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4-3.それは勘違いですよ!

 着替え終わった姿をお姉さまにお見せしたところ、「似合っているわよ」と、ふんわりスマイルいただきましたー!

 もう本日の任務、これで終了したい。パーティー行きたくない。

 行かないと嫌な予感しかしませんから、ちゃんと行きますけどねっ……!


 ところでお姉さま、てっきりあの赤いドレスを着ていらっしゃるかと思ったら、なんだか地味な藍色のドレスです。露出度もかなり低め。かろうじて胸元がちらっと見えるくらいでしょうか。お姉さまの持ってらっしゃるドレスの中でも相当地味な奴着てません? 髪型もお化粧もそういえば控えめですよ? どうして?


「今日はアディが主役だから、わたくしはいいの」


 って、理由を聞いてみたらお答えになりましたけど。


 別にいいのに、私のことなんかそんな立たせようとしなくても。どうせモブっ子顔なんですから着飾っても大したことにはなりませんし。


 ……そうですよ。アデラリードは前世からモブっ子でした。

 お姉さまのような方こそ、主役に相応しいのです――。


 はっ! 今の、忘れてください。私も忘れます、あはは。


 あれっ。それに思い直してみたら藍色って――ひょっとして、アレですかお姉さま。私とペアルック狙い!? な、なんということだ! お姉さまご本人から彼氏面しろと! いやん、お姉さまったら大胆! えっちょっでもこれ行っていいんですか、いやそんなに迫られると逆に申し訳なってくると言うか、どっ、どうしようそんなまだ心の準備ががが――。


「アデラリード様?」

「うっひゃあああああ!」


 じっ侍従――じゃなくてディガン! だからそう、気配を消して近づいてくるのは、心臓に悪いからやめてくださいと何度言えば! NINJAだからもう身についているのかもしれませんが!


 ちなみに私、出かける前に心を落ち着かせようと、また木の上にいるのですが、これもNINJAスキルでしょうか、侍従たんも相当木登りうまいので、呼びかけると隣に上ってきてくれることもあります。

 最初のころはすっごい遠くから呼びかけてくるだけでしたから、これも日ごろのお菓子効果でしょうかね。なんか野良猫慣らしてる気分でしたよ。


 ――ああでもすみません。完全にこっちが上の空だったせいで、予想外にビビらせてしまったようです。

 あっだからそう、物理的に距離を取らないでってば! 寂しくなるから!


「も、申し訳ございません」

「あっやっ、別にそんな! な、なんでしょう!?」

「いえ、その――大したことでは」

「ど、どうぞどうぞ言ってください!」


 そしてなぜでしょうね。なぜ毎回こう、ペコペコ合戦になるんでしょうね、あなたと話していると!

 そういえば、最初は召使いというか従者さんですから、私の方が一応格上であって、それっぽい話し方をしようとしていた気がするのですが――いつの間にかこの通りですね。もう完全に、プライベートの時はお互い敬語が身についてしまっています。ディガンの方は頑としてこの部分を譲るつもりはないようですし、私はなんでしょう……癖ですねえ、これはもう。

 なんか、伯爵令嬢らしい振る舞いとやらができてない自覚がある分、口調ぐらいはせめて申し訳程度に丁寧にしようと思っていたらいつの間にか敬語キャラになっていましたね。


 ……誰かこの微妙な間、なんとかしてくれませんかね。

 組手の時はお互い身体で通じ合うのになあ、なんか喋ると妙な気恥ずかしさというか、どうしてこうなるのかは自分でもよくわかりません。


 ディガンは何度かお互いにどうぞどうぞいえいえを繰り返してから、なんだか申し訳なさそうにぽつっと言い出します。

 いやだから、そんなに恐縮も遠慮もしなくっていいのに。


「……何か考え込んでらっしゃるようでしたので、お邪魔してはと思ったのですが……もしやお身体の調子がすぐれないのか、と」

「や、身体は全然大丈夫です。ぴんっぴんしてますよ。なんなら今から組手しますか、師匠?」


 私が軽く構えをとると、ふっとディガンは気づかわしげな表情からやわらかな笑みになりました。


「せっかく整えられた衣装が乱れてしまいますよ。ウラシア達に怒られてしまいます。今日はお行儀よくなさるはずでは?」

「あっ、そうでした」


 ふう、ひとまずは安心させることができたようです。いや、さすがに何について悩んでるのかは言えませんからね。おのれ朕王とかお姉さまとペアルックキタコレとか、さすがにちょっと侍従たんの中の何かが変わってしまいそうなのでそんなははは、言えるわけないじゃない。


 彼、結構鋭いですからね。そして過保護ですから、ちょっとでも体調不良だとばれるとすぐお休みを入れられてしまいます。いやそんな、壊れ物みたいに扱わなくても大丈夫よ。どうせもう軍人学校でかなり傷ついてるから。いやこう、肉体損傷的な意味でですが。


 組手の時はスイッチ入ってるから容赦なく投げられますし、関節技も決められますけどね! 後で我に返って平謝りしてくるのは、もう恒例行事です。いえ、もとはと言えば私が無理に頼んでいることですから、そこまで恐縮しなくても以下同文……。



 ともあれ、侍従たんが来たと言うことは、いよいよお出かけの時です。

 今回は彼もいっしょに来てくれるそうですから、心強いですよ!


「ディガン、そうだ。今日のことでお願いがあるのですが、パーティーの最中はお姉さまのことを見守ってあげてくれませんか? あまりおおっぴらには動けないでしょうが、何かあったらすぐに助けてあげてほしいのです」


 私は木から衣装や髪を乱さないようにちょっと注意して飛び降りて、地上で朗らかに迎えてくれたディガンに笑いながら頼みます――。

 あれっ。なんでそんな微妙そうな顔してるんですか?

 私もつられて困惑の顔になると、彼はちょっと言うかどうか迷った後、意を決したようです。


「スフェリアーダ様は、不慣れなあなたを見守ってくれと仰っていたのですが……」

「――ええっ! お姉さまが!?」


 ど、どういうこと!? 私は思わず詰め寄ってしまいます。


「お、お姉さまから――お姉さまの方から、あなたにそう言ってきたってことですか?」

「はい――。普段はあの通り、私に特別なことをおっしゃる方ではないのですが。先ほど珍しく私を指名でお呼びなさって――自分では行き届かない部分を見守って、できるならフォローしてやってくれ、と」


 ちょっとーっ! お姉さまったら何やってるんですか!? せっかくこの3年間無視し続けてきたディガンとのフラグを進めるチャンスだったのに、私のことなんか頼んでどーするんですか! いやそのお気遣いいただけてうれしいっちゃそうですけど、それよりもっと大事なことがあったでしょうに――。


 ……あれっ。


「というか――なぜウラシアではなく、ディガンに?」


 そうですよ。今回はウラシアも一緒に来てくれるのに――なぜにわざわざディガンの方にお姉さまは声をかけたのでしょう?

 だって、初対面の時を忘れてるとしたら、それこそ小さいころから面倒見てくれて気心も知れているウラシアの方に言うべきでは?


 って、おいちょっと待ちなさい。なぜそこでギクッ! って効果音が付きそうな顔になったんです、あなた。何か隠してますね。

 ちょっと私が強めに睨むと、観念したようにディガンは言いました。


「……その。あなたがよく妹を気にかけてくれているのは知っているから、と」


 もしかして、あれですか。侍従たんとの仲良しイベントがお姉さまに全部ばれていて――。


「お姉さまったら、何か盛大な勘違いをなさってませんか!?」

「……私もそのように申し上げたのですが。何か誤解なさってませんか、と――」


 そこで止まらないで! その先も言って!


「……それには特にお答えはなく――その、ただ――何も言わずに微笑まれただけで」


 お姉さまったらもーう! いやその確かにね、仲良しフラグは進めてましたけどね! でも別にたぶんあなたの思ってるのと違う! 侍従たんは愛でてるだけなのに!


 大体もしも仮に、ありえないことではありますが、まあ仮に、私がディガンとのフラグを進めたがっていたとしましょう。


 方向性がおかしいでしょう!? なんで積極的に組手しに行ってるんですか! 男服山猿アピールを重ねてるんですか! ふつうここはあれでしょう、あなたにだけは女の私を見てほしいな……って!

 私はですね、侍従たんにならあなたを任せてもいいとは思ってますが、別に私の面倒見てほしいなんてぜんっぜん、これっぽっちも思ってないんですから!


「やはり女学校に行っているとあれですか、普通とは若干違った感性をお持ちになってしまうのですか――」

「は、はあ」

「ディガン!」

「はい」


 急に声をかけた割には、今までのどうしたらいいのか途方に暮れている表情から一転、しっかりきりりと彼は姿勢を正します。


「えーとその。……とりあえず、私はなんとかしますから。お姉さまの方を、よろしくお願いします。私はあれです。別に最悪何か失敗しても失うものはあまりありませんけど、お姉さまはそうじゃありませんから」


 ディガンは一瞬だけピクッと眉を跳ねて何か言おうとしましたが――結局、私が真剣な顔で再度お願いすると、ふっとまたどこか困ったような顔になり、それからいつもの伏し目になりました。


「……承知いたしました、アデラリード様」



 こうして私たちはいよいよ決戦の舞台に旅立ったわけですが。


 ――思えば既にこの時から。

 私はお姉さまではなく、自分の勘違いに――ええ、自分の前提条件が間違っていたと言うことに――気が付いておくべきだったのかもしれません。

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