉妹のために、貴人にそれとわかっていて刃を向けること。その場合、私どころかお姉さまにもディガンにも死亡フラグ立ちますね。というか家ごとフラグですね、下手をすると。


 ……あーもう、なんでオープニングからこんなことに!

 原作通りだったらあいつも完全に忍んでたし、ディガンも先輩も参戦する乱闘になんてならなかったから、ここまでの大事にならずに済んだのに、こんな状況、いったいどうしろって言うんですか――!


「アディ、ディガン、その必要はありません。もう大丈夫よ」


 ――その時、救いの女神の声が辺りに凛と響き渡りました。

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