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3-4.その意味深セリフはどういうことですか!?

 私が言うとお姉さまはいったんカップを置いて、なあに? と首を傾げます。


 ……ああはい、とっても熱かったんですね。全然減ってませんものねカップの中身。ずーっとさっきから同じポーズで停止されてましたから、そんなこったろうと思いました。無理せずぬるめにすればいいのに、そうするとお茶の質が落ちるとかで妥協しないんですよねお姉さま。


 いえね。そういう愛らしいところも胸キュンバーストマジお姉さまキューティーなんですが、一年後の社交界ではぜひとも自重していただきたいところです。今の状態でも十分アウトなのにこれ以上色気ダダ漏れにしてどうするんですかお姉さま。野犬に襲われますよマジで。

 まあ万が一噛むような挙動を取るおバカがいたら、この世の地獄を味あわせてやりますけどね! ちょうどいいです、朕王にできるならやってやろうと思いながら図書館で読んでいた世界名物百八式の悶絶技を、私が満足するまで一つずつ順番に試してやりますよ! とりあえず無事では帰さん、絶対に!


 じゃなくてですね! だからさっさと本題入りなさい私!


「お姉さまはその……将来どうなさるおつもりで?」


 これですこれ。実は私、お姉さまにちゃんと確認したことがなかったのですよ。

 私自身はお姉さまに騎士になります! って宣言しましたし、お姉さまも紆余曲折の後それを受け入れてくださっていますが、肝心のお姉さまの方が何をしたいのか私まだ把握できてなかったのです。だって聞こうとしたら、なんかさりげなーくはぐらかされてその後私も忙しくしている間に時が経っ――。ちょっとこれ、似たようなパターン前にありませんでした私!?


 言い訳はやめます。すみません、うっかり屋で! ごめんなさい! 反省してますから、誰かこのドジっ子アホの子属性マジで直してください!

 よくこける方は、スムーズに受け身一回転して何事もなかったように再び起き上がって歩き出すという、完璧な私の隙のない対処法によって克服済みですが、中身の方ももうちょっとしっかりしたいです。切実に。


 ぐすん、泣き言言っててもしょうがないから、自力で何とかします。メモ帳つけようかしら。でも前にやったら三日で失くしたのよね。あれっ、なんでだろう目の前が暗く……。


 よしっ切り替えます。大丈夫アデラリードはやればできる子大丈夫。こ、声が震えてる? そ、そんなわけないじゃないっ……!



 そんなこんなで、ちょっとドキドキしながらお姉さまのお答えを待ちます。

 ……うう、この待ち時間がとっても長く感じられますよ……!



 そういえば原作でもこの方、何考えてるのかわからない部分ありました。

 アデラリード以外の心中をある程度暴露してくれる追加コンテンツで、本編スタート後のお姉さまの考えについてなら、わかっているっちゃそうなのですが。それだって全部は語られてませんし、オープニング以前の行動と考えに至っては完全に謎です。

 お姉さまが今後原作通りの行動をとるのだとすれば、意図的に目立たずに過ごそうとなさっています。だってお姉さまほどのお方が、いくらこんな片田舎の貧乏貴族とはいえど、普通に過ごしていれば王宮に噂話程度は行くはずですもん。黒髪黒目の美女って時点で相当珍しいですし、しかも名門学校の首席だったのですから。


 それなのに、アデラリードと一緒に宮中に上がった時、彼女は妹同様田舎者扱いされています。

 ごく一部の方だけ、スフェリアーダの名前を聞いてあああの、とリアクションを起こしますが、普通の方はいっそ不自然なくらいにお姉さまのことをそれまで知らなかったのです。


 何かを待っているようにも見えるほど不気味な沈黙――では、彼女が待っているものとは、何でしょう? アデラリードのデビューまで隠れるように過ごしている理由とは何でしょう?


 うーむ。お姉さま、現世で一緒に暮らしていても、謎の多い方です。肝心なところを教えてくれないと言うか、隠されてしまうと言うか。まあそこがより一層魅力的なんですけどね!



 ……ふう。長いですねえ、お姉さま。そのお紅茶全部飲んでからお話しなさるおつもりですか。

 いえ別にかまいませんけど。むしろ何かお考えのようですし、ゆっくりでいいですよ。お姉さまのエロ可愛いお口を火傷させるわけには行きませんからね。なぜか積極的に火傷しに行ってる気もしますが、やめてくださいねお姉さま。もっと自分をいたわって。


 ううん、でもこれでもし、我が野望成就のために実は王宮行きたいとか言われたらどうしましょうか。

 説得してお止めするつもりではありますが……。



 わっ、飲み終わったのかしら。お姉さまの二つの黒曜石がきらっきらとこっちに向かって輝いています。一つゆっくりと瞬きして、ようやくお言葉を発します。


「どうするつもり――って?」

「その……私は騎士になりたいと言いましたし、それを目指して今日までやってまいりました。ですが、お姉さまにはその――やりたいことと言うか、なりたいものと言うか、叶えたい望みと言うか――そういうものはないのですか?」


 お姉さま、なんでそんな、まるで悪い事考えてるときみたいなお顔になっているのです? なんでそんな、お顔が悪女ライクになってるんです?


「あら、そんなこと。それなら――ほしいものはもうこの手にあるわ。だからこれで十分よ」


 えっ、ちょっ何その意味深セリフ。あのそんなふわっと言わないでもっと詳しく!


「で、では、王宮に行きたいとか、神殿に行きたいとかは――」

「それは、機会があったら見てみたいとは思うけれど、今のところそこまで意義を感じられないわね」


 お姉さまは変わらずに、どこかいたずらっぽく微笑みながらそうお答えになります。うぐぐ、絶対これ私に言ってないことまだありますよ!

 でもよかった。とりあえず第一段階は特に問題ないようです。お姉さまは私に嘘つくような方じゃありませんし。

 ……こんな風に、明らかに全部を語ってないときも大ありですけどね!


 私が不満そうな顔をしていたからでしょうか、お姉さまは補足のように続けます。


「そうねえ。きっとわたくしはここらの適当な方と結婚して、適当に貴族夫人をして一生を終えると思うわよ。シアーデラ家の長女なのだし、お父様お母様がいらっしゃるから、ご安心していただくためにも一応爵位持ちのお方とになるのでしょうけど。そうやって、ごくごく普通の地方伯爵令嬢の人生を送るつもり」


 ――あの、それお姉さまご自身の話題ですよね?

 なんかあまりにもご興味ご関心なさそうっていうか話し方が適当で、思わず私は聞いてみます。


「お姉さまはその――ご結婚したいお相手とか、いらっしゃらないのですか?」


 あっいきなり突っ込み過ぎた、しまった――。


「多くは望まないわ。生涯を連れ添ってくれる方なら誰とでも」


 ――危ないっ! 思わず紅茶吹きそうになりましたよ!?


「だっ……誰でも、ですか? 性格とか見た目とか、あとその他ステータスとか、何も気にしないと!?」

「ええ。別にどなたがお相手でも、うまくやっていける自信あるもの」


 お姉さまの深い深い黒い瞳――吸い込まれそうな、暗い闇。

 ええお姉さま。お姉さまの実力を以てすれば、その辺の適当な旦那を転がしつつ平和に暮らすなんて朝飯前でしょうよ。


「ですが、それは本当にお姉さまの――」


 私がおずおず喋ろうとする前に、お姉さまが不意に思いついたように声を上げました。


「それより、あなたの方こそどうするの、アディ。本気でこのまま騎士になるの?」

「あっはいそのつもりですが――お姉さま、やはり向いてないとかやめてほしいとか思ってらっしゃるのですか?」

「いえ? 似合うと思うわよ。ただ、学校がつらいとか、別の道を行きたいとかそんな風には――」

「思いませんよ! アデラリードは騎士になります!」

「――そう……ふふ」


 あらいやん。とっても愛らしい笑顔。

 ってちょっと、だからなんでこう毎回、いつの間にか私が答えるほうになって――。


「もしかしてあなた、王宮に行ってみたいの?」


 いやああああああああそれはやめてえええええええええええ!

 殺人的スマイルで何言うかと思ったら! 本当に人が死ぬ内容ですそれ!


「そんなまさか絶対嫌ですよ一生行きたくないですよ頼まれたって嫌ですよ冗談じゃありません命がいくつあっても足りない王宮近衛だけは全力で辞退します! 地方騎士か、それでもだめなら神殿付きの聖騎士のどっちかがいいです!」


 すごいよ私の舌、一回も噛まなかった! どれだけ必死なの! 実際必死です!


「そう」


 お姉さまは思わず立ち上がってヒートアップした私に目を細め、静かにそれだけおっしゃると再びカップを手に取りますが、少し考えるように空中を眺めたままです。


 ……おう。どうしましょうねこの沈黙。

 まあ、なんかまた何かをはぐらかされた気はしますが、とりあえず今のところのお姉さまは現状維持でいいくらいに思っていて、特に高望みはないと。むしろしたいことはないと。

 それに特に私の騎士道方針にも異議申し立てをするおつもりはないと。だからこのままの方向性で、いいんですよね……?


 じーっと見つめているとにっこり微笑んではくださいますが――。


「あっ、そうだお姉さま! もう一つお話ししたいことがありましたよ!」


 私としたことが、忘れてはいけませんでした! 今のも重要ですが、こっちもそれに勝るとも劣らないですよ。思わずこう、ぐっと拳を握りしめてしまいます。


「新しく来た方と、もうお会いになられましたか?」


 侍従たんとお姉さまのフラグ促進と言う、超重要案件です!

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