4-9.何がどうしてこうなった 中編
本日二度目の更新です。
それよりも少し前。具体的に言うと一日ほど前に、時は遡ります。
私は神殿内の小部屋にて、攻略対象者の一人である悪しき神官タルトレットにゲームをしようと持ちかけられていました。
ルールは簡単、私が勝ったらタルトが私の言う事を聞く、逆に私が負けたら私がタルトの言う事を聞く。ゲームの内容自体は、こちらが好きにしていいと彼は言いました。既存でも私が新しく考えたものでもなんでもオッケー。ただし私に提案されたゲームは事前に説明の必要があり、その内容に不満があるなら、タルトはゲームを開始する前に参加を拒否することができる、と。
ちなみにゲームが一日で終わらないような場合、期間は最長一か月。そしてタルトはその期間中、私たち姉妹に過干渉をしなくなる。少なくとも衆人の前で俺の聖句聞きに来いよ(イケボならぬロリボイス)とか、ああいう強引で断りにくい手は使わない。以前と同様、こちらからアプローチをかけに行かなければ向こうも関わりを持たない距離感を保つ。ゲーム中は中立だから。
さてそんなわけで、私は再び考え込むことになりました。
こっちの好きなゲームをしていいって言いだした時はかなりの自信だなと思いましたが、最終的に自分の同意がなければゲーム開始できないって付け加えたあたり、さすがに抑えるところはきっちり抑えてきたか。明らかに彼にとって勝ち目が見られないものや、あとはゲームとして認められない、純粋に気に入らない、つまらないようなものは突っぱねるつもりでしょう。
足を組んで微笑を浮かべる神官に時々視線をやりながら、私は唸ります。
たぶんタルトからしたら、私がゲームに乗っても乗らなくても方向性はあまり変わらない。
彼は私たち姉妹に用があると言った。ゲームしないならしないで、引き続きこの調子でこれからも鬱陶しく絡んでくるつもりだろう。
ただ、彼がこちらの何を知りたがっているにせよ、その方法だとまず間違いなく私達は彼を警戒し、彼の知りたがっている情報を秘匿する。
そして仮に今の方法で運よく私たちのどちらか、もしくは両方が彼に心を開いたとしても、かなりの長期戦になる。具体的に想像するならつまりあれでしょ、モッさんの時のお姉さまツンモードを数か月、下手すると数年にわたってやられ続けるってことでしょ。無理。そんなことになったら私生きていけない。お姉さまが足りなくて干からびる。って私の話じゃないか、ふう。
だったらチョロそうな私に最長一か月の短期決戦を挑んで、多少無理矢理でも一気に切り崩した方が楽。勝てば確実なリターンが見込めるんだし、制限をつけたから時間的なコストも抑えられる。
……そんなところ、なのかなあ。
まあ、タルトの性格からして長期戦持久戦は避けたいところなんでしょうね。負けず嫌いですから一度勝負事になればスイッチ切り替わるでしょうが、何しろ彼は性根が悪ガキ、我慢が嫌いで堪え性がない。結構原作でも気が急いた(つまりキレた)せいで失敗するシーンが出てきてましたし。今回のお姉さまに対する急接近も、我慢してた堪忍袋の緒が切れてついやっちまったけどやっぱりやり過ぎで、今一生懸命腹黒を気取りながらそのフォローを必死に狙っている。実はそんなところなのかもしれない。
そう思うと可愛い? 暗黒微笑(笑)系ドジっ子ショタあざといでしょう?
だから何だと言うのだ。私に年下趣味はないし、うっかりなキレキャラだろうがクソガキな事に変わりはない。
……同族嫌悪? キャラ被りの危機察知による大人げない反発心?
どこがですかっ! 私とコイツ、全然どこも被ってないでしょ! 強いて言うならお互い変な恰好してるところぐらいしか共通点ないよ!
ぜーはー。落ち着け、私。今は脳内作戦会議中。ビークール。よし落ち着いた。
あるいは、単純な快楽主義の産物かもしれない。こいつはディガンも言ってましたがかなりの気分屋、ただ思い付きでなんとなく面白そうなこと言ってみただけかもしれないところもあり得るから、ちょっと困る。なんかすごく考えてそうで、稀に何も考えてなかったりするからなあ……。
向こうの事はその辺でいいか。次に考えることは私、そして私達の事情。私はこの提案に乗るべきなのか、蹴るべきなのか。
これに関しては結構すんなり結論が出てきた。たぶん、乗った方がいい。
失敗したら目も当てられませんが、成功すれば確実にタルトのちょっかいを全面的に止めることができる。その上、何よりもゲーム期間中が不干渉状態になる、これが一番メリットとして大きい。
別に私は慣れてますから、弄られてもつつかれても構いませんが――お姉さまに変な事をされるのは、本当に困る。
モナモリスのことがあって仲直りした時。仲直りはしたけど、私は彼女と話していて一つすとんと悟ったことがある。
戻ってきてくれても、あの人が私にすべてを話すことはない。二度は言わなかったけど、彼女の言葉が胸の奥に刺さっている。
(あなたが知りたいのは、『あなたにとって都合のいい』本当。そうでしょう?)
私はまだ、その言葉にはっきり違うと言えない。……言えるはずがない。
だってわたしはしっている。しらなくていいことがある。おもいだしてはいけないことがある。
あのとき、あのばしょで、あのひとと。
だいじなだいじな、やくそくだった。
なのに、いえ、だから。
おさないわたしは、あやまちをおかした。
とりかえしのつかない、まちがいを――。
くらっとしかけた頭を振って雑音と頭痛を追い払い、もう一度思考を手繰り寄せる。
なんだったっけ。そうそうだから、お姉さまに変な事をされるのは困る。私がゲームをすることでそれが止められるのならメリットとして見過ごせない。そう言う話だったはず。うん、それで何も問題ない。
と言うわけで、ゲームをすることに大体乗り気になった私は、では何をしようかと今度は顔を顰めます。
まず、運要素が絡むゲームはダメ。だって相手は星の寵児、負けなしのギャンブラーと言っても間違いではない。とんでもレベルの幸運を起こせる体質者相手に運ゲーなんかまず敵うはずがない。
ただ、だからと言って運が絡まない純粋な戦略系は、私がやったところで勝てる気がしな――げふんげふん! わ、私には適性が低いですから、仕方ないですね、うん! 相性が悪いんですよ。こう、感性が問われるゲームならね、たぶん私もできるんですけど、ハハッ。
かと言って、あまりにもこちらに好都合すぎるゲームも危険。たとえば決闘とかね。却下される可能性が高いし、受理されたらされたで胡散臭い。
だってタルトは私たちのことを既に調べている。私がフラメリオの二番弟子だと言う事を、さらにはフラメリオ本人のことまである程度知っている。これだけでも相当な情報だ。あいつは勝ち目のない戦いはしない。ゲームしよう、好きに選んでいいよなんて言いだしてきた以上、私が言いだしそうなゲームはある程度見当がついているんだろうし、だったら対策だって万全だろう。その程度のことは軽くやる男だ。
えーとだから理想的なゲームは、運がまったくないしあまり絡まない、小難しすぎるものじゃなくてできれば感性系で、私の得意分野だけど得意すぎる奴だと対策されきってる恐れがあるから意外性も必要で……。
あれ。これ、企画の段階で詰んでないか。
と言うわけであれも駄目これも駄目、やっぱり今日は一度家に帰ってじっくり考えをまとめるなり誰か他の人に相談するなりした方がいいのかしら、とすっかり頭を抱えてドツボに嵌りかけた私に、それまでじっと悩む様子を楽しげに見ていたタルトがふと、指を立てて提案してきたのです。
「じゃあさ。ボクをぎゃふんと言わせてみなよ。そうしたらあんたの勝ちってことで。そう言うゲームはどう?」
「はい? なんだそれ」
まったく何を言われているのかわからず首を傾げる私に、タルトは指先で髪を弄びながら続けます。
「そうだなあ。つまりボクさ、今の所あんたの事完全に舐めてるわけ」
「本当に、本人目の前にしていい度胸だよな。いつかジャーマンスープレックスの餌食にしてやる」
「なーに、ジャーマンスープレックスって」
「手っ取り早く天国に逝ける幸せな技ですよ」
「ふーん」
私がバキボキ拳を鳴らしても、その程度じゃ不良はビビらなず悠々と再び足をぶらつかせているわけですな。チッ、可愛くない。
「ボクさ、舐めてる相手は基本的に炉端のゴミだと思ってるけど、認めた人には結構サービスするよ。だから、ボクに君がすごい人だって示してみてよ」
「んなこと言われたって、どうしろと――」
と、言いかけた私の脳内に閃きが走ります。待てよ。タルトが認める――と言えば、あの要素。そしてこの世界は育成ゲームが元ネタ。
そうか。これだ。これならいける。意外性も狙えるし、ある程度勝算もある!
「わかりましたよ、いい事思いつきました。とっておきのゲームをしようじゃあありませんか」
「おっ、何々? 言っとくけど、しょぼかったらバッサリ切るからね」
「ふっふっふ。ご心配なく、あなたも絶対に気に入りますよ。なぜなら、このゲームの名前は――」
調子に乗った――ええ、あの時は多少調子に乗っていた私は、机上の神官にばっちりなんかかっこいいポーズを決めて言い放ったのです。
「アデラリード淑女化大作戦ですよ! この山猿だの駄馬だの呼ばれている私が、一か月であんたが、そして誰もが目を見張るような貴婦人に変身してやります!」
……うん、あのね。言わないで。私が一番後悔してるんです。
だからどうして私はこう、勢いがつくと突っ走っちゃうかなあ!




