4-4.踊らされたくなんてないのに
舞踏会ですから当然踊りをしなければいけないのですが、幸運なことに私はボッチどころかなんだか年上のお姉さま方から引っ張りだこにされました。
男性陣はうわあって顔してるのもいますし、まあ年配の保護者組はあからさまに不機嫌そうな顔してくる奴もいましたけど、別にかまいませんよ。
最初の一曲目――デビュー一発目は基本的に家族と踊るので、お姉さまがお相手してくださったのですが、そこでチビッ――いえなんでもありません、ちょっと小柄な割には? ほ、ほんのちょっとだけ小柄な割には? 案外うまく踊れていたのがどうも女性陣に受けたようです。まあさすがに目立ちますからね。たぶん同期やら身内やらが散々前評判は立ててくれていたでしょうしね。
ふふん、ですがお姉さまとのイチャイチャを見せつける重要シーンで、私がこけるわけないじゃないですか。この日のために、どんだけ庭で泥まみれになりながら練習したと思ってるんですか。女じゃなくて男役の方を!
ウラシアはともかく、ディガンは本当にすみませんでした。度々女役やらせてしまって。おかげで身長高い相手と組むことに違和感感じなくなりましたけどね。微妙そうな顔をしながらも毎回ちゃんと真面目に付き合ってくれる、そんなあなたが大好きです。
ともかく! お姉さまの完璧なリードと私の完璧な――ごめんなさい完璧じゃないです実は緊張で頭真っ白になって途中でステップ間違えました――ムーブメントにより、とりあえず第一関門は合格ラインだったわけですよ。
うん。見た目が際物だけど動作はそれなりだったから、これで最低限お家の評判壊滅的ってことはないでしょう。お父様とお母様があっちでちょっとほっとした顔なさってます。まあ、お姉さまいればなんとかなるかって言ってたのも彼らでしたけどね。実際そうなんですけどね。
にしてもお姉さま、さすがに私と踊ったら目立つし、一曲目終了後はさぞかしその美貌につられていらんのがわっと湧くと思っていたのに、私の方ばっかりに人が集まりますね。いやお姉さまの方にもちょいちょい来るっちゃ来るんですが――なんていうか? 本当に、普通のちょっと格下の伯爵令嬢に対する妥当な態度って感じで。
マジでなんかのステルスしてるんじゃないですか? やはり目の当たりにすると感じますが、お姉さまへの周囲の関心の低さは異常です――。
うわわ、ちょっと! そこのご令嬢、麗しげに話しかけてきたのはいいですけど、どさくさに紛れて頭撫でないでくださいよ! あとなんかさりげなくすでに私のあだ名が「栗毛ちゃん」になりそうなんですが、もっとこういかついのが――。
えっえっ、次のダンスですか? ああええ、まあ構いませんけど。いいんですか? 男同士は嫌がられますが、女同士なら普通に踊っていいことになってますけど、それにしたってあなたもっとあっちの方でたむろしてる男性陣ハンティングしにいかないといけないんでは――ってはいはい、わかりましたよ! 踊ります、踊りますから!
――そんな感じで、気が付いたらなんかあっちこっちを飛び回っていました。
さすがにちょっと目が回ってきたので、一度申し訳ないのですがお断りを入れて、ふらふらと端っこの方に歩いていきます。ううっ、次の番を待っていたらしい、残念そうなマダムの顔が痛い――って、マダム!? 私いつの間にこんなご年配の方の相手までしてたんですか! っていうか、思い返してみれば年上の女性ばっかりだったような――。
はあ。お水をいただいて一息つきます。予想していたよりは風当たりが強くなさそうでほっとしていますが、これはこれで大変だ……。
見回してみると――両親はあっちの方で保護者組と仲良さそうに話してますね。とりあえず、表面上でも相手してもらえてよかった。
あー……学園時代の知り合いっぽいのもちらほらいますね。たぶん同じ地方騎士志望者でしょう。王宮近衛で受かってるのは城でデビューするはずですからね。
そうそう。この世界では貴族の社交界デビューってのはちょっと特殊です。
王宮だったら当然王様が、そのほかの場所だったら各地の有力者が主催するパーティーに、新人たちは学校卒業後の最初の秋の間に出席して顔見せする必要があります。
怪我や病気で動けないだとか、ちょうどどっか遠くの国にその期間行ってたとか、よっぽどの事情がない限りこれは貴族としては必須です。暗黙の了解と言ってもいいでしょう。たとえ名ばかりだろうと、どの階級だろうと、一応爵位を賜っているような新成人は参加が認められていますし、むしろ参加しないと変人枠に入れられます。
怖いですよー。名簿係ってのがいてですね。正面玄関からこういうパーティーに来ると、入るときに名前読み上げられたりするのですが、ついでに誰が来て誰が来てないかチェックして、あまりにも音沙汰ないと実家に問い合わせが来るんですよ。お前んとこの息子(もしくは娘)、新成人だよな? なんで来ないの? って。んで納得できる返事がくればそれで済みますが、もしも返事をしなかったりなんだか怪しげな理由があったりした場合、新成人どころかその家の評判一気にガタ落ちしますからね。あそこなんか後ろ暗いことやってるみたいだぞって。
ですから実家の方も、いくら自分の子が引きこもり体質だろうと、最低限この行事にだけはなんとか参加させます。これにも出させられないと判断されるほどの問題児は、成人とともに実家から追い出されるのです――。
良かった、私勘当されずに済んで。庇ってくださったお姉さまのおかげですね。あと、練習に付き合ってくれたウラシア、侍従たん、本当にありがとう。いつかこのお礼は必ず。
それと、王宮では毎年王様が主催しますが、地方での主催者は場所によってはローテーションしたりしてますね。
主催になれるってことは、格のある家だってことを示す絶好の機会ですから、競争率は激しいですよ。中には格の高すぎる家が毎年主催していて、他の追随を許さないってこともありますけど。
ああ、この会場ですか? えーとなんでしたっけね。ポルティスタ侯爵家主催でしたっけね。うちの家から大体馬車で3日くらい離れたところの領主さんです。途中途中を魔術で転移しますから、そこまで移動時間かけませんけどね。
……うちの家はまあ、全盛期だったら名乗りを上げることも可能でしたでしょうが、今じゃ無理でしょうねえ。設備も人材も足りないです。一番の問題は、何かトラブルが起こった場合に収めきる力が我が家にはないので、そこで選考基準から除外されますね。
あれですかね、なんかゲーム製作者の思い入れでもあるんですかねこの辺の妙な特殊ルール設定は。
……ふー。さっきまで視界がぐるぐる回ってましたが、そんなわけでちょっと落ち着いてまいりました。
そういえば、女性陣の相手ばっかりしてたのでちょっと油断していた部分ありますが、奴は――奴はどうでしょう。まだ現れていないかな?
会場内を見渡す限り、それっぽいのは発見できません。
……にしても、思い返してみればおかしいなあ。
朕王の外見は鬱陶しいほど派手でして、作中での文にもそのような記述が度々出てまいります。彼の本来の髪の色はオレンジ。まあさすがにお忍びで来ているので、その辺はばれないように茶髪に染めていた気もするのですが――。
何かが、ひっかかります。私――何か大事なことを見落としていませんか?
急速に湧いてきた何かの予感を集中して確かめるために、話しかけられないように気分が悪くなったから休む風を装って端の方に歩いていきます。
目立つはずなのに目立たない――。
一種のステルス――。
――目くらまし魔術。
電流が突然走ったように、私の頭の中にバッと答えが浮かびました。疑問に思っていた、お姉さまのこと、そして――。
鏡で見なくてもわかります。みるみる私の顔色が悪くなっていってることでしょう。
「――お姉さま」
ああ、なぜ今まで気が付かなかったのでしょう? どうして図書室で見た、あの記述について忘れていたのでしょう!?
見渡しても、見渡しても――どこにも彼女が見当たりません。いつもなら、どこにいても私にはすぐにわかるのに。
焦りと不安がこみ上げる中、警鐘のように、私の頭の中に一つの単語が浮かびます。
――テラス。
次の瞬間、私はわき目も振らずその場所に向かっていました。
あれだけ近寄るまいと思っていたのに。
ですがもう、行くしかないです。
願わくば、何も起こっていませんように――!




