第一話 ケーキウィーク
怠惰な姫様の日常は一話完結の物語です。過度な期待はせずにお読みください
「いい加減にしていただきたい!」
「いや」
王宮内に響き渡るような大声で執事フォバットは執務室の主に対して怒鳴る。
怒鳴られた張本人の少女は机に突っ伏した状態で人ごとのように軽く一蹴する。
机からは美しい銀の髪が流れ落ち、その隙間からは鮮やかな朱のドレスが見え隠れしていた。
「いや!今回こそは黙りません!なんですか!この新しい税金は⁉」
フォバットは持っていた書類を少女の机に叩きつけるように置く。
気だるそうに少女は置かれた書類の一番上のものとり、目を通すと
『パン税 パンを作った人は極刑にしす』
と書かれていた。
少女は面倒くさそうに書類を放ると渋々と言った様子で身を起こす。
「フォバット、私は常々思っていたのよ」
眠たげな青い瞳がクワッと見開く。
「パンがあるからお菓子を食べれないのよ!って」
と真顔で言い放った。
「ふざけてんのかきさまぁぁぁぁぁぁ!」
フォバットはどこからかハリセンを取り出し、少女の頭に叩きつける。スパーン!という軽快な音が執務室内に鳴り響く。
「フォバット、人の頭は叩くためにあるんじゃないわ」
叩かれた頭をさすりながら少女は少し涙ぐんだ目でフォバットを見上げる。
「駄まらっしゃい!仮にも一国の姫が・・・映えあるティリーフ王国の姫が出すような法律ではないと言っているのですよ!ルナ・ティリーフ姫!」
ゼイゼイと息をあげながらフォバットはルナに向かい怒鳴りつける。
ルナは頬を膨らませながら、
「いい?フォバット。私もなにも無意味に税をつくったわけじゃないのよ?ちゃんと考えがあるんだから」
ふふん!と真っ平らな胸を張りながらルナが自信ありげに語る。
「ほう、では聞かせていただきましょう」
この姫が考えるということをしないとわかってはいるが一応、フォバットも聞く姿勢をとる。
「最近、厨房のおじちゃんがボヤいてたわ。小麦が徐々に値上がりしてるって」
「無知な姫さまにしてはよくご存知でしたね」
「そこで思ったのよ!小麦を使うパンを作る事を禁止すればみんな貧しい思いをしなくていいでしょ?」
「確かに一家当たりの出費は減るでしょうが・・・農家などは」
「そこで、お菓子よ!小麦を少なくし、かつ、フルーツなどで栄養もとれる!これを主食にすれば国民みんなが喜ぶと思うの!」
フォバットが口を挟もうとするのを遮り、ルナは自分の考えをぶちまける。
頭がズキズキと痛むの感じるのを我慢しながら、執事は一言
「で、本音は?」
「フォバットが最近、お菓子の食べ過ぎと言ってお菓子を出してくれなくなったからこういう法律を作れば堂々と食べれるかと思って」
今までのは建前という事をあっさりバラし素直にしゃべるルナ。こういう所には好感が持てるが、
「太りますよ?」
「はぁ? 何言ってるの? 姫が太るわけないじゃない」
真剣に瞳を輝せてそんな事を言ってきましたよ。この姫さま。
腐っても姫さまである。若き執事は自分の保身とわがまま姫の体調管理の事を頭の中の天秤に預ける。
ふと、悪魔めいた閃きを思いついたフォバットはにやりと笑みを浮かべ、
「いいでしょう。まずは五日、姫さま自身に行っていただきましょう」
フォバットは爽やかな笑みを作りルナにそう語る。
「言ったはね! フォバット! あなた言ったんだから撤回はなしよ? 」
言質はとったと言わんばかりにルナはフォバットに詰め寄るが執事は軽やかなに
「ええ、二言はございません。ただし五日、絶対にやっていただきますからね」
何度も念を押してくる執事に疑問を感じながらも姫君は、
「いいわよ! でもやるとしたら今からよ! 」
と自信満々に言い放つのだった。
一日目
「美味しいわ! とっても幸せな気分ね」
テーブルに所狭しと並べられたケーキの一つを頬張りながら幸せそうな笑みをルナは浮かべていた。
「さようでごさいますか。お茶のお代わりはいかがですか? 」
給仕役に務めていたフォバットは紅茶の入ったポットをルナに見えるように掲げる。
「いただくわ」
ルナは空になったティーカップをフォバットに手渡し、フォークで新しいケーキにてを伸ばす。
フォークに刺さったケーキがルナの口に消えた瞬間、
「・・・2640カロリー」
ボソっと誰にも聞こえない程度の小さな声でフォバットは呟く。
「ん? なにか言ったかしら? 」
ルナには聞こえなかったらしく不思議そうな顔をしながらフォバットに訪ねてくる。
「いえ、なんでもございません」
そしらぬ顔で紅茶を入れルナの前に置くフォバットであった。
二日目
「あら、このケーキ初めて見るわね? 」
朝食の席、見慣れぬケーキを見つけたルナが尋ねる。
「ええ、シェフが新しく考えたケーキだそうです。ぜひ、ルナ様に試食していただきたいとのことです」
ケーキを切り分け、紅茶をいれながらフォバットは答える。
「あら? お父様とシア姉様は? 」
いつもいっしょに朝食をとっている二人がいない事にルナは気づいた。
「国王様とシア様でしたら、あちらで『普通の』お食事をされております」
フォバットが視線を向けた先に同様にルナも視線を向ける。
キラキラ光る王冠をのせた王様とルナと同様の銀の髪がロールしているシアが食事をしていた。
「・・・なんでお父様やシア姉様は普通の食事をしているのかしら?」
理解できないといった表情を浮かべるルナ。
「姫様、言ったはずですよ。まずは姫様自身に試していただくと。国王様とシア様が付き合う必要はございません」
毅然として態度でフォバットが告げる。
「なんだか、わたしが頭のおかしなひとだと思われてるような気がしないでもないんだけど?」
「気のせいです」
ジト目でルナがフォバットを見つめるがフォバットは残存の残る速さで視線を逸らした。
三日目
「こうも、甘いものが続くと正直思わなかったわ」
夕食の席でルナが自分の皿に取り分けられたチーズケーキを見ながら少しげんなりした様子で呟いた。
「確かに甘いものを食べたいとは思ったわ。でも、主食だけじゃなく副食も甘いというのはおかしいと思うの⁉」
チーズケーキの横に置かれた鶏肉を見ながらルナは悲鳴に近い声を上げる。
「なにを怒っているのです? 甘い物が食べたいとは言っていたのは姫様ではございませんか?」
「それにしたって限度という物があるでしょう⁉」
怒りのままにテーブルを叩き立ち上がったルナはテーブルの上の料理を指差す。
鶏肉のチョコレートソース掛け
チョコレートの冷たいスープ
チョコレートリゾット
パンプキンタルトなどなど、
「塩! いま、私の身体は未だ嘗てないほど、塩っけを欲しているのよ! 食べ応えのあるものを欲しているのよ!」
テーブルをバンバン!と叩き講義を行ってくる姫君。
フォバットはやれやれと言わんばかりに首を振りながら、
「いいですか? 姫様。昔の人はいいました。香辛料は金に匹敵すると」
「え、今その話必要⁉︎」
「そして姫様は言いました。小麦を使わなければ民の生活が楽になると!」
「え、あの…」
ようやくフォバットの意図していることがわかり始めたルナであるが、フォバットの演説は止まらない。
「その姫様が! あのお優しい姫様が! まさか、自分のわがままのために香辛料の! 小麦を使った食べ応えのあるものが食べたいなんて! 言うわけないですよね?」
ジロリと言うような音が聞こえてくる感じでフォバットはルナに視線を戻す。
「う、うぅぅ、鬼! 悪魔! 人でなし!」
「鬼にも悪魔にもあったことがありますが、人でなしは心外ですね」
困ったような表情を浮かべるフォバットであったが目が笑っていない。
「それとも、姫様ともあろうものが約束を反故なさると? 高貴な生まれの姫様が!」
こいつ、演劇家にでもなればいいんじゃないだろうかとルナが思うほど大袈裟なリアクションをする執事。
「う、うぅぅ。わかったわよ! 食べればいいんでしょ! 食べれば!」
ルナは親の仇を見るかのようにチョコレートリゾットを睨みつけながらも震えるスプーンで口に運ぶ。
「甘いぃぃぃぃ! もう、食べたくないわ!」
「姫様、約束をしましたよね? 残すことはゆるさない、と」
ぞっとするほどの低い声で言われ、ガタガタ震え、涙を流しながら食べるルナを半月状に口を歪めながら執事ま見つめ続けている。
「4800カロリー」
ルナには聞こえないほどの小さな声で数字がカウントされていく。
五日目
「もう、あれよね。わたしの身体こそが甘いものよね」
フォバットの引いた椅子に虚ろな目をしたルナがぼやきならが座る。
「おや、姫様、体調が優れませんか? それはいけない。疲れた時は甘いものに限ります」
ふざけたことを抜かす執事をルナが虚ろな眼で振り返ると、心の底から楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑顔を浮かべている悪魔のような執事が新しいホールケーキを手にこちらに向かって歩いてくるところだった。
ルナはかなりげっそりとした様子で目の前に置かれたホールケーキを睨みつける。
「……今日のケーキはなによ」
げっそりと痩せてはいないが気分的な物でルナはやつれていた。しかし、現状の体重は右肩上がりでグングン伸びているのである。
「今日のケーキはカスタードクリームの……」
「食えるかぁぁぁ!」
フォバットが手に持っていたカスタードクリームのたっぷりと乗ったケーキをルナは蹴り飛ばす。
飛んでいったケーキは放物線を描きグチャリという音を立てて形を崩した。
その潰れたケーキを一瞥し、
「……いいハイキックですね。姫様」
「うるさい! 私は甘いものはもう食べないわよ」
ルナは怒りで顔を真っ赤にしながらフォバットに詰め寄る。
「つか、あんた! どんだけ人いじめるの好きなの!!」
「滅相もございません私めはいつでも姫様のことを一番に考えていますよ?」
「心がこもってない! 絶対ウソでしょ⁉︎」
「はい♡」
「このやろぉぉぉぉぉ!」
ルナが拳を振るいながら迫ってくるのをフォバットは軽やかにかわし微笑む。
「ハッハッハ。姫様、身体にいつもの鋭さが欠片もありませんね」
「くっバカにして!」
いくらルナが拳を脚を駆使して拳打を放とうともフォバットには擦りもせず、挙句には受け止められる。
「くっ、放しなさいよ!」
「ふふ、そうはいきません。姫様には約束を破った罰を受けていただかないと」
「罰ですって⁉︎」
片手でルナの動きを封じながらフォバットは空いてるもう片方の手で器用にパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、暗転。
「なに⁉︎」
「ご安心を、罰ゲームの役者を呼んだだけでございます」
ルナには暗闇でフォバットの表情は見えない。しかし、
「あんた、絶対わらってるでしょ?」
「よくお分かりで」
再び証明が着いた時、先ほどまでルナが食事をしていた場所に誰かが立っていた。がっちりとした体格、それを包み込むように黒いマントを羽織っている。後ろ向きに立ちマスクをしているため顔は見えない。
フォバットは掴んでいたルナの手をそっと放し後ろに下がる
「ご紹介しましょう。彼が今回の罰ゲーム実行者、クロードです」
そう呼ばれるとクロードはこちらを向き、マスクを外し始めた。
そして外したマスクを高々と放り投げた。
そしてルナはマスクを外したクロードを見、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 超かっこいいんですけどぉぉぉぉぉ!」
黄色い歓声を上げる。
クロードは美男子だったのだ。
「え、この美男子と罰ゲーム? 罰ゲームにならないんじゃないの?」
先程までとは打って変わり上機嫌である。
その姿を見る人が見れば寒気を発するような笑みでフォバットは見つめる。
「気に入っていただけましたか?」
「うん、かなり!」
それは良かったとフォバットは笑う嗤う。
「それでは罰ゲームに移りたいと思います。今回の罰ゲームは一週間で八キロ痩せるマッスルダイエットです」
フォバットが告げると同時にルナが固まる。
ルナの耳に飛び込んできた言葉、『マッスルダイエット』
ギギギ、という音がしそうな機械的な動きでルナはフォバットをみる。フォバットは笑顔。そして、美男子クロードを見る。爽やかな笑顔。
なぜ、忘れといたのか。体格ががっちりしていることを。
なぜ、見落としたのか、マントを纏い身体を隠すようにしていることを。
いい笑顔を浮かべたクロードがバッとマントを脱ぎ捨てた瞬間、
「ぎやぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルナな大絶叫が響く。
クロードのマントの下の身体は筋肉の塊だった。
パンツ一枚になったクロードの筋肉は時折ビクンビクンと動き、それがルナを更に恐怖さした。
美少年と筋肉ムキムキの身体というアンバランスさが余計に気持ち悪さを際立たせていた。
「あっあ、あぁぁ」
あまりの恐怖にルナは腰を抜かしてしまい床に座り込んでいた。
そんなルナをフォバットは満足そうに眺め、
「こちら我が国一番の筋肉の持ち主です」
「初めまして、国一番の筋肉ビルダー、クロードです」
外見に似合わず無駄に高い声で自己紹介をするクロード。
合わなすぎてとても恐ろしい。
「さて、ルナ様、罰ゲームの時間です。これより二週間、マッスルダイエットをしていただきますよ?」
じりじりと後ろに下がるルナにフォバットが告げる。
「いやよ、そんな筋肉になりたくないわ」
震える声を出しながらルナは言い返すがフォバットは気にしない。
「いえいえ、二週間では筋肉なんてそうつきませんよ。さ、クロードさんお願いします」
「いえす!まぁぁぁぁぁぁっすぅぅぅぅぅるぅぅぅぅぅ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その日から二週間、王城にはルナの悲鳴が響き渡り続けたという?