不必要
今すぐいるってわけじゃないんだけどな。と、彼は言った。
それが、俺の仕事の始まりだった。
「…よし、じゃあできる限り集めておこう」
「助かる」
彼が欲しいと言ったのは7.94mm弾だ。
7.92や7.62ではないのかと何度も確認をしたが、どうやらそっちではないらしい。
できるだけ多くと言うのが彼の注文であったため、大きさや炸薬についての話を一通り確認をしてから、業者へ発注する。
業者と言っても、裏業者だ。表の人らに、この仕事を頼むわけにはいかない。
だから、どうしても受注生産のような形になる。
やってきた喫茶店で、おれはある人と待ち合わせをする。
「よおハリーか」
俺の名で話しかけてくるのは、いつもお世話になっている銃弾の製造業者だ。
「やっときたか、遅かったじゃないかニック」
ニックも、俺と同じように偽名だろう。
「すまねえな、ちょっと用事が立て込んでてな」
「おや、そんな時に呼びだしちまったのか。悪いな」
「いいってことよ。それで、今日はどんな注文だ」
俺は紙袋をニックに渡す。
「今回の仕事は、ちっと長い期間にわたりそうなんだ」
「そうか」
ウエイトレスが注文を取りに来たので、珈琲を頼むニックに、俺はウエイトレスが向こうへ行ってから話を続けた。
「必要なのは大きさが7.94mm×35らしい。弾数は多いほどよし。10発に1発は曳光弾にしてくれということだ。できるか」
「値段は」
「オールで10万ドル。この枠内で、少なくても50発は欲しいとのことだ」
「よし、してみよう」
「ありがとう」
俺は礼を言うと、さきに店から出た。
ニックから連絡が来たのは、1週間後だった。
「ほら、できたぞ」
札が入っていたはずの紙袋を、そのまま俺に返してくる。
「結局何発できたんだ」
俺は紙袋の重さから、大体の弾数を考える。
「120発といったとこだな。12発は曳光弾だが、そいつも入れて120発だ」
「よっしゃ、あとは依頼者に渡すだけだな」
「そっちは、こっちの範囲外だ」
そう言って、ニックはコーヒーを飲んだ。
俺はそれから、今に至るまで約3年間、乾燥材ぎっしりの鉄の密閉できる箱の中に、弾を保管している。
彼は、まだ受けおりに来ない。
後7年は保存をするが、それ以降はどうするか決めてない。