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4-6.おのれ朕王ー! 前編

 ディガンと銀髪が何か言った気がしますが――二人の間を抜けて、まっすぐ一直線に最短距離で奴に飛びかかります。

 おのれおのれおのれ朕王め――あんたがまだ王様だってわかっていない今のうちに、一発殴らせなさい! 後で不敬罪? 知るか! ワンパン、いや、ツーパンぐらいだったらセーフだったはずです。


 私が向かってくることをその場の誰よりもいち早く察したらしい奴は、お姉さまを自分の後ろにさっと隠すと前に出て手をかざしてにっこりと――って、おいバカ、こんにゃろう! 

 咄嗟に東屋に続く階段を駆け上がろうとした体をひねり、すぐに離脱します。瞬間、一歩前までいた場所に轟音と煙が上がります。これには基本戦闘中黙っている私も、思わず突っ込みを入れかねないです――。


「それが初対面の新成人にすることですかっ!?」


 いくら朕王ヤツにとってはちっこい少年――山猿小僧に見えていようが、この左胸の白薔薇が、私が今日初めて社交界デビューしたピヨコだってことの証明になります。あんた仮にも王様なんだし、絶対そんなことぐらいわかってますよね? そりゃ、先に飛びかかろうとしたのはこっちですけれど――いきなり全力で応戦してきますか!? しかも、咄嗟にやっちまった反撃だったんだごめんな、だったらまだしも、こいつ普通に追撃する気ですよ。思いっきりこの後もやる気満々の顔ですよ!


 朕王ヤツは飛んだ私がバックで石畳の上に着地し、ずざざと勢いのまま滑りつつわめくと、こっちに向けていた右手人差し指をすうっといったん上に、こめかみのあたりに持っていきます――うっわなんですか、あのやれやれだぜとでも言いたげなポーズは。殴りたい。


「あいにく、出会いがしらに襲い掛かってくるような新成人ドアホにまで優しさを振りまいてやれるほど、オレは人格者じゃないんでね。安心しろ、死なん程度には加減してやる――さあ踊れ!」

「わっ!?」


 一歩一歩東屋から出てきながら、奴はさっと再び指をこっちに向けて攻撃を放ってきます――うわわわっって、コラッ――あのですねえ、ぎゃっ――そりゃ、先手打とうとしたのもこっちですけども――うへえ、だからっ、人様のお庭でそうもバンバン攻撃魔術を連発する奴がありますか!? しかも無駄に種類が豊富です。火炎が飛んできたと思ったら雷撃が振ってきて、水柱が地面から上がったと思ったら、石の礫が撃たれて、風がまるでかまいたちみたいにひゅんひゅんと下から――って、そんな魔術のバーゲンセールいりませんよ! ひどい押し売りを見た!

 なんだこの朕王、ひょっとして――ぎゃああああああ耳にかすった、熱いっ! 回避に専念します!


 周りでも何やら各々が焦っているらしい音が、時々切れ切れに朕王の迫りくる魔の手をよけ続ける私の耳に届きます――。


「アデラリード様!」

「アディ――やめて、わたくしの妹に手を出さないで!」


 うわあああああん、お姉さまあっ、侍従たんっ! お二人の様子を窺うどころか、答えてる余裕さえ全くないんですけど。さっきから走ったり飛んだりローリングしたり、いつの間にか銀髪もディガンもいなくなった円形の石の小広場の上を、とにかく全空間方向に縦横無尽に動き続けます――ちょいちょいかすって服や髪、皮膚がダメージ受けてる感触がある――これあれだ、止まったら死ぬ奴だ!


「リオス様なにやってるんですか! 止してください、過剰防衛だ!」

「そうわめくなよキルル、言っただろ。当たっても痛いだけで済むっつの」


 でもとっても痛いんですねわかります――この腐れ外道! 鬼畜! 悪魔! サド!


「というか、元はと言えば、あなたが言い出したんでしょうが、今回は忍ぶって! 忍べよ! というか忍んでください、大人しくしてください、お願いしますから!」

「後でいくらでもフォローしてやるから泣くなって」

「そういう問題じゃない――ぐふうっ!?」

「あ、すまんちょっと手が滑った」

「……! ……!」


 ……流れ弾が当たって悶絶している音がした気がしますが、気のせいだってことにしましょう、そうしましょう。

 たぶん近衛――ええ確か、彼は近衛――に色々ひどい朕王が、ついに東屋の階段ゾーンから私と同じ石の上に降り立ちました。

 この野郎、攻撃長引かせるためにわざとゆっくり降りやがったな。何つー悪人面笑顔――って、これ絶対ヒーローがしていい顔じゃない! 爽やかな笑顔なのに怖い! ぶわって鳥肌立った!

 いや、それよりもっ。


「お姉さま!」

「アディ!」


 ようやく奴が一度気が済んだらしいので、こっちもその隙に未だ東屋にいらっしゃるお姉さまのご無事を確認します。


 ディガンがいつの間にかそっちに移動していて、なんとかそこから連れ出そうとしてくれているらしいですが、近づこうとして何かに弾かれるような挙動を取った後、驚きに目を見開いてそれから顔を険しくします。


 どうやらお姉さまは朕王の魔術で、東屋内にさながら鳥かごの中の小鳥のごとく閉じ込められてらっしゃる模様――ってだから、なんであなたの行動はいちいち悪人じみてるんですか! さっきから思ってたけど、原作より悪化してない、この朕王。なんで!?


 私は奴を視界から外さないようにしつつも、声を上げます。


「お姉さま、ご無事ですか! そいつになんか変なことされてませんか? されてたらどうぞ仰ってください、罪状の数だけ殴ります!」

「アディだめよ、落ち着いて――」

「ほう? 抱き寄せていただけで変な事呼ばわりとは。新成人殿にはまだまだ早い世界だったかな」


 お前には話してねーよ、お姉さまの美声さえぎんな! ニヤアって感じのその顔を、今すぐ走って行って殴り飛ばしたい!

 今行ったらどう見ても罠ですから踏みとどまりますがっ。


「アディ、落ち着いて。あなた様も、今すぐこんなことおやめになってくださいませ。どこのどなたか存じませんが、お戯れが少々すぎますわよ」

「お戯れ――ふうん、お戯れ、ねえ」


 うう、なんです!? 身体の奥がすっごいざわざわしました。

 一瞬だけなんだか雰囲気を変えて呟いていた朕王ですが、すぐにまた悪人笑顔に戻ります。


「まあ、とりあえずはいつまでもやってるのも馬鹿らしいし――ほい、さっくり確保」

「えっ。くうっ――って、あ、あああっ!?」

「アディ!」


 しまった! 不意に飛んできた攻撃をかわそうと飛んだその先に氷の塊が――って、うわわわわわわ、なんですか、滑って右足が持ってかれたと思ったら、そのままぐりんと世界が逆方向に――受け身を取ろうとした腕が、空をかいて――何が、何が起きてるんですか!? 朕王がひっくり返ってるのはかろうじてわかった――ってひょっとして私、逆さづりにされている?


「なっ、何をするんですか――って、ひゃーっ!?」

「リオス様、乱暴は止してくださいっ!」

「……頭冷やしてるだけだっつの」


 頭じゃなくて首、首にっ! 上方向に引っ張られてる感触がする足首だけじゃなくて、首の後ろがすっごくすっごくづべだいーっ! でもそんな場合じゃないっ、抜けださないと――って、蹴りで氷を砕こうとしたら、すぐに左足も封じられました。嘘、万事休す――!?


 ううっ。そりゃ、いくら鍛えたからってオープニング時点では桁違いだってのは知ってましたよ。最終的にはこんな感じに撃退される気はしてましたけど。なんていうか、想像以上のオーバーキル。まさか、ここまで全力で迎え撃たれるとは思わなんだ。なんでそんな無駄に本気出したんだ、こいつは!

 ぐぬぬっ、まだ一矢も報いていないのに、お姉さまの安全も確保できていないのに、なんたる失態――。


 お前が考えなしに突撃するからですって? ええそうですね、反省してます後悔もしてますから。でも、仕方ないじゃない! お姉さまのあんな顔見たら、たとえ勝ち目がない戦いだろうと挑まなきゃいけないんですっ。けしてかっとなっただけじゃないですよ。女にはね、引けない時ってのがあるんですよ。おのれ朕王め、よくもうちのお姉さまにあのような――。


「……お?」

「そこまでです」


 いいえ、まだ、まだですよ。終わってなんかいない。そうです、さすがは我が師匠! ハイスペックNINJA! 弟子が囮になった甲斐がありましたっ!



 聞いたこともない低い低い声を発したディガンが、ぴったりと朕王の背後に張り付き、首にナイフを押し当てています。

 さすが侍従たん! できる男!


 でも微妙に死亡フラグな気もするから、さっさと私もこの状況をなんとかしないと――。

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