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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
転:四天王制圧編~vsタルトレット
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4-13.気分はくっ殺せ!

 最初の頃は、喋ったらぼろが出るならもういっそのこと黙ってればいい、貴婦人って寡黙でも許されるし、と言う事で、ドレスを着ている時は私語厳禁。そして沈黙したままガサツな動きをひたすら直し続ける、私のアイデンティティを若干疑う気になりそうな方法で淑女化計画は進行しました。

 文官の二人がね。普段のアデルならともかく淑女を目指すなら、もう最低限ここだけは直しておかないとダメだって、言い張るから。


 しかし、フィクションでしかないと思っていた、頭の上に本だのコップだの乗っけて動き回るってのを、自分が本当にやらされる日が来るとは思わなんだ。

 ゼナさんが「淑女教育の定番と言ったらこれに決まってるでしょ! どの教本にも書いてあるんだから!」って言ったので、首を傾げながらも後宮一周しましたけど。


 ……ええ、やりましたよ。なんかフィレッタさんからも熱烈にやってほしいと言う声があったし、一抹の疑念を抱かなかったわけではないですけど。それに、反対意見にお姉さまがやってるの見たことないって言ったところで、「彼女は教本なんかなくてもできるし、君はどう見ても赤点ラインだから特別メニューの必要性があるんだよ!」って熱く説得されたら、もう反論の余地がないじゃないですか。


 目撃者の皆様にまた冷ややかな目で見られたんじゃないかって? いやいや、温かい声援をいただいたり、後でいろんなグッズ差し入れていただいたりしました。昔ならともかく、今だとこれでもそこそこの人気者なんですよ。「次はどんなことをするのか毎回楽しみにしている」「今回も最高だった。次回も天然ボケを期待している」って激励を貰ったこともありますし。

 ……あれえ? 冷静に言葉を思い出してみたら、これ微妙に激励と違くない? なんかニュアンスにこう、私が求めているものと違うものを感じない?

 一瞬皿を回す猿とそれに拍手する皆さん的な映像が頭の中によぎったけど、きっと気のせいだよね、うん。気のせいですよ!


 しかし、本とコップを頭の上に乗せて歩くだけなぞ、私の脅威のバランス力をもってすれば、三日間もすれば階段の手すりを歩くことさえ余裕でしたからね。いや、あれはやっといてあれだけど、自分でも意外とできるなってびっくりした。あ、もちろんその時はさすがに裸足でやりましたよ。ヒールつきだったら無理、落ちてた。

 ……いや、その、あれもやってみてこれもやってみて! ってレディの先輩のお姉さま方が散々私の上達っぷりを褒めた後にちやほやするものですから、つい。

 わ、私はサービス精神旺盛なんですよ! キャー可愛いやってって甘いお菓子くれた優しそうなお姉さんたちが言ってきたらもう、やらざるを得ないじゃないですか!


 ……チョロくない。断じてチョロいわけではない。



 ともかく、女物の格好で静かに歩き回ることにもある程度慣れてきたら、徐々におしゃべりを解禁。

 喋る内容はまあ、教本とか参考資料を見ながらひたすら詰め込みで。


 いや、クイズ形式みたいな感じで、ゼナさんやフィレッタが何か言葉をかけてきたり質問して来たりするのに答えるだけなんですけど(「ご機嫌いかがですか?」に「おかげさまで……(そっと目を伏せつつ)」とかね)、間違えるとその分本日のおやつが粗末になっていくと言うね。初日とかコップに水一杯で私心が折れかけましたよ。毎日おやつの時間を楽しみにしてるのに、鬼!


 はあ、でも得難い友人知人を得たと思うべきなんだろうか。結構重要な要素である見た目の調整については、もうほぼ全面的に向こうに任せてるしな。

 油断ならないのが、着付けや化粧の最中にフィレッタがさりげなーく、これはどこそこ産の布で、この服は何とかと言うクラシカルな作りに今風のほにゃららを取り入れてとか、ここにシャドウを入れるとぽっちゃり顔が引き締まって見えるから童顔に見られたくなかったら云々とか、解説をしてくるところなんですけどね。

 いや、実際に弄ってくれてるのは大体メイドさんで、フィレッタは基本的に横で指示してるだけなんだけど。もうその辺の私には最初聞き取ることすらあやふやな単語をさっさと言える君がすごいよ。正直我が友人のこと若干侮っていた気がするんですが、これを機にすっかり見直しました。貴婦人ってすげえや。


 そんなこんなで、昼間は主に素行の改良と貴婦人が知っているべき知識の詰め込み、当番がある日は仕方ないから騎士業に戻るけど、せっかく詰め込んだ貴婦人らしさが全面的リセットされないようにできるだけ努力。夜は主に昼間やったことや長くできないでいる課題の復習。寝る前にモッさんやゼナさんが作ってくれた要点メモを見直し(モッさんはマジで最低限の事しか書いてない簡潔っぷり。ゼナさんはところどころ本人のコメントが入ってるのが、二人で個性が出てて微妙に面白い)、朝起きたらすぐにもう一度見直し――。




 そんな感じの生活を続けて早三週間と数日。

 毎日応援してくれた野次馬もとい観衆の皆様や、愛すべき微スパルタの教官たちに、「許容ラインは越えられたはずだし期限がやばいから行ってこい」とお墨付きをいただいた私は、覚悟を決めると再び神殿に足を向けました。


 以前と同じ女神官さんが案内をしてくれて(微妙にこっち見て驚いた顔をしたのを私は見逃さなかった)、神殿の個室で我々は再び対峙することになりました。



 タルトはニコニコしながらも油断ならない目で私のことを観察していましたが、挨拶に始まりここ数週間で叩き込まれた一通りの所作を見た目には余裕そうに、実際には冷や汗垂らしながら全力でやってみせると(挑発が飛んできても易々乗っからない訓練だってしたから、途中で茶々入れされてもこらえられたぜ、えっへん!)おー、と控えめな感嘆の声を漏らし、拍手をしてきます。


「うん。まあ、及第点とまでは行かなくても赤点は免れてるんじゃない?」


 得意になりかけた私が一瞬にして顔をゆがめると、「あ、良かった。性格まで変わっちゃったわけじゃなくて」とくっそ失礼な事を言いながら、女の子にしか見えない外見詐欺神官はまた机に乗っかって足をふらつかせます。


 おうてめえ、色々動きを制限されてる私の前でなんか楽しそうなことしてるじゃないか。

 ……いかん。できればもうこの辺の思考回路から直すべきって、文官組に言われてるんだった。時間ないから脳内突っ込みにとどめて絶対口にも表情にも出すなって訓練されて終わったけど。


 それでも私がもの言いたげな顔になっていたからでしょうか、タルトは首を傾げながら自分の言葉に補足します。


「やーだーなー。ぎゃふんと言わせてくれるんでしょ? そりゃね、この短期間にここまでとか、昔のあんたに比べてとか、相対的に見たら淑女らしいって言えるかもよ。涙ぐましい努力の数々、最近の評判だって聞いてるし、だからその辺のこととか考えれば赤点は回避できる。でも、それじゃ当然足りない、わかってるよね? 何かボクに、これはすごい! って思わせることをしてくれなくちゃ。つまり絶対的に見るなら決定打が足りないんだよ、君」


 決定打、と私が繰り返すと、彼はいかにも意地悪そうに笑います。


「このままじゃボクは到底負けた気分にはならないよ。だってせいぜい、おー、止まりなんだもん。わかる? 今のあんたって超普通。百歩譲って引き分け止まりって感じ? ……うん、そうやってなるべく喋らないように、しかもジェスチャーも控えめにして本性出さないようにしてる部分とかは、本当に頑張ってるなあと思うんだよ。でも、もっとこう、おおーっ! って思わせてくれないんだったら、負けを認めるわけにはいかないなあ」


 彼はそして、頑張ってねー、と意気消沈している私に無責任に手を振ってから、さっさと部屋を出て行ってしまったのでした。




「何かぎゃふんと言わせる決定打、かあ……あともう数日しか期限ないのに、思いつくかなあ」


 帰ってきて待ち構えていた友人に戦績を報告すると(文官さんたちは今日はご用事があるのですぐには会えませんでした)、彼女は一緒にしょんぼりと落ち込みかけて、すぐにばっと顔を上げます。


「あるじゃない」

「え」

「アデル君は、運動が得意でしょ?」


 私は一瞬間を置いてから、きらきら目を輝かせている友人に(精一杯の)引きつった優雅な微笑みを浮かべて問いかけます。


「……踊れと?」

「そうよ!」

「私、男性パートの振りなら完璧に覚えてるんですけど、女性パートの方はいまいちでして」

「そんなのすぐ覚えられるでしょっ」

「はい」


 友人は私のささやかな抵抗に当然すぎる突っ込みを入れてから、思案気に少し下の方から覗き込んできます。


「何か、やりたくない理由でもあるの?」

「……いや、別に」

「だったら今すぐやりましょうよ!」


 すっかり乗り気になってる友人に、私はこっそりため息をつきながら、でも確かにそれぐらいしか私がタルトをぎゃふんと言わせられそうなことってないよな、と気を取り直し、頭をひねります。


「ダンスの練習相手ですか。どんな人がいいでしょうね?」

「アデル君は女性パートを覚える必要があるんだから、当然そちらがわかる人でないとね。どうしましょう。私はその、できないわけではないけど、ダンスはそこまで上手じゃないし」

「女性パートかあ……。やっぱりこう、一緒に練習してくれる人がいるのがベストですよね」

「キルル様は――駄目ね、男性パートはともかく、女性パートはきっと知らないわ。ウルル君もきっとそう。スフェリアーダ様は今回頼れないのよね?」

「ええ、まあ」

「ゼナさんはたぶん知らないと思うし、ガールシード卿は……転ぶわね」

「転ぶでしょうねえ」


 そうするとなんだ。贅沢言ってられない状況だと思うけど、理想論を述べると随分人選が絞られてくるな。


「できれば、ダンスがうまくて、練習につきあってくれて、女性パートも踊れる男性が、一番いいと思うんだけど――」


 考えているフィレッタが呟いた言葉に、私はなぜ自分が今さっき、ダンスと聞いて渋り出したのか思い出しました。

 蘇るあの日々の映像。そして、黙っていればいいのに口に出てしまう言葉。


「あっ」

「何? どうかしたの?」


 当然それが聞こえた親友が身を乗り出してきますので、緊急回避するべく、こんな時のために鍛えまくった表情筋を再出動させる。


「いやそのなんでもないんで聞き流してください、うふふ」

「その顔は何か思いついたって顔よ」


 やべえ。私の友人、いろいろあって多少自信がついたせいか、初期のぽえぽえとは比べ物にならない鋭さだ。


「本当になんでもないんで」

「あるのね。心当たりが」

「いやそのえっと」

「いいわ。じゃあ、私にも話したくない人ならそれで」


 おい、友人。そのなんか察しましたみたいな顔及び妙に輝いてる目、嫌な予感しかしないからやめてくれませんか。


「でも、期限はあと少しなのよね? だったら、迷ってる暇もないと思うのだけど」


 なおも後ろ向きな姿勢を見せる私に、友人は退路を断つことで行動せざるを得ない状況にしてくれたのでした。

 ……ねえなんかフィレッタさん、ひょっとして周りの怖い人に感化されてきてやしないかい。




 そんなわけで、退路を断たれた私はひじょーに気乗りしないながらも、目標の人物にさっさと話をつけて呼び出します。彼はやっぱりと言うか何と言うか、いつも通りすぐにやってきてくれました。用事で来られないとかで全然いいのに。


 なんて言うんだろうね、こういう時の気分。くっ殺せ! って感じでしょうか。


 しかし、背に腹は代えられない。淑女化計画を言いだしたのは私、期限まで時間がない、頼れるものは全部頼るべき。


「……と、言うわけでですね」


 私は何度目になるでしょうか、すっかりおなじみの中庭で、なるべく顔を見ないようにしながら手早く用件を言い終えることにしました。

 もう既にこの場から逃げたい。冷や汗が止まらない。いたたまれない。


「私に踊りを教えてください、ディガン」


 ちゃんと見てないのでわかりませんが、彼はきっといつも通りやわらかに微笑んでいるか、ちょっと驚いた感じになってることでしょう。そして、少しだけ間を開けてから、こう言うのです。


「もちろんです、アデラリード様」


 わずかな希望、相手に却下されるオア断られるが砕かれた瞬間である。


 ……あーっ、もー!

 だから無意識レベルのうちから嫌だったんだよ、最終手段にダンスを選択するのは!


 なんでよりによって、このタイミングでこの人とこんなことをせにゃならんのか。

 何が問題って、私が気まずすぎるって事が問題なんでしょうが、言わせんなちくしょー!

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