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3-5.この大失態は笑えません

 うううううっ。

 私、非常に悲しいです。お姉さまのバカバカッ、ひどいです、あんまりですよっ……!



 なんですかあの、私が侍従たんについて喋り始めた時の生温かいまなざしは。あーはいあなたもお年頃ねみたいなあの顔は。完全に部外者の顔でしたよ! 無関係な人の目でしたよ!

 しかもしかも、


「ええ、新しく入ってきた、ディガンって召使でしょ? 挨拶くらいはしたけれど――それがどうかしたの?」


 って! 私が「5年前の……」ってヒントを差し上げたのに、


「……そんな昔に、何かあったかしら?」


 なんて!


 原作アデラリード同様、本当に忘れてるとでも言いたげでしたよ? 

 あんな劇的な出来事を! 横で見てただけの私ならともかく、あなたバリバリ当事者だったじゃないですか! なんで忘れちゃうんですかー!?


 なんかもう、あまりにもあっけにとられてそれ以上追撃できませんでしたよ。そのうちにお姉さまはこれから用事があるとかで、お茶会の時間は終わってしまうし。


 ですからびゅんびゅんと、今現在私は練習用の剣をお庭で振り回しております。

 やっぱあれですよね! カッカしてるときって、身体を動かして発散するに限りますよねっ、ふんっ。

 もうもうっ、お姉さまってば! 本当に覚えてないのか、覚えているのにとぼけているのか、まったくわかりませんよっ、はあっ!

 しらばっくれているんだとしたら、あえてそうしているその理由もわからないです、なんでですかーっ、ふぬううううっ!



 ぜー、ぜー……うん、だいぶ身体あったまりましたし、ちょっと休憩しようかな。


 ――ふと、誰かの気配を感じて振り返ります。


「あっ」

「――お嬢様」


 侍従たん――じゃなくてディガン――これそろそろ脳内の呼び方を修正しないと、うっかり本人に侍従たんって呼びかけそうで危険です!

 ディガンがですね、お庭の掃除でもしようとしてたのでしょうか? 剪定ばさみだとか箒と塵取りだとか、なんかそれっぽい道具を両手に抱えて立っていました。

 目が合うと、これまた隙のない動きでお辞儀します。私もぺこっと頭を下げます。


「ええっと――あっ。ここ、お手入れします? どきますか?」

「いえ、お構いなく。こちらこそお邪魔してしまい、申し訳ございません」

「あっ別にちょうどいったん休もうと思ったところだったので、全然そんな」

「いえ――」

「いやいや――」


 なんだか両者ぺこぺこし合うことになりました。……なんだこれ。何をやっているんだ私は。あほですか。

 ちょっと自分の謎の行動に気が遠くなりかけましたが、我に返るとディガンがじっと私の手の中の剣を見つめていることに気が付きました。

 私の剣と、それから腕と、身体と――たぶんその辺を一通り見終わってから、彼はぽつっと言います。


「……アデラリード様は、やはり騎士を目指していらっしゃるのですか?」

「ええ、はい、まあ」

「差し支えなければ、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「あー、珍しいですもんね。いいですよ、全然」


 こんなことに興味があるんですか侍従た――じゃなくて、ディガンですディガン。

 まあそりゃ、珍しい通り越してもはや酔狂ですもんね。貴族令嬢が軍人学校通って、しかも自宅の庭でこんなもの振り回していたら。

 それとも彼も戦いの経験がある身だから、そっち方面からの興味でしょうか。……ど、どう映ってるんでしょう私。侍従――ディガンはその道のプロでしょうから、こいつ素人だなとか超弱いとか思われてたりして……ぐぬぬ!


 剣を軽く手入れしてからカバーをかけてしまうと、ディガンも掃除道具をいったんそのあたりに置いています。


「私、騎士になってお姉さまをお守りしたいのです。そのためにこうやって、日々鍛錬を積んでいます」

「スフェリアーダ様を?」

「はい!」


 お、やっぱり侍従たん、お姉さまのこと気にしてますね。名前が出た瞬間ちょっと顔色変わりました。よかった、こっちのフラグは順調そうです。

 ……ではせっかくですし、こちらの方をちょっと進めてみますか? ガーディアン作戦、スタートです!


「アデラリード様は、お姉さまと仲がよろしいのですね。先ほどもお二人でお茶会を開いていたとか。メイド長から、お嬢様方が帰ってらっしゃると毎日のようにそうしていると聞きました」

「ふふっ――私もお姉さまも、お紅茶が大好きですから。お姉さまは猫舌ですから、熱すぎると飲めないんですけどね」


 にしてもじ――ディガン、お姉さまの話を聞いてでしょうか、無意識に微笑むお顔が穏やかでやわらかで、こっちまでなんだかいろいろ緩んでまいります。愛い奴じゃ。ほんに愛い奴じゃ。大分年上のはずですが。今いくつなんでしょうね。少なくとも二十歳は越えているはずですけども……。

 ああ癒される。話しているだけで癒されます。日ごろ朕王のことを考えてキリキリ痛む胃が浄化されるようです。


「――ですが、お守りしたいとは随分と――その、他にも道はあるのでは? なぜ、わざわざ騎士道を選ばれたのですか。よっぽどの覚悟あってのことでしょう。何かきっかけでも?」

「ええとまあ――とある男からお姉さまを守り抜く必要があってですね」

「とある男? お知り合いの方ですか?」


 さっと侍従たんの顔が曇ります。

 ……ですがたぶん、私の顔の方がもっとどんより曇ってます。


「知り合い、というよりは――まあ嬉しくないですが、このまま順調に行けばお知り合いになってしまう運命にあるアンチキショーと言うか。今の段階では、私が向こうを一方的に知っているだけの関係ですね」

「…………そう、ですか」


 うん。そりゃ、首もかしげたくなるし、微妙な顔にもなりますよね。というか反応に困りますよね。


 でもそんなさすがに、前世の知識でお姉さまが、なんていきなり言えないもの。侍従た――だからディガン! ですから一応話は聞いてくれるかもしれませんが、絶対その後可哀想なものを見る目で私がいたたまれなくなります。

 もうお姉さまで既に経験済みです。二度目はやりません!


 にしても、きっかけ、きっかけかあ……。

 そういえば、直接的な原因は木から落ちたあれと言えなくもないかもしれませんね。


 だって、木から落ちて思い出して、の下りはまあ省くとしても、その後お姉さまが探しに来てくださって、そこで落っこちて呆然としている私をたんこぶを治療した後大層慰めてくださって、私は改めて生きているお姉さまにお会いできたことに感激して、あなたを守ります! ってなったのは確かですし。


 あっ、そうですよ! こうしてみると、ちょうどお揃いでいいじゃないですか! お姉さまガーディアンズは、二人ともお姉さまに助けられ、そのお優しさに触れてお姉さまをお守りすることを決意! 木から落ちただけの私と命を助けられたディガンとではちょっと重みが違う気がしないでもないですが、私たち二人とも、お姉さまにご恩返しをしたい同志で――。


「……アデラリード様」

「えっ――あっ、はい!?」

「……今のは、どういう意味ですか?」

「はあ――って、ああっ!?」


 うっぎゃあああああああ、今の口に出てたんですか!? どこからっ!?

 今まで慈愛と優しさに満ちていたディガンの目が一転、鋭いものに変わります――ひええ!


「ご恩返しをしたい同志とは――どういう意味ですか?」

「あっえっと――それが何か、問題でも?」

「……私たちがお会いしたのは、先日私があなたを学園までお迎えに上がった時が初めてだったはず――なのにあなたはどうやら、私を以前から知っているような風にお話しになっている」


 ディガンの冷たい灰色の目に射抜かれて、私はびくっと身が震えるのを感じました――。


「……どういうことか、お聞かせ願えますか」


 あ、あわわわわわわ、私ったら緩み過ぎィ! 何やってるんですかこの大事な場面で! 

 セーブもロードもこの世界にはないのに! やり直しはできないのに!


 せっかく仲良くなれそうだったのに――よりによって、警戒心を抱かせてしまうなんて!

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