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4-1.決戦の時ですよ!

 私、アデラリードは16歳になりました。

 学園も何事もなく無事に卒業いたしまして、就職先(って言うんですかねこれは)も日々努め続けていたおかげか、普通に推薦でどうにかなりそうです。


 普通の人なら嫌がる国境近くの辺境ですが、打診してみたところお姉さまも悪くない反応。むしろお話しした翌日から早速準備を始めてらっしゃるご様子……。

 うへへ。お姉さまったらなんて積極的な。ちょっとなんか嬉しすぎて変な笑顔になっちゃうじゃないですか。うへへ。


 お父様とお母様は、お姉さまに関してはもうちょい行く先あるのにともったいなさそうな感じもありますが、彼女の意思を尊重するとのこと。私に関してはもう、シアーデラ家の赤っ恥にならない程度に、好きに元気に生きなさいとのこと。


 ふっふっふ。見ましたか! これがアデラリードの本気ですよ! 宮中行ってあのマッドアルケミストにリミッター外してもらうまでもなく、愛の力でここまでのし上がってまいりましたよ! あとは身長さえもう少し伸びてくれたらもう何も望みません!



 ……ええ。そんなわけでまあ、本当は学園での最後の一年とか卒業直前とか、地味に色々あったと言えばそうなのですが。

 残念ながらそれどころではありません。大事の前の小事。取るに足りないことです。


 ついにこの時が――運命が決まるときがやってまいりました。


 今夜、私の社交界デビューの時。



 さあ、アデラリード。これが16年で一番の勝負どころですよ! 朝から気合い入れていきましょう、ひゃっほーい!


「ふはははは、ですが10年前の、原作の無力だったアデラリードだと思うなよ! 見なさいどう見ても男にしか見えないこの筋肉と絶壁っぷりを! 言ってて悲しくなんかなってません! この調子で、万全の態勢で臨むので――」

「――様、お嬢様! あの!」

「あれ。どうしました、ウラシア」


 下から声が聞こえると思って見てみたら、ウラシアは腰に手を当ててこっちをにらんでいます。

 私と同じような栗色の髪――ですが彼女は天然パーマなのでくるくるとしています――がメイド帽からちょんと覗いていて今日もグーですね。顔はなんか怖いですが。せっかく顔立ちは丸めっていうか可愛い系なんだから、もっと笑えばいいのに。


 なお声が微妙に遠いのはあれです、私が木登りして上でガッツポーズ決めているせいです。

 ウラシアは当然地上――正しくお庭の上にいますから、この位置関係になるわけです。スカートじゃなくてよかった。……あ、でもウラシア相手じゃ何のサービスにもならないか。


「やっぱり、今からでも遅くないです。この際お姉さまの借り物でもいいですから――」

「嫌です。私はあの服着ていきますよ。この日のためにと用意していた勝負服なのですからね!」

「は、はあ……」


 あら、よく見たらウラシアのすぐ近くに白髪と白鬚のベテラン執事さん――爺やまで来ているじゃありませんか。

 私がよっこらせと木を降りている間に、孫娘にそっと呼びかけています。


「ウラシア、背が同じくらいだからドレスはなんとかなるかもしれぬとして、お嬢様に履きなれていないヒールを宛がっても醜態を晒してしまうだけじゃろ。もう、諦めるのじゃ」

「じいちゃん――じゃなくて爺や! あんたまでそんなこと言ってどうするんですか! せっかくの晴れの舞台がこのままじゃぶち壊しですよ!?」

「その通りですよ。ぶち壊したいんです、私は!」

「もうやだこの悪ガキ! じいちゃん離して! 今まで甘やかしすぎてきたことをいまさらながら思い知ってます――今日がそのすべてのツケを清算する日です!」

「ウラシア、ウラシア、落ち着きなさい。ほれ、深呼吸」


 くどいですよウラシア! もはやお父様もお母様も、お姉さまと侍従たんすら諦めた私の説得を続けようなんて!

 そしてさりげなく私に飛びかかろうとする孫娘を羽交い絞めして取り押さえている爺や、さすがいつもやっていることだけあって手慣れてます。


 ウラシアは一瞬頭が沸騰しかけたようですが、すぐにくたっと脱力してしまいました。


「……ハア、なんか疲れちゃった。にしても爺や、お嬢様はいったい何と戦うおつもりなのでしょうね?」

「儂にわかるはずがなかろうて」

「あっ。もしかして、この格好で女の子でも集めるつもりなのかしら。前からちょっと思ってましたけど、女の子大好きらしいですし」

「いや女の子じゃなくて、お姉さまが大好きなのです私は! そりゃ、女の子だって可愛い子は好きですけど……」


 ちょっとっ。私がせっかく横から説明しているのに、爺やもウラシアもなんかスルーしてません?


「なるほど。軍人学校に行かれたのも、女の子にモテたいが故ですか。いやはや、お坊ちゃまだったら正しいのですが、お嬢様だと言うのに……いったい何を間違えてこうなってしまったのでしょうなあ」

「生まれた段階で性別を間違えたのではないでしょうか。可哀想な山猿――じゃない、お嬢様――」

「おいコラッ」


 さすがに突っ込みを入れようとしますが、二人とも全然意に介しません。

 というかウラシア、あなたさっきから私の悪口隠そうともしませんね? 一応これでもご主人様なんですけど? そりゃ、そういうの本当は嫌いだから、お父様お母様の見てない場所ではあんまり気にしないでって、はるか昔――細かく言うなら6歳の時に宣言してから、ずっとその態度で通してきた私が原因っちゃそうですけど! それにしたって、最近私のこと軽んじすぎてません!?


「でも、大丈夫かなあ? 見た目だけならそれなりですから、引っかかっちゃう子多いかも」

「ま、まあすぐに身元は割れるじゃろうし……?」

「あの二人とも、これでも一応私お嬢様なんですが? 無視するって駄目じゃないですか? その前に、目の前で堂々と悪口言うってひどいですよ? どうなんですか?」


 ねえ、そろそろ壁に話しかけてる気分になってきた! 私寂しくなってきた! どっちでもいいからリアクション返してくださいよ!


「甘いですよおじい様。女の子って案外こういうの好きなんですって。男装の麗人ってのはいつの時代も一定の需要があるんです! ……ただ、この場合のセオリーとしては、男性並みに背が高くってどう見てもイケメン顔でってあれなんですが」

「お嬢様の場合、どう頑張っても美少年どまりじゃな。顔といい背丈といい」

「……いやでもこれはこれで需要はあるか。むしろちやほやされるには持って来いか――」

「ちょっと、黙って聞いていれば、爺やもウラシアも好き放題言って! なんですかまったく!」

「誰のせいだと思ってるんですか、この問題児が!」

「お嬢様、初めての晴れの舞台、お気持ちが昂るのは仕方ありませんのう。羽目を外すなとは言いませぬが、この老体に鞭打つようなことを起こさぬよう、ほどほどになさってくださいませな」

「あのねー、とりあえず二人とも誤解のないように言っておきますけど、別に私、男の服着ていくってこと以外はいたって普通にふるまうつもりなんですからね? 何も問題なんて起こしたくないんですよ!?」

「ははは、それはよろしいことですな」

「あーはいはいそーだといーですね」


 二人とも、他に誰も見てない状況だと、すっかり私のこと悪ガキ扱いするようになってますね……。なんだかんだ文句や突っ込みしながらも、こうして相手をしてくれたり、探しに来てくれたりすることは嬉しいんですが。


 ただもうちょっとこう、侍従たんみたいな上品な態度をですね。

 いや放っておくとどこまでも他人行儀になるあそこまでやれとは言いませんが、なぜですか? 学園といいこの家といい、なぜ皆が皆、私のことを弄っていい子みたいな認識でいるのですか!?

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