1-1.ヒロイン転生だよやったね! の、はずですが……
前略。
木から落ちたら記憶が蘇って、ここは前世で見たことのある――いえ、前世の私が大ファンだったゲームの世界と、同じらしいということがわかりました。
というか、あれです。いわゆる一つの、転生をとげてしまったようです。しかも原作ではヒロインだったポジションに。
私ことアデラリードは、この世界ではさる伯爵家の令嬢です。伯爵家つっても、ご先祖様が金で買ったようないわゆる成り上がり、由緒なんて全然持ってない格下貴族でございます。頼みだったお金も、ご先祖様がハッスルした結果、今ではほとんどありませんし。
ともかく記憶によると、確かこの後の私……というか、ヒロインのアデラリードは特に不自由することなく育ちますが、16歳の社交界デビューの折、たまたま同じパーティーにお忍びで遊びに来ていた若き国王に見初められ、色々あって後宮に上がることになります。
ところが、そこで待ったをかけるのがヒロインの姉、スフェリアーダなのです。
彼女は言葉巧みにヒロインと一緒に王宮に上がり、あろうことか王の寵愛を奪ってしまいます。
王だけでなく、出遭う男全てを虜にし、次第に国を傾けていく悪女なお姉さまスフェリアーダ。
子どもがいないことを理由に、王と年上の外国人妻を離婚させ、ついには自分が王妃の地位にまで上りつめるのです。
そんな悪女お姉さまの野望を阻止しつつ、周囲の様々な殿方と仲を深めていくのが、正規ルートに大人しく従った場合の私のこれからということになるはずですね。
……え? なんで私は悪役令嬢ポジションじゃなくて、ヒロインポジションに転生してるのかって? セオリー通りじゃないって? こんなところでだべっている暇があったら、ヒロインとして世界の中心で楽しい時間を満喫すればいいじゃないですって? リア充爆発しろですって?
知りませんよ! 私を責めないでください! ていうか勝手なことばっかり言ってますけど、乙女ゲーのヒロインポジションだったら勝ち組だなんて大間違いですから。むしろ私普通に詰み状況ですから、このままだと!
……おほん。続けましょう。
原作は、前世で言うところのネットでフリー配布されていた、いわゆるアマチュアの趣味で生まれた恋愛SLG――もう少しわかりやすく端的に言うなら、乙女ゲーです。さらに言うなら、本当の原作もとい本家は有料同人18禁ゲーです。
もうこの時点で嫌な予感しかしないですね。
そうです。このゲーム、知る人ぞ知る、しかし全貌を知っているファンからは熱狂的な支持を受けていた――そんな代物だったのでございます。
フリー版では全年齢と言うこともあり、内容がそこそこ修正されていますが、そこで耽美世界にはまって有料版まで行ってしまったらもう最後です。二度と元の平和な世界には戻ってこられません。
別名、狂気と魔性のR18版原作。
ええ、前世の私、見事にドはまりいたしました。
ではどれくらい狂気なのか、その片鱗をご紹介いたしましょう。
乙女ゲー恋愛ゲーなので当然、ゲームを進めていくと攻略対象者と仲を深めていくことができるわけです。
が、ぶっちゃけこの攻略対象者、記憶が戻った私はむしろ攻略どころか近づきたくもないです。だって全員、そりゃあルックスはとんでもなくよろしいですけど、性格やら境遇がどいつもこいつも難ありなんだもの!
特に極め付けでひどいのがメインキャラの国王です。いわゆるセンターポジションがこのキャラなのに、正直こいつさえいなければと何度も思わせてくれる素敵な殿方です。
身もふたもなくぶっちゃければ、奴はハイスペックヤリチ〇王(一人称が朕だったので、ファンの間では通称朕王と呼ばれていました。絶対原作は狙ってあの漢字選んでた)でした。
自分は後宮作って方々から女を集めて囲ってる浮気性ですが、反面とんでもなく短気で嫉妬深い野郎なのです。
まあ現実では確かに、浮気ものに限ってなぜか嫉妬深いものですよね。問題は、これが乙女ゲーのメイン攻略対象者の公式設定ってところなんですけどね!
王の気質がもっともわかりやすいのは、悪役ポジションのスフェリアーダお姉さまの扱いでしょう。
朕王はどのルートでも、スフェリアーダが自分を裏切っていたと知ると、自分の手で彼女を殺してしまうのです。横領だとか暗殺未遂だとか、よっぽどそっちの方が悪質だろって他の悪事を暴露されても冷静なのに、浮気してたってわかった瞬間激昂します。そういう奴なのです。
そんな朕王の正規メインシナリオは、ごくごく一部から熱狂的、というかもはや発狂的な支持を、そして大方からは伝説的な酷評を受けた、とんでもなものだったのでした。
このルートでは、スフェリアーダとヒロインは朕王の無駄な仕事のせいで同時期に身ごもるのですが、スフェリアーダが先に産んだ子は女の子だったのです。
待望の子どもが跡継ぎでなかった事にテンションが下がってしまったらしい王は、ヒロインが難産の末に貧弱な男の子を生んでくれたことをきっかけに、どんどん心が姉から妹の方に傾いていきます。
ちなみにヒロインはその時の出産のせいで身体壊してるし、実家とかは色々あってもうボロボロだし、王に縋るしかなくなります。
そのせいで余計王もヒロインが可愛くなって、お前だけとことん愛してやるよなヤンデレ風エンドに突っ込むわけですが――。
繰り返す。これ、乙女ゲーのメインヒーローの正規ルートです。
まあ、フォローするなら、後でスフェリアーダの子どもの父親は、朕王じゃなくて不倫相手だったってわかり、王は無意識に自分の子じゃないから愛することを避けたんだってことになるんだけど。
一言で感想をまとめるなら、同人の本気を見たってかんじだろうか。
これでどうしてそこそこ受けたかというと、グラフィックと音楽が商業以上によくできていたゲームだったのであります。
なおそんなわけでして、他のヒーローも一癖も二癖もありまくりって言うか、全員確かにイケメンハイスペックではあるけど、現実としてお付き合いする人間として考えるのならば面倒な奴ばっかなわけで。唯一の救い、侍従駆け落ちルートがなかったら、今頃私はすっかり絶望していたかもしれません。
侍従君はサポートキャラ兼隠しキャラみたいなものなので、ほかの攻略対象者全員のシナリオ終わらせないと出てこない隠しシナリオなのですが、もうあれが正規ルートでいいよ。他のルートがひどすぎるんだよ。
そんなわけで皆様。
私この度めでたくヒロイン転生致しましたが、普通の悪役令嬢もの並みにデフォルトで立場がヤバいことはお察しいただけたでしょうか。
冗談じゃねえよあのヤ〇チン野郎に囲われるとか無理に決まってんだろ。18禁版だと野外も着衣も余裕で婚前前にぶちこんでくるようなド変態属性も兼ね備えてるんだぜ。若いとは言えこれが最高権力者なんだぜ。もうやだこの国。
……だったらさっき自分で言ったとおりに、侍従と駆け落ちすればいいじゃない? 転生者特権使って隠しシナリオに突き進めばいいじゃない?
ええまあ、それが無難な私の幸せを求めた場合の今後の方針でしょうね。
でも、それができない理由がこの私にはあるのです。
それだけじゃ、ダメなんですよっ……!




