act.1『下着と機関銃』
初めましての方も今日和。この話は一応BLと呼ばれるものです。まだまだほのかにかおる程度ですが、苦手な方はどうかご遠慮ください。ですが、新規開拓したいという方は、どうぞページをすすめてください。気に入って頂けたらこれ幸いです。
アリスの建物はでかい。
五角形で、その形がアメリカ国防省と同じことから、『ペンタゴン』
と呼ばれている。
建物の大きさも同じくらいと思われる。
ただアリスコーポレーションの場合、建物のまわりをさまざまな木々と草花が囲んでいる。
森、まではいかなくても、林とは充分呼べるくらいである。
つまり、敷地全体を含めると、アリスの規模はアメリカ国防省を軽く上回るのである。
出入口は全部で五ヶ所。
五角形の底辺にあたる出入口は
『黄色の門〈イエローゲイト〉』
と呼ばれ、残り四ヶ所はそれぞれ
『白色の門〈ホワイトゲイト〉』
『黒色の門〈ブラックゲイト〉』
『青色の門
〈ブルーゲイト〉』
『赤色の門
〈レッドゲイト〉』
と呼ばれている。
建物の中央は大きな吹き抜けで、室内であるにもかかわらず噴水が設置されている。
そのまわりは見渡すかぎりの緑。
植物園顔負けの木々、草、花…。
職員達の憩いの場となっている。
植物園のすぐ横には食堂が設置されているため、昼休みともなれば職員達で賑わう。
もっとも、ペンタゴンの外周は、先程も述べたように軽い林である。
そのため、憩える場所は他にも充分散在しているのだが。
アリス内にある班は全部で十班。
『警護〈ソルジャー〉』
『医療〈メディカル〉』
『科学〈サイエンス〉』
『機械工学
〈エンジニア〉』
『探索〈ファインダー〉』
『企画公報〈メディア〉』
『美容〈ビューティー〉』
『食品〈フード〉』
『園芸〈ガーデニング〉』
『経理事務〈ビジネス〉』
以上である。
企画公報〈メディア〉班に着くと部外者の姿が目に写った。
三人が卒業した学校、『学園アリス』の後輩にあたる人物。
『有栖川紫苑〈ありすがわしおん〉』。
とても頭のよい人物で、すでに来春、アリスへの就職が内定してるとかしてないとか。
現在、学園アリス大学部、芸術科4年生。
ちなみに、年は十八歳。
スキップを繰り返した結果である。
麗達とは、高等部3年の時に半年間一緒のクラスになった。
夏休み終了と同時に、スキップテストに合格した紫苑が三人がいたクラスに編入したのだ。
紫苑は十六になったばかりだった。
ちっちゃくて可愛い顔に似合わず、やたら愛想がなかったのを覚えている。
けれど話してみると、以外に気さくで話しやすかったのも事実。
大人振って背伸びをしつつも、根っこはまだまだ十六の、年相応の少年であったのも、紛れもない事実。
三人の姿に気付くと、紫苑は軽く、『にこり』と笑った。
二年の歳月が経ち、幾らか愛想がよくなったようである。
〈…気のせい、かな。
艶っぽさが増してる?〉
そんな紫苑を見、美人は一人思った。
「お久しぶりですね、先輩方。
警護班に入隊したと伺ったので、さぞかし大変だろうと思ったのですが…。
見たところお元気そうで、何よりです」
三人に歩み寄り、紫苑は云った。
相変わらずちっちゃくて可愛いらしい。
三人の中で一番小さい、身長170センチの華鈴よりも更にちっちゃいのだ。
加えて、まだ十代ということで。
頬どころか肩にも尻にも、少年特有の丸みがおおいに残っているわけで。
更に、肩より少し上で揺れる、ライラック色のストレートヘアから見え隠れする首筋や項。
長い睫毛に縁取られた若葉色の瞳。
薄い唇は桜さながらのピンク。
これで男なのかと、誰もが思う程、紫苑は可愛らしかった。
あと五年もすれば、今度はその辺の女性よりも美しく育つことだろう。
そんな紫苑の発育状況を確認し、三人は久しぶりに会ったことを素直に喜ぶのであった。
「再会のあいさつは済んだか?」
しばらくその様子を眺めていたアルフレッドが三人に声をかけた。
「あっ、はい!
申し訳ございません! 班長!」
あわててアルフレッドの元へ走り、三人は背筋を正して敬礼した。
小さく頷いたアルフレッドの前には、机にもたれかかり、腕組みをしてこちらを眺める、紅い髪の女性。
企画公報班、班長『鈴城緋織〈すずしろひおり〉』
背中程まであるスカーレットの髪を頭上で束ね、両サイドの髪だけ邪魔にならない程度に垂らしている。
深紅のスーツのスカートはかなり短く、脚など組みようものならパンチラがおおいに期待できそうなくらいである。
上は白いノースリーブのハイネックで、腰には細いゴールドのチェーンを付けている。
フルメイクで口紅とネイルは、まるで自身の髪のような紅。
派手、というか、正直ケバい。
しかし、キャリアウーマンであろうことは、かもしだす雰囲気で分かった。
ここの班長も、机の前にいないことではかなり有名である。
「それじゃあ、手短に説明しましょうか」
ソファに座るよう促し、自分達の前を通り過ぎた緋織の背中を見て三人はぎょっとした。
左肩に小さな薔薇一輪のタトゥ。
そして、惜し気もなく周囲に披露される、きめ細かい色白の素肌。
ブラ紐は見当たらない。
パットか、胸に張りつけるタイプのブラはしているのだろうが、いまだ年若い青年達にはあまりに刺激が強すぎるもの。
加えて、この三人は女性に対してあまり免疫をもっているほうではない。
顔から火が出そうなほど赤面してうつむいてしまった三人に、緋織はけらけら笑った。
「そんな真っ赤になるほどのものじゃないわよ!
ちゃんと隠すとこは隠してるんだから。
それにこんなのに赤面してたら、彼女できたときに苦労するわよ?」
ソファにゆったり座り、緋織は云った。
『歩くフェロモン』
もしくは
『歩くエロス』
緋織についている異名である。
性格には、『鈴城姉妹』についた異名だ。
緋織には姉と妹が一人ずついるのだが、どちらも緋織と同じように、『ケバい』のだ。
ちなみに、姉は医療班。
妹は美容班に。
それぞれ班長として、勤務している。
「それじゃあ、手短に説明しましょうか。
今回の企画だけど、考えたのは紫苑よ。
彼には今後、監督も兼ねて今回のプロジェクトに参加してもらうからそのつもりでね。
年下にあれこれ指示されるのは気に入らない。
なんて考えは、今すぐ鼻かんで捨ててちょうだい。
分かったわね?!」
そう云うと、緋織は三人を一睨みした。
美人に睨みを効かされるほど、恐いものはない。
仕事モードに入ったせいもあり、その迫力たるや口答えなぞ一言もできない程である。
三人は背中に冷たいものを感じながら、激しく首を縦に振った。
緋織はそんな三人に
「いいこ達ね」
と小さく云うと、にっこり微笑んだ。
「じゃあ説明しようと思うんだけど。
でもここで説明するより、実際に肌で感じてもらったほうが分かりやすいと思うのよね。
だからちょっと申し訳ないんだけど、また移動してもらえるかしら?
今度は美容班よ」
そう、云い終わるか終わらないかのうちに緋織は立ち上がり、扉へと歩いて行った。
急いで後に続く三人。
と、アルフレッドと紫苑。
〈どこの班長も、忙しくて大変なんだな〉
緋織の後ろ姿を追い掛けながら三人は思った。
緋織の歩くスピードは、普通の人よりも明らかに違って、速かった。
勿論、普段から訓練で鍛えている彼らにとって、早く歩くなど、全くなんてことないのだが。
しかし、アリスの大きさはアメリカ国防省と同じくらい。
しかも、企画公報班と美容班は建物の端と端。
かなり距離がある。
しかし、緋織は疲れた様子など微塵もなく、実に涼しい顔で美容班、班長室の扉をノックした。
「失礼、茜菜班長。
お忙しいところ申し訳ないんだけど、少しお時間頂けないかしら?
今回イメージキャラクターを演じてくれる三人の衣裳合わせ。
それからメイク合わせをしたいんだけど…」
「あっらぁ、いらっしゃ〜い♪
待ってたのよぉ?
すっごい美形ぞろいだっていうから、あたしもぅ楽しみで仕方なくって…。
血が騒ぐっていうの?
右手がわきわきしちゃってしょうがないわ!」
緋織が云い終わるよりも早く、お姉口調でイッちゃった発言が聞こえた。
緋織の髪よりも幾らか明るい、赤。
どちらかというとオレンジに近いような。
夕暮れどきを思わせるような、そんな茜色〈バーミリオン〉。
『鈴城茜菜〈すずしろせんな〉』
美容班、班長。
そして、緋織の妹。
茜菜は緋織の後ろで、呆気にとられている三人に気付くと、
「まぁ、まぁ、まぁ!」
と興奮気味に一人ずつ丹念に観察していった。
目前に迫る胸の谷間。
左胸の谷間近くには、薔薇の蕾のタトゥ。
ノースリーブの抹茶色のシャツは、ミニスカのワンピースシャツ。
胸のところがが大きく開いており、後ろは襟が付いているだけで、背中部分も大きくカットされている。
太めのベルトが腰のくびれを強調する。
さすが美容班の班長だけあって、アイメイクからフェイスカラーまで。
ばっちりメイクアップしている。
しかもエロメイク。
服装に負けていない。
厚底ピンヒールの靴のせいで、自分達よりも大きくなっている茜菜。
女性から見下ろされるように観察されるのは、なんとも居心地が悪かった。
しかし茜菜は、そんな彼等には全くお構いなしのようで。
右を向かせたかと思えば、すぐさま左を向かせてみたり。
腕やら肩やら、べたべた触ってみたり軽く揉んでみたり。
腰回りを確認したかと思えば、両手で尻を鷲掴みにしてみたり…。
さすがにそれには、緋織からきっつい拳骨を食らわせられたが。
しかし。
茜菜には全く効果がないようで、きらきらと瞳を輝かせながら緋織を振り替えると、
「いい!!」
と一言。
鼻息荒く叫んだ。
「なんて理想的なルックスに理想的なボディラインなの!?
イメージにぴったりの人材だわ!
紫苑のイメージ像を聞いたときは、そんなヤツいないと思ってたけど。
そのまんまじゃない?!
文句なしでいいわ!!
さっそくサイズと身長測りましょ!
それから衣裳を何パターンか試して。
メイクもポイントとフル、両方何パターンかしてみましょう!
悠! リュウ! 華!
一人ずつ着いて、すぐに初めて!
監督に連絡はー、あたしがするとして。
紫苑! 藍刃の曲作り、どうなってるか分かる?」
てきぱきと周囲に指示を出し、自らも携帯とスケジュール帳を手に今後の予定の確認をした。
お姉口調は消えていた。
そこにいるのは、若い女性でありながらもスタッフを束ね、率いていくリーダーの姿。
頼もしく、威厳と自信に満ちた姿。
まさに、『班長』と呼ぶに相応しい姿。
そんな『班長』、茜菜の姿に、アルフレッドはまたしても
《にやり》
と含み笑いをした。
その含まれた意味たるや、新人三人は気付くよしもなかった。
「それじゃあ、後は任せたぞ!」
と一言残し、アルフレッドは新人三人をその場に、班長室から出ていった。
向かう先は班長室、ではなくアリスの警備。
無線を耳に、アメリカ国防省並みの敷地を、これから一人で巡回する。
トラブルはないか、警備システム、防犯カメラ、隊員達の士気…。
あらゆるものをチェックする。
それが警護班、班長、アルフレッド・エメリッヒの務め。
彼の一日は、今日も多忙な日となるようである。
残された三人は、すでに一糸纏わぬ姿…。
とまではいかないものの、肌着と下着のみという、少々恥ずかしい姿。
しかも三人とも、男性にしては少しばかり可愛いすぎやしないか?!
と誰もが思うような、そんなファンシー、ラヴリー、キュートなデザインであった。
美人は黒のビキニパンツに同じく黒のノースリーブの肌着。
ただし、胸元に小さなリボンとレース付き。
『キャミソール』と云ったほうが正しいのかもしれない。
麗は薄紫のフィットタイプのボクサーパンツ。
正面から見ると普通のボクサーパンツだが、両サイドの布は見当たらない。
代わりに、パンツの色と同じ、薄紫のゴムが、交互に交差しながら、前と後ろをつないでいた。
ゴムの間からのぞく生肌がいやらしい。
おまけに丈は尻より少し長いだけで、屈もうものなら下ケツがパンツから見え隠れする。
女性用のボクサーパンツに限りなく近かった。
肌着はパンツとセットと思われる、薄紫のノースリーブ。
両サイドはやはり、布なしゴム付き。
もはやメンズとは思いがたい。
華鈴は…。
彼の下着と肌着は、誰がどう見ても、百歩譲ったとしても!
レディースのそれにしか見えなかった。
水色の下着はフリフリ、ゴテゴテの総レース。
しかもヒモパン。
肌着もパンツと同じ、フリフリ、ゴテゴテ。
リボン付きである。
さらに胸の部分以外は透けてるという、アレなデザインになっていて。
さすがに、周囲が凍り付いた。
気色悪いというわけではない。
似合わないわけでも決してない。
むしろ、おっそろしいくらいに似合っている。
まだまだ、体にも顔にも幼さを残す美貌の青年。
胸があろうとなかろうと、その姿には少しの違和感も感じられない。
可愛い。
思いあまってちゅーして抱き締めてしまいそうになるほど、可愛らしい。
しかし、いくら似合っていても可愛らしくても、やはり華鈴は男性なわけで。
その事実はどうあがいても変えられないものあり。
「似合ってどーする?!
ってゆーか、なぜに女物着用?!」
と、誰もが思ってしまうのである。
しかし、メイクに着いていた三人娘も、麗、美人もどん引きしている中。
一人だけ、目を輝かせて飛び付いてきた人物。
ハートを飛ばし、辛抱たまらんと頬摺りする人物。
たがが外れたのか、太ももや尻を揉みしだき、ついにはキャミの中に手を突っ込んで、胸まで揉みだした人物。
「ちょっ…、茜菜班長!
やめてくださいっ、
…うひゃあ!」
耳たぶを甘噛みされ、ない胸を揉まれた華鈴が、素っ頓狂な声を挙げた。
「だから! やめなさいってゆってるでしょーが!
この発情猫!!!」
ゴスッ…。
という鈍い音が班長室に響き、ほぼ同時に
「いったぁーい!!!」
という茜菜の叫び声が挙がった。
後頭部を抑え、その場に座り込む。
呆れた表情で、緋織はその姿を見下ろした。
腕組みをし、大きな溜め息を一つ。
「ほんっとにもうっ。
あんたって娘は…」
と小さく呟いた。
「確かにこのこ達は可愛いわ。
男にしとくのが惜しいくらい可愛らしいわよ。
でもだからって、今の行為は立派なセクハラよ?!
仮にも一つの班を任されてる班長なんだから、少しは自覚しなさいよ!」
「そう云うけど、自分だって人のこと云えないんじゃない?
2日前だったかしら?
班長室を私用で使ってたのはどこの誰だっけ?
『仮にも一つの班を任されてる班長』
が、あんなことに班長室を使うのは、如何なものかと思うけど」
「それは貴女も同じでしょう?!」
「時と場合を考えたら?!って云ってるの!」
「さっきの貴女の行為も時と場合を考えるべき行為でしょう?!
なぁに? 自分のことは棚上げなわけ?」
「棚上げしてるのはそっちでしょう?!」
「いい加減にしないか!
二人とも!!」
両者全く譲らない口論に、突如入った終止符。
その声の主を見た二人の顔から、一気に血の気が引いた。
赤い髪。
茜菜よりも鮮やかで、緋織よりも華やかな赤。
熟した果実を思わせるような、見事な朱色〈チェリーレッド〉。
腰までありそうなその髪をポニーテールにし、後ろに長く垂らしている。
茶色いレザーのミニスカートには、更に腿近くまでスリットが入っていて、正直目のやり場に困る。
左太ももだけに付けられた赤茶色のガーターベルトがエロさを倍増させる。
シャツのボタンは上二つ目まであけられ、はっきりとした谷間が、彼女の胸の豊かさを主張していた。
上から羽織った白衣がエロい。
腕組みして二人を見下ろすその姿は、まさに女王様そのもの。
血の気の引いた顔のまま、乾いた笑みを二人はこぼした。
「あらぁ〜、貴女が班長室にくるなんて。
珍しいわね〜。
朱桜姉さんっ」
冷や汗を浮かべ、茜菜は云った。
『鈴城朱桜〈すずしろすおう〉』。
緋織、茜菜の姉で医療班、班長。
今回のボディーソープの開発者でもある人物。
「…三人とも、メイクと衣裳合わせを続けて」
凍り付いていた三人娘と警護組に指示を出す。
決して低い声ではないが、威圧されてしまう声。
緋織、茜菜よりもっとキャリアを感じるというか、統率力を感じる、そんな頼もしい声。
その声に、六人は背筋をのばし、
「はいっ!」
と大きく返事をすると、再び二人一組になり、打ち合せに入っていった。
携帯を打つ手を止めていた紫苑は、改めて番号を確認し、誰かにかけるべく班長室をあとにした。
残された緋織、茜菜の両班長は、いまだ凍り付いたままその場に立ち尽くしていた。
朱桜の顔を見ることはできないでいた。
ふと、
「全く…」
という朱桜の声が小さく呟き、次の瞬間、
ごっちーんっ!!!
という鈍い音が班長室に響いた。
その音に、一同、動かしていた手を止めて班長組を見る。
と、その場に座り込み、頭を抑えて悶絶している、緋織と茜菜の情けない姿。
一人は頭の右側を、一人は左側を、それぞれ抑えている。
そんな二人を見下すように立つ、女王様風朱桜。
その表情は、雪の女王〈スノー・クイーン〉並みに冷たかった。
「全くお前達は!
一体いつになったら班長らしくできるんだ?!
一つの班を任されてる班長が、部下の前でくだらない姉妹喧嘩なんぞして!
仕事は楽しくやるものだとは云ったが、遊びでやるものとは一っ言も云ってないぞ!
実力は認めるが、今後こんな不謹慎な状況を見つけたら、班長の座から降りてもらうからな!
いいな!?
分かったらとっとと自分達のやるべきことへ戻れ!
茜菜はウェイン監督のスケジュールの確認が必要なんだろ?
緋織だってスタジオの手配とスタッフの収集が必要だろうに。
遊んでる場合じゃないってことをもう一度頭に入れておけ!
分かったな!?」
そう云って、班長らしく二人を叱り上げた。
「かっこいい…」
その場にいた誰もがそう思った。
ケバく、『歩くエロス』の名をほしいままにしている彼女であるが。
しかし。
一つの班を任されてる班長である事実。
それは揺るぎないものであり、その存在は、誰もが認めざるを得ないものであった。
朱桜の言葉〈仕置き?〉に我に返ったのか、緋織、茜菜もすぐさま班長の顔に戻った。
茜菜はすでにメイクに入った警護組の仕上がりを確認し、よりイメージに近付けるよう手直しを加えた。
緋織は監督と思われる人物に連絡を入れ、今後の予定を手早く決めていった。
『班長らしい』、頼もしい二人の姿が間違いなくそこにあった。
電話を終えた紫苑が班長室へ戻り、緋織に何かを告げた。
優しく微笑み、
「ありがとう」
と彼女は小さく云った。
「O.K!
それじゃあ、一週間後にCM撮影に入るから。
ポスター用のグラビア撮影も同時進行するわよ?!
茜菜達はそれまでに警護組の仕上がりを固めて!
朱桜は短い商品説明を考えて、使いたいフレーズとかあればそれも教えて!
紫苑は悪いけど、暇な時間があればとにかくあたしのところにきて!
この一週間の間に何が何でも撮影に必要な素材を揃えるわよ?!
警護組は任務以外に表情強化のための特訓を受けてもらう予定だから、そのつもりでね!
というわけで、今回の企画が終わるまで、みんな宜しく頼むわね?!
絶対に成功させて、ゴージャスな打ち上げを社長に用意させましょ!
『ボディーソープと機関銃企画』
始動よ!!」
澄んだ、よく透った声が響いた。
「かっこいい…」
そう、警護組の三人は思った。
姉妹喧嘩をし、姉に叱られて動けないでいた人物はどこにもいない。
そこにいるのは、間違いなく仕事のできる、キャリアウーマン。
一つの班を担っている、班長の姿。
班は違えども、己を信じ、部下を信じ、周囲を引っ張っていく、便りになるリーダー。
どこの班長も、同じなんだろうな。
と思う三人であった。
いかがでしたでしょうか?やおいまでの道のりは程遠く、ぬるま湯にすら入ってない。ってな感じの仕上がりになってしまいました。ですが、ほのかに漂う腐女子臭は嗅ぎとって頂けたかと思います。これから登場人物も増えていきますし、いよいよやおいへ入っていくことと思います。目指すはエロ! 頑張りますっ。