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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
結:四天王制圧編~vsフラメリオ
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4.そしてこのギスギスな空気である

「よう。悪かったな、いきなり。驚いただろう」


 朗らかに声をかけても向こうは警戒の眼差しを崩さない。まあ当たり前と言えばそうだ。


 タルトレット=レヴァンドラ。

 見た目は美少女、中身は屑男。顔と強運に助けられてるだけのジャリガキ。


 ああ、個人的にヘイトを溜めてる理由?

 そりゃあ、喧嘩売られたからに決まってるじゃん。


 すぐに察知して手を引いたようだが、オレはほんの少しだけ親切なんだ。

 そうとも、無知なことは罪だ。

 ゆえに、知らないようなら教えてやるべきだと思わないかね。


 当て逃げは相手を見てやるべき愚行だ。

 朕はガキだからってだけで許してやるほど心の広い人間じゃない。

 ましてもう成人済なんだし、完全に自己責任。


 と言う事で、一回ぐらいちゃんとシメておかないと、とは考えていた。

 保護者に軽く、「ちょっとお宅の調子乗ってる素行不良野郎とお話し合いしてもいいですか? 個人的な恨みなんですが、もう大人なんだしまさか駄目ってことはないよね」って打診したら、「我々はどうしても甘やかしてしまうもので面目ない。ここらで一発世間の厳しさを教えてあげてください。でもお婆ちゃんの心臓に悪いようなことはほどほどにしてもらえると嬉しいな」って感じの返答もばっちりいただいている。


 神官長も苦労するな、と思うべきか、この古狸が、と思うべきかは微妙なところだ。

 文面からは「ああやっぱり問い合わせが来たか」って雰囲気漂ってたし。

 あの笑顔を絶やさぬ、一見ただの子ども好きの能無しに見えるババアは、見た目よりずっとしたたかで、手こずらされたこともあるし助けられたこともある。

 ババア呼ばわりしても全く怒らないあたりとかは素直に尊敬できるんだけど。


 ともかくそんなわけだから、今ここで後ろで怖い顔してる二人に便乗してボコボコにすることも、できないわけではないんだな。

 別に緊急性と必要性を感じない限りは、あんまり手荒にする気はないけど。



 個人的な事情は一度脇にでも置いておいて、朕はひとまずそこそこ友好な態度を取ることにした。

 プライベートでは初対面なわけだし、まずは自己紹介と行きますか。他の二人にこの場を任せると悪化する予感しかしないし。

 緊迫した睨み合いの中、スフェリに手で下がってほしいと伝え(こいつが下がれば忍者も一応従うし。いつ反抗されるかわからないとは言え)、つとめてのんきに聞こえるように喋ってみる。


「プライベートは初めてだったかな。始めまして、星の寵児殿。オレは国王リオスドレイクだ。ってことで、これからよろしくな」


 年若い神官は朕の言葉を聞いている間にも、素早くターコイズブルーの瞳の奥で考えを巡らせながら、オレ、侍従、スフェリ、それからチラッと部屋の様子(たぶん退路の確認。当然すべて塞がれているか抑えられている)に向かって順に視線を走らせている。

 それで軽くにせよ自分の状況がつかめたのか、渋々と言った体で口を開いた。


「これは一体、どういう事なんですの? わたし、その――色々唐突で、状況がさっぱりつかめておりませんで」


 目を合わせ、ゆっくりと奴は言葉を紡いでいる。

 なるほど、とりあえずオンモードで対応するってね。スフェリやアデル相手には多少強気に出ても、さすがに朕には空気を読むか。一つ手間が省けたかな。


 これで向こうがふてぶてしい態度とかだったら、早速神への高速懺悔はんこうよこく、からの暴力せっとくに訴えなきゃいけないところだったからな。

 ご婦人の前で乱暴はちょっと、とか思わないでもないんだけど、ここにいるご婦人は特殊だから、目の前でどうでもいい人間が苦しい目に遭ってようが涼しい顔で聞き流すに決まっている。


 それに朕がほんの少し心の狭い部分を出したところで、特に評価が下方修正されることはないだろう。

 なぜなら既に底辺をさまよっているからだ。これ以上下がりようがない。

 だんだん悲しくなってくるから、自虐はこの辺にしておこうか。



 それにしてもアデルめ。本当に、また面倒な奴を関係者に選んでくれたものだ。

 この手の、口も頭も回るけど人間性が馬鹿って輩は半分害獣みたいなもんだから、最初にちゃんと上下わからせておかないと後々面倒なことになる。

 今の所一応朕が上だと思ってるようだが、色々舐めてる奴だからいつ掌返すかもわからないし。


 考えながら、朕は背後の連中もちらっと窺っておく。

 スフェリも忍者も、今の所微動だにしない。だからって安心できるわけじゃないが、「とにかく拷問だ!」とか言いださないことは少しだけ安心した。心の中では思ってるのかもしんないけど。

 なんだろうね、三人中二人、いや一人は一応味方側のはずなのに、味方のこともあまり信用できないって。


 こんな殺伐とした世の中なんて、朕、とっても悲しい。

 別に慣れてるから適当に流しておくけどさ。


 神官から目を離さないように注意しながら、でも背後の二人の気配も探りつつ、言葉を探す。


「どうせ知ってるんだろうけどさ。一応説明しておくと、朕は大賢者の一番弟子でもあるわけだ。昨日までお前と仲良くゲームしてたらしいあれはうちの二番弟子。つまり弟分なわけ。今日はそいつの事でちょっと聞きたいことがあったから、お邪魔させてもらったってところ。あ、そんなわけで今の朕はプライベートだから、別にそんな堅苦しく振舞わなくていいぞ。陛下呼びもなくていい。気軽にリオスとでも呼んでくれ」


 さて、どう来るかな。

 朕が口を閉じて見守っていると、神官は思案気に瞳を揺らしてから、後ろの忍者に顎をしゃくってみせた。


「それじゃ、彼もあなた様のさしが――えっと、あなた様のご命令を受けて、ここに?」


 差し金って言いかけたぞこいつ。やっぱりまだまだ子どもなのかな。この程度の圧迫面接でこうもあっさり本音がするっと出てきてしまうとは。まあいいけど。


「いや――」

「勘違いするな、小僧」


 こっちが答えるより素早く空を裂いた冷ややかな声に、もうお兄さんは肩をすくませるしかないよ。

 あっちが年齢不詳だから、朕の方が年下の可能性もあるわけだが。


「私の主はこんな屑ではない。二度とそんな口を叩くな。実に不愉快だ」


 噛みつかれた神官は若干困惑したように目を見開いているが、別に反論する理由もないのではいはいと黙って猛犬が唸るに任せておく。

 しかしこの裏表である。普段の温厚そうな顔しか知らない奴が今この場を見たらさぞかしビビるだろう。


 見る目がないのか馬鹿だからなのかは知らないが、こういう男をさも大人しく人畜無害のように扱っているアデルはやっぱり、懐が大きいと言うより危機察知能力が欠けていると思う。

 あいつ絶対、自分が手なずけてるのが狂犬だって理解してないよな。一歩間違えたら噛みつかれて大けがするって。


 ともかく。

 お犬様が一通り吠えて落ち着いてくれたらしいので、朕は咳払いして再び話し出すことにした。


「えーと。一応何もわかってない君にも解説してやるとだな。そこの侍従はシアーデラ姉妹の番犬だよ。だからそいつらのためにしか動かない。それと朕とは無関係とまでは行かないが、仲の悪い他人レベルであることは否めない。その辺考慮して発言することをお薦めするね。本人も言ってたけど、たぶん二回目の失言で飛びかかるだろうから」


 戸惑いを隠しきれていない神官だったが、そう言ってやると速やかに目の奥に理解した様子を浮かべ、落ち着きを取り戻す。


「なるほど……それで、一体わたしに何のご用ですか」


 今までは背後の書棚に両手を広げて背中を預けるような姿勢だったが、もたれかかっていたそこから身を起こして、神官らしく両手を身体の前で組み、聞いてくる。こっち三人を油断なく観察しようとしている目の部分がなければ、殊勝に見えないこともない。


 後ろで未だ不機嫌そうな雰囲気を漂わせたままの忍者、まったく喋らないけど妙に静かに存在感を主張している黒にゃんこさんの二人に、頼むからこれ以上切れるなよ、と念じつつ、いよいよ本題に入ることにした。


「そっちにいる奴とひょっとしたら重複するかもしれないけど、聞かせてくれ。昨日の夜、お前はアデルと会った。それは確かか?」

「ええ。夕方と言うか、夜と言うか。……そこの人も一緒でした」

「だそうだけど。そっちもか?」


 朕が問いかけても一瞬だんまりを決め込もうとした忍者だったが、スフェリが小さく「ディガン」とたしなめるような声をかけると、嫌そうに眉根を寄せてから表情を失くして頷く。

 向こうが答えたのを確認してから、話を続ける。


「その後、部屋に戻ってこなかったらしいんだよ。仕事場にも来てないし、今日あいつと会った、見かけたと言う人間もいない。要するに、昨日お前と会った後から行方知らずになっちまってるんだ、アデルの馬鹿。ってわけで、まあちょっと大げさだけど探し回ってるところ。お前は昨日あいつと最後に会ったってことらしいし、何か心当たりはないか?」


 そう結んだ瞬間、今まで居心地悪そうにしていた神官の目がきらっと光った。


「ああ、そう言う事だったんですね。だったらボク――わたしより、むしろその人の方が色々知ってるんじゃありませんか。だって、一緒に帰っていったんですから。最後に彼女と会ったのはボクじゃない。そっちだ」


 奴にとってみれば、勝利宣言も同然だったのかもしれない。血の気の失せていた頬に若干の赤みを戻しながら、神官は忍者のことを指さす。


 ……まあねー、そうなるよなー。


 朕は心の中で呟きながら、一度神官から目を離し、ゆっくり振り返る。


 侍従の皮を被った男は向き直った朕に対して、凍えきった態度を隠そうともせずに睨み返してきた。

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