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幼女好きとかツルペタマンセーってのが、どうもよくわからない私。
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三人はモニタールームから外部連絡室へ向かって歩いていた。
一人はこの研究施設を管理する政府の極秘機関に経過の定期報告をする為に、一人はその男にとある重大事を報告する為に、一人はその女のやっている仕事内容を完全に理解し模倣する為だった。
スーツを着た男は女の報告を受けると独り言のように言った。
「そうか、音菜が現れたか」
現れたか、というのはもちろん、事前に準備された具象化室に、である。『対象』が生みだす思念体は、そこに現れるように規定しているのだ。
「いかがいたします? 藪見所長?」
白衣を着た女が聞いた。
「今は周りに人がいない」
実際にはもう一人小学校一年生くらい、6歳から7歳くらいの姿の白衣を着た幼女がいたのだが、
「別に彩加、と下の名前で呼んでくれても構わんのだぞ? 絵美君」
藪見所長、と呼ばれた男はそう言った。
「嘘ばっかり。私に気なんて、無いくせに」
そう言いつつも女は男の右腕にもたれかかるようにして、自分の両腕を絡める。
「すまんな」
男はその拘束からするりと逃げ出す。
まるで予定調和のような出来事だった。
女は男に自分の心を弄ばれたのだと理解し少し寂しそうな顔をした。
この男は他人を弄ぶ事をばかり考えている。いつだってそうなのだ。
それが思想から人間を生みだす為に必要な事だから、天職についているといえば、そうなのだが。
藪見彩加は女の表情など気にもせず、
「音菜は、『被験者』と同室にしておいてくれ。『被験者』に思念体が与える影響が見たい」
絵美は幼女の方を一瞥しながら、
「では、礼美とは違う処置にすると?」
「当然だろう」
何を当たり前の事を聞いている、とばかりに藪見彩加は、
「生まれてきた理由が違う。礼美はお前じゃないか」
それが自分に対する信頼の為だと理解すると絵美は、
「わかりました」
とだけ言い、それから外部連絡室へと消えていった彩加の後ろ姿を追うようにして立ち尽くしていた。
礼美と呼ばれた幼女はその様子を見ながら小バカにしたように、
「やけぼっくいね」
それを聞くと絵美はキッと礼美の方に顔を向け、睨みつける。
幼女はそんな絵美の視線など気にもせず、ポケットからくるくるウズの巻いているキャンディを取り出して透明な包装紙を剥がし、ペロペロとやっている。
「あんた、白衣のポケットに食べ物入れるのやめた方がいいわよ。そのポケットは四次元じゃないんだから」
礼美は絵美と知識の面で何一つ劣っている所がない。
初めのうちはそうではなかったのだが、いつの間にかそうなっていた。
絵美の仕事の内容を後ろでついて見ていたから、というだけではないようだった。
「あんただってポケットの中に色んなもん入れてるじゃない」
鼻先でふふんと笑い絵美の方にようやく視線を向ける幼女。
嗜好は幼いものの、思考に関してはほぼ完全に絵美と同一と呼んで差し支えない幼女。彼女こそ、最初の思念体だった。
気持ちが力になるとか、そういうのあんま好きじゃないんだよなと思いつつそういう話ばかり書いている私……。矛盾している。




